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41アンリミット・フォン・ネーデルラント

 ゴブリン族のエリートであるカンベが手も足も出ずに完敗したのを見て、周囲のゴブリンたちが押し黙る。

 誰かが口火を開かないと話が進まないんですが、族長の仕事じゃないんですか? 族長はいつまで目を()らしているつもりですか。



「かっかっか、なかなか面白いものを見せてもらった」

 静まり返る広場に女性の声が響き渡る。声の聞こえた方を見ると、1人の老婆が族長の家から出てくる。ゴブリン村で第一人間発見です。

「こやつの言うとおり、戦争を前にして私闘を行うとはお前らはバカなのか? そこの2人は今すぐ前線に行って来い」

 老婆はアレンとカンベの2人を見ながら前線送りを言い渡す。

 2人は老婆に対して片膝をつき、

「「御意」」

 老婆の指示に従うつもりのようだ。

 おいアレン、貴方が前線に行けば私はどうすればいいんですかね?

 このまま話が進むと困るので、ひとまず横やりを入れますか。横撃です。


「このババア、突然現れてなんですか?」

 不愉快そうな顔をしながら老婆を見て言う。

「「なっ!?」」

 周囲のゴブリンたちが驚いた声を出す。

「おめぇ、この方がどなたか知んねぇのが?」

 族長が問いかけてくるが知らないものは知らない。肩を(すく)めて知るかアピール。

「よいよい、確かに(わし)は小娘から見ればただのババアじゃ」

 ふーん。

「じゃあババア」

「よいとは言ったがやめんかい。初対面の相手に対して失礼な娘じゃな。他に呼び方があるじゃろ」

 ババアが呆れた顔で見てくる。

「初対面の相手に対する礼儀はあれとそれに合わせています」

 あれは族長でそれはカンベ、どちらも失礼な奴です。指で示しながら話したのでババアも誰のことか理解できた様子。

 ババアはため息をつく。

「確かにあれとそれに合わせたらその態度になるわな」

 でしょう?

「だが、初対面の相手にはそれがお前の普段の態度だと思われるのじゃぞ」

 ババアの正論を聞いて私は肩を竦めるだけで返事とする。わざわざその相手に合わせるとは言うまでもない。

「まぁよい、お前、名はなんと申す?」

「出会ったばかりのババアに名乗る名は無い」

 キリっ。

 あ、ババアが目を閉じて小刻みに震えだした。(とし)のせいかな?

「こいつはハルミといいますだ!」

 族長が慌てて人の名前を勝手に教える。

 とりあえず睨んでおこう。ギンッ!

 族長がビクリと肩を震わす。

「ほぉ、お前、ハルミと申すか?」

 ババアが族長の言ったことを鵜呑(うの)みにする

「違います。私は通りすがりのナナシ・ナナホシです」

「それではハルミよ、面白いものを見せてもらった代わりに何か褒美(ほうび)を取らせよう」

 加齢・ド・スルー。

 いったいこのババアは何を言っているんですか?

「知らない人から物を貰う趣味はありません」

 道端で急に無理やり物を渡してくる人ってどこのストーカーですか。私がサクラのストーカーです。

「そういえば、お主は儂のことを知らんのだったな」

 知るか。ババアが初対面と言ったのにもう忘れてるなんて、やっぱ齢だな。

「儂の名はアンリミット・フォン・ネーデルラント。お主には特別にアンと呼ぶことを許してやろう」

「アァン?」

 上目遣いで睨みつけるメンチをきるポーズ。メンチ勝つ。

「アンリミット様に対して何たる無礼を!」

 族長が喚きだす。上司が職場に出てきた時だけ急にやる気を出すタイプか。

「よいよい、こやつは儂の支配下におるわけではないゆえ、冒険者らしい自由な態度を許そう」

 ほほう、そこまで言ってくれるなら(やぶさ)かでない。



「では、褒美として1つ質問してもいいですか?」

「ん? よいぞ、言ってみよ」

 私の質問の内容も聞かずに、アンは二つ返事で引き受ける。

「ではお聞きしますが、アンさんはどこかの貴族かなにかですか?」

 フォンをつけて名乗るなら貴族か元貴族というのが相場ですね。

「ふむ、まだ正式な身分を明かすわけにはいかないが、まぁそんなとこじゃな」

 ほぉ、勿体(もったい)ぶりますね。ゲーム運営が公式に実装を発表していない登場人物とかですかね。揺さぶりをかけてみますか。


「おや、てっきりゴブリンに連れ去られてきた少女が口八丁で生き残り、いつでも神様への供物として捧げられるように生かされてきた結果、ババアになっても生きているわけじゃないんですね」

 もちろんそんなことを思ってはいない。ただのハッタリ。忍者ハッタリくん。

「「おめぇなに言ってんの!?」」

 族長ほかゴブリンさんたち総出でツッコミ。いや、アレンを除くゴブリン一同ですね。アレンは1人で呆れた表情をしている。

「かっかっか、そんな過去でもあればおもしろかったかもしれんな」

 アンは顔色一つ変えずに流す。なかなかのやり手ですね。

「かっかっか、そうですな。今の貴女の人生では華に欠けますからな」

 とりあえず攻撃の手を緩めずアタック。

 私とアンが何も言わず見つめ合い、

「「かっかっかっかっか」」

 2人同時に笑いだす。

 どちらも役者だった。



◆◆◆◆◆



「ところでそこの2人、いつまでそこに座っておるつもりじゃ? とっとと準備して前線に行きな」

 笑い終えたアンがアレンたちを見下ろして、再三の指示を送る。

 アレンたちは慌てて立ち上がり、ビシッと直立する。

 おっと、このままではアレンが私を残して戦場送りにされてしまう。アレンに戦場から手紙を送られてきても嬉しくないですよ。手紙を出すなら船上から。タイタニック号からは数十年後に届きます。


「ハァ……、ババアはまだ言ってるんですか? こんな弱い2人を前線送りにしたところでなんの役にも立ちませんよ」

 私の発言を聞き、アンがきょとんとした表情になる。

「「さっき、アレンのような勇士って言ってなかったが!?」」

 アレンとカンベが口を揃えてツッコミ、驚いてお互いを見あう。もう結婚しろよ。いや、コンビを結成してG-1(ゴブワン)グランプリ出場か。


「ハッ、なにを言っておる。これは私闘に対する懲罰(ちょうばつ)だと言っておるじゃろ。部外者は黙っていてもらおう。

 そもそもこんな時に私闘なんぞするバカな奴は、とっとと前線で1人でも多くの敵を倒して少しでも一族の役に立ってこんか」

 アンはなかなか良いことを言いますね。ただのババアで無ければもう少し遊んでいたいんですけど、加齢に勝てる人は存在しませんからねぇ。せめてロリババアであればなー。

 ひとまず追加攻撃を仕掛けますか。


「やっぱりこのババアはボケてるんですかね」

「「「「まだ言ってんの!?」」」」

 ゴブリンたちから総ツッコミ。これなら新喜劇が作れそうです。

「こんな役立たずの2人を前線に送ったりしたら、前線の人が迷惑だって言ってんですよ。

 そんなことも分からないボケてるババアは、とっとと引退した方がいいんじゃないですかねぇ?」

「「「「………………」」」」

 ゴブリンたち絶句。

 アンは笑顔を浮かべているが本音は不明。むしろアレンとカンベの方がどんよりと落ち込んでいる。2人ともどうしたの?


「かっかっか、よお言うてくれよるわ。では何か? お主には何か代案でもあると言うのかえ?」

 アンが面白そうに聞いてくる。私は別に面白くありません。

「てめぇに答える義理はねぇ!」

 キリっ。

「「「「えーーーーー」」」」

 ゴブゴブ大合唱団。

「義理ねぇ、どうすれば教えてくれるんじゃ?」

 とりあえず人を見下した態度を改めればいいんじゃないでしょうか。

「お待ちください、どうせハッタリですだ」

 族長がアンにすり寄り注進する。族長まだいたのか。

「黙れ」

「はっ!」

 アンにひと睨みされて黙る族長。出てこなければ当たらないものを。

「私は今、ゴブリン族から不義理を働かれています。まずはその解消がされない限り、話し合いのテーブルに着く気はありません」

「ふむ」

 私の説明を聞き、アンが考え込むように顎に手を添える。

「おい、誰か詳しく説明せよ」

 ゴブリンたちが周囲の顔を見合う。誰か知ってるか? といったところですね。

 アレンは発言していいものか悩んでいる様子。

 アレン以外で説明できるのは、この場にいるのは族長と補佐ゴブぐらいですか。でもなぁ、族長は黙れって命じられているし……。


「発言の許可を求めます」

 おっと、族長出てきたよ、こういう時には族長の仕事をしますか。

「よかろう、申せ」

 アンも簡単に許可を出す。話せないと話が進みませんしね。

「では」

 族長が簡単な説明を始める。

 アレンが薬草採集に行った時にハルミと知り合い、薬草集めのクエストを出したこと。

 いざ報酬を支払おうとした時に、用意していたSPでは足りずに報酬を支払えなかったこと。

 このままでは契約不履行としてゴブリン族の顔に泥を塗ると思い、ここまで不足分の催促に来たことを説明した。



「なるほどのぉ」

 族長の説明を聞いてアンが考え込む。

 しかし、族長の説明に1つ付け足す必要がある。

「待ちなさい、族長から報酬の減額を要求されたのですが、その説明が抜けていますよ」

 私に指摘されて族長がギクリと首を竦める。責任逃れ(お残し)は許しまへんで。

「ほぉ、それでは確かにこちらの落ち度じゃな」

 私の追加説明を聞いて、アンが族長を睨みつける。


「受託者の力不足でクエスト失敗になるならわかるが、

 きちんとクエストを達成していて、

 依頼者の当初の予測を超えて良い仕事をしたというのに、

 追加の報酬を与えるどころか、

 報酬の減額を要求したじゃと?」


 アンに追及されて、族長が針のむしろに立たされたようになる。

「責任を取ってお前も前線に行って来い」

 アンが族長に前線送りを言い渡した。この世界の責任の取り方は前線送りしかないのか。

「はい喜んで!」

 前線送りと聞いて族長が今まで見せたことのないすごい笑顔になる。

 この族長、脳筋だったかー。どうも性格的にデスク仕事は問題あると思ってたんですよね。でも、ジャブローのオフィスは快適だよ?

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