35オオグロ村Ⅱ・ゴブリン族の事情
「夕飯はどうすっべ?」
アレンの家に戻り、泊めてもらう客室に入るとアレンが尋ねてきた。
「うーん、ゴブリン族ってどんなものを食べてるんですか?」
「おめぇらとあんま変わんねぇべ」
ほほう。
「たとえば、オーク肉とが」
「全然違いますね!」
1つ目から変わり種が出て驚きです。
「そうが?」
アレンが首を傾げる。
「ええ、あちらの村ではオークを見たことがないですね」
「なるほどな。なけりゃ食えねぇわな」
そうですね。
「とりあえず、今日は手持ちの食糧で済ませますね」
「……そうが」
アレンが少し残念そうな表情になる。
でも仕方ないんですよ。私はゲームで食事してもお腹が膨れないので、ゲーム外で食事する必要があります。食事の時間が被っていると誤魔化すのが大変ですからね。アレンにも、家族にも。
「では、私は食事がてら一休みしようと思います。……後でいくつか確認したいことがあるのですが、お時間いいですか?」
「ん? 別にいいど」
アレンが私の頼みを二つ返事で了承してくれる。
「この外の部屋で待っとくで、好きな時にこい」
この外の部屋とは玄関を入ってすぐの部屋のこと。先ほど向かいかけたドアを開けたらこの客室でした。後は玄関から左にあったドアの奥がどうなってるかだが、予想以上に小さい家のようですね。……あ、トイレやお風呂はどうしてるんだ。……気にしないでおこう、ゲームでよかった。
「わかりました。あまり遅くならないようにします」
「んだ。そんなら後で」
そう言いおいて、アレンは客室から出ていった。
「さて」
一旦ログアウトしますか。この客室でログアウトして何か問題が起きても、村の教会で復活できるようになったので安心だ。
ようやくパソコンに休憩時間を与えられる。丸1日働きづめとかどんなブラック企業ですか。
「そういえば、私も今日は5分しか寝てませんね」
ナポレオンは1日3時間睡眠なので私の勝ちですね。なにを勝負しているんでしょうか。
「ご飯を食べた後に5分寝るとしましょう」
時の魔女ショートスリーパー!
◆◆◆◆◆
休憩を終えて客室から出ると、アレンが椅子に座って待っていた。
「お、来たが」
アレンは私に気づくと、向いの席に座るよう促す。
私は勧められた席に着くと、早速本題に入る。
「時間も遅いので率直に聞きますが、明日行く首村について知りたいです」
アレンが「ああ」と頷く。
「そういや話してなかったな。簡単に説明すんべ」
「首村てのは、ようはゴブリン族の族長が住む村だ。
ゴブリン族は氏族が10あって、それぞれの村に住んでんだ。
その中から選りすぐりの人材を集めて作った村が首村だべ。
人材は文武両面で揃えられていて、まぁ、エリート集団みたいなもんだべ」
「おや、アレンはそのエリート集団に入っていないんですか?」
アレンの説明に疑問を感じて、話の途中で腰を折ってしまう。
「んだ。おれんはちょっとな。……入るとしても2年後ってとこだべ」
「なるほど」
物語に登場するゴブリンは繁殖力が高いので、てっきりここのゴブリン族も早熟だと考えていました。成人は12か15と考えていましたが、見直した方がよさそうですね。
「んでま、そん中で一番偉い人が族長だな。
族長はゴブリン族全体の行動を決定する権利を持っとる。
政治的な調整や大きなイベントの主催、大規模工事の召集だったり、戦争の徴集なんかだな」
「大きなイベントって、お祭りでもするんですか?」
「んだ、それもあるな。だけど一番大きなのは婚活パーテーだぁ」
「婚活パーティーですか」
また人間ぽいイベントですね。日本の村社会でもやることなので、どこの社会でも似たような環境なんですかね。
「んだ。村の中だけで結婚を繰り返すのはいけねぇことだと、神様も言ってらしてな。
婚活パーティーで他の村さ娘と知り合うのは大事なことだぁ」
アレンの顔がちょっと緩んでますね。何を想像しているのやら。
「それでアレンっちもお目当ての子がいると?」
直球ど真ん中。相手の意表を突くのが戦略の要。
「いんやいや」
アレンが慌てて首を左右に振って否定する。
「おれんはまだまだだ。もっと強くなってからじゃねぇと、結婚なんてしてらんねぇ」
ふぅん。
「ゴブリンにも結婚適齢期ってあるんですか?」
アレンは首を傾げて考える。
「んだな……大体の奴が15で結婚しで、20越えたら行き遅れだな」
ほほう。
「アレンっちが強くなってからって、行き遅れじゃないですか?」
がーん!
アレンが効果音が付きそうな顔になり、首を垂れて落ち込む。
「まぁ、気にすんなって。一生独身の人もいるんでしょ?」
「気にするわ!」
おや、慰めが逆効果だったみたいですね。くわばらくわばら。
「話の続きすんぞ。さっきの話はあれでええか? 他に質問は?」
アレンが少しふてくされているので、真面目にやりましょう。
「アレンっちがこっちの大陸……名前知らないな。まぁ、人間の住む大陸まで薬草を探しに来ていた訳ですけれど、わざわざ遠出して集める必要があったのですか?」
「うーん」
アレンが腕を組んで考え込む。
「ちょっと長い話になるべ?」
「どうぞどうぞ」
「んだ」
アレンが縦に1度頷いて話し始める。
「どこから話したもんが。
まず、ここ魔大陸には薬草が生えてねぇべ。んで、余所から集めてくる必要があんな。
んで、ケルピーと特に仲のいいおれんが抜擢されたって訳だ。
若いってのもあるがな。若くて健康的で動きやすく、別にどこかでのたれ死んでも構わねぇ人材ってことだ」
「自分で言ってて悲しくないですか?」
「いんや、事実だかんな。それに、旅をしてたら色々知れるし、知らない相手と戦って強くなれるべ」
「ふむ、そういうものですか」
「んだ」
かわいい子には旅をさせろってことですかね。単なる厄介払いでないことを祈ってあげましょう。
「あと、なんで必要かか。
日常的に必要だってのはあんな。普通に生活してても怪我すんで。
んで、隣の領地にいるオークどもが時々攻めてくっから、どうしても怪我人が絶えねぇんだ」
「なるほど、日常的に戦争しているわけですね」
「いやまぁ、今んとこ、戦争ってぇより小競り合いだな。
だけんど、どうも最近きな臭い雰囲気があってな、注意が必要だろうっていつもより集めてんだ」
ほほう。
「きな臭いとは戦争ですか?」
アレンが呆れた表情になる。
「おめぇ戦争が好きだな」
私は驚いた表情をする。
「えっ、嫌いですよ? 戦争なんて何も生まないじゃないですか」
アレンがジト目で見てくるので、お互いにらめっこ。
「ま、それもそだな」
勝った。アレンちょろい子。
「オークはそんなに強いんですか?」
「んだな……」
アレンが再び腕を組む。腕組みしましょわっぷっぷ。
「オークはおれんらを人間サイズにした感じだな」
なるほど。
「……使い回し?」
あれですね、ゲームでモンスターを変色したり、パーツの一部を変更して使い回すやつ。あれで数を嵩増ししたり、データ容量を軽くするんですよね。
私の質問にアレンは首を傾げる。
「使い回しってのが何ん知んねぇが、ほとんどおれんたちと変わんねぇな。
サイズ以外で言やぁ、おれんたちより知能が低くて暴力的、あと数は少ないな」
ふむ、体が大きくなったせいで種族の中で淘汰され、強いものしか生きられなくなりましたかね。
「つまり、力を自慢したがるバカだと」
アレンがコクコクと何度か首を縦に振る。
「んだんだ。おかげでおれんらが苦労すんだ」
「オークの周りにはゴブリンしかいないんですか?」
ゴブリン以外にも標的が存在すれば、そちらにも行きそうですよね。
アレンが首を左右に振って否定する。
「いんや、いるにはいる。
オーク領はゴブリン領と同じで、北が海に面してて、北西をゴブリン領、東南をオーガ領、南西を魔王領に囲まれてっから、自然と一番弱ぇおれらんとこに来るって訳だ」
「なるほど」
不穏な空気を感じる名称が2つも出てきました。
「オーガとは?」
「おれんたちよりもっと大きくしたやつだな。おれんたち2人分ぐらいの高さもいるべ」
アレンが1mで2人分、つまり2mぐらい、と。大きいですね、20cmほど下さい。
「中身はまぁ……さらにオークよりに偏ってんな」
あぁ、俺様系脳筋だと。
「個体数も少ねぇ。1人でいっぱい飯を食うからなぁ」
大きくて筋肉がいっぱいだと、カロリー消費が激しいですもんね。あまり関わり合いになりたくない雰囲気です。近づいただけで筋肉がうつりそう。お腹部分だけって指定できれば……いや、止めておこう。絶対にいらない部分までうつって、欲しい部分が無くなりそう。……ちっちゃくないよ!
「魔王領というのは?」
「さすがにおれんも魔王領はよく知んね。まぁ、魔王様の領地だな」
「魔王が住んでいるんですか?」
魔大陸に上陸して、ゴブリン領を抜けたら魔王戦とか、ムドーも吃驚です。
さすがにアレンも首を左右に振って否定する。
「いんや。魔王様の領地ってだけで、魔王様の城はもっと南にあんだ。
おれんたちゴブリンは海の北には行っても、あんま南の方には行かねぇから、詳しいことは知んねぇがな」
ふむ、大陸のあちこちに直轄領を置いて、他種族を監視しているといったところですか。徳川幕府を彷彿させますね。徳川御三家、尾張、紀州、水戸。三家揃って家老レンジャー。
いろいろと新情報が出てきたせいで、だいぶん時間が経ちました。
明日に備えて早く寝るべきかもしれませんが、どうしても後2つは確認しておきたいことがあるんですよね。
どうしてゴブリン族が大量のSPを所持しているのか。
そして、先払いしてもらったSP分の薬草をどうするかも確認する必要がある。このまま黙っていれば重複受取で詐欺になりそうですからね。




