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33上陸、未踏の大地

 学校から帰宅後、もろもろの用事を済ませてPC(パソコン)の前に座る。

「そろそろ到着していればいいんですけどね」

 私のキャラクターは今、ゴブリンのアレンとともに船に乗り、アレンの村がある大陸に向かって海を進んでいる。

「ちゃっちゃと終わらせて、サクラが待つ新大陸に向かわなくてはいけませんね」

 もはやどちらが新大陸だかわからないですね。サクラがいるのが新大陸で、アレン村いえオオグロ村のある大陸はあとで名前を確認しましょう。



 私はスリープモードを解除してキャラを目覚めさせる。

 辺りが暗いです、まだ夕方のはずなのですが。……あ、そういえば袋の中に入っていましたね。

 ひとまず身動きせずに周囲の音を確認。波の音と1人分の息使い……アレンですね。問題なさそうです。

 上体を起こして袋の口から顔を出す。

「おお、目覚めたが」

 衣擦れの音を聞きつけてアレンが声をかけてくる。

「おはようございました」

「ん、おはよぉさん」

 挨拶をすると、アレンも気軽に返してくれる。


 周囲を見渡すと、一面海と空しか見えません。水平線の向こうに夕日が沈もうとして、海が夕焼け色に染まっています。

「あとどれぐらいかかりそうですか?」

 全く陸地は見当たらないが一応確認してみる。

「もうすぐだ」

 アレンのもうすぐは当てになりません。しばらくかかると言って早朝から夜までかかる距離です。もうすぐならあと1時間はかかりそうですね。

 アレンと雑談でもして過ごしますか。情報収集も必要ですし。



「そういえばアレン」

「ん?」

「アレンの村の名前は聞きましたが、村のある大陸に名前ってあるんですか?」

 先ほど疑問に思ったことをひとまず聞いてみる。忘れそうだから。

「大陸の名前か? おれんたちは魔大陸って呼んどる」

 ほうほう。魔改造に魔大陸。魔改造された大陸? 罠が盛りだくさん? 攻略しがいがありそうですね。

「いや、そんなおめぇの森と一緒にしねぇでくれ」

 あ、そうですか。

「魔物や魔族がたくさんいて、魔王城があっからそう呼んどる」

 なんですと。

「魔王城って存在するのですね」

 サクラから聞いたことがない。まさかこのゲームの最終目標がそれでしょうか。

「ああ、存在するらしい」

 らしい?

「おれんたちゴブリンの領地があんのは大陸の北側だ。魔王領はもっと南の方にあって、ゴブリンでその城を見たことある奴はそんなにいねぇ」

 なるほど、それもそうですよね。日本人でも皇居やお城を直接目にしたことが無い人は結構いますよね。

「わかりました。それでは私も今度から魔大陸と呼びますね」

「そうしてくれ」

 アレンが一度頷く。

 魔大陸かー、魔大陸を出るときにはシャドウ待ちしないとな。あの人知らないうちに死んじゃうから。



 30分ほど雑談していると、遠くに陸地らしきものが見えてきました。

「あれですか?」

「んだ」

 アレンに確認すると肯定する。

「あと、もう30分といったところですかね?」

 指などを使い、陸地までの距離を目算して尋ねる。

 アレンも同じように確認する。

「そだな、もうちょい早く着くかな」

 ほほう。

「陸地が見えてきたで、ケッピーも本気出すべ」

 なるほど。

「今までは本気ではなかったと」

「きゅいー」

 ケッピーも「任せておけ」というように声を上げる。

「ああ、今までは途中でなにがあるかわかんねかったからな、ペースを落として進んでだ」

 アレンはそう言うと、懐から例の丸薬(『ごほうびケル』とでも名付けますか)をケッピーに向けて(ほう)る。

 ケッピーが器用に首を動かして直接口の中に入れる。

「きゅいーーー」

 一気に元気になったもよう。

「やっぱ危ない(やく)じゃ……」

 私がケッピーの様子を疑わしげに見ていると、

「ハルミ、ちゃんと舟に掴まれ!」

 アレンが注意するよう指示を出す。

「そんなにですか?」

「そんなにだ」

 何をか言う必要はない。

 舟のスピードが急激に速くなる。

「見せてもらおうか、白ナイルのケッピーの性能とやらを」


 サクラがいればツッコんだでしょう。

「3倍速の人がいうセリフか!」



◆◆◆◆◆



 ついに魔大陸が目の前に。

 どうやら舟は直接浜に着けるようです。砂浜の上に何隻か引き上げられた舟が見える。

「おう、ちょっくら揺れるで、気ぃつけぇ」

 アレンが注意を促してくるが、舟に掴まる以外どう気をつけろと。おっと揺れる揺れる。ケッピーちゃんが浅瀬を進めるのか心配でしたが、前脚を使って歩いて行くのね。さすが上半身馬。


 ケッピーちゃんが砂浜まで運んでくれて無事に陸地に着きました。ケッピーちゃん、水陸両用だなんて便利な子。

 アレンが先に地上に降りると、降りてこない私を振り返る。

「どうしだ?」

 いえいえ、ちょっと待ってくださいよ。

「魔大陸の大地を踏む最初の人類になるということは、人類にとって重要なことなんです。一歩目が肝心です」

 私の話を聞いて、アレンが呆れた表情になる。

「おれんも一応人類だど」

 ん?

「ゴブリンも人類なんですか?」

「……はぁ」

 アレンがため息を吐く。

「しょっちゅう言われっけど、ゴブリンも人間も同じ人類だ」

 ほうほう。

「ちょっと詳しく教えてくださいよ。これからゴブリンの村に行くというのに、失礼な発言をしてしまうところでしたよ」

 アレンがジト目で見てくる。

「おれんにはええんか?」

 およおよ。

「アレンっちと私の仲じゃないですか」

 私は自己最高の笑顔を送る。

 アレンが疑わしげに見てきましたが、

「それもそだな」

 簡単に納得してくれる。ちょろい。



「おれんも詳しくは知んねぇけど、ゴブリン族に伝わる話はできる。

 まず、人間の生い立ちについては知ってるが?」

「たしか、余所(よそ)から来た人間と原住民がいるんですよね」

「んだ」

 私の答えにアレンが頷く。

「んで、余所もんが原住民を改造して誕生したのが、今いる亜人族だ」

 ゲームの説明にあったところですね。

「つまり、そういうことだ」

「どういうことですか!」

 説明が飛びすぎですよ。スタートとゴールが短い5メートル走ですか。もう、よーいドンで終わってますよ。

「あー」

 アレンが頭を掻きながら考える。ゴブリンの知能を見直す必要がありそうですね。アレンだけで始めから高く見積もり過ぎたか。

「あれだあれ」

 どれだよ。

「おめぇたち人間が同じ人類と考えてんのはどいつらだ?」

 その手で来ましたか。困ったときの質問返し。

「一般的には人間、あと見たことはないのですがエルフ、ドワーフ、小人族、獣人、竜人族、魔族、神族といったところですか?」

「見たことないのしかいねぇじゃねぇが!」

 それもそうですね。

「だって、私はあの村から一度も出たことが無いですもの」

「あー」

 アレンが頭を掻く。

「それもそだな。あんな田舎の村から一歩も出たこと無けりゃ、そんなもんだな」

「ゴブリンの人もそんなもんでしょ?」

「そだな」

 2人で納得。


「んで、話の続きだが、おめぇが今言った連中が人間から見だ人類だべ? おれんらみたいな人型であっても知性が低い、または見た目が悪いと思ってる奴らのことは『亜人』って呼んでるべ?」

 うーん、どうでしょうか、私は知りませんね。

「まぁ、そんなこともあるかもしれませんね」

「んだ」

 アレンが一呼吸入れる。

「んだけど、おめぇらが呼ぶ亜人も、元は同じ原住民だった奴らだ。なら、人類の一種に入れるのが正解なんじゃねぇかってことだ」

 なるほど。

「理解しました」

「そが」

 私に亜人も人類の一種だと理解されて、アレンが満足そうに頷く。


「それでは改めまして」

 私はこほんと一息入れる。

「プレイヤーとして、冒険者としての第一歩。未踏の大地に降り立ちます。とうっ!」

 私は舟から飛び降りて、両足で陸地に着地。上陸! 両腕を上に上げて決めポーズ。

 砂浜で一休みしていたケッピーとアレンが呆れた目で見てくる。

「冒険者も、おめぇが初めてじゃねぇど」

 あっ、そうですか。

「細かいことを気にしないでください」

 アレンに苦情を入れると、なんだか納得のいかない表情になりました。

 さぁ、とっととアレンの故郷(ふるさと)、オオグロ村に行きましょう。

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