女児ィ!
お久しぶりです。
「郁真!これ買って!光るポリキュアパジャマ!」
「それ系何個も千登世嬢にねだって買ってもらってるだろ」
「この色はまだ持ってないの!」
「ダメだ。俺は千登世嬢みたいになんでも買い与えるほど金持ってないからな」
「……けち~。いいもん!ちとねえに買ってもらうから」
「おーそうしろ」
千果がウチに住むようになってからそろそろ一週間が経とうとしていた。
いつもであれば千登世嬢が千果に張り付いて遊んであげているので、俺が千果と二人で出かける事なんてそうは無いのだが、今日は千登世嬢が外せない用事があるとかで俺が千果のお守りを任されていた。
千果はここ一週間でさらなる成長を遂げていて、既に平均的な小学生の学力を凌駕しており、正直趣味嗜好が女児寄りの高校生と話している様に感じてしまうほど、日本語も上達している。
今日だって最初こそ千登世嬢の家で大人しく録画していたポリキュアを見ていたのだが、CMで流れた光るパジャマの新キャラ仕様の新色が出たと知った瞬間俺はショッピングモールに連れ出されこうして二人で練り歩いている。
「……ちとねえなら何でも買ってくれるのに~郁真は甲斐性が無い」
「ポリキュアのパジャマ如きで甲斐性なし判定されるのは納得いかんが、正直千果は千登世嬢に色々買ってもらいすぎだ」
「いいじゃん~、ポリキュア可愛いじゃん~」
「……あのなぁ、千果が色々な物を千登世嬢にねだってるせいで、千登世嬢の家が全体的に目に悪いピンク色ばっかりになってきてるんだぞ……」
「……でもちとねえはピンク色が好きって言ってたから良いもん!」
「たまに、ピンク色に染まりつつある家を見て千登世嬢ため息ついてるけどな」
「……」
ポリキュアやらの小物が増えすぎたせいでピンク色になりつつある部屋を見て千果の喜ぶ顔は見たいが、基本的にシンプルな物を好む千登世嬢が何とも言えない表情でピンク色の一角を見てため息をついていた姿を思い出しながら千果にそう言い聞かせると、千果も何となく分かっていたことなのか黙り込んでしまった。
とはいえ、やはりポリキュアのパジャマが諦めきれないのか、千登世嬢にねだって買ってもらったフリフリしたロリータファッションと言うのか詳しくは分からんがとにかくフリフリした服装の千果は光るパジャマのエリアから中々離れることが出来ずに後ろ髪を引かれていた。
如何せんロリータファッションに至っては千果の為に存在しているのではないのかと思ってしまうほどに千果に似合っていて、そういう服であれば俺も千果に買ってあげるのはやぶさかではないのだが、高いんだよなぁこれ系の服
「ほら、パジャマは今度千登世嬢に買ってもらえ、俺はアイス買ってやるからさ」
「……ホント?」
「なんでここで嘘つくんだよ……」
「ダブル?」
「食えるならな」
「食べれるもん!」
「ならいい。ほら、アイス食いに行こうぜ」
「うん!」
未だに光るパジャマを諦めきれないのかその場から動こうとしない千果を見かねて俺がそう言うと千果は一旦は納得してくれたようで俺の手を掴んで早く早くとでも言うようにアイス屋に向かってずんずん進んでいく。
どうせダブルを頼んでも食べきれなくなって俺が食べる羽目になるんだろうが、千果はアイスの選択が子供だから余りを俺が食うのも結構つらいんだよなぁ、なんでこう目に悪そうな色のアイスにするんだろうか、もうちょっと普通のバニラとかにすればいいのに……
俺はそんなことを思いながらもアイス屋さんへと千果によって連れていかれて、結局千果はいつものように目に悪そうな色のアイスを頼んでいた。
アイスを店員さんから受け取って千果に渡してやると、千果はきょろきょろと辺りを見渡しベンチを見つけてそこにちょこんと座って美味しそうにアイスを食べ始めた。
千登世嬢の影響かこういった細かいところまで品があると言うか、無駄に上品と言うべきか……アイスぐらい食べながら歩いたっていいだろうに
「まぁ上品なのは別にいいか……」
「何が?」
「ん?あ、いやなんでもない」
「変なの」
俺はちみちみとアイスを食べている千果の隣に座ってぼーっとすることにした。
そうしている間も、千果の可愛さか、その服装かはたまた千果と一緒にいる俺の不自然さだろうか、通りすがりの人たちからの視線を感じていた。
正直俺から見てもこの構図は可愛らしい少女をアイスで釣って誘拐している男子高校生に見えないこともない。
通報だけはしてくれるなよ……
そんな風に俺が通報におびえていると隣に座る千果が控え目に俺の服の裾を引いた。
「……どうした?」
「もう食べれない」
まぁ大方予想通りだが、結局千果はアイスを一人で食べきることが出来なかったようだ。俺は千果の手に握られているアイスをちらりと見ると、ダブルのうち1.8は残っていた。
「……おい、さすがに残りすぎだろ」
「この味あんまり好きじゃない」
「だったら最初からもっと普通の味にしとけよ……」
「ごめん~、だって色が可愛かったんだもん」
「女児ィ……」
「しょうがない、ほら俺が残り食ってやるから。アイスくれ」
「うん」
俺が千果から非常に目に悪い原色系の色が混ざり合ったアイスを受け取り口に運ぶが、確かにこれはあんまり美味しいものではなかった。
とはいえ最後まで食べきらないのはあり得ないので我慢して食べ進めていく。
俺が微妙な味のアイスをもくもくと食べていく間も相変わらず通行人からの視線を感じているが、千果にはそんなことは慣れっこなのかプラプラと足を揺らして俺がアイスを食べきるのを待ってくれてはいるが、こうなった原因の千果がぽけーっとしていると俺が一生懸命原色アイスを食べているのがなんだか馬鹿らしくなってくる。
「なぁ、もうちょっと食えないか?これ」
「きつい~」
「ほら、一口だけだから。な?」
「それ美味しくない……」
「俺だってそんなに美味しいとは思ってないんだよ」
俺がそう言いながら千果の目の前に原色アイスをぐいと差し出すが、千果は顔を背けてアイスから逃げるようにしていた。
結局このアイスは俺が食べないといけないのか……
「あ」
俺が千果に少しでも食べさせるのを諦めて口にアイスを運ぶと、不意に目の前から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
俺はアイスから視線を声の主に向けると、その人は今日は仕事がオフと言うことで護衛の仕事は休みということになっていた棗さんだった。
「あ、どうも」
「……どうも」
とりあえず何か返そうと口から出たのは適当な挨拶だったが棗さんも同じように返してくれたので少し安心した。
「奇遇ですね。まさかショッピングモールで棗さんと会うとは思ってませんでした」
「私も、まさか飯田さんがこんなに可愛らしい彼女が居るなんて……」
棗さんは俺の隣で相変わらずぷらぷらと足を揺らしている千果を見ながら、俺の事をゴミを見るような瞳で言った。
「ん?ちょっと待ってください?棗さん?俺の事そんな奴だと思ってました?」
「っ!……ロリコン!」
俺が棗さんの誤解を解こうと少し棗さんの方に手を伸ばすと、棗さんは一気に俺が通報されるような一言を小さいながら良く通る声で悲鳴を上げた
――あ、終わった
「……違いますって!ほら!千果もなんか言ってくれ」
俺が棗さんがこれ以上周りに勘違いされるようなことを言わないように俺の隣で俺と棗さんのやり取りに気が付いていないのかぼけっとしている千果に助けを求める。
「んえ?うん。え~っと郁真と私は血がつながってない家族だよ~結構仲良しだよね、よく一緒に寝てるし」
「……シスコン!飯田さんは惣社さんと違って普通の人だと思ってたのに!」
女児ィ!違うそうじゃない、いや、大体合っているが、今の状態的には少し言葉が足りない
「ほんとに違いますって!ちょっと説明しますから!こっち来てください」
さっきの様に手を伸ばすとまた悲鳴を上げられてしまいそうなので一生懸命棗さんを手招きして、棗さんに恐る恐るではあるが、ベンチの隣に座ってもらう事に成功した。
「ねぇ郁真、結構上手く説明できたでしょ?ふふ」
「千果、状況を分かった上で遊ぶのはやめてくれ」
「えー、千果難しいこと分かんなーい」
棗さんが俺の隣に人二人分ほどの距離を開けて座ったのを確認して千果が半笑いで俺に小声で話しかけてきた。頭の良い千果の事だ、ある程度状況が分かった上で場が面白くなるようにさっきの言葉を選んだに違いない。
相変わらず視線が冷たい棗さんと、誰に似たんだかメスガキ感が出てきた千果に挟まれて俺はため息をつくことしかできなかった。