20森の美少女・後編
俺はジークロット。剣士だ。
今日ゲームをはじめたばかりだが、かわいい美少女ハルミと出会った。
彼女と一緒に1時間薬草採集をして別れたあと、俺は休憩のために現実世界に戻っていた。
現実世界は辛かった。なぜならハルミがいないからだ。
短い時間の付き合いだが、俺はハルミにぞっこんに惚れ込んでいる。
休憩を終えてゲームに戻った俺は、まず訓練所に向かう。
ハルミとのデート中に何度か狼の襲撃があり、事前に受けていたクエストが終わったので終了の報告をして報酬を貰う。
狼退治クエストとともに大ネズミ退治も受けていたのだが、大ネズミとは一度も遭遇しなかったので不思議だ。
まぁ、そういう時もあるのだろう。
なんていったって、一緒に薬草採集をしていたのに、俺は薬草を300個ちかく見つけたのに対して、ハルミは20個も見つけられていなかった。それぐらい出現確率にばらつきがあるのだろう。
とりあえず狼退治クエストを受けなおして森に向かう。今度こそ大ネズミも退治するつもりだ。
森を一周してみたが大ネズミどころか全くモンスターを見かけなかった。
この森はいったいどうなっているんだ。最初の森だからこういうものなんだろうか……俺は仕方なく採集をしながらもう一周してみることにする。
もはや採集は俺の体の一部みたいに染みついている。
探索も何周目かに入ったころ、森の中にハルミがいた。
別れて何時間も経っていないのにすごく懐かしい気分になる。
「ハルミちゃん久し振り、元気だった?」
俺はハルミに近づきながら声をかける。
ハルミは首を傾げ、しばらくしてから両手を合わせてぽんと叩いた。ちょっと時間が長かった気もするが気のせいだろう。
「薬草のお兄さんじゃないですか。こんな場所でどうしたんですか? 薬草探しですか?」
「俺の名前はジークロットだよ。ちゃんと名前を覚えてよー」
俺の抗議にハルミは「えへへ」と照れくさそうに笑う。くそう、かわいい。
「薬草も見つけたけどさ、いる?」
「はい! 喜んで!」
俺はハルミの笑顔を見てうれしくなり、彼女に薬草を全部あげる。
「実は今、モンスターを探してるんだけど全然見つからなくてさ」
ハルミに対して弱音を吐くのは少し悔しい。かっこいいところを見せたいのに。
彼女は俺の愚痴を聞くと考え込むように目線を上方に送る。
そしてある提案を持ちかけてきた。
「私、モンスターがいそうな場所を知っていますので、薬草採集しながら案内しましょうか?」
ありがたい! モンスターが見つかるのもだけど、ハルミと一緒にいる口実ができた。この波、乗るしかない。
「よろしくお願いするよ。見つけた薬草は全部あげるからさ」
それを聞いてハルミはすごい笑顔になる。
「はい! それでは案内しますね」
ハルミはそう言うと、草むらの探索を続けながら道を外れて木々の中に入っていく。
本来ならば俺が彼女の前を歩き、モンスターが出たらいち早く守りに入りたいところだが、目的の場所を知らないので仕方がない。
俺も採集しながらハルミに付いていく。もうブラインドタッチでできるぐらい採集が板についてきた。
しばらく道なき道を進むと、ハルミが急に立ち止まった。
「ここに狼がいます」
彼女が指さした場所には確かに狼がいた。いるにはいたが明らかにおかしい。なぜか落とし穴にはまっているのだ。
「これって、ハルミちゃんが作って捕まえたの?」
少し引き気味に聞いてしまう。うんって言われたらどうしよう、ちょっと怖い。
「ううん、違うよ。いつごろからかあるの」
ハルミは首を左右に振って否定する。ほっとした。
「そうかー。でも、人が作って捕まえたのを勝手に倒しちゃっていいのかな」
ハルミは少しだけ目を大きくする。
「いいんじゃないですか? 壊さなければ、また使えるでしょうし」
うん、それもそうか。
「では、お言葉に甘えて」
動けない狼を倒すのはほんの少し忍びないけど、ありがたく俺は狼を倒した。
「では次に行きますね」
え?
「まだ他にもあるの?」
俺の質問にハルミは頷いて肯定する。
この森にはいったいどれだけの罠が仕掛けられているんだ……。
自分が罠に嵌りつづける姿を想像してしまい、知らず身震いしてしまう。ゲームのキャラに伝わらないのが救いだ。ハルミに失望されなくて済む。
再び歩き始めたハルミについていく。
もちろん2人とも採集を続けながら。
◆◆◆◆◆
数分後。
いくつかの罠を回り、目標数の狼と大ネズミの退治に成功した。
「いやぁ、助かったよ。ハルミちゃんがいなかったらクエストを達成できなかったかもしれない」
ハルミは首を横に振って否定するが、きっと謙遜しているのだろう。奥ゆかしい子だ。
「クエストといいますと、もしかして草兎のクエストもお受けになったんですか?」
ハルミが聞いてくる。
「あぁ、受けたよ。でもレアモンスターらしいから、この調子じゃあ見つけるのもなかなか難しいだろうね」
俺は正直に答える。
すると、ハルミはなにかを考えるように首を傾け、上方に視線を送る。
「そういえば、草兎がいる場所を噂で聞いたことがあります」
「本当かい?」
それが本当なら、クエストをすべてクリアーできる。
ハルミはこくりと首を縦に一度振って肯定する。
「ええ、薬草プロのお兄さんに嘘はつきません」
俺の名前はジークロット……覚えてくれる気配がない。きっと人の名前を覚えるのが苦手なのだろう。
「はは、別にプロってほどじゃないけどね。よかったら案内してくれないかい?」
ハルミはこくりと頷き再び歩き出した。
だが、すぐに立ち止まる。
「ここの草むらはレアな草むらで、たまに薬草を大量ゲットできるそうです」
そういって採集を始めた。
俺も続けて採集する。
「おっ、薬草10個ゲット」
聞きつけたハルミがすごい反応でこちらを振り向き、尊敬のまなざしを向けてくる。
「すごいですお兄さん、さすが薬プロ」
いや、なんか危ない人みたいだからその略し方はやめようか。
「私なんて石10個ですよ。森の石プロです」
変身するライダーの製作会社みたいだね。
俺とハルミは採集を続けながら次の場所に向かう。
もっと雑談できればいいのに、俺とハルミの関係は採集一色に彩られていた。
◆◆◆◆◆
しばらく歩くと、ハルミが突然立ち止まり震えだした。
「こ、この先に気配がします」
俺は慌てて剣を構えてハルミの前に立つ。
しかし、ハルミが否定の言葉を告げる。
「違います。すぐじゃないです。もう少し行った先です」
なるほど。俺はひとまず剣を下げる。
「私は怖くてこれ以上先に進めません。お兄さんだけで行ってください」
なんだって!
「ハルミちゃんを1人で置いていけないよ」
俺は心配になってハルミちゃんの方を振り向く。
ハルミは首を左右に振る。
「大丈夫です。何かに襲われても私はこの森の罠を熟知しているので、1人でなら逃げ切れます」
なるほど、それもそうか。ハルミが持つ森の知識は俺となんて比べ物にならないぐらい凄い。
「わかった。なにかあったら俺を放って逃げるんだよ」
ハルミはこくりと首を縦に一度振る。
俺は前に向き直り、気合いを入れる。
「よし、行ってくる!」
「逝ってらっしゃい。がんばってくださいねー」
ハルミの声援と期待を背に、いざ行かん。
ハルミと別れてしばらく進むと、石の壁に突き当たった。
石壁を観察すると所々に矢印が書かれていたので、矢印に従って石壁に沿って進む。
すると、石壁に切れ目があり、その手前に看板と木箱が1つずつ置かれている。
看板を見てみると文字が書かれていた。
なになに……。
「サクランドにようこそ。
ボクは草兎の『うぃっぴー』だよ。
ボクを見つけたいなら、この迷路をクリアーしてごらん。
ただし……なにがあっても自己責任。運営会社や迷路製作者に苦情をいれたらいけないよ。
もしも約束を守れない人は……うふふ、あはは、あーはっはっはー。
参加料は薬草だよ。手持ちに1個だけ残して他は全部箱にしまってね。箱に入れるのは薬草だけだよ。
もしもルールを破ったら……うふふ、おほほ、おほほのほ。
じゃあみんな、がんばって挑戦してみよう。待ってるよー」
うん。鳥肌が立った。恐ろしいわ、まじ恐ろしいわ。意味が分からんし!
ハルミの判断は正しかった。俺もこの看板を知っていたら絶対に近づかなかった。
……はっ! ハルミは知っていたのか。それなら納得出来る。
本当ならハルミも俺のことを止めたかっただろう。でも、草兎を探していると聞いてやむを得ず案内してくれたんだろう。きっとそうに違いない。
目の前の看板にはいろいろとツッコミたいところがたくさんあるけど無視しよう。
こんなものがこれだけ堂々と存在しているのなら、書いてあることに嘘偽りはないだろう。
ならば草兎討伐のためにここで引くわけにいかない!
「行くぞ!」
俺は両頬を叩いて気合いを入れなおす。
木箱に薬草をすべて収納して迷路に挑む。
薬草をすべて入れた理由? 1個残してもいいと書いてあったけど、0個で挑んじゃダメとは書いていなかったからだ。決してびびったわけじゃない。びびったわけじゃないからね!
迷路に入った後は地獄だった。
元から生えている木と木板や石、ロープなどで作られているだけのに全くゴールに辿り着けない。段々方角を見失い、入口がどこかも分からなくなった。
しかも、ところどころに罠が仕掛けられてあり、大小様々、多種多様の罠に苦しめられる。
いくつかの罠にモンスターが嵌っていたので、ありがたく倒していく。ここの罠には森の罠と同じ形の罠が複数存在したので、同じ製作者が作ったのだろう。ハルミの説明に従えば、きっと製作者も許してくれるはずだ。
侵入から十数分、どこからか声が聞こえてきた。
「左の壁に手を当てて進め~……左の壁に手を当てて進め~」
俺が一向にゴールへ辿り着けないので、このダンジョンの主が焦れて道を教えてくれているのか?
罠かもしれないが従って進む。どのみち俺は今、迷路という罠に陥っているのだから、嵌る罠は1つも2つも同じだ。
謎の声の指示に従って進んだ先は行き止まりになっていた。突き当たりに木箱が1つ置いてある。
明らかに不自然なので開けるのを躊躇っていると、
「あけろー、あけろー」
また声が聞こえてきた。
わかった。いいだろう、開けてやんよ!
木箱を開けると、カランカランカランとどこからか音が鳴った。ゴールを祝福してくれているのだろうか。
木箱の中には草兎が一匹入っている。
身動きが取れないようにロープで縛られている姿が可哀相だ。お願いだからそんな悲しそうな目で見ないでくれ。
しかし、俺はハルミの元に早く戻らなければいけない。
意を決して身動きの取れない草兎に剣を振り下ろす。
縄で縛られて小刻みに震える兎を倒すのは……やっぱり、なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
草兎を倒した俺は帰ろうと来た道に振りむく。
すると、そこにはマントで顔と体を覆った人物が立っていた。
俺がびっくりして固まっていると、謎の人物が語りだす。
「よくも私の可愛いうぃっぴーちゃんを殺したな? 成敗してくれる」
俺は驚いて声をかける。
「えっ? ハルミちゃん……だよね?」
謎の人物は一瞬口ごもる。
「違うじょ」
あ、噛んだ。
「我は魔王。ここサクランドを支配する魔王サクである」
いや、さっきと一人称が変わっているよ。それに、
「でも、頭の上に名前が出てるよ?」
魔王サクは不思議そうに頭上を見る。いや、首を上げたら自分の頭上は見えないでしょ!
自分の頭上が見えないことに気づいたのか、今度は俺の頭上を見る。
魔王サクはなにかに納得したのか、首をこくりと一度縦に振る。
「我が呪いで表示が変わっているだけだ。気にするな」
あ、変な設定を思いついたのか。仕方ない、付き合ってあげよう。
「どうしてこんなことをするんだい? 俺たちが争うことになんの意味があるんだ!」
なんとなくノリで言ってみる。
「問答無用」
魔王サクは持っていた槌を振りかぶり、俺に振り降ろす。
「うわぁぁぁ」
慌てて両手を突き出して頭をかばう。
ぽすっ。
ダメージ1。
「……え?」
何が起こった?
「うおぉぉぉ」
魔王サクは俺の隙をついてすかさず追撃してくる。
やばい!
ぽすっ。
ダメージ1。
……。
…………。
………………。
さすがに2人とも身動きを止める。
「ハルミちゃん、君は……」
声をかけるとハルミは背を向けて走り出す。
逃がしてなるものかと後を追う。
右、左、右、右……。
そしてついに行き止まりに追い詰めた。
「ハルミちゃん追いついたよ」
ハルミはこちらを振り向く。マントに隠れて顔が見えないので表情はわからない。
「さぁ、説明してもらおうか」
俺は一歩一歩ゆっくりとハルミに近づく。
そしてあと一歩で彼女に、
「えっ?」
床が抜けた。いや地面か。まさか落とし穴!?
俺は落ちた瞬間に見てしまった。マントの隙間からハルミが笑っている姿を。
そして実感する。嵌められた、と。
穴の中には多数の木槍が設置されていた。ご丁寧に毒付き。
俺は刺さった木槍から体を抜こうとするが、動くとさらに深く食い込んでいく。
そして、貫通と毒の継続ダメージで徐々にライフが減っていく。
俺が恐怖に震えていると頭上に影がさした。上を向くと、ハルミが穴から顔を覗かせている。
このシチュエーションは漫画でよくある女の子のスカートの中が見えるシチュだと閃き、必死に脳に記憶しようと凝視する。しかしハルミの顔しか見えない。マントの中どころか体すら全く見えない。くそう。
「お兄さん、もう少しの辛抱ですよ。もう少しで死ねますからね」
ハルミが俺の心にダメ押しする。
「くっ、殺せ」
俺は言うが、ハルミは首を左右に振って拒絶する。
「そのセリフは女戦士が言うから映えるんですよ」
「確かに!」
やはりハルミは賢い子だ。
「最後にお礼を言っておきますね。お兄さんのおかげで薬草がたくさん手に入りました。ありがとうございました」
そういえばそうだった。俺はこの子にたくさんの薬草を貢いでいたんだった。
「お願いだ! その薬草を分けてくれ!」
俺が懇願すると、ハルミはまた首を横に振る。
「駄目ですよ。入口の看板の約束、忘れたんですか? 自分の分を使ってください」
入口の看板?
「まさか、1個だけ所持できるってやつか」
ハルミがこくりと首を縦に振る。
「ごめん、俺、箱に全部入れちゃって1個も持ってないんだ」
ハルミは不思議なものを見る目で見てくる。
そして、手を穴に差しだした。
助けてくれるのだろうか、……いやそんなことはしないだろう。罠に嵌めた相手を助けるわけない。
ならば薬草を1枚くれるのだろうか。なんて優しい、
「えいっ」
ガツッ。
「いてぇ」
ハルミが石を投げつけてきた、手に隠し持っていたのか。
「なにすんのっ!?」
咄嗟に抗議する。
「えいっ」
続けて投げてくる。
俺は必死に手を伸ばして石を受け止める。
「ちょ、やめてって」
「えいえいえい」
投石間隔が短くなる。受け止められない。
ハルミのターンは終わらない。
「当たらなければどうということもない」
投げてる側が言うセリフじゃなぁぁぁい。
「これでお仕舞い!」
ハルミが石を投げる、……よし、受けとめた!
今のが打ち止めなのかもう石を投げてこない。
「勝ったぞ!」
俺は勝鬨を上げる。
だが、ハルミは首を左右に振り、ぼそりと呟く。
「継続ダメージ」
「あ……」
俺は死んだ。
完敗だった。
全く手も足も出ない相手だった。
俺はこのゲームを舐めていたのかな。
悔やんでも仕方がない。
負けたことに悔いはない。
だが、もう二度とハルミと会うことはないだろうと考え、どうしても後悔してしまう。
なぜ俺はあの迷路に挑んでしまったのか。なぜ俺は草兎を探していると言ってしまったのか。
いや、どのみち俺はハルミにとって都合のいい男。ただの薬草プロだったのだろう。
まさかのつづく。




