21森の美少女・完結編
俺の名前はジークロット。ただの高校生だ。
女の子と知り合いになりたいと気軽に始めたこのゲーム。最初の森で途轍もなく恐ろしい相手に出会い、手も足も出ずに敗れた。
俺はもう立ち上がれないかもしれない。
ゲームを続けるか続けないか一晩考えた。
考えていても仕方ないので、ひとまずゲームを続けることにした。
今度はもっと真摯に遊び、紳士に徹しようと。
俺は女性の尻を追いかけるんじゃない。世界中の薬草を追いかけるんだ。
そう、薬草プロとして!
まずは森に行って薬草の集めなおしだ。
旅に出るにも薬草は必須アイテムだ。
俺は所持品を確認する。対人戦で敗れたので何か奪われているかもしれない。それはプレイヤーが持つ権利の一つなのだから、敗れた側に避ける手段はない。唯一の手段は負けないことだけだ。
しかし、心配をよそに何も失っていなかった。草兎を倒した時に手に入れたレアアイテムですら手つかずで残っている。
そういえば立て看板に書かれていたか。
「薬草だけでいいよ」
「約束」
……そうか。俺が約束を守ったから、ハルミも約束を守ったのか。
もし俺が約束を守らずに薬草を複数所持していれば……いや、考える必要はない。彼女は約束を守る、それだけは確かだ。
訓練所に立ち寄り達成したクエストの報告を済ます。
草兎から得たレアアイテムを装備して、いざ森へ。
今日の俺は昨日の俺とは違う。ニュー俺だ。
森で採集、採集。薬草がだいぶん溜まってきた。
1時間ほど作業していると、
「あっ」
目の前の草むらで1人の少女が探し物をしている姿がある。
少女はこちらに気づいて一瞬考え込むように首を傾げると、
「……」
なにもなかったかのように作業を再開する。
「ちょっ、まてぇい!」
まさか忘れてる? 昨日あれだけのことをしておいて忘れてるの?
少女は俺のツッコミで顔を上げる。
「おや、そのノリは薬プロのお兄さんじゃないですか。久しぶりですね、元気にしてましたか? 薬草があったら他のアイテムと交換しますよ」
……顔や名前じゃなくてノリで人を判断する子だったか。
「だからその略し方はやめてくれ。せめて薬草プロにしてくれよ」
ハルミは考え込み、こくりと首を縦に振る。
「わかりました、薬草マイスター」
期せずしてプロから名人に昇格した。
「薬草ならいっぱい持ってるよ。あげようか?」
この子には逆らいたくないので投げ渡したいぐらいだ。
だが、ハルミは首を左右に振る。
「昨年はご厚意で採集にご協力いただきましたのでありがたく頂戴しましたが、本日はご一緒に作業したわけではないのできちんと対価をお渡ししますよ」
……ほんま、この子ええ子やでぇ。なんでこの子があんなえげつないことしてたんや。そりゃあ、人の顔や名前を覚えてなくて、記憶力がどこかおかしいけども。
もう関西人になるしかこの子と付き合えない気がする。
もちろん常人に彼氏彼女の交際は絶望的だ。少なくとも俺には無理だ!
「じゃあ、なにかアイテムと交換しよう」
俺はそういうとトレード申請を送る。こちらからは薬草500個だ。
さすがにハルミも驚くだろう……と思ったが、眉ひとつ動かさなかった。
「まぁまぁの数ですね」
この子はいったいどんだけ集めてるの!?
「この数なら、このあたりのアイテムは如何でしょう」
ハルミから候補一覧が送られてくる。
一覧を見ると思考が停止した。
見たことがない装備品の数々。でも、どれもこのあたりでは手に入らないようなランクの高い品々だ。
「ハルミちゃん、いったい君は何者なんだい?」
ハルミは首を傾げる。
「ゲームをはじめてから1週間も経たない初心者ですけど?」
おいおい、嘘だろ。
だが彼女は嘘をつくような子じゃない。真実なんだろう。
体が勝手に震えだす。恐怖じゃない。スポーツなどで天才を見た時のような感動で、心までも震えだす。
「……そうか」
俺は一つ頷き、気を取り直す。
「でも本当にいいのかい、この中から選んで?」
ハルミは再び首を傾げる。
「選ぶ? それ、全部とですけど?」
え?
「いやいやいやいや、こんないいアイテム、全部なんて貰えないよ」
俺は必至に断る。俺が許容できる内容を越えているからだ。
「でも、拾いものですし、私にとってはゴミですよ」
なんでやねん!
「いや、それでもさ、換金するとか、他の人ともっといいものと交換するとかさぁ!」
俺は正論を言ってるはずなのに、ハルミはじっと俺を見てくる。
「私にとっての薬草は、他のアイテムに代えられない宝物ですよ」
俺呆然。マジでこの子がなにを考えてるかわからん。
……。
お互い沈黙。
すると、ハルミがポンと両手を叩く。
「なら、こういうのはどうでしょう。これは将来への投資。薬マは今度再会した時にまた薬草をください。先行投資ってやつです」
ふむ、なるほど。それならまだ納得できるな。いずれこの借りはきっちり返すとしよう。
ただし、
「わかった、それでいいよ。でも、その名前は止めような? ちゃんと呼んでくれ」
さすがにその略称は許容できない、俺的にも、一般的にもだ。
「わかりました、草ロットさん」
おしい!
その後、俺とハルミはトレードを終え、別々の道に向かって進みだした。少し進んでは腰をかがめ、少し進んでは腰をかがめ。
俺は道に沿って、ハルミは道なき道を行く。
いつかまた、2人の道が交差するその時を夢見て。
数十分後。
森の中でハルミを見かけた。
でも今は声をかけない。
なぜなら、まだ薬草があまり集まっていないからだ。
「今度会った時には1000個渡して驚かしてやるよ」
俺たちの戦いはまだまだこれからだ。
長かった「森の美少女」編もようやく完結です。
はじめは1話完結予定でした。
筆が乗り、気づけば前編後編に。
後編を書いてる途中で「これ前編の倍以上の量になるぞ」と気づくも、前編はきりのいいところで終わってるいるので追加修正できない。急きょ後編から完結編を分離、そして何故かさらに続く。
本当に、この話が終わりを迎えられてよかったー。
次からハルミ視点に戻ります。




