45戦いには華が必要なんですよ
族長の執務室に帰って来ました。
アンは椅子に座らずに机に座る。
「お行儀が悪いですよ。お母さんに机に座ってはいけませんと習わなかったのですか?」
齢をとって忘れちゃいましたかね。
アンは私の注意を聞き、先ほどまで族長が座っていた椅子を顎を使って示す。
「こやつらの椅子は小さすぎての、儂にはこの机の方が座りやすいのじゃ」
「なるほど」
一理ありますね。ゴブリンサイズの椅子は私にも小さすぎる。アンはババアとはいえ、私よりも身長が若干高いので同じく辛いのでしょう。
しかし、ババアと同じ身長って……いや、将来に期待しましょう。ゲームキャラの身長が伸びるかどうか知りませんが。
ちなみに、族長と補佐ゴブはアンの左右に分かれて床に直座り。
私は持参した狼の皮を部屋中央の床に敷き、その上に優雅に座る。アンが机に座っているので、床に直座りさせられることに納得いかなかった。
アレンは私の左後方、副官の理想の立ち位置に座る。話し合いの場で1人だけ立ちっぱなしにする人とか、自分が立ってろよと思う。
「で、なにか勝つための作戦でもあるんじゃろうな?」
アンが作戦を聞いてくる。
「その前に、今回の戦争での勝利条件を教えてくれませんか」
「ふむ」
「最終目標がなにかもわからないのに作戦なんて立てられませんよ」
「ハルミの言う通りじゃな」
私の説明を聞いて、アンが納得したように一度頷く。
「勝利条件は……」
「勝利条件は?」
「今度の戦いで勝つことじゃ!」
アンがドヤ顔で宣言した。
「……それだけ?」
「それだけじゃ」
「…………ババア、やっぱ齢とって呆けた?」
答えがあまりにも単純すぎたので、思わず確認せずにいられない。
「もう、そのネタはええぞ」
ええんか?
アレンのツッコミに元気が足りない。後でなんとかしなくてはいけませんね。
「ただ勝つだけでいいんですか?」
ただ勝つ、忠勝、お財布の中身がカーツカツ。
「ああ、そうじゃ」
アンが頷いて肯定する。
「今後向こうから手出ししようと思えなくなるぐらい、感服無きまでに叩き潰さなくてもいいんですか?」
「そうじゃ」
「向こうから手土産持って謝罪にくるように仕向けなくても?」
「そうじゃ」
「全てのオークを生きたまま捕獲してどれ」
「くどい!」
最後まで言わせてくれませんでした。
しかしまぁ……、
「……つまんねぇぇぇ」
「「戦争につまるもつまらんもあるか!」」
アンとアレンのツッコミが見事にシンクロしました。新コンビ誕生も間近か!?
族長と補佐ゴブに至っては話についてこれていませんね。書類審査で落選です。
◆◆◆◆◆
戦争はただ勝てばいいというものではないのです、過程と結果が大事なのですよ。まったく、アンとゴブリンたちには教育が必要ですね。
「貴方たちは戦いを舐めているんじゃないですか?」
「……ほぉ、言うてみい」
アンが興味深そうに身を乗り出す。
「では……、
戦いには華が必要なんです!
華がなければむさ苦しいおっさんがぶつかり合うだけで美しくありません。
しかもなんですか、悲劇のヒロインを取り合うわけでもない、ただの種族間戦争。
理由も特にない、ただ領地が隣近所なだけ、なにが楽しくて戦争しているんですか。
しかも戦いに勝つだけでいい? 勝つだけで!?
勝った後に得るものが何もなくていいのなら、戦う必要なんて無いですよね。
戦うだけで被害が出るのに、得るものが兵士の死と負傷、領地の衰退のみ。
もう、やめちゃいましょうよ。戦争なんてひとつもいいことありませんよ。
いっそ全面降伏しますか? そうすれば戦争を回避できます。
もちろんその後ゴブリン族がどういう末路になるかは目に見えてますけどね。
でも、戦争で被害がなければ勝ちみたいなもんですよね? 全体で見ればプラスなんですから。
ほら、なかなかいい案でしょ。
降伏しましょう!」
部屋にいる一同全員が唖然となり、部屋に沈黙が落ちる。
「おめぇ何言ってやがる。おめぇから血祭りに上げてやんぞ!
いっそこいつを奴らに差しだしてやろうか。こいつも見目がええから喜ばれんだろ」
おおう、族長が顔を真っ赤にして捲し立てる。予想よりも気概がありましたか。
ダン!
アンが机に拳を振り下ろした。
「黙れ」
一同が沈黙する。さすがに私も空気を読む。話が進まないから。
「それは本音か?」
アンが私を睨みつける。
「ええ、本気ですよ」
嘘です、5割本気です。
「ならばお主のその首、この場で貰うぞ」
言いながらアンが立ちあがる。手に何も持っていませんが、首を切り落とす魔法でもありますか?
「いいでしょう。……ですが、その前にクエスト報酬を支払ってくださいよ? 勝つための作戦をひとつお教えしたのですから、クエストは達成しましたよね?」
ニコリ。私は笑顔で言う。
怒った顔に笑顔を見せて、怒り倍増煽り作戦。
「なっ、おめぇ! おれんらをバカにしているのか!」
戦いの話になってから族長が元気ですね。
ダン!
アンが再び机を叩く。
「黙れと言っておるだろう」
しーん。
族長再び沈黙。アンに教育され過ぎじゃないですか? もしかしてババ攻めゴブ受けですか? 流行らないよ?
「お主、何が狙いじゃ?」
アンが冷たい眼をして私に問いかける。わたし、アンが怖いので真面目に答えちゃう。
「ドラマです」
「ドラマ?」
私の答えを聞き、理解できていないアンがおうむ返しする。
「最初に言ったじゃないですか、戦いには華が必要だと」
「あれは本気で言っとったのか」
アンが呆れた表情をする。
「もちろんです。私は本気の言葉しか口に出しません」
アレンは心の中で思った。
(本気でふざけたことを言うがな)
「では、お主が欲する華とはなんじゃ?」
アンが面白そうに問いかける。
「目の前にあるじゃないですか」
アンをじっと見ながら答える。
「うん?」
アンが自分自身を指差す。
私はこくりと一度頷いて肯定する。
「どうせアンは、ババアの姿は仮の姿だとか言うんでしょう?」
適当に言ってみる。間違っていても何もない。
アンがぽかんと一瞬呆け、
「くくく、あははははは」
大口を開けて笑いだした。
「笑わせよるわ。そんなにも儂の真の姿が見たいと言うか?」
アンがニヤリと口角を上げて見つめてくる。目は全然笑っていない。
「別に言いませんが、アンが見せたいと言うのなら見てあげないこともないですよ」
いいえ見たくありません。ロリババアなら見たいですが、ドラゴンとか出てきたら困ります。
「よかろう、見せてやろう」
アンはそう言うと、理解できない言語で呪文のようなものを唱える。
すると、アンから光が溢れ、目を開けていられなくなる。
光が収まり目を開けると、アンがいたところには妙齢の女性が立っていた。
女性は170cm前半ぐらいで、髪の毛は腰まであり、胸が大きいのに腰がくびれてスタイルがいい。服装はババアの時のままなので、ぱつぱつではち切れそうできつそうだ。
その姿を見て、私の口から思わず本音が零れる。
「つまんねぇぇぇぇぇ」
「意味がわからんわ!」
私のセリフにアンがツッコむ。
「ババアが本来の姿を現すって言ったら、ロリじゃなきゃだめなんですよ! ロリババアでなければ!
それがこんな妙齢の女性だなんてがっかりですよ!」
アンは私から大切なものを奪っていきました……アンの正体がロリババアという淡い夢です。
「なにが言いたいかわからんが、失礼なことだということはわかったわ」
アンが目を細めて見てくる。
「まぁそれはどうでもいいです」
「「「いいんかい!」」」
ゴブリン一同同時ツッコミ。トリオもいいかもしれませんね。
それにしても、ロリババアを見れると思ったのにがっかりですよ。




