44アレンを副官に
「では依頼を発行するぞ」
アンはそう言うと、紙にクエストの内容を書いていく。
「ほら、確認せよ」
アンから依頼書を受け取って確認する。
『クエスト依頼書
依頼人 アンリミット・フォン・ネーデルラント
依頼内容 今度のオークとの戦争に参戦し、指揮を執ること
依頼報酬 ハルミが望むもの
受託者 ―(未記入)』
あ、また記入不備を発見したので確認しとかないと。もぉ、わざとじゃないでしょうね。
「ひとつ確認しておきたいことが」
「なんじゃ?」
アンも私がしつこく確認することに慣れてきたようだ。
「依頼内容に戦争の結末について書かれていないのですが、勝敗は関係ないのですか?」
私の質問を聞いて、アンが面白そうに眉を上げる。
「お主、あれだけの啖呵を切っておいて負けるのか?」
私は首を左右に振って否定する。
「戦争に絶対はありません。指揮官として敗北した時のことを考えておくのは当然でしょう」
もちろん何事にも絶対はありません。
「かっかっか、ハルミの言う通りじゃ。本来ならば敗北の責は指揮官に取らせ、兵たちはお咎めなしとするところじゃが」
アンは言葉を途中で止めて族長に目線を送る。
「ハルミを指揮官に据えるとはいえ、扱いは客将じゃ。問題を起こさない限り責任を取らせるわけにいかんな。敗北の責任は族長が取るしかあるまい。ハルミが指揮官になる原因の一因であるしな」
ほほう、私に責任は無いと。無責任指揮官ハルミですか。
「ははっ! お任せください。必ずやハルミを勝利に導きます」
アンに指名された族長がやる気になっていますが、貴方に導かれては敗北濃厚そうです。
「他に質問はないか?」
アンが確認してくる。
「いいえ、ありません」
「では依頼を発行するぞ」
そう言うと何かを唱える。聞き取れないんですけど、聞かせたくないから言葉ですか?
そして、いつも通り画面にクエスト受注確認が出るので了承する。
「これでもう、お主はゴブリンとオークの戦争から逃れられんぞ」
アンがダメ押ししてくる。結構いい人なのかしら。
「いいえ、逃げる方法はありますよ」
私の逃げ足は迷路で実証済みです。
「なんじゃと!?」
クエストを受けたのに逃げると聞いてアンが驚く。
「戦争が始まる前にオークを根絶やしにすればいいんです」
ニヤリ。口角を上げて自信満々に言い放つ。
「「「「…………」」」」
ゴブリンたちが驚きすぎて、口から魂を吐き出しそうです。エチケット袋を使ってください。
「あははははは、ハルミにはそれができるの?」
アンのババア装甲がアンロック。
「逆にお聞きしますが、アンにもできるでしょ?」
素性も実力も知らないけど煽れ、煽れ~。
2人で見つめ合い、同時にニヤリと笑う。
私もつられて笑ってみたけど、出来るの? アンちゃん出来るの? 私アンちゃんに勝てる気しないよ?
「それでは奥で話の続きをしようじゃないか」
アンが私の手を取り、族長の家に連れ込もうとする。公衆の面前で誘拐とか止めてください。
「ええ、そうしましょう。……アレン、行きますよ、付いてきなさい」
アレン助けてー。このお婆ちゃんに連れていかれちゃうー。
「うん?」
アレンは首を傾げながらも私の横に立つ。
「待て、そやつは前線送りだと言ったはずじゃが?」
アンがアレンを見咎める。
「アン、しつこいですよ。前線指揮官である私の副官に任命しますので、いずれ共に前線へ行きますよ」
それを聞き、アンが面白そうにこちらを見てくる。
「だが良いのか? こやつは実践経験に乏しく、身分もただの村人ぞ?」
アンの指摘を聞いて、ゴブリンたちが「そうだ」というように頷き、アレンは視線を落とす。
「構いませんよ。そもそも副官に大事なものが何か分かりますか?」
「うん?」
この場にいる全員が首を傾げて考える。補佐ゴブさんなら分かりそうだけど、補佐する側だからなぁ。
「信頼ですよ。
信頼できない初対面の相手を副官にしても、大事な場面で私の指示通りに動けず、時間と手間だけ取られれば邪魔なだけです。
その点アレンは既に意思疎通ができ、私の指示に黙って従うので使い勝手が良いのですよ」
私の説明を聞いて全員が納得した表情をする。
アレンだけ何かを諦めた表情をするのでウインクしておく☆ すると、肩を落として大いに喜んだ。
「よかろう、アレンをハルミの副官に任命しよう。前線行きは免除じゃ」
「ハハっ」
アンの指令を聞いて、アレンが片膝をついて応える。
アンはアレンから視線を動かしてカンベを見る。
「お前はとっとと行かんか」
ほんと、カンベは関係ないので早く行くべきですね。
「確かに、早く行ってください。いつまでも目の前で貴方にうろちょろされると目障りです」
カンベはアンと私に言われてたじろぎ、一度片膝をついてから走り去った。
「では行くぞ」
アンが族長の家に入るので、続いて入る。
「アンって族長の娘?」
「ぶふっ」
私の独り言を聞き拾い、族長が噴き出した。
「おれんの方が数百歳若いぞ!」
あ、年齢気にするんだ。もっと気にすべきものがあると思うんですけど。
「聞こえとるぞ、族長」
アンが振り向いて族長を睨みつける。
「あわあわあわ」
族長が慌てて言い訳しようとするが、言葉になっていない。
「儂はこの家の一室を借りているだけで、儂の館は別にある」
なるほど。
「こんな見窄らしい家が実家だったら燃やしておるぞ」
アンがぶつくさと文句を言いながら歩いて行く。
うん、私が悪かったから族長の前でそういうこと言うの止めてあげて。言葉攻めで死にそうな落ち込み方してるから。




