02メールと勧誘
20年3月29日に一部改訂しました。
サブタイトルを変更しました。
短かった03話をこちらに合流させましたので、以降の話数を繰り上げます。
「ただいま」
玄関を開けて第一声。鍵っ子のお約束『家の中に誰かいますよアピール』です。
自分で鍵を開けて入ってる時点で中に誰もいないだろって? いいんだよ、中に人がいても自分で鍵を開けて入る家庭も結構ありますよ。
もちろん誰からも返事はない。知ってた。
平日の昼間は両親ともに仕事中、弟は小学校にいっているので今家の中には誰もいない。誰かいたらその人は泥棒です。おー怖い。
泥棒が返事をするわけないので、玄関が施錠されていてもきちんと家の中を注意して進む。オールクリアー。
慎重すぎるって? いいんだよ、何か問題が起こるより。備えあればうれしいな。
2階に上がり廊下に落ちていたおもちゃを弟の部屋に片付ける。後で叱らないと。踏んだら痛いんだよ、木のおもちゃは。注意してて正解でしょ。
自分の部屋で着替え、ご飯を食べたら家事が待っています。テスト期間中に休ませていただいていた分もやっちゃわないとお母さんに申し訳ない。感謝感激、神様お母様ってね。
お父様はって? そんな人うちにはいませんよ。うちにいるのはお父さん。
◆◆◆◆◆
今日はいい買い物ができました。
魚屋で新鮮なブリの切り身を、八百屋で大きな大根をゲット。むっちゃんとたっくんは小中の同級生です。ご両親とも顔見知りで、お安くしてくれるのでいつもお世話になっています。
もちろん晩御飯はブリ大根と大根サラダに大根の味噌汁。どれもおいしく頂きました。
大根ばっかりじゃんって? 料理はまだお母さん任せなのであまり手間は掛けさせられないし、野菜を切るぐらい私にもできますからね、むふー。
え、自慢できることじゃない? むきー。
家事や明日の学校の準備も終わり、夕食後はまったりと自室で休憩。
スマホの電源を入れると、おっと、予想していましたがサクラからの通知が溜まっています。
最初はちゃんと返事していましたよ。ですがあまりにも「ゲームしよ」、「ゲームまだー?」と誘いが鬱陶しくなったので電源を切っておいたのです。さすがにサクラも未読が増えた時点で連絡を入れていないようですね。
「いいえ、ゲームに集中して私のことを忘れてるだけね」
サクラの行動パターンは把握しています。帰宅後に最低限のことをした後は、食事以外ほとんどゲーム漬けになっているでしょう。浅漬けで終わるとは考えられません。
サクラの母はテスト一週間前からゲーム禁止の方針をとっている。
中学3年夏の三者面談で、ゲームばかりして勉強を疎かにしていたサクラは担任教師に落第の烙印を押された。どの高校も受験できないと聞いたサクラの母は鬼となり、生涯ゲーム禁止を言い渡しました。
サクラは泣いた。サクラは自業自得だと理解していたので母に反抗することはできなかった。サクラが助けを求めて泣きついたの私、「ハルミ助けてー」と。
私はサクラの母を論戦し、サクラの高校入学までのゲーム禁止とその後のゲーム制限で折り合いはつけられた。
その結果、サクラはどうにか高校受験に成功し、今ではテストの前にゲームを禁止されるだけで済んでいる。
今日はテスト期間が明けて制限解除の日です。サクラは飢えを満たそうとゲームに齧りついているはずなので……。
「今日は無視しても問題ないですね」
明日会った時にサクラがうるさいでしょうが、今の私には関係ないことです。明日の私が苦労すればいいでしょう。
家族に内緒の黒歴史編纂……いえ、趣味の物書きの続きをしようとパソコンの電源を入れる。
パソコンが起動したらまずは1日1回メール確認。大事な連絡はスマホにくるのでほとんど商業関係やスパムメールを削除するだけですが、こちらにもサクラからメールが2件来ていました。1件目は勧誘メールを送った報告。2件目は勧めてきたゲームのアドレスリンクと招待コードに簡易メッセージ。
なになに、「ゲーム会社からのメールは開かずに削除しそうだから、私のアドレスからも送っておくね」
……ハルミは逃げ出した、しかしサクラに回り込まれてしまった。
ばれてーら。知らない人からのメールは開かず削除するのが常識です。すでにサクラのメール以外は削除済み。ゲーム会社からのメールなんて来ていないという逃げ道は塞がれました。万事休す。
まぁ、ここまで手の込んだことをしてくるのだ、ここらでサクラの顔を立てて内容ぐらいは確認してあげますか。
マウスカーソルをアドレスリンクに動かしてクリック。クラック?
さぁ、ゲームのホームページを見てみよう。
◆◆◆◆◆
神の記憶
ここは惑星ブルプラ。
大昔、遠い宇宙から来た「チキュウ人」は、この惑星をブルプラと名づけ、原住民を支配しようとした。
だが、この「チキュウ人」たちは一枚岩ではなかった。
原住民を完全に支配下に置き、自らを神と名乗る「チキュウ神派」。
自らをチキュウからの居候として特別扱いせず、原住民を対等な存在として溶け込もうとする「チキュウ人派」。
大きく2つの派閥に分かれて長い論争を続けたが、まだ同じチキュウ人同士で手を取り合えると考えていた。
論争の間も2派は動きを止めなかった。
チキュウ神派は原住民に対する優位性を保つため、原住民を使い捨ての兵士または奴隷のように扱った。
しかし、チキュウ人派は原住民たちを自分たちと同等な存在とするために、強制的に肉体改造や精神操作を原住民に施した。
両者は相手の行いを非難しあう。
両者が完全に決裂する日は目の前まで近づいていた。
そして運命の日は訪れる。
始まりは些細なことだった。
チキュウ神派の領地を訪れたチキュウ人派の子供が町を歩く原住民の子供を見て憐み、無断で自分の家へ連れ帰る。
チキュウ神派は激怒して「子供を返せ」と抗議する。さすがにチキュウ人派も自分たちの非を認め、責任を持って子供を返した。
しかし既に手遅れだった。子供の姿は変わり果てた姿となり、そこに子供の原型はなかった。
子供の姿を見たチキュウ神派は、もはや話し合いの余地は無いと判断する。
チキュウ神派はチキュウ人派に宣戦布告し、原住民の解放を旗印に掲げる。
チキュウ人派は慌てて謝罪文を送るが、チキュウ神派は聞く耳を持たない。やむなく応戦に舵を切る。
開戦が突然であれば、終戦も早かった。
正義を掲げ、正々堂々と戦うチキュウ神派。
手段を選ばずあらゆる手だてを繰り出すチキュウ人派。
両者の争いがチキュウ人派の圧倒的優位に進むのは当然の結末だった。
追い込まれたチキュウ神派は最後の力を振りしぼって異世界(アヴァロン)の門を開き、多くのチキュウ人派を巻き込んで、この世界から消滅した。
チキュウ神派が消えたブルプラでは、チキュウ人派による共存という名の支配がこれからも続くかと思われた。
しかし、チキュウ人もブルプラの限られた資源だけで自分たちが有する超科学を維持することができず、精神操作されていなかった原住民たちの反乱に遭い、支配層の大部分が命を落として衰退する。
自由を取り戻した原住民たちは自分たちをブルプラ人だと名乗る。
そして、チキュウ人の残した超科学を利用して更なる発展を目指した。
だが、ブルプラ人に超科学を制御することはできず、機械の暴走、爆発の連鎖によりブルプラ人は滅びる……かに思われた。
ブルプラ人が死を覚悟した瞬間、何もなかった空間から突如1人の少年が現れて機械の暴走を止める。
以後ブルプラ人は、少年を神と崇めた。
そして数百年後の現在、惑星ブルプラは多くの種族が共存する平和な世界になった。
◆◆◆◆◆
ゲームの公式ホームページで概要を見た結果……。
うわー、いろいろとツッコミ所満載です、どこからツッコめと言うのでしょうか。
チキュウ人ってもう地球人のことですよね。ブルプラもブループラネット=地球じゃないですか? 地球人が長い宇宙の旅から地球に帰ってきた……ってマクロスか!
あ、別に地球じゃなくても水が豊富な青い惑星を見つけたら同じような名前を付けたくなるか。どちらにしても製作者のネーミングセンスが疑われます。
そして肉体改造や精神操作ってショッカーか! ショッカーも裏切り者の仮面ライダーがいなければ世界征服できたでしょう。きちんと面接を行わずに無理やり勧誘するから裏切られるのです。入社理由と身元の調査をきちんと行わずに採用するから裏切りに遭うのです。
突如現る謎の少年、アーヴァーローンー。どう考えても異世界の住人ですよね。それを神と崇めるとは本末転倒では? 人間だれしも危機的状況を救ってくれた相手は神様のように思えるものなのかしら。人これを吊り橋効果という。違うか。
最後に多くの種族って何? 宇宙から新たな侵略者が来たの?
……あ、肉体改造されて生み出された新人類ですか。別のページに説明が載ってました。エルフ、ドワーフ、獣人などなど。魔改造しすぎじゃないですかね。そりゃあ反撃されて滅亡しますよ。
はぁはぁ、まぁ今日はこんなところで許したろか。
それでこのゲームをやれと? うーんどうしようかな。
今のところ私としてはこのゲームに魅力を感じない。ストーリーもよくある話だし、時間を無駄にするだけで終わりそう。メリットはサクラのご機嫌取りぐらいか、……うん保留にしよう。費用対効果が悪すぎる。
ゲームのページを閉じて、パソコンの隠しフォルダを開く。
「さて、作業の続きをしましょう」
かくしてなかなか捗らない趣味の書き物を始めるのであった。
打っては消し、打っては消し。は、話が進みません。