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49前線基地Ⅰ引き継ぎ

 私とアレンは首村を出てから南東に向かっています。

 道中暇なのでアレンからゴブリン領の地理について学ぶ。

 ゴブリン族領の南東にオーク族領があり、南に魔王直轄地、西に人狼族領がある。いずれ狼耳幼女を探しに行くのもいいかもしれない。

 首村はゴブリン領の中でも中央にあり、オオグロ村は北、上陸した浜はさらに北に行ったところ。

 今回行く前線基地はオークとの戦争に備えたものなので、首村の南東にあるわけだ。北側にあれば大変だ。

 ゴブリン族の村の場所もいくつか教えてくれたが、口頭ではよくわからなかったので今度地図を見せてもらうことにする。

 これだけ地理を教えてもらえれば、ゴブリン領を簡単に占領できるなんて口が裂けても言えないですね。

 地理は最重要機密。シーボルトさんも荷物に隠して持ち帰りたいんやで。



 そして前線基地に到着。

 最近夜に行動することが多いため、暗い景色しか見ていない。昼間に見る景色よりも情報量が少ないので残念です。情報量が増えればそれだけ行動選択肢も増えるんですけどね。


 ひとまずここの隊長さんに会いましょう。アレン副官案内よろしく。

「おれんもここのことは知らんで」

「ちっ、使えないですね」

「……すまん」

 アレンが落ち込みながら謝る。

「副官が簡単に謝るんじゃありません。部下に舐められますよ」

「気をつけるだ」

 まったく手のかかる副官だ。早く成長して私の代わりに頑張ってもらわないといけないのに。

「アレン、知らないことは罪ではありません。知ろうとしないことが罪なんです。あなたは今、ここの隊長の居場所を知りません。ならばどうすればよいですか?」

 私に質問され、アレンが顎に手をやり考える。

「んだ、知ってる奴に聞けばええ」

 わかってるじゃないですか。

「ええ、それでいいのです。さあ行きなさい」

「んだ」


 アレンは私から離れ、道端を歩いていたゴブリンを引きとめて話を聞く。

 しかし、この前線基地は防御がガバガバじゃないですか。木柵すら置いてないし、見張りもいない。

 アレンを待っている時間を利用して改めて基地を見てみる。

 テントが複数あり……終了。他に何も無い。マジ使えねー。これだけ前線基地が基地として機能していないとは、あのババア役に立たねぇな。

 これは基地としての見直しが必要そうですね。でも資材は城に使いたいので、節約して作るしかありませんね。

 逆に考えてみましょう。これだけ基地としての価値が無いなら、基地を作らなければいいんです。移動要塞オプティマスベースですね。


「ハルミ隊長、聞いてきたど」

 アレンが戻ってきましたね、では現隊長に引導を渡しましょう。



◆◆◆◆◆



「よく来てくれた、話は聞いてるべ」

 現隊長のテントを訪ねるとすんなり入れてくれた。警備体制が甘すぎる。

「話とは?」

 現隊長に聞いてみる。勘違いして話がすれ違うのも面倒くさいので。

「おめぇが、いや、あんたが新しい隊長になるって連絡が来てるだ」

「あら、アンが早馬でも出しましたかね」

 現隊長はアンが誰のことか分からなかったようだが、誰なのか察した瞬間ぎょっとした表情になる。

「ネーデルラント様ですが?!」

 現隊長が確認してくるので、頷いて肯定する。

「ええ、彼女とは名前で呼び合う仲なのです。いちいち驚いていると話が進みませんよ」

「す、すんませんだ」

 現隊長が恐縮する。

 この現隊長がなぜ隊長職なのか不思議ですね。もっと上昇志向のイケイケくんが居そうなんですが。

「で、彼女はなんと?」

「ハッ! あんた様を新しい指揮官とするので、あんた様の命令に従えと」

 現隊長は私をアンと同等の存在として考えることにしたみたいですね。命令に忠実なところが指揮職に任じられた理由かな。

「わかりました。それでは現時刻を以て、隊長を引き継ぎます」

「ハッ!」

 現隊長、いえ、元隊長が直立して返事する。

「そういえば自己紹介がまだでしたね。私はハルミです。今後ハルミ隊長と呼びなさい」

「ハッ!」

 返事が元気なのはいいですが、ちょっと一本調子過ぎませんか?

「貴方の名前を教えてくださる?」

「ハッ! 首村第3警備隊長フランだす」

 ふむ、出身村の名前を名乗らないパターンもあるんですね。

「ではフラン、貴方を仮に副官の1人に任命します」

「ハッ! ありがたぐ」

 フランが感動で震えちゃった。あくまで仮なのに。

 アレンも何とも言えない表情をしていますね。嫉妬? いや、ただの呆れか。



「まずは前線基地の現状報告をしてください」

「ハッ!」

 フランは返事をすると、部屋に置かれた箱から地図を取り出して机の上に広げる。

「まず前線基地がここだす」

 フランが地図を指し示しながら説明を始める。前線基地なので両領地の境界線付近ですね。でも、この地図の縮尺がわからないので、後で実際に確認してみた方がいいでしょう。

「オークの前線基地は境界線の向こう、ここから約2時間の位置にあるだ」

「歩いてですか? 走ってですか?」

「歩きだす」

 ゴブリンの歩きで2時間ですか。アレンと歩いた感じですと、1時間で5から8kmといったところでしょうか。2時間なら10から16kmですか。

 現代人は徒歩で1時間平均4kmなので、ゴブリンは現代人より健脚です。江戸時代の人並でしょうか。いや、江戸の人も速度は現代人並でしたか。


「んで、たまに境界線を越えて来よるんで、来た時に応戦しとります」

「こちらから境界線を越えることは?」

「無いだす」

 ふむ、オークによる一方的な侵攻ですか。ひとつつきしてみるのもいいかもしれませんね。


「ここと向こうの人数や設備はわかりますか?」

「ハッ!」

 フランが頷いて肯定する。

「まず、こっちの人数は150人。重傷者が出たら入れ替えとります。

 設備は見たと思うっすが、テントだけだす。テントに物資と傷病者を置き、後は外で雑魚寝っす。

 食料は各村から届き、水は西の川から汲んどります」

 見た目通りひどい有様ですね。アンたちとの作戦会議で楽観視しすぎたかな。

「んで、オークの方っすが、人数は100人てとこで、後は似たようなもんす」

 情報量少なっ! 敵方なので仕方ないですか……というよりも、本当に似ているから情報が少ないのか。教えることが無ければ短くて済みますよね。マグロはおいしい、それ以上の情報はいらんってやつです。


「オークの人数が少ない理由は?」

「ハッ! 我々ゴブリンより体が大きく、その分食いでが多いだ。んで、元々ゴブリンの方が人数多いべ」

 なるほど、食糧事情と繁殖事情ですか。草兎の飼育をしていたのが懐かしいですね。


「わかりました。とりあえず情報の確認は以上です。基地にいる全員をこのテントの前に集合させてください。10分後に着任挨拶をします」

「ハッ!」

 フランは私の指示を受け、テントから駈け出して行く。

「んで、だいじょぶそが?」

 今まで黙っていたアレンが心配そうに声をかけてくる。

「ええ、大丈夫じゃありません」

 アレンがショックを受けた顔を隠せない。

「大丈夫じゃないのは相手もですがね」

 私は地図のオーク拠点を叩きながら言う。

「どちらも考えがなさすぎます。まぁ、この状態が続くのであれば何も問題はないんですけどね」

「……あれか」

 アレンは何が問題なのか考えて、答えが浮かんだようです。

「そう、あれです」

 スーパーオーク。

 今は戦力が均衡していますが、スーパーオークが前線に出てくれば一気に形勢が動く。もちろんゴブリン族に不利な状況に。今の前線基地の状態では防ぐ術はない。


「ちょっと考え込むので、時間になったら教えてください」

「んだ」

 私が床に座りながら言うと、アレンが頷いて了承する。

 さ、ゲームをこのままにしてトイレに行っといれ。

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