ストーカーは怖いね
お久しぶりです。
「そういえば、明日ぐらいからちょっとこっちの依頼の本数減らしてもらってもいいか?」
「……別にいいわよ?というか、それって私の許可いる事?」
千果と一緒に鷺森邸に帰ってきて、いつものように一姫さんが用意してくれていた夕飯を食べながら俺がそう切り出すと、千登世嬢は少し考えた後許可を出してくれた。
まぁ少し機嫌が悪そうな表情を浮かべていることから大歓迎って訳でもないんだろうけど。
「ん、まぁ一応?取り敢えず一、二週間はもう一個の方の依頼に専念するつもりだから、千登世嬢には伝えておくべきかなって」
「ふーん?まぁ、頑張りなさいな」
「あいよ」
一、二週間と聞いて、千登世嬢は納得がいったのか、機嫌の悪そうな表情を引っ込め、普通に応援してくれるようだ。
「て、わけで、しばらくは千登世嬢に遊んでもらえよ」
「ほーい」
千果は黙々と最近使えるようになってきた箸で茶碗の中の白米を口に運んで興味なさそうに返事を返してきた。
千果の成長には驚かされることばかりだが、さすがにまだ箸には慣れていないのか、口の端に二つほど米粒が付いていたので取ってやると、千登世嬢の後ろに立って話を聞いていた一姫さんが口を開いた。
「戦闘になりそうか?」
「いや、多分ならないと思いますよ。精々ちょっとした小競り合いかと」
「……油断はしないようにな。郁真も力を付けてきてはいるが、人間と言う物がなりふり構わず向かってきた場合は思いもよらない行動をとったりするものだからな」
「了解です。さすがに一般人にはもう遅れも取らないと思いますけど」
「それが、油断だぞ」
実際、棗さんの護衛をしている時に感じた視線からして素人の物だった。そもそも素人が俺程度に気取られるような視線を向けるわけもない。
そんなことを思っている時点で俺は完全に一姫さんの言う通りに油断していた。
一姫さんに指摘され、さすがの俺も少し気合を入れる。俺が油断していたせいで棗さんに怪我でもさせた日には後悔じゃあすまないだろうし、俺を鍛えてくれている一姫さんにも申し訳が立たない。
「気を付けます」
「ああ。戦場で一番怖いのは何をするか分からん捨て身の人間だからな」
「はい」
一姫さんからのありがたい忠告を頂き、俺はLINEで棗さんを護衛するうえで必要だろうと言うことで竹内さんに教えてもらっていた連絡先を開いて、明日からは俺の学校が終わり次第にはなるが、これから一、二週間ほどは重点的に棗さんの護衛に着くことの許可を貰い、携帯の電源を落とした。
◇
「というわけで、今日からは棗さんを重点的に護衛します」
学校を終え、仕事終わりの棗さんと適当な喫茶店で合流して、昨日感じた視線の事から棗さんに説明した。
竹内さんは仕事の打ち合わせがあるようで、少し遅れるみたいで今は適当に飲み物を頼んで二人で向かい合って座っていた。
「分かりました……よろしくお願いします」
ただでさえ棗さんは男性が苦手なのに、ストーカー行為が悪化していることに恐怖を感じたのか少し顔を青くしていた。
現に俺たち以外にもそれなりに客がいるので、個人の特定こそできないが昨日感じたような敵意の籠った目線を感じている。
――どこから情報仕入れてんだよ……
なんて、こんな喫茶店にすら付いてきているストーカーにちょっとした疑問を感じながら、恐怖を感じているだろう棗さんを安心させるために出来るだけ柔らかい笑みを意識して浮かべて話しかける。
「まぁ、多分相手は素人なので遅れは取りませんけどね」
「……そう言ってもらえると、少し安心します」
言葉ではそう言ったが昨日一姫さんに言われたことは決して忘れてはいない。仮に今も俺に敵意の籠った視線を向けてくるストーカーが急に襲い掛かってきたところで直ぐに制圧できるように常に気は張っている。
ほっとしたように少し顔色が良くした棗さんの顔を眺めながら、俺はどうストーカーを炙り出すかを考えていた。
「すいません、お待たせしてしまって……」
「あ、竹内さん」
無言で頼んだ飲み物を飲みながら時間を潰していると、打ち合わせで少し遅れていた竹内さんが合流した。
棗さんも俺以外の見知った大人が合流したことで安心している様に見える。
遅れてきた竹内さんにも棗さんにした説明をもう一度最初から伝える。
「……なるほど。分かりました」
「一応、これからは土日は俺と惣社さんの二人体制で護衛できるよう会社と惣社さんに連絡しておきます」
説明を終えると、竹内さんも思ったより棗さんのストーカーが近づいてきていることに恐怖を覚えたのか顔を青くしていた。
竹内さんも女性だし、自分が標的じゃないとはいえストーカーは怖いのだろう。
俺は二人の反応を見て、一層早くストーカーの犯人を見つけなければと決意を改めた。