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34オオグロ村Ⅰ・村案内

 しばらくの間、私たちは上陸した浜辺で休憩していた。

 長い時間、狭い舟の上に同じ体勢でいたので、ストレッチしているアレンの体のあちこちがボキボキと鳴る。それを見て、プレイヤーでよかったー、と椅子をぐるぐる回転させる。回転椅子は一度取ったら椅子をレーンに戻すの禁止。

 ケッピーちゃんはアレンから追加の『ごほうびケル』を貰い、満足して海に帰っていった。

「ケッピーちゃんの()()ってどこなんですか?」

「知らん」

 知らんのかよ。やっぱゴブリン使えねぇな。

「ケルピーと仲が良いんじゃないんですか?」

 仲が良いならお互いの家に遊びに行ったりしないんでしょうか。また今度サクラを家に招待しよう。

「んだけど、世の中にゃあ知らん方がいいこともあるべ」

「例えば?」

「ケルピーの棲み処を知ってる奴がいれば、悪い奴がそいつの口を開いて、棲み処にいって悪さできるべ」

 なるほど。

「それもそうですね」

「んだ」



 休憩を終えて、私たちはしばらく徒歩の旅です。杜甫(とほ)の旅。とほほ。

 砂浜の近くに数軒の建物がありましたが、アレンの説明によると浜辺で作業したり、舟を使う時に使用する海小屋だそうです。そこで休憩させろよと思わないでもない。



◆◆◆◆◆



「ほら、着いたど」

 アレンが指さす方を見ると、確かに村が見えます。

「普通の村ですね」

 最初の村と比較すると、人間よりも身長が低いゴブリンに合わせて建物の高さは低目に建てられている。それでも私は普通に入れそう……ちっちゃくないよ!

 建物の作りもほとんど変わらない。基本は木材で建てられているようだ。

 海から離れているので、潮風の心配もないのだろう。

 建物同士はある程度離れていて、大声を出さなければプライバシーも守られそうだ。


「そろそろ入るぞ」

 アレンは村の外から観察している私に声をかけると、村の中に入っていく。

 村の周囲は動物除けの柵だけされており、罠は見当たらない。

「不用心ですね」

 アレンは私の(こぼ)した言葉を聞いて笑う。

「がはは、そりゃあおめぇの森と一緒にしねぇでくれ」

 失敬ですね。

「私の森ではないですよ。みんなの森です」

「ちげぇねぇ。でも、あそこまで罠だらけにしてたら、だいたいの奴がハルミのもんだと思うべ」

 ふむ、そういうものですか。

 私はアレンの言葉に肩を(すく)める。それを見てアレンがまた笑う。

「がははははは」



「わーい」

 前方からアレンよりも小さいゴブリンが数名近づいてくる。

「アレン兄ちゃんおかえりー」

 アレンの笑い声を聞きつけて、ここまで迎えに来たようだ。

「おお、ただいま」

 アレンが子供たちに挨拶を返す。いい心構えだ。知らないうちにアレンは腹パンを回避した。


「紹介すんべ」

 アレンはしばらく子供たちの相手をし、その後こちらを振り向いた。

「こいつらはオオグロ村の子供たち、ジョン、ポール、リンゴだ」

 あとジョージがいればビートルズですね。

「ゴブオ、ゴブタ、ゴブミですか」

 ゴブリンたちがみな微妙な目で見返してくる。

「おめぇ、全然名前が違うぞ」

 アレンが代表して抗議してくる。

「そう言われても、私にゴブリンの区別がつくとでも?」

 アレンはなんとなく察した表情になる。

「……おめぇじゃ無理だな」

 せやな。


「んで、こっちの人間はハルミ、おれんの……友人だ」

 アレンが気を取り直して、今度は私の紹介をする。

「あら嫌だ、水臭いじゃないですか、私とアレンっちの仲なのにそんな説明だなんて。我々はともに戦った戦友でしょう」

 アレンが苦い表情になる。

「戦ったのはハルミ1人で、おれんは後ろで見てただけだべ」

 私は首を左右に振って否定する。

「いいえ、アレンがいなければ大敗でしたよ。あのあとも森は全焼していたでしょう」

 アレンはそれを聞き、ようやく納得した表情になる。

「んだな、おれんとハルミは戦友……いや、親友だ」

 せやな。


 私とアレンのやり取りを見ていた子供たちが話に興味を持ち、もっと詳しく教えろと催促してくる。

「また今度な、帰ったばっかで、まずは村長とこに顔ださにゃならん」

 アレンの説明を聞き、子供たちは納得した表情になる。

 村長に顔見せとか面倒くさいですね。

「では、私はそのへんで罠を仕込んで……」

「おめぇも来い」

 止められました。

「はいはい、お供しますよ」

「はいは一回だ。子供たちの前で変な言葉を使うでねぇ」

「はーい」

「伸ばすな!」

 アレンが真っ直ぐ育っていて私は嬉しいですよ。



 村長の家は村の中心にあり、周囲の建物より少し立派です。これも最初の村と同じですね。

「村長の家というものは、どこも変わりませんね」

「んだろうな。村長の役割なんて、どこも同じだべ」

「それもそうですね」

 村長の家がわかりにくいと困りますし、村長の仕事をするためには中心部にあった方がいいですよね。


 アレンはノックもせずに家に入っていく。呼び鈴も見当たらないのでこの村ではこれが当たり前なのでしょう。日本の田舎のご近所さんみたい。いや、そこそこの町でも隣のおばちゃんが突然来ますね。

「ただいま戻りましだ」

 玄関入ってすぐの部屋には誰もおらず、アレンはまっすぐ奥の扉を開けて部屋の中に声をかけた。

「おお、帰ったが」

 中からアレンよりも大人っぽい声が返ってきた。

「はよう、入れ」

 アレンは私に一度頷き、部屋に入る。私もアレンに続く。

「ん? どして人間が?」

 村長らしきアレンより年上のゴブリンが訊ねてくる。

「こいづはハルミ。薬草集めを手伝ってくれるって言ってた奴っす」

 アレンの答えを聞き、村長は納得したように何度か頷く。

「そうが、そうが、あんたでしたが、話は聞いとるだ」

 なるほど、アレンがクエストの依頼書を持っていたんだから、偉い人は知っていて当然か。

「いえ、こうしてオオグロ村にまで招待していただき、貴重な経験ができました」

 とりあえず年配者は(うやま)う。得は無いが損も無い。

「そういっで貰えると助かるだ」

 村長も笑顔で返す。裏があるかもしれないので注意しておこう。

「んだば、ちょっと相談があんだ」

 アレンが口ごもりながらも村長に相談を持ちかける。

「どした?」

 村長が不思議そうにアレンを見る。

「許可を貰ってたSPの数じゃ報酬が足んなくで……」

 アレンが申し訳なさそうに言う。

 それを聞き、村長は驚いた顔をしてこちらを見てくる。

「んだって、2千あったはずだべ。薬草5枚でSP1のはずだから薬草1万枚……そんで足んねぇっで、どんだべー」

 指を左右に振りそうな驚き方ですね。この村長、笑いの初期スペックがアレンより高いかもしれない。


「……村長が驚くのも無理ねぇっす。おれんも吃驚(びっくり)したで」

 アレンの言葉を聞き、村長がアレンと目を交わしあい、

 ガシッ!

 熱い握手をしました。

 ……やだ、師弟タッグ誕生の瞬間。トーナメント中に村長の中身が別人に代わっちゃう。


「んでも、どんだけ集めたか知んねぇが……てか、聞きたくもねぇが、そんだけの量を用意すんのは難しいべ?」

 村長が言いにくそうに言う。

「んだかて、最初にした約束を破るのはゴブリン族の恥だ」

 アレンがゴブリン族の矜持(きょうじ)を持ち出す。

「んだな」

 村長も同意する。やっぱりこの2人、性格が似ているのかな。


「んじゃ、明日にでも首村(しゅそん)に行っでみろ。族長に判断を仰げ」

 村長が族長に丸投げするようなことを言う。まぁ、権限から言えば族長の方が上の立場なので、一族に関わる判断を任せるのは間違いないだろう。

「ん、そうすっべ。……おめぇもそんでええが?」

 アレンが私を見て確認してくる。

「明日ですか……夕方以降ならいいですよ」

 明日も学校で授業があるので、日中はログイン(イン)できません。

「んじゃ、そんで」

 アレンが指定した時間帯を認めてくれる。

「んで、あんた泊まるとこはあんのが?」

 村長が聞いてくるので、私はアレンに尋ねる。

「私は村に着いたばかりで右も左も知らないのですが、この村に宿屋ってあります?」

 私の質問を聞いて、アレンが首を左右に振って否定する。

「いんや、ねぇな」

 ですよねー。

「よかったら、おれん()(とま)っか?」

 アレンが自分の家に誘ってくる。

「家に連れ込んで襲うの?」

「それはもうええわ!」

 私のボケにアレンが瞬時に返す。

「襲うのが!?」

 村長の方が信じちゃった。

「襲うわけねぇべ!」

 アレンが即座に否定する。

「襲わないの!?」

 私が咄嗟(とっさ)に返す。

「もう、ぐだぐだだべ!」

 アレンが必死に叫ぶ。きっと長旅で疲れちゃったんですね。



 アレンの呼吸が荒くなったので、息が整うまで一休みを入れました。

「それで、アレンの家ってどこですか?」

「ああ、ここだ」

 アレンが事もなげに答える。

「……」

 村長の息子かよ!

「ああ、言ってなかったが?」

 どおりで家に入る時に気兼ねなく入ったんですね。まぁ、ゴブリン族はご近所さんの家でもノックなしで入るのかもしれませんが。

 見知らぬ男性が一人暮らししている部屋に入りたいとは思いませんが、家族と同居でなくてもアレンは信用できるからいいかな。一応舟の上でも襲われませんでしたし。

 でも、1つだけ確認しておかなくては……。


「個室ですか?」

「むしろ相部屋だと客人に失礼だべ」

 アレンが呆れた表情で返す。

「それもそうですね」

「そうなの!?」

 なぜそこで村長が反対の反応をするんですか。

「これは放っといてくれ」

 アレンが疲れた表情で言う。

「アレン、これは貴方の父ではないのですか」

「あんたもワシのこど、養父様(おとうさま)って呼んでええんだべ?」

 あ、この村長うざい。

「ちょっと黙らせていいですか?」

 縄を取り出しながらアレンに確認する。

「……相手すると喜ぶから、もう放っておいてくれ」

 なるほど、大人しくアレンに従いましょう。



◆◆◆◆◆



「んじゃ、客室に案内すんべ」

 アレンが部屋から出て行く。

「待で待で、もっと相手してくんろ」

 さっきからうるさい村長は無視するんですね、私も見習いましょう。

 私もアレンについて部屋を出る。

「待でぇぇぇ」

 ドン!

 ドアに遮られて村長の声が聞こえなくなる。存外(ぞんがい)防音の整ったドアです。これならノックしても意味ないですね。


 アレンは村長の部屋を出た後、左側にあるドアに向かう。

「ちょっと待って下さい」

 私はアレンを呼びとめる。

「ん? なんだ?」

 アレンが振り向いて尋ねてくる。

「この村に教会はありますか?」

 今の状態でキャラが死亡すると最初の村に逆戻りしてしまうので、ログアウトも気軽にできない。ここ、オオグロ村がある魔大陸まで来るのにケルピー舟で半日以上かかった。死に戻りだけはどうしても避けたい。なので教会でリスポーン(復活)地点の更新をしておきたい。


「教会ならあるど」

 あるんですね。それは朗報。

「では案内してもらえます?」

「いいけども……」

 アレンが不思議そうな顔をする。

「あんまおもしれぇ所でもねぇべ?」

「ええ、構いません」

 復活地点の更新が最優先です。

「んじゃ行くべ」

 アレンは玄関に向かい、私はそれについていく。



「ここがこの村の教会だ」

 オオグロ村の教会は村長の家から数分歩いた山の横穴にありました。

 正直に言うと、教会よりも近くの森の方に興味が傾いている。いや、ここは我慢、我慢。

 とりあえず教会に入ってみましょう。

 教会……というか横穴の入口は私の身長より10cmほど高い高さで、2人並んで入るには厳しい横幅。中に入ると広い部屋が1つだけ、壁も土を固めただけなので本当に横穴ですね。

 ゴブリンの教会なので高さはこれぐらいでいいのでしょうが、天井に頭をぶつけるイベントはお預けです。ゴブリン村にすら私の頭に当たる天井が無いなんて、どこに行けばいいのでしょうか。妖精さんのお家かな?

 あと部屋の中には祭壇が1つ置いてあるだけで、その上に燭台などが置いている。


「な、おもしれぇもんはなんもねぇだろ?」

 アレンが申し訳なさそうに言う。

「そうでもないですよ。実に興味深い点があります」

 私はリスポーン地点の更新がされた案内を確認しながら言う。

「ゴブリンの村にも人間の村と同じように教会があることは、学術的に興味深いです」

「そおが?」

 アレンが不思議そうに首を傾げる。

「ええ、人間の教会の成り立ちは知りませんが、ゴブリン族には何かあるんですか?」

 私の質問にアレンは首を左右に振る。

「すまね。詳しいことは知んね。ただ、神様が実際にいることは確かだ」

「ふむ、そうですか。……神父さんか教会を管理している人はいないんですか?」

 アレンが再び首を左右に振って否定する。

「いねぇな。村のみんなで管理してる」

 なるほど。村人全員が神を信じていても、神に仕える特別な人は必要ないということですか。

「わかりました。案内ありがとうございます」

「別に、気にすんな」


 いずれ、神について調べてみる必要があるかもしれない。ふと、そう思った。

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