43私を雇いなさい
「貴方たちに働かれた不義理に対する慰謝料を要求します」
私は今まで自分勝手な言動ばかりしてきたアンに対し、謝罪の形として慰謝料を要求する。
これは決して理不尽な要求ではありませんよ?
アレンの依頼を受けてから1週間働きづめで薬草を集め、手持ちの報酬が足りないから村に取りに来いと言われ、丸1日舟に揺られて海を渡ってやっとのことでゴブリンの村を訪れ、挙句の果てに報酬の値引きを言い渡される。
こんな散々な目に遭う少女がどこにいますか? ……私だよ! 脚色なしの全部本当のことだよ!
客観的にどう見ても被害者が私という現実を、加害者は思い知るがよい。この世には加害者しか存在しないんですよ。アリさんが言ってました。
「「「「くっ」」」」
ゴブリンたちが苦しげに呻く。
私の要求を聞いたアンは納得したように何度か首を縦に振る。
「確かにお主の言う通りじゃな。では、何かお主が喜びそうなものを」
「だが断る!」
私は形式美を大切にする女。自分に利のある話が持ち上がった時にはひとまず断る。そうですよね、先生?
「なっ!?」
私が断るとはつゆ知らず考えていなかったアンが驚く。
「私のことを知りもしないババアに選ばれたものを貰って喜ぶほど、私は安い女じゃありません」
私は自分の胸に手を当てて堂々と言い放つ。
アンは一瞬きょとんとした顔になったあとに笑いだす。
「かっかっか。なるほど、もっともじゃな。では、なにが欲しいか申してみよ」
「なんでも?」
「儂の判断で許せる範囲じゃ」
今なんでもいいって言わないよね? まったく細い腹ですね、うらやましい。
「そうですね……それではクエストを発注して貰えますか?」
「ほう、その内容は?」
私が欲しいものを聞いて、アンは興味深そうな顔になる。
「私を指揮官として雇い、オーク戦に参戦させなさい」
「「「「はぁ?!」」」」
私の要求を聞いてゴブリンたちが大声で驚く。うるさいですね、まだいたのですか。
「おめぇ、ふざけんな!」
「何考えてやがる!」
「結婚してくれー」
「お前が指揮官とか願い下げだ!」
ゴブリンたちが喚きだす。……一部おかしな奴もいるようだが。
それも当たり前のこと、急に自分たちの指揮官になると言い出したんだから、納得いくわけないだろう。受け入れられるのは私の実力を知っているアレンだけでしょうね。
「ふむ」
アンが思案顔をする。
「だが、それではお主に得はないぞ?」
当然の疑問を投げかけてくる。
「得? 得ですか? 人間は損得だけで動く生き物ではありませんよ」
人間損して得取って徳持って来いとか言いますしね。
「ふむ、では何で動くと?」
金です。いえ違いますけど。
「報酬を『私が望むもの』としてください」
「「「「なっ!?」」」」
「欲まみれじゃねぇが!」
ゴブリンたちが騒ぐのにも慣れてきましたが、族長にだけは欲まみれと言われたくありませんよ。
「かっかっか、いいじゃろ、儂は欲深いものが好きじゃ」
アンが笑って報酬を認めた。これなら『なんでも』が通るんじゃないですかね。
「褒めても何もでませんよ?」
もらう立場なので。
「お主の知恵と助力は出るのじゃろ?」
「フッ」
なかなか人使いの上手い婆さんだ。
私とアンは見つめ合うと、
「「かっかっかっかっか」」
どちらからともなく笑いだした。
「最悪の組み合わせだべ」
私とアンを見ていたアレンがぽつりと零す。
「「聞こえとるぞ!」」
うん、アンとのツッコミも息が合って来ましたね。これならG-1グランプリも夢じゃない。
◆◆◆◆◆
「ではクエストを発行するぞ」
アンが補佐ゴブに新しい紙を用意するよう指示する。
「待ってください」
私はクエストの準備をするアンを止める。
((((まだ何かあんの!?))))
ゴブリンたちが小声でツッコむ。疲れたのかしら。
「新しいクエストを発行する前に、薬草クエストの達成を承認してください」
この流れだと忘れられそうなので注意しておく。
「それもそうじゃの」
アンは私の要求を聞いて頷き、
「我、汝の働きを認め、ここに証明せん」
なんか呪文を唱えると、アンの手が光り出し、その手を薬草クエストの用紙に押しつける。
「おお、魔法はここにあったのか」
私は森でのことを忘れて感心する。
サクラがいればツッコんだだろう。
「ファイアーボールよりも手形ポンの魔法で感心するとはいったい……」
依頼者の手形が押されたことでクエストの達成が認められ、クエスト用紙が一瞬輝く。
そして、ハルミとアンの耳に謎の声が響く。
『クエスト達成の確認が取れました』
だが、それだけで終わらなかった。
クエスト達成の案内とともに、ハルミの頭上から光が降り注ぐ。
「「な、なんだこれは!?」」
ゴブリンはハルミに降り注ぐ光を見て驚き、思わず声が漏れた者と声も出ずに呆然とする者に分かれる。
「まさかこれは……」
アンは訳知り顔でぽつりと呟く。
私とアレンは2度目なので対して思うところはなかった。ただ、「またか」と考えただけである。
光は数瞬で治まる。
「お主はいったい何者じゃ?」
アンが私に尋ねてくる。
「私ですか? 私は通りすがりの覆面ライダーです」
((覆面してないよね!?))
((ライドしてないよね!?))
今まで一致団結してきたゴブリンたちに亀裂が生まれ始めていた。
「まぁ、お主の身元などどうでもよかろう。必要なのは結果じゃ。
本当によいのじゃな? 傭兵依頼を受ければ、もう逃げられんぞ?」
アンがしつこいぐらいに確認してくる。
「もとより逃げ道なんてありません。私の道は前にしかなく、後ろにも横にもありません」
ドヤぁ。
「「「「……」」」」
この場にいる者全員が呆然となる。ただしアレンは除く。アレンは悟りの領域に達しているので。
「くっ、あははははは、ハルミ、お主はなかなかおもしろいな。気に入ったぞ」
アンはババア笑いじゃなくなっていることに気づいていない。
「ババア装甲が剥がれてるぞ」
あ、いっけなーい。依頼主にババアとか言っちゃった。てへぺろ♪
「仕方あるまい、こんなに笑ったのは数百年ぶりじゃ」
なんと。
「ふーん、仕様も無い村人ばかり集めて、ちゃんとお笑い要因の育成をしていないからですよ」
「違いない」
私の注意を聞き、アンが諦めた表情を浮かべる。
人材育成には時間がかかりますからね。人は一朝にしてならず、呉下の蒙ちゃん三日会わねばダンシング。




