50前線基地Ⅱ選抜試験Ⅰ
家で諸々の用事を済ませたのでゲームに戻る。時間を確認するとちょうどいい頃合いだろう。
「ハルミ隊長、全員揃いましただ」
フランがテントに入ってきて報告する。
「では行きますよ」
私は立ち上がりながらアレンに視線を送る。
「んだ」
アレンは頷き、私の後ろにつく。
フランもアレンの横に並び、私を先頭にしてテントから出る。
テントの外には大勢のゴブリンが整列するわけでもなく、思い思いにバラバラで立っていた。
これは小学校教育から始めなくてはいけませんね。集会で整列できる小学生はなんと賢いのでしょうか。
どこに立とうかな。ゴブリン族は私よりも背が低いとはいえ、後方の人には見えないですよね。
少し悩んでいると、アレンが木箱を持って来てくれた。
いい仕事です、アレン副官。
私はアレンが持って来た木箱に乗り、ゴブリンたちを見渡す。見ろ、ゴブリンがゴミのヨーダ。
「みな、よく集まってくれた。
私がここの新しい隊長、ハルミだ。
このあと、みなには私の指示に従ってもらう。
異論は聞かん。命令違反は即刻斬首だ」
私の訓示を聞いて、ゴブリンたちが騒ぎだす。
ぽっと出の、名前も身分も知らない人間の小娘が急に自分たちの隊長になれば、不満を持つものもいっぱい出てくるだろう。まずはそいつらをあぶり出して叩き潰す。最初に舐められたらお仕舞いぜよ。
私は再びゴブリンたちを見渡す。
「この中には不満を持つ者もいるだろう。
だが、これは決定事項だ。私はアンリミット・フォン・ネーデルラント様の命を受けてここに立っているのだからな」
ここぞとばかりにアンの名前を使う。勝手に使っても著作権の問題はない。事実だから。アンの名前って総理大臣のよりも使えるかな?
ゴブリンたちがアンの名前を聞き、さらに騒ぎ出す。
うるさくなりすぎて話の続きが出来ないので、私は後ろの副官たちに視線で合図を送る。
フランは首を傾げるが、アレンに耳打ちされて理解したのか一度頷いた。
フランが前に出てきて大きく息を吸い込む。
「黙らんが!!」
フランの大声は辺りに響き渡り、ゴブリンたちが静まり返る。大きい声を出せるのは優れた将の第一条件ですね。怒号が飛び交う喧しい戦場では特に必要なスキルです。
「隊長の訓示はまだ終わっとらんぞ、黙って聞げぇ!」
つい先ほどまで隊長だったフランの注意は効果覿面。アレンではこうはいかなかったでしょう。それに気づくアレンは私が教育した。後はG-1グランプリで優勝するだけだ。
「……続けますよ?」
「ハッ! おねげぇします」
確認する必要はないのだが、フランの顔を立てるためにも一応確認する。それが形式美。
「みな、人間の小娘から指示を受けるのには抵抗があるでしょう」
軽く見ただけでも多くのゴブリンが視線を反らす。
「戦いが始まってから不満を爆発し、命令通りに動かないようでは困ります。
……いいでしょう、不満のある者は出てきなさい」
ゴブリンたちは周囲の者と話し始め、ざわざわとざわつくが、前に出てこようとする者はいない。いや、いるにはいるようだが、周りの人が邪魔で出てこれないのだろう。
私は背後にいる副官たちに手を向けて、人差し指と中指を合わせて伸ばし、それらを離す。これぞ指で示す指示。
再びアレンがフランに耳打ちする。アレンが副官というよりも通訳の仕事ばかりしている気がする。
「静まれぇ!」
フランの声を聞き、ゴブリンたちが静かになる。
「左右に分かれ、中央を開けよ!」
ゴブリンたちは訳が分からないように首を傾げるが、大人しくフランの指示に従う。
ゴブリンたちが左右に分かれ、中央に1人だけ残る。やだ、かっこいいシチュエーション、うらやましい。
残った1人は開いた道を進み、私の目の前で立ち止まる。エジプト脱出か?
「坊主、名は?」
……心太。
私は男を見下ろして名前を聞く。
「コムロ村のタケシだ」
小室ファミリーなのか、北島ファミリーなのか、どっち!?
「タケシ、ここに立つということがどういうことか分かってるんだろうな?」
タケシは真剣な眼差しで頷く。やばい、その役代わって。
「……いいだろう、しばしそこで待て」
タケシは黙ってこくりと一度頷く。いやん、アレンよりかっこいい。G-1グランプリ優勝かも。内容変わってるけど。
「他に文句のある奴はいないか!?」
私はゴブリンたちを見渡して最後の確認をする。これで出て来ずに、後で文句を言う奴は斬首だ。信長さんがあの世で待っている。
ゴブリンたちがざわつき、中から30人ほど出てきてタケシの背後に集まる。
根性ある奴少ないけど、まぁいいか。25人欲しかったので十分足りている。後は篩い落としだな。
「文句のある奴はお前たちか?」
私はタケシたちを見下ろして訪ねる。
タケシはすぐさま頷き、他の者たちは左右を確認してから頷く。
「いいだろう。お前達にはチャンスをやろう。私と戦い、私を倒した者に指揮権を譲ろう。ただし、負けた者がどうなるか分かってるだろうな?」
分かりません。特に決めていません。真冬の寒中水泳でもさせるか。
私の話を聞いて、ゴブリンたちが騒ぎだす。
「待で!」
タケシが鋭い眼差しを向けてくる。
「おれんが勝ったら、指揮権は隊長に戻してくんろ」
タケシの発言を聞き、フランが驚いた顔をする。へぇ、結構部下に慕われていたんですね。
「待で、おれんはそんなもん、」
「いいでしょう」
「ええっ?!」
フランが慌てて辞退しようとするので、セリフの途中で割り込んで止める。こんな面白い展開で邪魔はさせませんよ。絶対に邪魔してあげます。セリフジャマーです。
「タケシが勝てばその条件でいいでしょう。……他の者はどうですか?」
私はタケシ以外の30人に視線を向けて尋ねる。
「んだ、おれんもそれでいいだ」
「おれんたちが指揮権貰ってもどうしようもねぇべ」
「ゴブリンだったら誰でもええ。おれんじゃなけりゃな」
みんな、フランが隊長ならば納得するようですね。
フランは喜んでいいのか怒るべきか悩んでいる表情をしている。
「よろしい。では、ついてきなさい」
私は木箱から降り、オークたちが退いた中央へ歩き出す。
副官の2人が私の背後に着き従い、タケシたちもその後をついてくる。
ちょうどゴブリンたちの中央あたりに来たところで立ち止まり、タケシたちに振りかえる。すかさず副官たちが左右に立つ。
私が立ち止まったので、タケシたちも少し離れた場所で立ち止まる。
「ここでいいでしょう。準備が出来たら始めますよ」
タケシたちが頷き、フランが心配そうに見てくる。
だいじょーぶ、私を信じなさい。フランはアレンを見習いましょう。アレンなんて達観しきってますよ。
◆◆◆◆◆
さぁ、選抜試験のお時間です。試験官は私。採点者も私。受験者はタケシくん他30名。いったい何名がこの試験を通過できるのか。結果はCMの後。
私は軽くストレッチしながら、挑戦者たちを見まわして情報を集める。
まさかこんなグラップラー展開が待っていたとは、勇次郎さんも吃驚。
挑戦者のゴブリンたちは体つきはいいが、特別な特徴は見当たらない。全員似たようなもの。前線基地に集められた人たちなので、規格が揃っていて当然かな。飛び抜けた才能があれば平の兵士でいないでしょう。
「そろそろ良いですか?」
私は準備運動を終えて、同じくストレッチしていた挑戦者たちに尋ねる。
挑戦者たちは頷いて了承する。
「さぁ、いつでもいいですよ」
私が今まで通り淡々と促すと、挑戦者たちは戸惑った顔で仲間の顔を窺う。
「あのぉ、誰から行けばええですが?」
タケシが代表して尋ねる。
私は不思議そうに首を傾げる。もちろん何が言いたいかは分かっている。
「何が言いたいのですか? はっきり言いなさい」
「では」
タケシが覚悟を決めて言う。
「これは決闘すよね? なら、誰とから始めるか決めて貰わんと……」
フッ、バカにしてますね、という態度で口角を上げて笑う。
「何を言っているのですか? 全員で同時にかかってきなさい」
タケシたちが驚いた表情を浮かべる。
「貴方達のようなただの兵士を相手にして、1人ずつでなければ戦えないような者の指示を、信じて戦えると言うのですか?」
タケシたちは私の言わんとすることを理解して、納得したように頷く。だが、
「武器はどうすんで?」
タケシは腰の剣を叩きながら、素手の私を見て尋ねる。
「私はいりませんが、みなさんは好きな物を使いなさい。慣れない物を使って後から駄々を捏ねられても困りますからね」
タケシたちは再び驚くが、自分たちの武器を放り捨てる。
「あんたが素手なら、おれんも素手だ」
「んだ。おれんたちだけ武器なんて使えねぇ」
「おれんたちが素手でも文句ねぇんだろ? おれんこいつが好きだもんな」
こいつらバカですね。でも、嫌いじゃないわぁん。ドーパミン出過ぎてドーパントに変身しちゃう。
「いいでしょう。では、好きなタイミングで来なさい」
私はバサリとローブを踊らす。ローブが波打つ姿は格好いいから。




