39首村Ⅱ・アレンとカンベ
アレンたちに続いて族長の家に入ると、更に奥の部屋に連れて行かれる。
部屋の奥には小さい机が1つあり、その奥に顎鬚を伸ばしたゴブリンが座っている。部屋の雰囲気と配置的にこれが族長だろう。
案内してきた大人ゴブリンは族長の後ろに立ったので、族長を補佐する役目の人かな。補佐ゴブだ。
アレンとカンベは族長の前まで進んで床に腰を下ろす。私はアレンの後ろで控えめに座る。床に直座りとか嫌なので座布団持ってきてください、山田君10枚ぐらい。
「おめぇらまた喧嘩したんが」
族長が呆れた声で言い、アレンとカンベが揃って肩を竦める。やはり貴方たち仲がいいですよね。
「こいつが人間なんか連れてくっからよ。警備の一貫で問いただしただけだ」
カンベがアレンを指差しながら弁明するように言う。
「用事のある客人に問答無用で武器を向けておいてよぉ言うな」
アレンに本当のことを言われて、カンベがアレンを睨みつける。
アレンたら煽りレベルが高いですね。
2人の様子を見ていた族長がため息をつく。
「ほんとおめぇら、いつまで経っても子供だな」
「「子供じゃねぇ!」」
族長に子供扱いされた2人が息もピッタリで否定する。お前らもう結婚しちまえよ。
「そうやっですぐむきになるから子供だっでんだ」
短い付き合いだが分かる。この族長は子供の扱いが下手だ。子供の相手をするなら同じ目線に立ってあげなければぶー。
「おめぇのせいだぞ」
カンベがアレンに責任を押し付けようとする。どう考えてもお前が難癖付けてきたのにな。
「知るが」
アレンはアレンで拗ねたようにそっぽを向く。だから子供だと以下略。
「おめぇらいい加減にせえ」
族長がしつこいぐらいに2人を子供扱いする。おめぇがいい加減にせえ。
ゴブリンたちの痴話喧嘩にも飽きてきました。
「んで、そちらの客人の紹介はいつしてくれんだ」
族長の後ろに立つ補佐ゴブが話を進めようと話の腰を折る。やはり見た目通りこの人だけ大人か。
族長はって? このゲームを始めてから長と付く生き物でまともなのに遭遇していませんよ。
補佐ゴブに促されたのでアレンが説明を始める。
「こちらは冒険者のハルミ。薬草を集めに行った時に知り合っだ人間だ。村長から話がいってると思いますが、薬草集めに協力してくれた人だ」
アレンの説明を聞いて補佐ゴブと族長が揃って頷く。
「遠路はるばるよお来てくれた。何もないとこだがゆっくりしていってくれ」
族長がねぎらいの言葉をかけてくる。どうせなら補佐ゴブに言ってもらいたかった。
「んで、わざわざ世話になった客人を遊びに連れて来ただけが?」
補佐ゴブがアレンに尋ねる。やはり補佐ゴブは他のゴブリンとは一味違いますね。
「実は、以前許可いただいで用意してた報酬が足りんかったで、不足分を頂きに来ましだ」
アレンの話を聞いて、補佐ゴブと族長がきょとんとした表情になる。
「んだっで、確か報酬としで持たしたSPは2000あったはずだべ。そんで足りんて、薬草がえーと……」
「薬草が1万枚以上ですだ」
族長が計算できずに補佐ゴブがフォローする。これぞ理想の関係。族長大得、補佐大損。
「はぁ!? そんな量の薬草どこにあるってんだ? それに、そんなけ集めんのにどんだけの時間がかかると思っとる……そもそも依頼したのって、えっど」
「1週間前ですだ」
「1週間で1万枚だ? ありえねぇべ!」
族長驚き過ぎ、補佐ゴブと役職変われ。
「んだかて、事実だからしょうがないべ」
アレンが族長たちに現実を突きつける。
「んだっで、おれんらが自由にできるSPも無限じゃないべ。ちょっとは負けてもらわんと払えんべ」
予想していた通り族長が報酬を値切ってくる。値切られるだろうとは思っていたが、この族長にされると不愉快ですね。
「んだかて、おれんらが最初に提示した報酬をおれんらから値切るなんて、ゴブリン族の名折れだべ」
「うっ」
アレンがゴブリン族の誇りを持ち出すと、族長が痛いところをつかれた顔になる。
「んでも、この目で現物を見てみんと信じられんべ」
「んだんだ」
補佐ゴブが正論を言い、族長が追随する。
アレンが任せたというようにこちらを見てくる。分かりましたよ、そろそろ私も喋りますよ。お口チャック解除。
「報酬を値切ろうとする相手に手の内を晒すことはできません。クエストが正式に発行されてからでなければ薬草を出す気はないです」
キリっ。
始めから下手に出ていては交渉にならない。しっかりと押し通すべきところは押し通す。
「んだってよ、無理なもんは無理だべ」
族長がごねるが可愛くない。
「族長、こいつを信用してるおれんを信じられませんが?」
アレンが族長を説得しようとするが、ゴブリンたちの中でアレンの信用ってどれだけあるんでしょう。
「がははははは」
今まで黙っていたカンベが笑いだす。ほら、アレンが信用されてないから笑われたじゃないですか。
「おめぇを信じろっで? 無理無理、選抜にも残れなかったおめぇを信用しろなんて無理な話だべ」
カンベにバカにされてアレンが歯噛みする。
でも、今のは仕方ないですよ。いくらアレンがいい奴でも、私とゴブリンたちとでは価値観が違いますからね。
族長たちもカンベを止めようとしない。自分たちが有利になりそうならなんでもいいってとこですね。
仕方がない、私が止めてあげますか。もちろん間接的に。
「ところで、どうして人間の大陸まで来て薬草を集める必要があったんですか?」
突拍子もない質問で会話をぶった切る。ハルミ七奥義三の型空読無。
アレンだけいつもどおりの表情だが、他のゴブリンたちがきょとんとする。こいつ何言ってんだって感じですね。
「ん、ああ、それはな、この大陸ではあまり薬草が手に入らんからだ」
補佐ゴブがいち早く回復して答えてくれる。
「でも、遠路海を渡ってまで必要なものですかね?」
「んん、それはな……」
補佐ゴブは口ごもり族長に視線を向ける。族長は一度頷いてから自分で話し始める。
「実はもうじき戦争がありそうでな、それに備えて集めとる」
アレンから聞いた通りですね。
「戦争って、人間とするんですか?」
「いやいや」
私の質問を聞いて族長が慌てて首を左右に振って否定する。
「魔大陸の者同士でですだ。隣領のオークが大規模侵攻してくるみたいで、それに備えて準備しとるだ」
よし、ここが売り出しどきかな。私も、喧嘩も。バーゲンセール。
「そうですか。約束通りの報酬をお支払いいただけたなら、戦争で手助けするのも吝かではないですよ」
アレン以外のゴブリンたちが再びきょとんとなる。
「がはははは、人間の女子がおれんたちに協力すっと? いらんいらん、おめぇみてぇなちっこいガキが何の役に立づ。戦場に出て震えてるだけで報酬を貰おうってが? がはははは」
カンベが笑いながら私をバカにする。それを聞いて、
ドン!
アレンが拳で地面を叩く。
「おい、おれんをバカにすんのはええ。だけどな、ハルミをバカにすんなら許さねぇど」
アレンの反論を聞いて、カンベが呆けた顔になり、
「がはははは、まぁたおめぇはその人間を庇うのが? やっぱおめぇそいつに惚れでもしたが? おめぇこそゴブリンの誇りを傷つけてんじゃねぇのが」
私だけでなくアレンのこともバカにする。
「うるせぇ!」
アレンが怒りながら立ち上がる。
「もぉ勘弁なんねぇ。カンベ、外に出ろ」
「おうおういいぞ、出てやるぞ」
アレンったら、カンベの挑発に簡単に乗っちゃって、若いですねぇ。
族長たちも肩を竦めている。
「おら行くぞ」
カンベはそう言うと部屋を出て行き、アレンもついて行く。
族長と補佐ゴブも仕方なさそうにドアに向かう。
「あんたは行かんのが?」
補佐ゴブがドアの前で立ち止まり、私に聞いてくる。
「あの2人、いつもあんななんですか?」
私が聞くと、やれやれと首を左右に振る。
「話は外でもできるべ。とりあえず外に出るだ」
そう言って補佐ゴブが部屋から出て行くので、私も続いて部屋を出る。
◆◆◆◆◆
族長の家から出ると、道の真ん中でアレンとカンベが準備運動している姿があった。
私は話の続きをするために補佐ゴブの隣に立つ。補佐ゴブの向こうには族長がいるが気にしない。
「それで?」
私は話の続きを促す。
「ああ、あの2人のことだが」
補佐ゴブは昔を思い出すように目を細めると話し始めた。
「あいつらは同い年で、昔からよく比べられてたんだ。
2人ともそれぞれの村で将来を期待されて育っただ。
ゴブリン族には1年に1回全村から代表が集まるイベントがあっで、そこで毎年比較され続けただ。
当時はアレンの方が一歩リードしてたが、2人の仲は悪くなく、いい関係でライバル視しあってただ。
ところが首村に集められる選抜試験の時に2人が対戦することになったんだが、そん時にアレンの奴が手を抜いて負けよっただ。
後から知ったことだが、そん時あいつの母親が危篤状態で集中出来てなかったそうだ。
まぁ、それは仕方ねぇことだ。
だが、カンベはそのことを知らねぇ。アレンにも言い訳にしたくねぇから言うなって言われてっしな。
そんなわけで、カンベの奴はアレンを敵視してんだ。
巻き込まれたあんたには申し訳ねぇな」
ある程度予想していた内容でしたが、予想以上に話が長くなりましたね。
長話の間にアレンたちの準備運動も終わり、なぜか周囲にいろんなゴブリンが集まってきている。カンベの子分たちもいつの間にかカンベの後方に控えている。
「ただの喧嘩なのにお祭りみたいですね」
「んだ、この村には娯楽がねぇかんな。たまに喧嘩があん時にはみんな集まってくんだ」
喧嘩と花火はゴブの華ですか。
「みんなが見てる前だと、さすがに殺し合いにまで発展することはあんまねぇ。……たぶん」
ああ、殺っちゃうことがあるんですね。危なそうなら止める必要がありそうです。
「んなら始めっぞ」
準備が終わったのか、カンベがアレンに声をかけた。
1on1の始まり始まり。




