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40首村Ⅲ・決闘と決着

 族長と話をしていると、アレンとカンベが私を巡って喧嘩をはじめ、止める者がいないまま決闘することになった。

 どちらかがサクラであれば私もノリノリでボケるんですけどね。こいつらを相手にしても面白くないので、大人しく静観しましょう。

 もちろんアレンが危なくなれば手を出しますけどね。別に止められていませんもの。



「んなら始めっぞ」

 カンベが準備ができたようでアレンに声をかける。

「ああ、こっちもいいべ」

 アレンも頷きながら答える。


 いよいよ決闘が始まる雰囲気を感じて、2人の周りに集まったゴブリンたちが騒ぎ始める。

「おい、どっちが勝つと思う?」

「おれんはカンベだな。なんてったって首村の警備隊に選ばれてんだかんな」

「アレンも結構やんぞ」

「おい、誰か胴元(どうもと)やれ!」

「おうっ、任せとげ。おめぇらこの箱にマコン10枚ずつ入れろ。みんな同じ数だけだぞ。メモすんもんがねぇかんな」


 どうも胴元の堂本です。

 どこの世界でも戦いを賭けの対象にするのが好きですね。まさにファイトマネー。いや、あれは戦う人に支払われるお金か。他国のチャンピオンは呼ばれただけで大金が手に入り、試合で体重オーバーしてても貰えるんでしたね。面白い世界だ。

 まぁ、期せずして新情報をゲット出来たのでよかった。この世界の通貨は人間もゴブリンも同じマコンを使っているのですね。そりゃあゲーム世界で国ごとに違う通貨を使っていればプレイヤーが混乱しますよね。目指せ世界共通通貨、偽造通貨(フェイクマネー)もあるよ。



「しゃぁぁぁ」

 カンベが棍棒を振り上げてアレンに襲い掛かる。

「ふんっ」

 アレンが横に避けてカウンター気味に剣を振る。カンベもさらに前に飛んでなんなく避ける。

 これで2人の立ち位置は最初の位置から入れ替わったことになる。

 どちらもまだ本気の打ち合いではなく、様子を見ながらのようです。

 2人とも決闘を予定していたわけではなく戦闘準備をしていないので、アレンは旅装、カンベもラフな格好だ。攻撃を一発でも体に受けると痛いでしょう。村にある薬草で治ればいいですね。

 私の薬草はって? なんでこんなことで使わないといけないんですか。自分とこのを使ってくださいね。


 2人の攻防は続くが基本的に2人とも敵の攻撃は避け、カンベだけがアレンの攻撃を棍棒で受け止める時もある。

 武器だけで考えると、剣を持つアレンの方が一見有利に見えるだろうが、そんなことはない。相手が棍棒のような鈍器(どんき)を使用する場合、剣で戦うのは不利になる。

 アレンが使う剣はよくある西洋の両刃剣をゴブリンサイズにしたもので、斬るというより叩き斬る部類だ。日本刀よりも丈夫に作られていても、硬い物を斬り損ねると折れるし、剣の横側(はら)を強く叩かれれば曲がる。変形した剣はもはや剣にあらず。使い勝手が大きく変わってしまう。

 そのためアレンも無理な攻撃ができず、相手の動きに合わせて攻撃する必要があるのだ。


 反面カンベの動きは分かりやすい。敵の攻撃を体で受けず、避けるか棍棒で受ければいいのだ。

 カンベの持つ棍棒は太く、芯もしっかりしていて頑丈そうだ。アレンの剣では断ち切ることが難しく、下手に斬りつけると剣が壊れる。カンベもそれを分かっていて、積極的に棍棒で攻撃を受け、攻撃する時には剣を狙っている。

 森での私の戦いを思い出してほしい。私も鈍器の一種、(つち)を振るって敵の武器を何度も破壊してきた。武器破壊は立派な攻撃手段のひとつなのだ。



◆◆◆◆◆



 10分ほど攻防が続いたが決着はつきそうにない。さすがに2人とも息が上がり始めている。

 息が上がると言えば、周囲の方が盛り上がり過ぎてみんな息が上がりまくりだ。族長も興奮しすぎて血管切れそう。補佐ゴブの言うとおり、この村は娯楽に飢えてますね。


「そろそろ決着をつけようが」

「ああ、いいだろ」

 カンベがアレンに持ちかけ、アレンが二つ返事で了承する。

 2人とも腰を引いて、体に力を溜め込む。大技で決着をつけようというのだろう。


 この辺が潮時ですかね。

 隣に立つ補佐ゴブを横眼で確認してみると、補佐ゴブは冷静そうだが止める気配もない。どちらも有効打を与えられていないので、まだ決着はついていないと考えているのだろう。

 私が止めるしかないのですか……止めたら周りがうるさそうですね。

 止められる2人よりも、盛り上がっている周囲の方が暴れ出しそうだ。

 いざとなれば族長を盾にして乗り切りますか。さすがに族長を名乗るのだから、盾としての価値はあると信じよう。

 私は指に乗るサイズの石を2つ取り出し、それぞれ左右の親指と人差し指で挟んで準備する。



「うおおお」

「はあああ」

 2人が息を吐いて気合いを入れる。

 そして、息を吐ききった後いっきに息を吸い込み、体を前に、

「「いでぇ!」」

 出せずに立ち止まり、頭を押さえる。

 周囲で騒いでいた者たちも突然の出来事に静まり返る。


 もちろん犯人は私!

 2人が動き出すタイミングを見計らい、石を指で(はじ)き出して2人に当てたのだ。昔の私なら当たらなかったかもしれないが、今の私は(かみ)に愛された女。余裕ですね。


 アレンとカンベの2人は何が起きたか理解すると、何かが飛んできた方向を見る。そちらに立っているのは族長と補佐ゴブ、そして私。疑わしきは私。他の2人は何が起きたか分からない表情をしているから。

 周囲のゴブリンたちも2人の視線を追って同じ方向を見る。私たちに視線が集まり、族長がきょろきょろと視線を彷徨(さまよ)わせる。

「おめぇ、なにしやがる!」


 カンベが私を睨みつけて抗議する。

 アレンを見習ってほしいですね、アレンは冷静に呆れた表情をしていますよ。熱くなりすぎた頭をぶつけて冷やしましょうよ。


「なにをしやがる! と言われれば」

 石をぶつけてあげたのよ。

「2人の恋路を邪魔することが」

 わたしたちの生きがいだからだよ。

「世界を股に駆ける」

「なに言っでやがる!」

 1人だと決まらない決め台詞の途中で、割り込むのは止めてください。切実に相方のサクラが欲しいです。


「うるさいですね、黙りなさい。低知能の分際で人語を語るな、この豚にも劣る生物が」

「「「なっ」」」

 私の啖呵(たんか)を聞いて、カンベどころかアレン以外のゴブリン全員が唖然(あぜん)となる。

 アレンは一人だけおでこに手を当てて首を左右に振る。石を当てた場所は右側頭部のはずですがねがねー。早く冷やさないとたんこぶになるよ。

「おめぇ、おれんたちを()めてんのか!」


 短気のカンベは気を取り戻すのも早いようです。

「薄汚い下等生物を()めたいと思う人間様がいるものか」

「なっ」

 さっきから、なっ、ばっかりです、なっ。


「おめぇふざけんな!」

「人間の小娘がなに言ってやがる!」

「誰か知んねぇが、やっちまえカンベ!」

 周りのゴブリンたちも調子を戻して騒ぎ出す。

 横目で族長を確認すると、知らん顔をして余所を見ている。この族長はどうやって族長になったんですか。

「おめぇら、客人に対してやめんが!」

 冷静な補佐ゴブだけが周囲を止めようとするが、原因は誰から見ても私にある、きらっ☆


 私は話しながら前に出る。

「勘違いしているようですが、私が下等生物だと言ったのは貴方に対してだけですよ、カァンベェ」

 名前を呼ぶ時に侮蔑(ぶべつ)する態度を強調して(あお)る。

「ぐっ」

 カンベが顔を真っ赤にして何も言えなくなる。

「「そうだったのかー」」

 他のゴブリンたちが安心したような雰囲気になる。単純すぎませんか?

「おめぇ、ふざけやがっで!」

 カンベが棍棒を振り上げて近づいてくる。

 アレンが心配そうに止めようかと見てくるが、首を軽く左右に振って遠慮する。

「会った時からガーガー(わめ)くだけで、棍棒をブンブン空振りするだけの能無しを、真面目に相手してくれる人なんてこの世にいませんよ」

 ぷっつん。

 カンベが堪忍袋の緒が切れたように一瞬動きを止め、そして、

「うがあああ」

 私に向かって勢いよく棍棒を振り下ろす。

 冷静さを失った単純な縦攻撃を避けるなど造作もない。横に動いて避けながらカンベのお腹にカウンターパンチを繰り出す。

「ガハッ」

 お腹に拳が食い込み、カンベが痛みで(つば)を飛ばす。汚いので止めてください。

 すかさず下から(あご)掌底(しょうてい)を叩きつける。

「ゴブッ」

 ゴブリンだけに!?

 衝撃を受けたカンベが背中から倒れこむ瞬間をつき、右手首に手刀(しゅとう)を叩きこんで確実に棍棒を手放させる。

 ドサッ!

 カンベが倒れた後は優雅に棍棒を拾い、足を大きく上げてカンベのお腹を踏み締める。

「ゴホッ」

 (ケー)(オー)


「なんじゃこりゃ……」

「もぉやめたげてー」

「ママー、ぼく怖いよー」

 圧倒的な力量差を見せつけられ、周囲は呆然となり、泣き出した者もいる。


「分かったかい坊や? これがお前と私の力の差だ。理解したら今後の生き方を改めるんだね」

 これで族長たちも私の力を認めざるを得ないでしょう。

 おっと、アレンのフォローもしておいてあげないと。

「ちなみに、そこのアレンはさっきの決闘で全く本気を出しちゃいない。

 本気を出したアレンは私よりも強いぞ?

 一族を上げての戦争前に、アレンのような勇士にもしもの事があればどう責任を取るつもりだったのかな? 単身敵地に乗り込んで、全ての敵をせん滅するつもりだったのかな?

 無理無理、私に負けるようじゃ無理。ぜーったい無理だね。

 わかったらお(うち)に帰って、ママがあっためた白湯でも飲んでるんだね」


 うん、途中で興が乗って変なことを言っちゃったかも。

 周囲のゴブリンたちがアレンを尊敬の眼差しで見つめる。

 アレンは必至に首を左右に振って否定する。

 アレンっちにならできるって☆

 アレンにウインクしたら、ガクリと首を垂らした。人間諦めが肝心だよね。

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