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51前線基地Ⅲ選抜試験Ⅱ

 1人の少女が150人以上のゴブリンに囲まれて絶体絶命のピンチに立たされている。少女が抵抗できなくなった時、彼女の運命はどうなってしまうのか。……死、ある、のみ。

 もちろん嘘です。ゴブリンなんて150人いたところで問題ありません。私ひとりならなんとでもなる。


 ゴブリンたちの指揮官に任命されたので、逆らう者はこてんぱんね♪

 戦時中に命令違反されることに比べれば、子供の我儘(わがまま)ぐらい少しは付き合ってあげましょう。


 私は挑戦者を見渡す。

 私が素手で戦うと聞いて、みんなが素手で戦うことになった。ゴブリンたちは体格も似ているので、同じ個体との対戦を31回繰り返せば終わりだ。うん、なにも問題ない。


「さぁ、かかってきなさい」

 私は楽な姿勢で相手の動きを待つ。多人数相手の戦いでは、下手に身構えない方が自由に動ける。

「おれんから行くべぇ!」

 1番手はタケシ。岩タイプの技が得意……違う、それタケシ違いや。

 タケシは最初から私に不満をぶつけてきた勇気あるゴブリンです。1番に動くのは予想済み。

「おらぁ」

「おらおらですかー?」

 タケシが右腕でパンチを繰り出してきたので左に避ける。すかさずカウンターでタケシの顎に掌底打ちを入れる。

「ぐふっ」

 タケシは自分が攻撃した勢いも加わった衝撃を受けてノックアウト。

 倒れたタケシを放置して、残りのゴブリンたちに視線を送る。

「さぁ、早くしないと陽が暮れますよ」


 この時アレンは思った。

(ここに着いた時には、とっくに陽が暮れとったど)



「「うおぉぉぉ」」

 タケシが目の前で瞬殺されて目を丸くしていたゴブリンたちに闘志が芽生える。1人では勝てないと考え、全員が一斉に動き出す。

 しかし甘いですね。30人が同時に動いたところで、連携がとれずに個々の動きしかできず、集団を活かしきれていない。これでは本当に1対1を30回繰り返すだけで終わる。

「ぎょぎょ~」

 私もみんなの声援に応えて返す。だが、ゴブリンたちは気にも留めずに迫ってくる。奇声に驚いて動きを止めなかった点は評価してあげましょう。


 最初の拳を避けながら足を引っかける、次の攻撃はしゃがんで避けて腹にストレート、さらに体を蹴って後ろにぶつける。横から来た相手の腕をとって、その勢いを利用して投げる。もちろん他の奴にぶつける。

 第一陣がこんがらがって動けなくなり終了。次。

 左右からダブルパンチ、両方の腕の軌道を逸らして2人仲良くお幸せに。

 背後から不意撃ちをくらうと見せかけて裏拳を叩きこむ。前転の勢いで顎に蹴りを入れた方がかっこいいけど、ローブの中がスカートなので止めておく。女子力をアピールするために!



 こんな感じで相手の力を利用して倒していき、数分後には全員ノックアウト。戦いは無情なものです。言っても仕方ありませんが、せめて武器を持っていれば少しは苦戦したものを。ローブを傷つけられたくないので。


「まだ続けますか?」

 私は倒れたゴブリンたちを見まわして尋ねる。

 タケシたちは首を左右に振って否定する。遠慮しなくてもいいのに。

「ならば、いつまで寝転んで休んでいるつもりですか?」

 自分で転がしておいて文句を言う鬼。

 タケシたちが慌てて起き上がり、私の前に集まって片膝をつく。よきに計らえ。

「皆の者も文句は無いか?」

 今度は周囲のゴブリンたちを見渡して尋ねる。みんなも片膝をついて応える。立っているのに私と副官たちだけになる。

「これにて一件落着」

 パン!

 掌を合わせて叩く。

 パン! ……パン! ……ぺち! ……パン!

 みんなもつられて真似をする。離れた位置にいるものほど反応が遅れて、音がさざ波のように広がっていく。それに誰か叩くの失敗したな。1人だけ変な音が出るのって恥ずかしいんですよね。

 しかしなんだこれ?

 最初に手を叩いたのは私だが、どうしてこうなった?



◆◆◆◆◆



 先ほどの合掌コンクールにより、ゴブリンたちの熱気も冷めたようで辺りが静まり返る。

 私は目の前に膝をつく挑戦者たちを見渡す。

 欲しいのは25人。挑戦者は31人いたから6人余りますね。5人を分隊長に任命して、後の1人を仲間はずれにしたら可愛そうか。

 ゴブリンたちの顔を見て先ほどの戦闘での評価をしていく。もちろんゴブリンの顔は区別がつかない。怪我を負わせた位置がそれぞれ違うので、怪我の区別がつくだけだ。


「貴方達には特別な使命を課します」

「「「「なっ?!」」」」

 ゴブリンたちが驚いた声を上げる。

 私は気にせずタケシを含む25人を指名する。

「タケシ、貴方、こなた、そなた、そいつ、あいつ、あれ、そ、ろ、も、ん、の、あ、く、む」

 途中から面倒くさくなった。指で指名していく。分かれば何でもいい。

「貴方たちにはアレンの下について、私の直属部隊の一員になっていただきます」

「「「「ええっ!?」」」」

 さらに大きな驚き声が響く。

「えっ、ええんですか? おれんたちは隊長に負けたのに」

 タケシが代表として質問してくる。

 私は一度頷いてから答える。

「戦ったからこそわかることもあります。私は貴方たちの心意気と強さを買っていますよ」

 嘘です。私より弱い相手の強さは買っていません。動きたくても動けない大勢の中から、少数で名乗りを上げたことを評価しました。

 タケシたちは光栄そうに身を震わせる。冬は冷えますからね。


「次に、そっちの5人」

 残り6人のうち、5人を指名する。指名された人は期待に目を輝かせる。

「貴方たちはこれから新設する部隊の部隊長に任命します。……隊に問題があれば、貴方たちの首を飛ばします。物理的に。そうならないよう励みなさい」

「「「「「ハッ!」」」」」

 5人も光栄そうに元気に返事する。……わかってるのかな? 問題があれば責任を取らせるって言ったの。まぁ、言ったからいいか。

 残った1人が自分はどうなるのかと、捨てられた子犬のような眼で見てくる。ゴブリンにそんな目をされても可愛くありませんよ。

「貴方」

「んだ!」

 ようやく自分の番だと、ひときわ元気に返事する。

「貴方にはフラン副官の下につき、彼の手伝いをしてもらいます。貴方が無能であればフランの失敗に繋がることを肝に銘じて励みなさい」

「ハッ!」

 残りの1人が元気な返事をする。結局彼をどう扱うか何も思いつかなかったので、とりあえずフランに任せよう。隊長の荷を軽くするのが副官の仕事だ、問題ないだろう。


 挑戦者31人の件はこれで終わりっと。あとは……。

 周囲に集まったゴブリンたちを見渡す。彼らは挑戦者たちが全員私から命令を受けたことに驚き、これからを心配する声や、うらやましがったりとざわついている。

 私はフランに視線を送ると、フランは黙って頷く。フランとも意思疎通ができるようになってきたかしら。


 パン!

 フランは手を叩き、全員の注意を集める。

「静まれ! 隊長から訓示の続きだ!」

 フランからの指示でゴブリンたちが押し黙る。

「こほん」

 わざと一度咳を吐く。これぞ形式美。

「みなに伝えておくことが2つある」

 一回でたくさん詰め込んでも頭に入らないので、最初は少なめにする。試験前に苦労するやり方。先生の授業がテスト範囲まで終わりません。

「1つ。これより、私のことはハルミ将軍と呼ぶように」

 ゴブリンたちが理解できるように一語一語区切って話す。

「将軍」「ハルミ」「ハルミ将軍」

 ゴブリンたちがざわざわと騒ぎだし、

「「「ハルミ将軍! ハルミ将軍! ハルミ将軍!」」」

 と合唱が始まった。デラーズ・フリートの大佐に就任した気分ですね。

 私は腕を上げてみなの声に応える。すると、いっそう声と熱気が高まる。

 これ、どうやって鎮めればいいんでしょうね? さすがにこの人数では手間がかかる。時間に任せよう。


 数分後、ようやくゴブリンたちが疲れて静かになってきた。今です、フラン行きなさい。

 パン!

 お決まりとなりつつあるフランの合掌。フラン合掌拳。

「話の続きをします」

「「「……」」」

 ゴブリンたちは続きが気になり静かになる。

「もう1つ。このあと、部隊をいくつかに分けます。

 隊分けは後で通達しますが、同じ隊の仲間のことは家族と思いなさい。

 家族の誰か1人でも失えば、一家の死だと思いなさい。

 家族の誰か1人でも罪を犯せば、一家の罪だと思いなさい。

 そして、一家の死は、一族の死。一家の罪は、一族の罪。

 そう、この前線基地にいる全員がひとつの一族だと思い、恥じることのないように戦いなさい。

 ……長くなってしまいましたね。すぐに理解することは難しいかもしれません。ですが!

 これだけは覚えておきなさい。

 仲間は家族! 家族は一族! 我々は生まれは違えど、一つの一族だ!」


 終わった……途中で興に乗っちゃった、てへぺろ♪

 ゴブリンたちはすぐには理解できないような表情で考え込む。そして、

「「「ハルミ将軍! ハルミ将軍! ハルミ将軍!」」」

 と再び合唱が始まった。とりあえず腕を上げて応えておく。

 毎回これをやると、話が進まなくなるので開戦前と終戦後だけにしたいですね。


「隊長から将軍に変わってませんが?」

 フランがなんか言ってるけど無視しましょう。


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