表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/53

25森林炎上Ⅲ・ハルミ覚醒

 燃える森の中、少女の哄笑(こうしょう)が響き渡る。

 取り返しのつかない状況に、その場の男たちは何もできず、呆然と立ち(すく)んでいた。



 哄笑する少女ハルミは1人だけ冷静に状況を見ていた。

 自分が導き出した最適解。それを実行するためには正確な情報が必要だから。


 男たちの数は10人。

 サクラに聞いた話ではパーティは基本6人単位。つまりこいつらは1パーティ以上2パーティ未満。これがグループ全員とは限らない。今日はこれだけで他にもいるとすれば編成パターンに偏りがみられるケースもある。

 配置は先頭が()せた男、推定職業レンジャー系、脅威度低。

 痩せ男の右横やや後ろに巨男、推定リーダー重鎧装備物理系、脅威度中。

 巨男の横痩せ()の後ろ、魔術師2、炎、脅威度高、高。優先目標。

 中段に筋肉4、推定物理系、軽装2攻撃、中装1防御、重装1壁役、脅威度低、低、低、低。 

 後方に杖男1、回復役? 脅威度高。

 杖男横に小男1、軽装、速度系? 職業不明、脅威度中。


 ハルミは哄笑を続けながらも、ぬかりなく男たちの情報を集め、分析してランク付けを行った。


 戦闘パターン予測。

 筋肉壁2枚、巨男が指示と前線カバー役。

 筋肉2人と自慢げな痩せ男でアタッカー3枚。

 魔法攻撃2枚、回復1枚、小男役不明1枚。

 戦術としては回復とサポーター不足。候補小男もしくは不在者か。


 分析した個人情報を元にして、さらに戦闘パターンを導き出していく。

 そこから自分が取るべき最適な動きを導き出すために。


 まず魔法攻撃2枚を問答無用で倒す、次に回復役を削る。

 指示役の巨男を倒せば敵の動きを制限できるが、魔法の対処手段がない今、優先目標は魔法職とすべき。

 あとは巨男を倒せば痩せ男以外は付き合いで来ただけの烏合(うごう)の衆、ほぼ脅威なし。

 つまり、いかにして魔法と回復を抜くかが問題……よし。


 思考と結論はわずか一瞬。

 なぜなら、あくまでハルミの最優先目標は消火作業だからだ。

 その前に立ちふさがる障害の排除に時間を取られるわけにいかない。

 目の前の男たちに比べれば、森林火災とはなんと脅威的な存在だろうか。



 さぁ、劇場の開幕だ。

 主演ハルミ、共演なし、舞台は森林。

 観客はアレン1人。

 終演予定は男たちの全滅。



「あはは、あはは、あは、はは、は。………………」

 ハルミは哄笑を突然止めた。

 火の燃える音だけが周囲に響く。

 ハルミが一歩男たちに踏み出す。

 男たちは一歩引く。

 そして、

 なぜかハルミは1人でマイム・マイムを踊りだす。

 アレンと男たちは呆気に取られてそれを見る。


 くるくるり、くるくるり……。


 ハルミは男たちに背を向けている間にアレンに指示を出す。

 もちろん男たちに気づかれないように。


「SP下さい」

「私を(おとり)に」

「次の踊りで」

「奥に逃げて」

「男たちの死角」


 アレンとは通常のクエスト受領をしていない。そのため、どのような形でSPと薬草が受け渡しされるのかはわからない。

 それでも一縷(いちる)の望みに賭ける。

 私は賭けに弱い。純粋に勝ったことなど一度もない。だけど今回の賭けのディーラー()は私で、賭ける側(ゲスト)はこの場にいる総てのモノたち。私が負けても取り分は森林にも分配される。

 つまり、これこそWIN(ウィン)WIN(ウィン)の関係。


 アレンが私の意図をはっきりと汲み取れたかどうかも知らない。けれど、アレンは(しぶ)りながらもわずかに頷いた。通じたと想定。


 ハルミは顔を(うつむ)けたまま男たちの方を向いて立ち止まる。

 男たちは何が起こるか分からない。

 ハルミは何かに取り憑かれたように、ゆらりゆらりと体を左右に()する。

 そして()()ぐ停止。

 カッ!

 突然両目を大きく開いて男たちを見るハルミ。

 ビクリとする男たち。

 (てのひら)を空に向けて両手を上に~、顔も一緒に前方上方に~、腕が伸びきる前にストップ。次の動作のために関節に余裕を残す。

 空から見えない何かを受け入れるかのように手と顔を動かす。

 男たちも釣られて上を見る。すかさずアレンが腰を落としてジリジリと動き始める。よし。

 はい来ます、来ましたよー、神様仏様誰でもいい、カモン!

 はい、ここで何かに取り憑かれたように一瞬ビクンと体を強張(こわば)らせる。

 男たちも一緒にビクン。


 ダン! ダン!


 突然の音に男たちがまたビクリ。

 男たちがそろりと音源に視線を向けると、ハルミの左右にいつの間にか大岩が現れている。

 もちろんこれらの大岩はハルミがアイテムストレージから取り出したアイテム。大岩って体積の割にレア度が低くてストレージにたくさん収納できるので便利。

 アイテムストレージはアイテムのレア度や個別に設定された重量によって収納できる容量が決まるので、大岩というどこにでも落ちているアイテムは、ハルミの低い能力値であっても実質いくらでも収納し放題だった。もちろん筋力値が足りないので手では持てない。


 突然男たちとの間に大岩が出現したアレンは、ちょっと吃驚(びっくり)してしまった。しかし、すかさず岩の陰に隠れる。ハルミがサポートしてくれたのかもしれない。



 ダン! ダン!


 また大きな音。今度はなんだ? 男たちが確認すると、ハルミが地面に足を踏みおろす音だった。

 ハルミは何度か足踏みを繰り返し、両手を左右に伸ばす。

 そして……日舞(にちぶ)のような動きを始める。


 くるり、ピタ。くるり、ピタ。くるり、ピタ。


 静と動をはっきり区別するのがポイント。


 くるり、ピタ。くるり、ピタ。くるり、ピタ。



 男たちがハルミの動きにくぎ付けになる。

 いったいこいつはどうしちまったんだ?

 本当に狂ってしまったのか。いや、神に取り憑かれた?

 俺たちは何を見ている? もしかして(すご)い場面に遭遇(そうぐう)しているのか?


 男たちは良くも悪くもゲームプレイヤーだった。

 非日常を求め、日常から逃げ、今を楽しむ。

 ここに来た目的も忘れて、ただただハルミの動作に見入る。

 この森に火を放った時には、男たちは主導権を握った主演であった。

 しかし、もはや男たちは舞台の主演ではなく、ただの観客でしかない。



 アレンはハルミの動作に目を奪われず、男たちの視線や動作に注意して動く。

 じりじり、じりじり。

 無事、男たちに気づかれることなく離れた木の(かげ)に隠れる。

「えれぇ場面に遭遇しちまったもんだ」

 彼は一言こぼし、ハルミの様子を(うかが)う。

 ハルミはまだ、知らぬ者から見たら一心不乱……いや、神懸かった雰囲気で踊り続けている。

「ハルミががんばってる間に、とっとと終わらせちまわねぇとな」

 彼は()みを帯びた紙と鉛筆を(ふところ)から取り出す。

「おめぇは自然を大切にする心を持ち、約束を破らねぇ女子(おなご)だべ。先払いしたところで、神様も怒るめぇ」

 彼は紙に文章を書きなぐる。


『クエスト依頼書 

 依頼人 オオグロ村のアレン

 依頼内容 アレンに踊りを見せる

 依頼報酬 SP2000

 受託者 ―(未記入)』


「ほらよ、ハルミ」

 もちろん小声。ハルミにすら聞こえない声で。

 しかし、ハルミの目には神の啓示(けいじ)のごとくクエストメニューが見えているだろう。

 ハルミの指がかすかに動き、こちらに向って口角を「ニヤリ」と少しだけ動かす。

 そして、アレンの持つ依頼書の受託者欄に「ハルミ」の名前が浮かびあがる。

「よし、受け取れハルミ」

 アレンは地面に掌を押しつけると泥を塗りつけてインクの代用とし、泥のついた掌をハンコ代わりにして依頼書に押しつける。

 すると、アレンの耳にどこからか声が聞こえる。

『クエスト達成の確認が取れました』

 あとはもう、アレンにできることはない。ハルミの準備が整ったら、木の蔭から飛び出して共に戦うだけだ。

「よしハルミ、おめぇにおれんの(たま)預けっからな」



◆◆◆◆◆



(アレン、やってくれたな)

 先ほどアレンからクエスト依頼が届き、内容が薬草採集ではなかったので少しだけ驚いた。

(しかし、踊りを見せろとは、ゴブリンは踊りが好きなんですかね)

 受領はしたので、ひとまずアレンが完了処理するのを待ち……んんん?

 空から光が……なんでしょうか。


『クエストを達成しました』


 いや、村のクエストを何度も達成しているので知っていますが、何これ?


 光は(おさ)まることなくハルミに降り注ぐ。

(私の踊りが本当に奉納扱いされて、運営()が粋な計らいでもしましたかね)

 男たちも身動きとれずに呆然としている。

(これを利用しますか)

 ハルミは踊りを()めて、つま先立ちで体を()らしビクン!

 神が()りた衝撃(しょうげき)に耐えられず、ふらぁっと倒れる。受け身を取れば不自然に思われるので、力が抜けて倒れたように見せる。

 男たちに背を向けて横向きに倒れるのがポイント。男たちにばれないようにメニュー画面を開いて操作。

(うんん? 依頼報酬より多いですね。SP2000だったはずなのに、SPが3000も増えています。まぁ、どうでもいいですか)

 思考を続けながらも作業を進める。

(LUC極み振り一択(いったく)

 SPをLUC()に全振り、シュート!



◆◆◆◆◆



 ここで解説役のサクラの出番だよ!

 クエストを達成した時に依頼者が大満足の結果内容だと、ごく(まれ)にクリティカルが発生して報酬が1.5倍になったり、追加の報酬を支給されることがあるんだ。

 モンスターを何体以上倒せってクエストで、指定数量を大幅に越えて倒した時なんかに発生しやすいね。


 今回の事例でいえば、

 アレンがクエストを発注する時に神に語りかけたこと。

 アレンがハルミの心意気と実績に基づきハルミを信頼しきっていたこと。

 アレンは自分の仕事に集中していたので自分の心に気づいていないけど、ハルミの踊りに心を奪われていたこと。

 依頼報酬のSPの量が一般的なクエスト報酬の量よりも異常に多かったことで、運営()に緊急連絡が行き、運営()の目にとまったこと。

 そして、逃げずにハルミと共に戦うと決めたアレンの覚悟。2人対10人という絶望的な闘いなのに!

 これらのことが運営()に評価された。


「おもしろい。これだから人間は侮れんのだ。見せて貰おうか、この悲劇の結末を。

 ……まぁ、少しぐらいなら手助けしてやってもいいだろう」

 そう言って、運営()はハルミのあらゆるクリティカル率を最大に引き上げた。


 さすがに運営()もこの戦いでハルミたちが勝つとは考えていなかったはず。

 ハルミを知らないって(うらや)ましいよね。

 ハルミはいつも運が無い、同類(なかま)もいない劣勢の中で戦って、いつも勝ち続けてきたんだから、そこに運と運営()の力が加わったらもう誰にも手がつけられないよね。



 運営()の助力はまず、クエスト報酬クリティカルを起こして報酬内容を1.5倍にした。

 そして、大量のSPを一時(いっとき)に使用した時にごく(まれ)に発生するステータスアップクリティカルを発動させた。

 本来のステータスアップはステータスが上がれば上がるほどSP1でステータスが1上がるのではなく、SPがいくつかで1上がるようになるの。

 ところが、ステータスアップクリティカルが発動すると、SPを振った分と同等の量のステータスが上昇する。

 つまり、一度に全振りして上げたハルミのLUCの現状は……。


(あら、予想以上に上がりましたね)

 現在のハルミのLUC 3035


 ステータス項目の内1つでも100を超えたらベテランプレイヤー。

 300を超えたら(はい)プレイヤーと名乗れるレベル。

 なら、4桁を超えたら? そんな人は普通存在し()ない、あり得ない存在だ。もし存在すればゲームバランスが崩壊してしまう。

 だが、ここに生まれた。生まれてしまった。


 そして忘れてはいけない、「運営()はハルミのあらゆるクリティカル率を最大に上げた」ということを。


 ハルミの愛用武器は『トリック・オア・トリート』。

 十中八九与ダメージ1。

 されど超低確率でぶっ壊れた特殊効果が発動する。

 ここで問題になるのが「あらゆるクリティカル率」。

 『トリック・オア・トリート』におけるクリティカルとは単なるクリティカルダメージに(あら)ず。

 『トリック・オア・トリート』におけるクリティカルとは超低確率で発動する能力を差す。

 また、ハルミの現在のLUC数による補正でさらにクリティカル率がアップする。

 つまり、今のハルミが使う『トリック・オア・トリート』は、特殊能力が超高確率で発動するけれど、超低確率で与ダメージが1になる、ぶっ壊れた装備となってしまった。なってしまったんだよ!


 運営()は神であっても万能ではない。暇でもない。

 ただ緊急連絡が届き、その内容に興味を持ち、軽い気持ちで設定をいじっただけであり、ハルミのパラメータ(情報)を見ていない。

 だから『トリック・オア・トリート』を持っていることを知らない。

 だから『トリック・オア・トリート』の存在が見逃されてしまった。


 こうしてハルミと『トリック・オア・トリート』のコンビは、この世に存在し()ない最怖(さいきょう)の存在として覚醒した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ