05お宅訪問
20年3月31日改訂
翌日の通学中。
「絶対おかしいよね! 全然一緒にゲームしてないじゃん」
今日もサクラは元気ですね。ここ数日、テンションが高いサクラばかり見ている気がします。
しかし昨夜はちゃんとキャラクターも作り、ゲーム世界に降り立ちました。人類にとっては小さな一歩でも、私にとっては大きな一歩ですよ。
私はむっとした表情でサクラに抗議する。
「スタート地点に行きましたが、サクラどころか誰も人がいませんでしたよ」
それを聞いて、サクラはムムムと考え込む。
「うぅん……もしかすると、チュートリアルは終わった?」
チュートリアルですか、どうですかね。
昨夜の記憶にタイム・スリップ☆
◆◆◆◆◆
キャラクター作成も終わり、いざゲームスタート!
荒天の中、荒波にもまれる一隻の舟。小さな木製の舟は今にも転覆しそうなぐらい不安定です。
舟の上には人影が2つある。フードをかぶっているので性別や年齢はわからない。あ、この世界では種族も人間とは限りませんか。さすがに竜族とかは変装していてもわかるでしょうけど。
舟に襲いかかる大波。
波に押しだされ、一人が海に投げ出される。
残されたもう一人が手を伸ばすも届かずに虚空をつかむ。
舟は一人だけ残したまま海を進む。
天候もまだ回復しそうにない。残された人物もこのまま無事に舟から降りられるかはわからない。
暗転。
目を開けたら木目の天井。
「ここは……」
声を出したら、ガタン、隣室から物音が聞こえる。
体を起して周囲を見渡すと、見知らぬ老人が部屋に入ってくる。
老人は質素だが立派な服装をしている。
「おお、目が覚めましたか。浜で倒れているところを見つけた時は驚きましたぞ」
うん、オープニングがここから更に長かったので要約しよう。
主人公つまり私のキャラは海から投げ出された人で、なんか使命があってもう一人と旅をしていたようです。舟に残された人がどうなったかは触れられていない。
助けてくれた老人は村の神父さん。主人公を見つけた後、村人と協力して運び、教会の一室で寝かせてくれたらしい。
目を覚ました主人公がリハビリがてらに村を回って来いと言われ、教会を出たばかりの場面が昨夜の最後。
そしてその場で私はサクラを待っていた、と。
回想終わり。
◆◆◆◆◆
「あー……、そこ、チュートリアルの開始地点だよ」
サクラが呆れた表情になる。
私も思い出してみたら、たぶんそうじゃないかなーと思いましたよ。
「それで、チュートリアルを終わらせないと何か不都合があるの?」
チュートリアルってどのゲームでも割と長いので、長すぎるようならスキップも辞さない。
「ゴズメモのチュートリアルは飛ばせないよ」
くっ、全て終わらせる必要があると。
「一通りの操作方法の説明があるからね」
ほうほう。
「内容は……実際にプレイした方がいいね。ネタばれはよくない」
別にネタばれしてもいいですけど……あ、サクラがよくない? ネタばれする人は滅べばいい? うん、サクラが言うならそうだね。
「そして、チュートリアルが終わるまでは閉鎖フィールド扱いで、他のプレイヤーとの交流ができません」
サクラがいなかったのはそれでか!
「つまり、サクラと出会えるのはまだ先ということですか?」
「そうなるね」
なんたること、なんたる苦行。
「ゲームやめてもいいですか?」
「……んなわけあるかーーー!」
おおう、サクラが激オコです。プンプン丸って忍者ですか?
さすがに今のは私が悪かったですね。
「冗談ですよ。本気にしちゃったんですか?」
サクラが怪訝な目になる。
「ほんとかなー?」
「ほんとほんと」
サクラは疑わしそうに見てきます。そんなに見つめられると恥ずかしいです。
ですが割り切ったようで。
「もぉ、ハルミだから信じてあげる」
ちょろい。
「そうだ、いいこと考えた」
サクラは右手を握り、左手の掌をポンと叩く。
「今日学校が終わった後にウチにおいでよ」
ほほう、家にお誘いですか、私を連れ込んで何をする気ですか。
「わたしが教えながらやったら、チュートリアルもすぐに終わるよ」
ですよねー。サクラの頭の中は5割ゲームで3割私ですよねー。残り2割は家族と知人。あ、違いますか。家族の割合がもっと多いっと。
「そうですねぇ……最近サクラの家にも行ってないですし、いいですよ」
サクラが死んだ魚のような眼になりました。
「……先週来たよ」
そうでしたっけ……あぁ、テスト勉強を教えに行きましたか。あんなもん回数に入れずにポイです、ポイ。
「お昼ごはんもウチで食べるでしょ?」
今日は土曜日で授業は午前中だけ。わが校は私立なので土曜半休に取り残されています。
「サクラの家で食べてもいいのですが、家が近いので一回帰ってからでも」
「お母さんにメールしといたよ」
はやっ!
「ハルミママにも伝えといたよ」
だから早いって!
「2人ともおっけーって」
いやあああ。
むぅ、楽しみにしているサクラを見ていると避けられそうにないですね。
覚悟を決めねばいけません。
「敵は本能寺にあり」
サクラは首を捻る。
「本能寺ってなんだっけ?」
サクラちゃん、そこ、先日のテストで出ましたよー。一緒に勉強しましたよねー。
◆◆◆◆◆
放課後。
サクラの家の玄関前。
サクラの家は2階建てで、1階にリビングとダイニング、キッチンお風呂場トイレに夫婦の寝室。2階に兄弟の個室とトイレがあります。もちろんトイレはすべて個室。
3人いる兄の内、上2人は家を出て一人暮らしをしているので、一緒に住んでいるのは3人目の数喜さんだけ。数喜さんは私の敵。サクラを悪魔に売り渡した人です。そう、ゲームという悪魔に……。
外には小さなお庭と車を2台停められる駐車場。池はありません。
高校よりも通い慣れたサクラの家は我が家のように説明できます。もっと詳しく……。
「ハルミなにしてるの? 早く中に入りなよ」
サクラが玄関を開けて手まねきしています。招き猫のようでかわいいですね。
もうここまで来たんです。背後まで火の手が回って逃げ道はありません。
「くっ、殺せ」
信長さんの最期は自害ですか。乱丸さん卵とフライパン持ってきて、首はいらないよ。