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27森林炎上Ⅴ・ハルミ乱舞Ⅰ

 ハルミは横一列になった男たちを見渡して立ち位置を確認する。

 男たちは人数の差、経験の差、装備の差で圧倒的に有利な立場にある。

 ハルミがゲームの最先端を走る有名プレイヤーなどであれば、男たちは油断しなかっただろう。

 だが、今は油断しきり、戦列も考えずに各々が何も考えず横一列になっているだけだった。

 そんな敵を相手にして、ハルミが戦術を練るために必要な時間は一瞬あれば十分だ。



「さぁ、踊りなさい。無様(ぶざま)にね」

 ハルミは相棒『トリック・オア・トリート』を装備状態にしながら、無造作に歩いて男たちに近づく。

 ゆらり、ゆらりと歩くハルミは、誰に向かっているかわからない。

 しかし、道半ばに来た時にはある程度の予測が立てられた。男たちの中央に立つリーダーに向かっていると。


「へっ、俺が狙いか? トップ(あたま)から潰そうとはなかなか頭が回るじゃねぇか」

「ぷっ」

 リーダーの発言に男の1人が噴き出す。

 リーダーはその男をひと(にら)みし、男は慌てて取り(つくろ)う。


 男たちのやり取りなど気にもせず、ハルミは一歩一歩確実に進む。

 そしてリーダーまであと1歩で攻撃が届くあたりで立ち止まり、リーダーを直視する。

 その目にはなんの感情もない。なにも感じない。なにもない。

 リーダーはハルミを見ても何も気づかない。それどころか完全にバカにしていた。

「はっ、来いよ。先に攻撃させてやるよ。お前みたいな雑魚(ざこ)の攻撃なんて怖くもない」

 ハルミはなんの反応もせず、ただリーダーを見つめる。

「ほらっ、どうした? 怖くなって動けなくなったのか?

 あれだけ啖呵(たんか)を切っておいて怖くなっちまったのかよ?

 いいんだぜ、怖いならやめても。

 土下座して謝るなら許してやる。

 ごめんなさい、許してくださいってな。ひぃひぃ良いながら謝れよ。

 ただし、逃げ出そうとしたら許さねぇ。

 いつでもどこでも追いかけて、追い詰めて、殺してよ、

 一生この村から出れなくしてやるよ」


 ハルミが一切反応を見せないため、リーダーは次第にヒートアップしていく。

 周囲の男たちはリーダーが相手をしているため下手(へた)に動けない。リーダーの指示なく勝手に動くわけにいかないからだ。


 ついにハルミが動く。

 右足を後ろに引いて腰をひねり、手に持った(つち)を後ろに引き絞る。

 狙われたリーダーは衝撃に備えて身構える。

 もちろん、賢いハルミが身構えた相手を馬鹿正直に攻撃するわけない。

 ハルミの攻撃パターンの基本は無駄のない動きで一直線。サクラのお腹にどストレート。

 槌での攻撃は振り降ろし。その方が威力が高そうだから。

 なら、槌を横に引いた時は?

 狙った相手は真正面に(あら)ず。

 槌を横向きに振った時に、攻撃が真っ先に当たるのはハルミの正面に立つ相手ではない。その右横に立つ人物。そう、

(魔術師が前面に立つとかアホですね)

 魔術師の1人だった。


 ハルミは今までわざと小さく歩いていた。それが、突然リーダーの右横に立つ魔術師の男に向って大きく一歩踏み出して、足、腰、腕のひねりで蓄えた遠心力を最大に引き出し、引き絞った槌を一気に振り抜く。

 魔術師の男は、いや、この場にいる誰一人反応できなかった。

 ハルミの今までの可笑しな言動のすべてがこの一撃に集約され、完全な不意打ちとなる。

 そして、ハルミの攻撃は『トリック・オア・トリート』の特殊効果が発動し、魔術師の男に即死の効果を与えた。

 何もできずに魔術師の男は戦場に散った。

 いや、魔術師は森に火を付けてハルミに本気を出させたため、最初の犠牲者になったのだ。



 ハルミの攻撃に反応できなかった男たちだが、攻撃を受けた魔術師の生存を疑わない。

 いくら魔術師の防御力が低いとはいえ、相手は初心者、不意打ちを一発貰ってもお釣りがくる。そう信じていた。

 だが、魔術師の男に動きがない。

 おかしいぞ? と思い彼の様子を確認する。

 その時にはもう、ハルミが次の獲物に向かっていた。

 そう、魔術師の横にいたもう1人の魔術師に。

 彼は横にいた魔術師の様子を確認しようとしてハルミから視線を反らしたので、ハルミの攻撃に気づくことはなかった。

 またしてもハルミの槌が即死を与える。彼はいつ、なぜ死んだのか理解できない。なぜなら死んだから。

 さすがに男たちもハルミの攻撃に異常を感じたが、ハルミが男たちの動きを待つ意味はない。

 迷いなく更なる獲物に襲い掛かる。


(あと1人、確実に仕留める)


 ハルミは少し離れた場所に立つ回復役の男に向かう。

 男たちが止めようとするが、離れた位置に立つものほど状況に追いつけずに反応が遅れる。

 標的が離れた位置にいたことが功を奏し、ハルミの攻撃は止められることなく回復役の男に振り降ろされる。

 特殊効果マヒ。彼は体が(しび)れて動けなくなった。

 ハルミは気にせずもう一発。即死。回復役の男も地に沈む。


(あとは謎の小男を仕留められれば及第点)


 ハルミは回復役の男の隣にいた小男に視線を向ける。

 小男は見た目通り心臓も小さいのか、驚愕(きょうがく)して身動きひとつとれずにいた。

 彼はハルミの視線に気づき、

「うわぁぁぁ」

 叫びながら手に持ったダガーを振り上げる。

 ハルミは彼の動きを注視し、手が振り下ろされる瞬間を見切り、ダガーを握ったその手を狙って槌を振り上げる。

 バキッ!

 カウンター攻撃による不意打ち(クリティカル)効果、部位破損。

 完璧なタイミングでのみ発動するカウンター。

 錯乱した小男の動きなど、迷路で数多(あまた)猛者(もさ)を見てきたハルミにとって造作もない。

 部位破損により小男の右手は破損(けが)したとして使用不能に。さらに、怪我をして激痛を受けているとカウントされ、スタンの効果も付与される。

 動かぬ標的は格好の餌食(えじき)となり、数発目の攻撃で即死効果が発動して地面に倒れる。



 瞬時に10人中4人を倒された男たちは余裕を失い、思考停止してその場に固まる。

「おめぇら何してやがる、とっととこいつを殺せ!」

 唯一現実を直視出来たリーダーが男たちに発破(はっぱ)をかける。

 リーダーの指示を受けて男たちは動き出すが、冷静さを失っている心理状況では連携も取れず、ただ我武者羅(がむしゃら)に動いてハルミに襲いかかる。

 ハルミは6人の男たちによる無茶苦茶(むちゃくちゃ)な攻撃に恐怖を感じて腰を抜かす……訳がない。

 冷静に男たちの攻撃を避けながら次のターゲット、リーダーの巨男に槌を振り降ろす。

 ドスン!

 男たちの攻撃を避けながらの無理な体勢から放った一撃は、巨男の体に届かず手前の地面を叩く。

 ハルミが攻撃を外したことに、巨男の口角がニヤリと上がる。

 だが、そこはただの地面ではなかった。


 戦いが行われているこの場所は、ハルミが建築した迷路のすぐ近く。そう、ハルミのテリトリー範囲内だ。

 あらゆる可能性を考慮して動く慎重なハルミが考えなかっただろうか?

 迷路の挑戦者を迎え撃つために、迷路の入口に近づいた時に森の外で待ち伏せされて襲われる可能性、迷路に入った瞬間に中と外から挟まれて不意打ちされる可能性を。

 もちろん考えて対処している。

 前者は周囲に様々な罠を仕掛けて、撃退もしくは逃亡の補助として。

 後者は忍者屋敷で見られる様々な隠し扉や隠し通路を利用して。

 つまりハルミが叩いた場所は……。


 ドンッ!

 ハルミが叩いたスイッチに反応して、木々の奥から何かの音が聞こえた。

 男たちは突然大きな音が聞こえて立ち止まる。

 大きな塊がどこからともなく上空を飛んできて、ハルミの、いや、叩いたスイッチの上を目指す。

 そして、人の手の高さまで落ちてきたところで、

 バンッ!

 ハルミが槌を振るい、大きな塊にぶつける。

 大きな塊は衝撃で散らばり、大量の木の葉が男たちに振りかかって男たちの視界を閉ざす。

 男たちは驚愕したがダメージを受けていない。

 ハルミは何がしたかったのか。

 男たちの視界を封じたかったのだ。


 男たちの視界を閉ざした木の葉乱舞を突き抜けてハルミが飛び出す。

 その手の槌は既に攻撃準備が整っている。

 狙いはただ1人。罠を発動させる直前から一歩も動いていない巨男。

 ただの葉っぱではハルミの動きは止められない。いや、物理的な点で言えば誰の動きも止められない。

 ハルミの攻撃は一寸の狂いもなく巨男の頭に振り下ろされる。

 ぐしゃり。

 今まで聞いたことのない打撃音が周囲に響き渡る。


 ハルミの攻撃が巨男に当たると同時にゲームシステムが判断を下した。

 ―クリティカルヒット判定―

 不意打ちによる追加ダメージ……認定。

 弱点『頭部』直撃による追加ダメージ……認定。

 弱点『頭部』破壊判定……認定。

 弱点『頭部』破壊による判断……即死ないし重症……認定。

 弱点『頭部』直撃また破壊による判定……スタン……認定。

 『トリック・オア・トリート』による特殊効果発動……認定。

 特殊効果の内容……上記状況を考慮して、即死以外の効果の有用性を認められない。

 以上の結果、弱点『頭部』破壊による即死と判断する。


 機械であるゲームシステムの厳密な計算であっても、文句のつけようのない結果だった。

 システムログの閲覧権限を持つ運営()はポツリと(こぼ)す。

「……えげつねぇ」

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