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36オオグロ村Ⅲ・相談と悪巧み

 夜、村のみんなが寝静まった頃、アレンの家のリビングに2人の人物がいた。

 2人は話の合間に入れた白湯を飲みつつ、ハルミの質問タイムがさらに続く。



「アレンが所持していたSPの数って凄く多かった気がするんですけど、ゴブリン族ってそんなにSPを持っているんですか?」

 私の質問を聞き、アレンは腕を組んで考える。

「うんん、おれんもよく知んねぇが、SPてのは神様からの授かりもんで、おれんたちが直接持ってる訳でもねぇ。特別な紙で作られたクエスト依頼書を使った時に与えられるんだが、それ以外は知んねぇな」

 ほほう。

「その紙を量産できればSP丸儲けですね」

 私の悪だくみを聞き、アレンが首を左右に振る。

「いんや無理だ。制作方法は知んねぇ。それこそ神様か魔王様しか知んねぇんじゃねぇが」

「それもそうですね」

 SPの量産ができれば量産型勇者や量産型魔王が生産される。やがて神も……。


「んで、おれんたちゴブリン族は世界各地にSPを配る仕事を仰せつかってんだ」

 わーお、急に話がでかくなってきた。地理的に。

「とても重要な役目に思えますね」

「んだ」

 アレンが腕組みしたまま首を縦に振って肯定する。

「海を渡れる種族はあまりいねぇからな。

 しかも地上に降りれて、体が小さくて他種族に見つかりにくい。まさにおれんたちに打って付けの仕事って訳だ」

 アレンはよほど種族の仕事に誇りを持っているんですね。

「各地に配るって例えば?」

「それは言えねぇ」

 アレンが首を左右に振る。

「おめぇなら心配ねぇだろうが、下手に教えたらそこに悪さを考える奴が出てくんべ。なるべく知ってる奴は少ねぇ方がええ」

 それもそうですね。でもまぁ、ちょっと(いじ)ってみましょう。

「アレンが教えられていないだけでなく?」

 アレンは少しの間きょとんとすると「がはははは」と笑いだした。

「もちろんそれもあっがよ、いくつかは知ってんべ。ゴブリン族の中でも全部を知ってんのは上層部の一部だけだろぉよ」

「それもそうですね」

 一族の中でも秘中の秘でしょう。さすがに一子相伝ではもしもの時が恐ろしいので、なにがしかの手段で情報を残しているでしょうが、今は考えても仕方ありませんね。



◆◆◆◆◆



「ほかに何かあるが?」

 さすがにアレンも疲労の色が濃くなってきたようにみえる。プレイヤーの疲労はキャラに伝わらないので、ゲーム世界の住人から見たら超人ですね。

「ええ、あと1つお願いします」

「んだ?」

 話の終わりが見えてきて、アレンが姿勢を正す。


「森でSPを頂いた後、うやむやのままここまで来てしまったんですけれど、頂いたSP分の薬草を今お渡ししていいですか?」

 アレンはそれを聞いて口を開けて固まる。忘れていたようですね。

「そういえばそうだな。……まぁ、あの分はいいべ。あれはちゃんと依頼が達成された報酬だ」

「依頼?」

 今度は私が何か忘れていますかね。

「んだ、踊りを見せるってやつだ。きっちり見せてもらった。大満足の内容だ」

 アレンは踊りを思い出すように目を閉じて頷く。

 ああ、そう言えばあの時に発行されたクエストにはそういう内容が載っていましたね。

「ですが、あれは緊急に仮契約を結んだだけで、最初の約束とは別物じゃないですか」

 薬草採集クエストの報酬を別の報酬として頂くのは、どうにも()わりが悪いです。


「えぇ、えぇ。気にすんな。依頼したクエストをきっちり達成してもらったんに、追加で薬草を貰う訳にはいがねぇ。神様もそうお考えになんだろ」

 アレンも私と同じ気持になっているようですね。2人とも貰い貰われこんがらりん。10年以上会っていないのに年賀状を止められず、送り送られの関係ですね。

「どのみち首村(しゅそん)に残りの報酬を取りに行かなきゃらなんねぇんだかんな。

 それに……今薬草を渡されたら運ぶのが大変だ。おめぇら冒険者とおれんらを一緒にすんな。おれんらはおめぇら程の荷物を持てねぇべ」

 そういえばそうですね。ゴブリンにアイテムストレージがなければ、私たち冒険者のように大量の荷物を運べませんね。見た目の筋肉量だけで判断すれば、アレンは私の数倍の重量を持てるんですけどね。


「そんで、こういっちゃあなんだが」

 アレンが急に口にするのを(しぶ)る。

「なんですか、私とアレンっちの仲じゃないですか。気にせず言ってくださいよ」

 私が話すように促し、アレンも一度頷く。

「んだら、……おれんたちに協力してくんねぇかな、と思ってな」

「ふむ、いいですよ」

「はやっ! そんな簡単に決めてええんが、まだ何かも言ってねぇべ!」

 私が二つ返事で引き受けるとアレンが驚いた表情になる。

「ええんが!」

 私は椅子から立ち上がり、腕を組んで仁王(におう)立ちして体を()らす。

「くっ、がははははは……やっぱおめぇはおもしれぇな」

「アレンっちには負けるっすよ」

「「がははははは」」

 2人で息の合った大笑い。近所迷惑なので夜中にはやめましょう。



 椅子に座りなおして白湯を飲み一拍。

「そんで内容だがよ」

 アレンが説明しようとする。

「おっと、みなまで言うねぇ」

 それを私は止める。

「なして止める」

「それが形式美だから」

 アレンが不思議そうに首を傾げる。だが私は形式美を破ったりしない。

「私とアレンっちの仲だって言ってるじゃないですか、聞かずとも分かりますよ」

 アレンがさらに首を傾げる。

「これまでのアレンっちの話から推測した結果、オークとの闘いに助力して欲しいといったところでしょう」

「んだ」

 アレンが驚いたような表情で肯定する。

「本来なら他人に、部族以外って意味な」

 私のことを他人扱いしたら、何を言われるか分からないと思ったのか慌てて付け足す。アレン賢い。

「部族の問題に部族以外の人間を巻き込んじゃいけねぇんだが、どうにも嫌な噂を聞いてよ」

「噂ですか?」

 アレンが首を一度縦に振る。

「ああ、村長から聞いた話だが」

 あの村長から聞いたってだけで信憑性(しんぴょうせい)が墜落しそうです。

「村長の性格はあれだが、仕事はちゃんとしてるべ」

 あ、通じちゃった。

「声に出てたど」

 そうでしたか。

「ま、あれはあれだが」

 アレンにとってもあれなんですね。

「あれの情報を集める力は侮れねぇ」

 ふむふむ。

「あれの話じゃ、オークの中にスーパーオークが現れたらしい」

「スーパーオーク?」

 金髪のオークですか? この世界で金髪の人はそう珍しいことでもないですが、オーク界では特別なんでしょうか。

「強いオークっで意味だな。他のオークより大きくなっで、オーガぐらいまで成長するらしい。大きくなった分、力も強くなるそうだ。そんで喧嘩好きになっで、いろんなとこに喧嘩を吹っ掛けるとさ」

 なるほど。

「俺様最強勘違い系迷惑男子?」

 それを聞き、アレンが苦笑いを浮かべる。

「んだ。ま、そんな感じだな」

 そうですか。

「面倒くさい相手ですね」

「んだ」

 2人で腕を組んで頷きあう。

「「んだ、んだ」」



「そんでよ、これは提案なんだが」

 アレンが改まった言い方をする。

「なんですか?」

「他の奴には薬草の数は黙っとけ」

 ふむ。

「なぜですか?」

 アレンが真面目な表情になるのでふざけられません。

「まず、人間が申告した量なんて誰も信用しねぇ。口で言ってもわかんねぇなら、言わねぇ方がええ」

 なるほど一理ありますね。能ある鷹は爪を隠し、脳ない鷹は不明を隠さずと言ったり言わない。

「それに、そんだけの量があれば報酬を減らそうと難癖(なんくせ)つけてくんべ」

 村長も言葉にはしませんでしたがそんな雰囲気でしたね。それに、莫大な量の報酬を出したいとは考えませんよね。

 アレンにはまだ言っていないこと……アレンがいない間に更に薬草の数が増えているなんて、今言える雰囲気じゃありませんね。首村(しゅそん)に行った時でいいや。


「……それにな」

 アレンがニヤリと口角を上げる。あら悪いお顔。

「話の最後にドン! と一気に出しで、みんなが驚く顔を見れればおもしろいべ?

 ……ニヤリ。おっと私まで悪い顔になっちゃいました。

「確かに面白そうですね。いいでしょう、乗りました」

 私たち2人で見つめ合いニヤニヤと悪い顔をする。

「おぬしも悪じゃのお、オオグロ屋」

「いやいや、おめぇさんほどじゃねぇべ、冒険者様」

「「がっはっはっはっはっは」」


 繰り返しになりますが今は夜中です。よい子のみんなは大きな声を出してはいけません。



「ではそういうことで」

「んだ」

 悪巧(わるだく)みの……いえ、情報収集の時間もこの辺で終わりにしましょう。

「そういえばアレンっち」

「うん、どしだ?」

 アレンが首を傾げて尋ねてくる。

「私が部屋に入ったら、決して(のぞ)いてはいけませんよ?」

 ハルミの恩返しか。薬草を渡せば一瞬で恩返しは終わる。ゴブリンとの付き合いが面白そうなので終わらせないだけ。

「んだ。女子(おなご)の部屋を覗かないのは当だり前だべ」

 あ、それもそうですね。私はサクラの部屋なら覗きたいですけど、覗く必要がないですね。お泊りしたいって言えば普通に同じ布団で寝れるので。


「あと、勝手に外へ遊びに行くので、家にいなくても気にしないでください」

「ん?」

 アレンが顔を(しか)める。さすがにゴブリンの村を人間が勝手に出歩くのは駄目ですかね。

「夜中に女子1人で出歩くのは危ねぇべ。出かけんならおれんも一緒にいくだ」

 あら紳士。アレンのことを信用し過ぎて、他のゴブリンにも甘いと思われましたかね。

「安心してください。ゴブリン相手なら5匹ぐらい同時に相手できます」

 腰を落として臨戦ポーズ。

 アレンが呆れた表情で見てくる。

「おめぇじゃねぇ。村民の心配をしてんだ」

 あ、そっちかー。

「子供が悪さして返り討ちんなったり、村中に罠を仕掛けたり、村長が悪さをして返り討ちんになりそぉだ」

 アレンがジト目で見てくる。私の信用度はいったいいかほどなんですか。たこほどなんですか。

「失礼ですね。子供には手加減しますよ」

 きっちり弁解しとかないと。面会トゥナイト。

「……あとの2つは否定しないんだな」

「確約できないことは口に出すべきではありません」

 私の答えを聞き、アレンがため息を零す。

「せめて罠は止めてくれ」

 仕方ないですね。

「わかりました。村人に被害が出そうな場所にはやめておきます」

「村ん中は止めて!」

 もぉ、しつこいですね。

「借りている部屋だけにしときますよ」

「……んん、まぁそれならええが」

 アレンが少し悩んだよすで了承してくれた。

「ただ、命だけは取んねぇようなのにしてくれ」

「……つまり、あれですか?」

「そう、あれだ」

 私にも何なのかが通じていると分かり、アレンが遠くを見る目になる。

「あの村長はよっぽど性格に難があるんですね」

「ああ、客人がいる時に限っで、夜中にトイレに行って部屋を間違えたとかぬかす事があんな」

 あー、あかんやつや。日本ならセクハラで辞任請求される村長だ。

「仕方ありませんね……命は取らないようなものにします」

「……頼む」

 矢の設置は諦めますか。目に入ったら最悪死にますね。



◆◆◆◆◆



 話が終わったので、アレンと別れて借りている客室に入る。アレンは湯呑を片づけてから寝るようだ。

 早速部屋の中に罠を仕掛けますか。

 情報から分析した結果、犯人(ほし)はドアから侵入すると思われる。ドアに設置すれば間違いなく()めれるが、ドアの出入りの度に解除する必要があり面倒くさい。

 他の場所に設置するならベッドの手前ですかね。さすがに天井や壁を這ってくるとは思えないので、犯人は床を歩いてくるでしょう。

 部屋の中には窓からの月明かりしか入らないので、暗い足元に罠があっても気付かれにくいだろう。踏んだら足に引っ掛かる罠を……いや待てよ、わざわざ私がベッドで寝る必要は無いじゃないですか。ベッドに罠を仕掛けましょう。

 お父さんが若い頃に入院した時、隣のベッドのお(じい)さんがボケて、夜中にベッドに入ってきたことがあるそうです。これを踏まえて考えれば、犯人はベッドに足を踏み入れてくるでしょう。ベッドは絶好の狩り場ですね。

 そうと決まればベッドに罠を仕掛けましょう。(さいわ)い、この間、新しく入手した大きな鎧を罠に改造してベッドに仕込み、掛け布団をかけておけば私が寝ている偽装にもなる。まさに一石二鳥。さらに鎧の中に石を仕込んでおくか。


夜戦(ウォー)(キング)(オブ)寝台(ザ・ベッド)

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