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いや、俺やん

「いや、俺やん」


 古森さんが机の上に広げたファイルを見て俺が発した言葉はそんなことだった。

 まぁ薄々分かってはいたが、二つのファイルのうち一つは俺の資料だった。もう一人は未だに葛西セキュリティサービスですれ違ったこともない知らない人だった。


「まぁ、そうですね……一応二人条件にある方が居たのですが、一人はこちらの飯田郁真さんともう一人が惣社 累(そうざるい)さんですね」


 古森さんが俺に手のひらを向けながら、もう一人の男性の名前を紹介した。

 竹内さんと、棗さんはとりあえずファイルに記載されている情報を確認するためか竹内さんが俺のファイル、棗さんが惣社さんのファイルを手に取って目を通していた。


「案外細かく書いてあるんですね」


 竹内さんは俺のファイルを眺めながら意外そうにしていた。

 というか俺自身俺の情報がどんな風に書いてあるのかは知らないのでなんだか恥ずかしくなってしまう。


「そうですね、依頼の成功率や、収めている技術、依頼者様からの評価等が記載されております」

「この、依頼負傷率って何ですか?凄く飯田さんは評価高いですが」

「あぁ、それは依頼の危険度に対しての負傷率の評価になりますね、こちらの飯田さんは今長期で受けている依頼の危険度が葛西セキュリティサービスでも上位なのですが、負傷率がとても低いことで有名なんですよ」


 竹内さんが不思議そうに質問した項目に対して古森さんが慣れたように説明しているが、それを聞いている俺としては、あの狐面の謎多き武人とお嬢様の顔が浮かんでしまって褒められているのにも関わらず何とも言えない表情をしてしまった。


「……竹内さん、飯田さんの見せて」

「あ、ちょっとまだ飯田さんの見てたのに」

「惣社さんのはもう見終わったから」


 もうすでに惣社さんの資料は見終わったのか、棗さんがファイルを竹内さんに渡して、俺のファイルを竹内さんから奪い取っていた。

 そうして俺の資料を奪い取った棗さんは惣社さんの資料は読み流すように適当に見ていたのにも関わらず、俺の資料は少しでも見逃しが無いようにしっかりと読みこみ始めた。


 俺は逆に読み流された惣社さんの資料が気になってしまった。


「まったく……」


 竹内さんは俺の資料を奪い取られて不満そうにそう呟いて、渡された惣社さんの資料に目を通していくが、読み進めていくたびに少しずつ顔色が微妙になっていく。


「竹内さん?どうかしたんですか?」

「あぁ、何というか、この惣社さんの資料がちょっとな」


 俺が微妙な顔になってしまった竹内さんにそう聞くと、竹内さんは言葉を濁して惣社さんのファイルを手渡してくれた。


「……おぉ、これはまた」


 俺は竹内さんから受け取った惣社さんの資料に目を通してついそう言葉が漏れてしまった。

 資料に貼ってある写真も俺と同じぐらいの体格で、棗さんも問題なく話せそうだ。

 依頼成功率は100%なのにも関わらず、なぜか依頼主の評価が低いことを除けば、修めている技術も格闘技関係から情報系と幅広い上に数も多くここだけ見れば全く問題はなさそうだが、問題は惣社さんの資料の最後の方に特記事項として記載されていた一文だった。


 ※眼鏡に異常なまでな執着があり、眼鏡をかけている、または眼鏡を依頼中に掛けてくれる依頼者の依頼のみ受ける。眼鏡にしか興味はないので依頼者様に実害は有りません。


「ちょっと難しそうですね」

「ですね」


 共に惣社さんの資料に目を通した俺と竹内さんは棗さんの事をちらりと見て言葉を介さずに意見を同じくした。

 棗さんは大きな黒縁の眼鏡をしているし、特記事項として記載されるレベルの眼鏡フェチとなれば棗さんには荷が重いだろう。


「うん……飯田さんが良いです」


 ですよね。


 俺と竹内さんが微妙な顔で通じ合っていると、俺の資料を読み終わった棗さんが分かってはいたが俺を指名してきた。


「まぁ、ですよね……ただ飯田さんは先ほど言った通り長期の依頼を受けておりまして、高校生ということもあり中々雀宮さんとは時間が合わなかったり、学校が終わってからも先に受けている依頼の方を優先する形になってしまうので、飯田さんが無理な時間帯は惣社さんにお願いするしかないと思いますが……どうでしょう、大丈夫ですかね……?」


 古森さんは非常に申し訳なさそうに眉根を寄せながら、俺が学校に行っている間の事や、千登世嬢の依頼とのダブルブッキングにならないように調整が必要なことを雀宮さんに伝えていた。


「……ぐ……ま、まぁ出来る限り飯田さんが良いですが……しょうがないですよね……」


 棗さんは今までの様子からは想像も出来ないほどに嫌そうな顔をしながらも渋々俺が護衛できる時間以外を惣社さんにお願いすることにしたようだ。


「棗、本当に大丈夫か?最悪惣社さんの時は私が眼鏡しようか?棗はコンタクトにしてさ」


 竹内さんも惣社さんの事が心配なのか、滅茶苦茶嫌そうな顔をしている棗さんの肩に手を置いて自分が身代わりになるとマネージャーの鏡のような事を言っていた。


「……大丈夫、私も頑張らないと……せっかくお仕事も順調でこれからって所なのに、惣社さんに負けるわけには……」


 もはや、敵はストーカーではなく惣社さんになっている気がするが、まぁ棗さんが頑張ると言っているの意で俺は勿論竹内さんも何か言うことは出来なくなっていた。


 ここまで嫌がられている惣社さんのことが俺は逆に気になってしまうが、そんなことが言えるような雰囲気ではないので俺は大人しく黙ることにした。


 てか、性癖は置いておいても、依頼の成功率は完璧だし、技術も数多く収めてるから質が悪いんだよなぁ。


 俺は一人で気合を入れている棗さんを見ながらそんなことを考えていたが、この惣社さんの話になって微妙な顔をしている皆を見て棗さん以外の三人は同じことを考えているような気がした。



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