28森林炎上Ⅴ・ハルミ乱舞Ⅱ
突如今まで指示を出していた頭脳を失った男たちは、まともや思考停止して身動き取れなくなる。
ハルミも巨男を倒し、ようやく攻撃の流れを止める。
戦闘不能になって倒れた巨男の姿を見下ろして言う。
「貴方が持ち出した約束通り、先に攻撃させていただきました。次は貴方の番ですがどうしますか?」
ハルミの言葉を聞き、残った男たちと運営は思った。
((先の攻撃が多すぎただろ! てか、そいつもう動けねぇよ!))
「返事がない、ただの屍のようだ」
((ただの屍だよ!))
ハルミは残った5人の男を見まわして尋ねる。
「どうします? 同じように」
巨男の頭部があった部分を指差して、
「同じように……潰されたいですか?」
何をか言わないのが形式美。
((い、いやぁぁぁ))
5人の男は震えだす。
「もしくは」
((もっと酷いのあるのぉぉぉ?))
「自害しますか?」
「「出来ねぇよ!」」
男たちのツッコミを聞き、ハルミは首を左右に振って否定する。
「そこの炎に突っ込めば出来ますよ」
「「……」」
自分たちが原因で起きた森林火災の炎。勢いは止まるどころか増す一方。
そこに自分たちが飛び込む図を想像する。怖い、嫌だ、やりたくない。
ゲームであっても、冒険者であっても、怖いものは怖い。
怯える男たちにハルミが代案を出す。
「そこの大岩に頭を」
「「出来ないから!」」
もう想像もしたくない。この少女はなぜこうも色々と考え付くんだ、と恐ろしくなる。
「……はぁ」
ハルミは男たちの雰囲気にため息をつく。
「あれもダメ、これもダメ、赤子ですか。……赤子に失礼でしたごめんなさい。赤子には駄々をこねるしか感情を表現する手段が無いですものね」
トン。
ハルミは槌を下向きに地面へ降ろし、柄に両手を揃える。
「ならば戦って死になさい。あなた方も冒険者なら、散った仲間たちのように戦って死になさい」
「「……」」
男たちは何も言えない。
((あいつら全然戦ってなかったよね!?))
開いた口が塞がらなかったから。
「へっ、そうだな」
痩せ男がハルミの言葉を聞いて本来の自分を取り戻す。
「俺たちも男だ、正々どぉ」
「黙れ」
ハルミは痩せ男のセリフを止める。
「この惨状を前にして正々堂々などという勇気がまだ残っているんですか? バカなの死ぬの?」
痩せ男轟沈。
「オレ、タタカウ、オマエ、タオス!」
肉弾系筋肉男が初めて口を開いた。
「いいですね、来なさい。先に一撃入れさせてあげますよ」
ハルミは指を揃えて上向きにし、クイクイと自分側に振って挑発する。
「ウォォォォォ!」
彼は大剣を振りかぶり、ハルミに叩きつける。
大剣はハルミの体を通り抜け、ハルミを斬り裂いたと彼は勝利を確信する。
しかし、
「ハルミ・オープン!」
ハルミは生きていた。
彼は信じられないずに呆然と立ち尽くす。
「次は俺の番だ!」
痩せ男が飛び出す。釣られて他の男たちも一斉に動き出してハルミに襲い掛かる。
ハルミは身動き一つせず、ただどっしりと立つ。
男たちの攻撃は全てハルミに当たって通過する。通過しているのだから当たっているはず。
しかしハルミはものともせず、その場に立ちつづける。
男たちはしばらくの間攻撃を続けたが、全くハルミが倒れないのでついに攻撃の手を止める。
「なんだよ、なんなんだよお前」
「こんなの反則だ。チートじゃねぇか」
男たちはハルミがインチキしていると難癖付ける。
しかしハルミは首を左右に振って否定する。
「チートするような奴が、こんな初心者村にいて満足できるのか!?」
ハルミの言に男たちは押し黙る。
確かに反則行為をするような奴は最先端、新しく見つかった新大陸などに行き、「俺つえええええ」とか言いながら暴れて目立つことを望むはず。
なら、目の前にいるこいつはいったいなんなんだ?
「お前、いったいなんなんだよ」
痩せ男がポロリと零す。
ハルミは自信満々に言う。
「悪党に名乗る名など無い!」
「「名前は頭上に書いてるんだよ!」」
ゲームシステム上、名前はキャラクターの頭上に表示されるので名乗る必要はなかった。
「私はただ運のいい女。幸運王になる女だ!」
「「王じゃなくて王女じゃないかな!」」
「女王様と呼んでもいいのよ!?」
ハルミを見守るアレンは思った。
(おめぇら、敵なんが、仲がええんが、どないやねん)
「さぁ、そろそろ終わりにしましょう」
ハルミは槌を構える。
「あぁ、お前が負けて終わりだ」
痩せ男の言葉に、男たちもそれぞれの得物を構える。
「幸運王女、運の貯蔵は十分かぁぁぁ」
痩せ男が叫びながらハルミに切りかかる。
「女王様とお呼びぃぃぃ」
ハルミが痩せ男に言い返し、槌を振りぬく。
槌をぶつけられた男は即死効果を与えられながら遠くに飛ばされていく。
「「うぉぉぉぉぉ」」
他の男たちも一斉に切りかかる。
ハルミももう特定の相手を狙わず、我武者羅に槌を横向きに振りつづける。
乱戦となり、槌による攻撃が散漫な動きとなったことで、即死効果の発動は激減した。
だが、その代わりに色とりどりの特殊効果が発動する。
もちろん狙いを定めずに振っているので、相手に当たらなかったり避けられたりする。
しかし、男たちの攻撃は一度もハルミに通らなかった。
全ての攻撃が視覚的に当たっていても、システム的に『ミス』として判定された。
ハルミの運が男たちよりも格段と高いからか?
いや、それだけではない。
ここでも運営がいじった全クリティカル率上昇がハルミを助けていた。
そう、回避率のクリティカル判定として。
ハルミと男たちの戦いは、アレンから見たらハルミが一方的に不利な状況だった。
6人倒した後でも、残り4人の男たちと同時に1人で戦っているのだから。
しかし、ハルミは男たちの攻撃を受けながらも、全くものともせずに圧倒していく。
アレンの脳裏に浮かぶ。
この少女は本当に人間なのか?
まさか、あのお方と同じ存在なのか?
だが誰もその答えを知らない。
いつしか3人の男が倒れ、そして最後の1人も地に沈む。
「第1幕、完」
舞台にはハルミ1人が残される。
ハルミは復活した男たちが再び戦いを挑んでこないように、男たちの心を折ることを考えながら戦った。
それは功を奏しただろう。この少女と二度とかかわり合いになりたくないと思ったはずだ。
しかし念には念を入れるのがハルミという生き物だった。
「追撃タイム」
倒れた男たちに近づき、それぞれが大事にしていそうなアイテムを回収する。対人戦の報酬回収をきっちり忘れない。
男たちを観察した時に趣味嗜好ももちろん分析していた。趣味嗜好は行動に繋がる要因だからだ。
ここで大事なことは主要武器や高レアリティで高価な品を回収せず、大事にしていそうなアイテムを回収すること。
なぜか? その方が心理的なダメージが大きいから。人間だれしも大切なものは失いたくないよね。
代用の効くものより、精神的に辛いものを。
ハルミの辞書に『容赦する』という言葉はなかった。
◆◆◆◆◆
「……なんじゃこりゃ」
運営はハルミの戦いを見て思考が停止し、開いた口が塞がらない。
「………………おっと」
どれぐらいの時間が過ぎただろうか。
新たな緊急連絡を受けて運営が動き出す。
運営は忙しい。いつまでも1つのことにばかりに構っていられない。
多忙の海を泳ぐ間にハルミのことは記憶の海に沈んで消える。
運営は2つの過ちを犯した。
1つはハルミのあらゆるクリティカル率を最大に上げたこと。
せめて報酬クリティカルのみであれば、これほどの成果にはならなかったかもしれない。
そしてもう1つは、上げた設定を元に戻し忘れたことである。
呆気に取られて思考停止し、回復した直後には他の仕事に気を取られてしまったため、自分がいじった設定のことなどすっかり忘れてしまった。
そう、ハルミは今もあらゆるクリティカル率が最大のまま。
このことが後に、世界に変革を齎すとは神ですらわからない。




