06手取り足取り……足は使いませんか
20年3月31日改訂
サクラ宅ダイニングにて。
「実春ちゃん、いっぱい用意したから全部食べてね」
サクラのお母さんは私が遊びに来ると聞いて、腕によりをかけて料理を作って待っていてくれた。食卓を所狭しと料理が並んでいる。いや、多すぎですよお母さん。
いつものことで申し訳ないので「気にしないでください」って言っても、いいのいいのと無理やり椅子に座らされる。
もう一人の娘のように可愛がってくれるのはうれしいですが、愛を重く感じる時があります。
お母さんの素敵な体型は尊敬してますけどね! サクラもいずれ……えへへ。
あ、もちろん挨拶の後すぐに手洗いうがいをしましたよ。
挨拶に続く基本です。家の中にウイルスを持ち込まない持ち込ませない作らない。ウイルス三原則です。
そしてスタンバイ済みの料理群に降り立つ。
「「いただきます」」
なんの躊躇いもなく食べはじめるサクラとサクラ母。
サクラはとてもおいしそうにパクパク箸が進みます。
私も覚悟をきめて……。
「い、いただきます」
卵焼きを箸でつまんで一口齧り……ユニバァァァース!
宇宙を感じました。
いったい隠し味はなんですか!? マヨネーズを入れるとおいしくできると聞いたことはありますが、これはマヨネーズの味でもありませんよ。
なんでサクラとサクラ母はそんなにおいしそうに食べてるんですか。宇宙人ですか!
かつてサクラ母は言いました。
「料理は爆発だ!」
昔、サクラ母が飲食店でアルバイトをしている時に、厨房が爆発する事件があったそうです。それからというもの、サクラ母は爆発料理に目覚め、家のキッチンを爆発させたことはないが、爆弾のような恐ろしい料理を作るようになったそうです。サクラのお父さん談。
時に不発弾も含まれており、全ての料理が爆発するわけではないので余計に性質が悪いです。
そして極めつけは、サクラとサクラ母の2人は当たりを引いても全く気にせず食べれることです。……お父さんやお兄さんたちはダメなのに。
ここの家族構成はどうなっているのでしょうか、女は強いということの証明? 私では生き残れそうにありません。
出された料理を残すわけにいかない、死ぬ気で続きを……。
さすがにローストビーフなら大丈夫でしょう。……あ、タレは自家製ですか、そうですガハッ……。
あ、だめ、逝っちゃう。
サクラ、宇宙が見えるよ。
◆◆◆◆◆
はっ、いけない。タイム・トリップしてた。
ここは……サクラのベッドの上!? 私はいったいいつの間にサクラの部屋に連れ込まれたのでしょうか。
これはいけませんね、サクラの枕を堪能しなくては。すーはーすーはースーパーふかふか~。
「お、ハルミ起きたー?」
はっ、わたしは何もしていませんよ。ええずっと寝ていましたとも。
「お腹いっぱい食べて眠たくなるなんて、ハルミもまだまだ子供だね」
えぇえぇ、サクラのお母さんの料理を食べたら永眠しそうでしたとも。
部屋の中を確認すると、サクラは椅子に座ってパソコンで遊んでいました。
しばらくしてサクラの作業がひと段落つくと、
「さっそくゲームしよう」
そう言ってサクラは座っていた椅子から立ち上がり、代わりに私を座らせる。
「サクラが手取り足取り教えてくれるんですよね?」
確認すると、サクラは首を左右に振る。
「足は使わないよ。もちろん手も使わないけど。私は口だけの女さ」
サクラはドヤ顔ですが、口だけ女というのは凄い存在なのでしょうか。とても軽い女な気がします、……体重がか!?
それに、実際に手取り足取り教えてくれてもいいんですよ……足は使わないかもしれませんが。
はっ、そうです。
「ドラムゲームの家庭用コントローラーをパソコンに繋いで使えば、足も使って遊べますよ。シンバルで左右に動き、バスで攻撃です」
サクラの兄、数喜はゲーム好きで、ドラムゲームのコントローラーも部屋に置いてあったはずです。
「操作しにくいわっ!」
バトル中に演奏もできて楽しそうなのに、サクラは共感してくれません。サクラは私の教官なのに。
「どうせなら普通のゲームコントローラー使うわ!」
それもそうですね。そもそもキーボードで遊ぶゲームに対してボタンが少なすぎますよね。
サクラとじゃれていても先に進まないので、ちゃきちゃき先に進めましょう。
さぁ、私のメールアドレスとパスワードを入力しなくては。SAKURADAISUKI@○×△□.co.jpっと。
え? そのアドレス本気かって? やだなー、もちろん冗談ですよ。捨てアドに大切な言葉を入れるわけないじゃないですか。
「まじめにしなさい」
はい、わかりました。だからそんな汚物を見るような眼で見ないでくださいよ、サクラぁ。興奮しちゃうじゃないですか、……嘘ですよ。