53敵情視察
ただいま私は、オーク領前線基地に来ております。
ご覧ください、周囲は闇に閉ざされ、たくさんのオークたちが眠り込んでいます。今のうちに毒を仕込んでおけば明日には一網打尽です。いったい犯人は誰でしょうか。
もちろんやりませんよ。今殺っちゃっても私の手柄を証明できるのはアレンだけなので、仲間内の証言は証拠不十分にされる。不十分なのは少女だけでいい。
それに、受けたクエストの内容は『今度のオークとの戦争に参戦し、指揮を執ること』。開戦前に戦争を止めたら、さらに次の戦争に参戦させられることになる。いつになるかわからないものを待っていられない。早く終わらせないとサクラに会いに行けません。オークよりもゴブリン、ゴブリンよりもサクラ。圧倒的サクラ。……もう、このクエストは放置してもいい気がしてきました。
まぁ、一度受けてしまったものは反故にできない。とりあえず、なるはや(なるべく早く)を目指しましょう。
オークの前線基地に来たわけですが、もちろんあのまま来たわけではない。潜入任務を考慮して、アレンと共に衣装替えしてきました。
私の服はローブを闇色系統色に変えるだけで問題ない。しかし、アレンの軽鎧は嵩張るし、光りそうだし、動くと音がするので皮服に着替えさせた。
アレンが悲しそうにしていたが知らない。文句があるならパンツ一丁にする。
私とアレンは黙々と基地の中を進んでいく。道端で寝ているオークを踏まないようにすればいいだけなので、簡単な潜入任務だ。むしろ、満足いく情報を持ち帰れるか心配になる。
オークの前線基地はフランの前情報通りゴブリンの前線基地と大差無い。寝ているオークを観察したところ、情報通りゴブリンより大きくて私と似た身長だ。ちょっとだけ親近感が湧く。
建築物はなく、テントがいくつか建てられている。オークの身長に合わせてゴブリンのものより高い。それでも、2mを超すと言われるスーパーオークは立って入れない高さだ。スーパーオーク様の寝床はどうする気でしょうね。
いくつかあるテントのうち、1つだけ明かりが漏れているテントがあったので音を立てずに近づく。にんにん。
周囲は寝静まっているが、明かりに照らされると見つかってしまう恐れがあるので、極力明かりの無い場所から耳を澄ませる。相手がサクラであれば完全にストーカーの所業である。今度夜中にサクラの家周辺を見回った方がいい気がしてきた。
さぁ、君の声を聞かせておくれ。僕は君の声にときめ……かない。情報だけ寄越せ。
◆◆◆◆◆
「本当にこのままでええんだろうが」
「このままとは?」
テントの中から2人分の声が聞こえる。3人目がいるかどうかは不明。部屋の中は明るくても、窓や隙間がなくて中が見えないから。
「こんなダラダラしててええんかってこった」
1人がイラついた声で言う。
「んだばって、スーパーオーク様が来んまで待たにゃあなりますまいて」
丁寧な口調なのは副官だろうか? フラン臭がする。アレン臭はもっと旅人って感じ。
「そのスーパーオーク様が今なにしてるとおもっとる!」
知りません。ぜひ教えてください。
「女子に振られただけで落ち込んでんだぞ」
驚愕の新事実。まさかそんな理由で開戦が遅れているとは。あまりの衝撃にアレンを見てしまう。そして目線で言葉を送る。
(将来、貴方もスーパーオークみたいになれますよ)
アレンにも通じたようで、口を歪ませて嫌そうな顔になる。以心伝心で思いが通じるとは、優れた上司と部下になってきましたね。
その後もオークの愚痴が続いた。
推定副官が、
「そろそろ寝ましょお。明日に響きますべ」
と進言したことで終わった。とっとと寝ろよ。
テントから人が出てくる気配がするので、アレンと共に地面に寝そべる。秘技・眠ったオークのフリ。
テントから出てきたのは1人だけ。もう1人は明かりを消したテントの中で寝るようだ。
地面を這っていき、テントを出たオークの後ろに続く。分かる人が見たら完全に這いずり貞子スタイル。立ち貞子スタイルではない。ちなみに私はロリ貞子推し。
オークは木陰で立ち止まり、用をたす様なのでしばらく待つ。ラップは歌わないが、ラップ音なら鳴りだしそう。
終わった瞬間を見計らい、瞬時に立ち上がってオークの背後から頭と首を押さえて、
ゴキリ♪
思わず殺ってもたー。ダークマター。
終わったことは仕方ない、オークの死体を静かに地面に下ろす。視線を上げるとアレンが非難するような目で見てくる。
(違うんすよ。僕はやってない。不幸にもたまたまこいつの頭がそこにあって、僕はたまたまそこにいただけなんすよ)
思念を送ってみたが、アレンは右手を額に当てて、やれやれというように首を振る。
信じてくださいよ! 本当なんですよ!
まぁ、そんなことはどうでもいい。次に進もう。
明朝、木陰からオークの死体が見つかったりしたら騒ぎになるので、とりあえずアイテムストレージに入れておく。アレンがオーク肉を食べると言っていたように、オーク肉というアイテムとして収納できた。後でゴブリンの奥さまにあげよう。
オークを一匹始末したので、もう少し掃除を続けることにする。
テント内の会話で賢いオークがもう一匹いることは判明している。ついでに消しておこう。1人ぼっちは寂しいもんな。一緒にいてやれよ。
もちろん寂しいとかいう理由ではない。賢いオークがいると今後の作戦に影響するので、少しでも混乱を起こす要因を作っておく。
テントに入るとオークが一匹床で寝ている。たぶんこいつだろう。
静かに近づき、真っ先に猿轡をかませる。
驚いて目を覚まし、暴れ出したが気にしない。落ち着いて首に腕を回し、今度は力加減を間違えないようにして絞める。しばらくすると大人しくなったので、ロープで体を縛っていく。
このままただ運び出しても面白くないですね。
真面目な人ほど割を食う世の中です。きっとこのオークも他のオークたちに疎まれているでしょう。ちゃんと書き置きを残して旅立たせてあげますか。
私は部屋にあった紙を使い、さらさらと書きあげる。
「オレンラ、ゴブリン、クウ。オメェラ、オイテキボリ、ザマァ、ワライ」
これでよし。先に旅立った友のことも忘れずに入れておいてあげました。
作業の間、入口を見張っていたアレンの肩を叩いて呼ぶ。アレンは縛られたオークを見ても表情を変えない。
私はアレンに親指を立てて目線を送る。
(ほらぁ、ちゃんと出来たでしょ? さっきのは不可抗力だって?)
何故かアレンはガクリと首を垂らした。なんか間違ってたかしら?
とりあえず、
(これを運んでください)
オークを指差して合図を送ると、アレンは一度頷いてオークを肩に担ぐ。わーお、力持ちー。
私とアレンは頷きあい、黙ってテントを、そしてオークの前線基地を後にする。
夜はまだまだ長い。
3人の旅仲間のなかでオークだけ歩かずに眠っているのはずるいと思います。夜景が素敵な場所を見つけたら起こしてあげましょう。
今夜は寝かさないぞっ☆




