22魔王サクの活動記録
罠が完成してから数日の作業で、予想以上の成果を得られて大量の薬草が手に入った。
自力で見つけた薬草の数はLUCが上がるにつれて徐々に向上しましたが、集めた総数から考えると微々たるもの。
しかし、協力者を作っての薬草集めは大成功でした。日本人はいい人が多くてよかった。将来安泰、周泰変態。いや、別に周泰さんは変態じゃないですけど。
大漁じゃー、大量、大量、大量祭りじゃー。
大量のアイテムをアイテムストレージで管理するのが面倒くさくなったので、森の中に秘密基地を作って金庫を設置しました。鉄は持っていないので木製ですけどね!
木製の箱でも作り方によっては開かずの金庫になるのです。どやぁ。
まず秘密基地は見つからないと思いますけどね。なんせ必死の落とし穴、つまり地獄の先に入口の横穴を作っているので、生きてその場所を拝むことは出来ないでしょう。
そういえば先日出会った薬草マイスターはすごい人でした。
普通の人の薬草発見平均数は10か所中3つか4つといったところですが、6つ以上見つけていましたからね。まさにマイスター!
拾ったアイテムと交換で今後の契約もできましたし、いいカモです。カモが薬草を背負ってきます。
そろそろ休憩を終えて日課の薬草採集と罠確認に回りましょう。
◆◆◆◆◆
カラカラカラカラカラ~。
ぴくり。
この音は……鳴子! パターン草兎! 幟を上げよ、出陣じゃー。
やって来ました某所。企業秘密で場所は教えられませんのでモザイクをかけてお送りします。
数日前、偶然草兎を発見できたので、しばらく観察した末にある習性を見つけました。
草兎はとある赤い実を主食としており、その実ができる場所を巡って現れるのです。
赤い実の名前はツボキの実。ツボキは森の中にところどころ生えており、その内の一本にだけ蕾ができて熟れると自然に落ちます。そこにすかさず草兎が飛びついて食べる。
つまり、
「蕾の下に落とし穴を作っておけば、草兎ゲットだぜ!」
ちなみに、実が落ちて次の実が落ちるまでの時間は約1時間。なので、1時間に1匹草兎を手に入れられるわけです。
さぁお待ちかね兎ちゃん。待たせちゃってごめんねー。
落とし穴の中を覗く。
いたいた、いましたよ。
今回の落とし穴は生存捕獲用。傷一つ……つくこともありますが、倒すまでには至りません。
さて、どうしましょうか。今は迷路御宝用草兎は箱の中で出番待ちしている。次も生きたまま捕獲できるとは限りませんしねぇ。
「まぁいっか。やっちゃうか」
槌を振り上げて……いや待てよ。
「トランスポーター、ビーストテイム!」
昔映画でありましたね。育てた動物を依頼人に運ぶやつ。あれを実現できるか……。
雌雄コンプで捕まえて、子供を産ませて育成、そして完全な生産体制を整えて今より確実な供給元を……。
うん、悪くないですね。
「君は命拾いしたね。全く運のいいやつだよ、うらやましい。……やっぱ、やっちゃうか」
言葉は通じないはずなのに、草兎が震えだす。
「良い子を産むんだな。その間の生存と餌は保障してやろう」
なんとなく草兎がこくこくと頷いた気がします。
「さぁ、草兎用の牧場を作りましょう」
◆◆◆◆◆
カランカランカラン。
ぴくり。
この音は……鳴子! パターン迷路! 幟を上げよ、出陣じゃー。
やって来ました迷路入口。
箱の中身はどうでしょう……薬草3個。……ちっ、時化てやがる。
今回の挑戦者は期待できませんね。やる気でないわー。まじ無いわー。
しかし、入園者をおもてなしするのがサクランドに勤める者の責任。
さぁ、盛り上げてあげましょう。
迷路最深部。
ターゲット人間・男。装備的に物理職濃厚。箱を開けて草兎発見、一瞬思考停止、初心者濃厚。しばらくして攻撃開始、得物は剣、物理確定。
草兎を倒すまで待機。倒して振り向いた瞬間。
「よく来たな勇者よ。我は魔王サク。よくも我が忠実な僕を倒したな。この恨み、晴らしてください」
槌を振り上げて不意打ち。
ぽすっ。
ダメージ1。
相手はまだ硬直、追撃。
ぽすっ。
ダメージ1。
相手復活。
「お前なんだ!」
「なんだと言われて」
答えるやつがいるものか。サクラ不在。
「銀河を」
「おらぁぁぁ」
セリフの途中で攻撃して来た。ゆるさない。
バックステップで攻撃を回避。
「駆ける彗星」
そのまま背中を向けて逃走。
後ろから……カンッ、と音がする。
よし、地面に設置した偽装石型音発生装置を敵が踏んだ。振りかえらなくても敵が付いてきていることが分かる便利アイテム。
この時に付かず離れずの距離を保つのがポイント。離れすぎたら相手が迷子になる可能性が高いので、短時間で終わらせるためには追わせ続ける必要がある。もちろん入口は封鎖済みで相手に逃げ場はない。
私は女性で軽装、相手は男性で重装。性別でスタミナやスピードに差はないが、キャラ能力と装備の重量差は考慮する必要がある。
そして行き止まりにご案内。
「へへ、追い詰めたぜ。さぁ、その顔おがませてもらおぉきゃー」
きゃーですって。女子力高いわー。
追跡者が落ちた穴の中を顔だけ出して観察する。
おしおし、ちゃんと木槍が刺さっています。しかし倒れるまでにはまだ時間がかかりそうです。
「て、てめぇよくもぉ」
うるさいですね。
アイテムボックスを操作して大きな石を召喚。落下。
「うわぁぁぁ……」
バキバキバキ、ドスン!
ですとろーい。
「はぁ……」
ため息が出ちゃう。だって、女の子だもの。私も女子力出さなきゃ。
大石を使うと木槍が全滅するのが難点です。補修の必要があります。
さて、所持品確認。怪しいものはないですかー?
倒れた敵を選択、そして所持品を見て、
「アウトーーー」
薬草を7個も隠し持っていました。約束破りは誅伐対象です。
「ど、れ、に、し、よ、う、か、なー」
所持品は初心者らしいものしかありません。草兎を倒して手に入るアイテムもなし。雑魚です。
欲しいものはないし、この人が後で見て一番喜びそうな剣を貰っておいてあげましょう、そうしましょう。
「さぁ、木槍を直して、草兎の補充をしましょう」
草兎量産計画、一歩後退。
◆◆◆◆◆
カランカランカラン。
ぴくり。
この音は……鳴子! パターン迷路! 幟を上げよ、出陣じゃー。
迷路入口、木箱確認……空っぽのようだ。
「有罪確定」
はぁ……最近迷路ではいい獲物が減りました。しょんぼりへにょーんです。
最近変なの来すぎですよ。脳筋(脳みそまで筋肉)とか、脳筋とか、雑巾とか。
どこかで変な噂でも流れてるのかなぁ。
あぁ、純真な初心者が懐かしい。懐が寒いところとか。
みな最初は少年さ~、ポケットに石を詰め込んで~、大人になれば宝石贈る~。
そして迷路最深部。
180cmを超える肩幅が広い脳筋。全身黄金鎧で兜あり、背中に大剣、派手好き、勇者思考。
あー面倒くさい相手だわー。頭が固くて融通利かないタイプ。しかも大きすぎてサイズの合う罠が少ない。ダイエットしろよ、足元80cmぐらい。
文句を言っていても仕方がない。お仕事をしましょうね……って、この脳筋、宝箱を開けないじゃん。シナリオまで狂うしなー。なにか考えよう。
10分経過。
脳筋に動きなし。地面まで筋肉に汚染された模様。
シナリオも決まったし、そろそろ声をかけてみますか。
「あれれ~? おじさんこんな所でどうしたんですか?」
迷路に現れた謎の美少女。もちろん準備していたマントと装備はストレージに隠しています。
脳筋が声に反応して振り返る。
「お前が魔王か?」
「ひっ」
脳筋の気迫に怯えたフリ。
「わ、わたし魔王違うよ? マントを被った変なおじさんに閉じ込められてるの」
真実を交えて信憑性アップ
「なに? 本当か!」
勇者願望丸出し、正義感、成吉思汗。
「ふぇぇ」
大声で怒鳴られて泣きそうな美少女。
「す、すまない。驚かせるつもりはなかったんだ」
勇者脳筋。
怯えながらも泣き止む美少女。
「よかったらお兄さんが助けてあげるよ。その変なおじさんの居る場所に連れて行ってくれないかな」
お兄さん言うキャラと違うやん。整形して来いよ。もしくはおじさんに名義変更希望。
「うん、わかった」
嬉しそうに笑顔を見せる少女。もう美とかつけるの疲れた。美少女はサクラだけで十分。
「あぁ、任せてくれ」
歯がキラリン。そんな機能まであったのね。
「じゃあ、私についてきて」
なにも警戒せずについてくる脳筋。
ちょろい。
数分後。
「まだ着かないのかい?」
装備の割に忍耐力が低い。
「ここは迷路だから道が入り組んでるの」
もちろん本当です。
しかし今回はわざと遠回りしています。
説明しよう。
今歩いている道は迷路の中でも脳筋キャラ専門の罠、その名も重圧トラップ。
地面を粘土質の土やぬかるみ等にしており、体重がある程度重い生物が歩くと足を取られ、継続してスタミナが、つまりライフが消費されていく仕組みになっているのだ。
もちろんハルミは軽いので効果なし。私の外見に似ていてよかった……ちっちゃい言うな!
そして効果が地味な為、脳筋には気づかれにくいのがポイント。気づいたらあからさまに怪しいダメージ判定が出ているのにね。
しかも今回の獲物はガチガチの上級者。初心者が集まるこんな場所で、可愛い少女の後ろをついて歩いている時に警戒心が高まるはずなかった。
さらに数分後。
「おい、まだ着かんのか?」
そろそろ焦らすのも限界ですね。
さぁ、物語も終盤。対魔王戦の幕開けですよ。
曲がり角の手前でストップ。
「この先が魔王の住処です」
もちろん違います。
「そうか、君はここで待っていなさい」
だが断る。
「ううん、私も一緒に行く」
置いて行かれるのを怖がる少女。
「そうか……わかった。でも、絶対にお兄さんの後ろから出てはいけないよ」
安心させようと笑顔を見せながら注意する脳筋。
ちょろちょろい。
通路を進むと行き止まりにマントを纏った人物が1人で立っている。背中を向けているので詳細不明。
「貴様が魔王か?」
返事がない。
「なんとか言え」
ただの、ひろしです。
「貴様ふざけているのか!」
屍のようだ。
「うぉぉぉ!」
脳筋、無防備な人の背中を大剣で一閃。
受け身も取れず倒れ伏す人。
脳筋が恐る恐る近づき覗き込む。
「これは……」
何かに気づく脳筋。
今です。
パシュ!
何かが発射された音。反応のない脳筋。
「おじさーーーん」
駆け寄る少女。
脳筋の足を掴んで呼びかけるが、脳筋の返事がない、ただの屍のようだ。
見上げて顔を覗き込むも、脳筋の顔には一切の表情が見られない。
いや、そもそも顔が見れなかった。
そう、顔には大きな矢が刺さっていて、矢しか見えないからだ。
先ほどの音は矢が発射された音だったようだ。
「おじさん……そんな、嘘だよね? ……おじさーーーん!」
もちろん自作自演。
役者の1人が退場した後も演目は続く。たとえ観客がいなくとも。それがプロフェッショナルだから。
お待ちかね、所持品検査のお時間です。
入場料のお支払いは0。これで薬草を持っていたら完全にスリーアウト。持っていなくてもツーアウト。
さてさて……上級薬草20個。
こいつ、見かけによらずに回復アイテムをきちんと用意して冒険する慎重派やん。ちょっと好感度アップ。
しかしどうしよう、上級薬草なんて聞いてないよ。
立て看では薬草としか書いてないんだよなぁ。上級薬草を薬草と見做すかどうか。
……フェア、逆転サヨナラです。
上級薬草は上級薬草。薬草は薬草。上級薬草の子が薬草であっても、上級薬草は薬草に非ず。
私がこの人の所持品に手を出せば、それは約束を反故することになる。約束の保護者として譲れない一線だ。
「さぁ、後片付けをして帰りましょうね」
とはいえ今回はほとんど実害0。傷まない道を道案内しただけで、最後の魔王くんと矢発射装置ぐらいだ。
魔王くんの材料は木。つまり、ただの案山子。在庫があるので設置するだけ。
そしてマントはクエスト報酬で大量に在庫あり。
矢発射装置も矢の補充をして、キリキリとばね代わりの蔦を巻けば終了。
「黒子・タフ・パワー」
舞台の成功の鍵は演者の演技力ではなく、裏方の努力に因る。
◆◆◆◆◆
カランカランカラン。
ぴくり。
この音は……鳴子! パターン迷路! 幟を上げよ、出陣じゃー。
このパターンもしつこくなってきたがこれでおしまい。
それには理由がある。
迷路入口に、おっと人影発見。迷路の中に入らず堂々とこちらに姿を晒すとはお主やりよるな。
仕方なく私は隠れて観察。しばらく様子を見ても動きがないので、隠れていた木から姿を現す。もちろん私が出てきたことで他の人も出てこないかチェックしながら。人を隠すには木。
「お、来たなハルミ」
「初対面の人に対して妙に馴れ馴れしいですね、幼稚園に戻って礼儀を習って来てはどうですか? あっ、幼稚園に対してご迷惑ですね。では、どこにしましょうか……」
「ボケが長いわ!」
「おや、薬草マイスターじゃないですか。いつも御苦労さまです」
薬草マイスターが首を左右に振る。
「薬草が溜まったからな、持ってきた」
ほほう。
「忠実な僕よ、褒めてつかわす」
「ははぁ」
薬草マイスターが首を垂れて片膝をつく。
やっぱノリがいいな。
そしてトレード申請が来る。
本日の朝貢……薬草1万個。
……やるじゃない。
「なかなかの成果ですね。手の甲にキスすることを許します」
薬草マイスターが驚いて顔を上げる。
その顔は個数で驚かそうとしていたのに、逆に驚かされた顔ですね。私を驚かせるには10年早いですよ。
「……いいのかい?」
「構いません。これは褒美です。おかしな行為ではありません。それに、すぐに消毒します」
薬草マイスターは大きくため息をつく。
「では、お言葉に甘えて」
手の甲にそっと口づけされ、一瞬で離れました。
「これにより、儀式を終了します」
私は立て看板を引き抜き、出来た穴に口づけされた腕を突っ込む。
「……なにをしているんだい?」
薬草マイスターから見たら、今の私は地面に寝そべり穴に腕を入れている変人です。
「消毒です!」
薬草マイスターが遠くを見る目に。
「土中に住む微生物の殺菌能力は、火気厳禁の森の中では最強です」
私の説明に薬草マイスターはツッコむ。
「これ、ゲームだからね!」
やっぱノリいいわこの人。
消毒を終えたので立ち上がり、薬草マイスターの顔を見る。
「たぶん、明日以降私はここにいません」
薬草マイスターは突然のことに戸惑う。
「……どういうことだい?」
薬草マイスターの問いに私は説明する。
「明日の夜、薬草を求めた依頼者に納品する約束なので、この村での薬草集めは明日で終わりです。明後日からは親友を追いかけるための旅に出ます」
「そうか……」
薬草マイスターは雑談の中で私の事情を軽く知っているので、無理に止めようとはしない。
「寂しくなるけど、また会えるよな?」
そうですね。
「寂しくはないですが、きっとまた会えますよ」
私の回答に薬草マイスターは肩を落とす。
「君はそういうやつだよな」
えぇ、褒め言葉です。
「それじゃあ、しばらくお別れだ」
「はい、またいつかどこかで角松門左衛門」
薬草マイスターは苦笑して、手を振って去っていきました。
私は手を振りません。湿っぽいのは嫌いですから……ということにしておく。
「さて、お片付けしましょうね」
立て看板は新しいのに付け替えて、期間限定耐久制限ありの迷路ですっと。私がいなくなった後は整備する人がいませんからね。
外の箱は撤去。秘密基地も撤去。
最深部の宝箱は残して、わらしべ長者希望とでも書いておきますか。いずれすごい御宝に代わっているかもしれませんね。
最後に置手紙を。
「魔王サクは引退して、普通の女の子に戻ります」
っと。




