第十三話 教皇の野望
新章のプロローグなので短いです。
ラヘンディア王国の貴族子弟は十五歳で社交界デビューし、十六歳で王立学園に通う。
空白の一年はいわゆる受験勉強である。
もちろんエレオノーラは裏口入学する気でいた。
「このわたくしがその辺の貴族と同じく地道にコツコツ努力するなんて冗談じゃありませんわ」
そう豪語するエレオノーラだが、誤算があった。
リディアンが勉強用具持参で誘いに来たのである。
大学府のカリキュラムはすべて履修済みだが、「エレオノーラと過ごす学園生活はきっと面白いだろうから」という理由で王立学園に通う気である。
「エレオノーラ。受験勉強を一緒にしよう!二人でツートップを目指そうね」
まさか好きな人の前で「裏口入学します」なんて言えるはずもなく、エレオノーラは仕方なしに地道にコツコツ努力する羽目になった。
エレオノーラがリディアンと勉強デートを繰り返しているころ、王都でとある陰謀が動き出そうとしていた。
王城から少し離れたところにドカンと立つ塔こそ、女神レティシア教会の総本山「女神教皇庁」である。
女神レティシアはこの世界をつくりたもうた全知全能の創造神であり、イーザス大陸の何処の国でも信仰されている。
燭台も椅子の縁もどこもかしこも金ピカの大聖堂で円卓を囲むのはどれもこれも面の皮が厚そうなおっさんどもである。
「諸君らも知っている通り、最近では王太子リディアンの人気が貴族や平民問わず高まっている」
「いかにも! 嘆かわしいことに女神レティシア様への敬愛を忘れ、上納き……いやその、寄付を断る輩の多いこと多いこと!」
「このままですと教会の威信が揺らいでしまいまする。女神教皇猊下、いかがなさいましょう。王太子リディアンめをいっそのこと……」
一人のおっさんが真剣な顔をしてひときわ豪華な椅子に座っているおっさんを見つめる。彼こそ女神レティシア教会のトップ、教皇ガルマルペンである。
ガルマルペンは余裕の微笑を浮かべる。
「まあ落ち着け。わしには秘策がある。100年前の予言者デルリアースの言葉を覚えているか?」
「ええと、確か『魔王が復活するとき、女神の加護を受けた聖女が悪しきものたちを愛の力で滅せん』でしたか」
「おや、『魔王は悪しき女を求め、悪の女と心を通わせし魔王は絶大なる力を手に入れ、世界を闇に葬らん』ではなかったか」
「双方あっておる。だが、大事なのはボチュフ大司教の言った『聖女が悪しき者たちを愛の力で滅せん』だ。大昔の聖女はこの教会から排出しているわけであるし、魔王に恐れおののく民衆はわれら教会を頼るだろう。リディアンの天下は今のうちだけだ。フハハハハハ」
女神教皇は巨体をゆすって笑い出した。
つられて他の司教も笑い出す。
「見ておれ国王ザナーガン! 王太子リディアン! いずれこのわしがラヘンディアをイーザス大陸で初めての教皇国家にして見せる! そのとき貴様らは這いつくばってわしに忠誠を誓うのだ!!!」
欲に塗れた野望を女神教皇ガルマルペンが高らかに口にした。
なお、魔王復活の伝承はラヘンディア王国にいるものならだれでも知っているが、「聡明なリディアン王太子殿下と心優しいエレオノーラ様が何とかして下さるだろう」と楽観的である。
重臣たちに至っては、「魔王はリディアン様の事だろうなあ。唯一心を開かれているエレオノーラ様が聖女なんだろう」と考えており、魔王復活に対する危機感は一切ないのである。