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23森林炎上Ⅰ・夜の浜辺

 アレンとの約束の日。

 夕方にログインして時間に余裕があったので、草むらを散策しながら薬草を探す。

 最近では顔見知りも増えたようで、道端を歩いていると声をかけてくれる人が多い。


「ハルミちゃんこんにちは、今日も精が出るわね。薬草持って帰る?」

「こんにちはお姉さん。ありがたく頂きます」

「やだ、お姉さんだなんて。薬草サービスしちゃう」


「おう、ハルミちゃん。今日もいい薬草入ってるぞ」

「そう? じゃあひとつ貰って行こうかな」

「おう、いっぱい食って、もっと大きくなれよ」

「やだ、おじさんったら」

「「あははははは」」


「ハルミじゃねぇか、ちょっとこっちに座って一本吸ってけや」

 ヤンキー座りしたお姉さんがチュチュジの花を差し出してくれる。

「ありがとう。……うぅん、おいしい」

 チュチュジの花は茎から液が出て、これを飲むとしばらくの間筋力値(バイタリティ)が上昇します。

「だろ? やっぱハルミはわかってんな」

「お姉さんこそ」

 お姉さんと見つめ合い、

「「がははははは」」

 大口を開けて笑い合う。



 なぜかこの村にいるプレイヤーたちは、ハルミが日ごろ通う商店街の住人たちと同じ波長を持った人が多かった。



◆◆◆◆◆



 夜になり、晩御飯も食べて準備万端。

 いざ、打ち上げ浜へ。

 命名ハルミ。理由は多くのプレイヤーが打ち上げられる浜だから。

 年間の水揚げ量は(まぐろ)を超えているんじゃないですか。



 夜の浜には人影がない。いえ、この浜はいつ来ても閑散としています。

 みんな最初に打ち上げられた思い出しかないので、近づきたくないのでしょうか。

「良いデートスポットだと思うんですけどね」

 サクラがいたらツッコむだろう。

「現実でデートするわ!」

 いや、ゲーム好きのサクラなら違うツッコミをしますね。

「もっと良い場所知ってるよ。今度連れて行ってあげるね」

 お願いします。


 時間まで暇ですね。踊ってますか。

 なぜか1人でくるくるとオクラホマミキサーを踊りだすのであった。



「おめぇ、なにしてんだ?」

 ん? 既視感?

「ほっといてくださいよ」

 いや、実際にありました。

「いや、おれんはおめぇに用があるんだけんど」

 踊りを止めて声をした方を見ると、ゴブリンが1人立っていました。

「おや、早いですね」

「そうか?」

 ゴブリンは首を傾げる。

 私は時計を見る。うん、18分前。

「ええ、まだ18分も前です」

 ゴブリンは呆れた表情になる。

「おめぇ、(こま)けぇやつだなぁ」

 そうでしょうね。

「体の肉付きを見たらわかるでしょ」

 私はモデルの立ちポーズを決める。腰の(ひね)りがポイント。

 ゴブリンは浜辺に立つ女性の体を上から下までじっくりと眺め……あかん、これあかん表現や。

 こほん。ゴブリンは私の体を上から下まで見て笑います。……笑うなや!

「がははははは、たしかに細いな、がははははは」

 自分から振っていてなんですが、少しだけ傷つきました。



「アレン・アイバーソンさん、こんばんは。元気そうでなによりですね」

「おぅ、おめぇほどじゃねぇけどな」

 別に私も元気というわけではないですけどね。

「ところでよ、そのアレン・アイバーソンって誰かと勘違いしてねぇが?」

 アレンが疑わしい目で見てくる。

「失礼ですね。有名な伝説のバスケットプレイヤーですよ」

「やっぱ違うじゃねぇが! バスケットてのはしらねぇが、明らかに別人でねぇが」

 そういえばそうでしたね。

「おれんはゴブリン族オオグロ村のアレンだっで名乗っただろうが」

 アレンが呆れた表情になる。

 ここで爆弾を投げ入れてみる。


「ゴブリンは家名を大事にするんですか?」

「んだ」

 不発弾。爆発したら困ります。

「ゴブリン族はいくつもの村落に分かれてで、それぞれ歴史があんだ。だからみんな自分の村名を家名として名乗って大事にしてんだ」

 ほほう、意外なゴブリン事情。

「人間かてそうじゃねが?」

 うぅん、そうですねぇ……。

 夫姓、夫婦別姓、ファミリーネーム、イワン・イワノフ・イワノヴィッチはイワンの息子のイワンの息子のイワン。でも、戦国時代の大名はころころ変えていて、平氏を名乗っていたはずなのに源氏に変えて……。


「大事な人もいれば、そうでもない人もいますね」

「そぉか、人間は変わってんだな」

「私もそう思います」

 四月朔日実春、相野桜花……相野桜花に清き一票を。



「んで、本来の目的を忘れてねぇが?」

 本来の目的ですか……。

「夜の浜辺で投げ釣り?」

 アレンが呆れた目で見てくる。

 アレンを見たらおかしいですね、手ぶらじゃないですか。

「アレンは釣り具の用意をしてないのですか?」

「してるわけねぇべ。釣りと違う用事だべ」

 もぉ、わかってるなら早く言ってくださいよ。

「なんでしたっけ?」

 とっととー聞きます、ハル太郎。

「クエストだべ、薬草集めの」

「あぁ」

 ぽん。両(てのひら)を軽く合わせる。

「そんなこともありましたね」

「忘れとったんが!」

 やだなぁ。

「わざとですよ」

 アレンがため息をつく。

「おめぇ、元気ねぇ方がまともだな」

 私もそう思います。



「それで、約束の薬草は持って来てくれましたか?」

「薬草を持ってぐんのはおめぇだべ!」

 そうでした。

「娘の身代金は持ってきただろうな?」

「おれんはまだ独身だべ!」

「え? 何歳?」

「15だべ」

「やだー、(おな)いじゃーん」

「そっだがー、おめぇも15だっだがー、奇遇だなー……って、どうでもいいべ!」

 ナイス、ノリツッコミ。

「アレンっちとなら世界を取れる」

「違う世界を目指したいべ」

 パラレル、パラレル、世界よ変われ♪



「薬草ならちゃんと用意しましたよ」

「そぉが、どんぐらい用意できた?」

「30758枚です」

「……は?」

「30758枚です」

「まじが?」

「まじです、おおまじです、飴ちゃん食べる?」

 アレンは()いた口が閉じない。

「期限がひと月あればもっと集められたかもしれませんが、まぁ1週間ならこんなところでしょう」

 ちなみに、2万枚以上薬草マイスターが集めたものです。本当にあの人凄すぎる。でも本人には言わない。

「がははははは、これが人間の本気が。たまげたべ」

 いいえ違います。

「人間と一緒にされたくありませんね。これはあくまで私の力です」

 薬草マイスターは私が育てたから、彼の力は私の力といっても華厳(けごん)の滝ではない。

「おめぇいってぇ何者だべ」

「ただのハルミさ」

 私とアレンは見つめ合い、

「「がははははは」」

 体を反らして笑い合う。


「んだげど、申し訳ねぇなぁ」

 笑い終わるとアレンが肩を落とす。

「どうしました?」

「報酬たんまり用意したべ? でも、そんだげの数に見合った量には足んねぇべ」

 おやおや。

「別に、ある分だけでもいいんですよ?」

 私は報酬目的というよりも、アレンと意気投合したからこそ集めただけで、アレンを驚かせれた時点で目的は達成されたようなものです。

 しかし、アレンは首を左右に振って否定する。

「そんなことしたら、おれんの、いやオオグロ村の、いいやゴブリン族の(つら)ぁ汚すことになる」

 シモン、受け取れぇい!

「私とアレンの仲じゃないですか。貸しにしときますよ」

 100倍返しだ!

「友達と貸し借りすんのは駄目なことだ」

 おぉう、ゴブリン族にもそんな掟が存在しましたか。

「そだ!」

 アレンが何か思いついたようだ。

「おめぇ、おらん村に()んが?」

 おらさ村さ来い?

「結婚なら死んでも嫌です」

 アレンががくっとこける。

「ちがうべ、足りない分取りに来んがって言ってんだ」

 なるほど。

「面白そうですね」

「別に面白いもんは()ぇがな」

 魅力激減。

「まぁ、なにかの経験にはなるでしょう」

「そだな」

 そだべ。

「じゃあ、早速行きますか」

 私は浜を北に向かって歩き出す。

「そっちじゃねぇべ」

 違った。

「おれんについで来い」

 仕方ないですねー。

「だが断る!」

「嫌なんがい!」

 いやだなー。

「ただのお約束の返事ですよ」

 アレンが「はぁ」とため息をつく。

「おれん、おめぇと知り合ったのちょっと後悔しでるべ」

「私はとても楽しんでます」

「だろな」

 アレンと私は共に歩きだし、


 ……カラン…………カランカラン………………カランカランカランカラン


 ギョロリ。

 はた目から見ると、私は今、珍しく変わった表情をしているでしょう。

 それがどんな顔かはわかりません。鏡で見たことがあるわけではないですから。

 それでも経験上、こんな時の私の顔を見た人は恐ろしげな眼で見てくるのです。


「どしだ? なんがあったが?」

 急に立ち止まった私に気づいて、アレンが心配そうに聞いてくる。よかった、見られなかったようです。

「すみません、少し用事ができました」

 先ほどの鳴子(なるこ)は村にいる時に、森で異常があれば分かるように設置したものです。

 まぁ、用事もすぐに終わるだろうと森の方向を見ると、

「…………」

 森から煙が立ち上っている、森の上空も不気味に明るい、火事? 不審火? 早く消さなきゃ。

「すみません、ちょっとどころじゃない用事ができました」

 私はアイテムストレージから木桶を取り出し、中に海水を汲む。

「いったいどうし……なんだありゃ」

 アレンも事態に気づいたようです。

「おめぇ、まさがあそこに行く気じゃねぇだろな?」

 まさか。

「私が行かなくて誰が行くと言うのですか」

 あの森にはこの1週間お世話になったのです、今恩を返さなければいつ返すというのでしょうか。

 アレンは決意を固めた表情になり、私の手から木桶を取り上げる。

「邪魔するんですか?」

 アレンは首を左右に振る。

「おれんも行く」

 そうですか。なら木桶をもう1つ用意して。

「わかりました、急ぎましょう」

 私とアレンは(うなづ)きあい、森に向かって駆け出した。

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