17今日はいい日になりそうです
翌早朝、村の近くの森。
そういえば、この村は「海辺の村オスポ」というそうです。そろそろ名前を覚えてあげることにしました。
森は「東の森」。まんまやな。まんまみーあ。
陽光が木々の隙間から降り注いで気持ちのいい朝です。今日はいい日になりそうです。
現実世界では12月なので朝は寒いですが、ゲーム世界には関係なくていいですね。
昨夜は下見のついでに草むらを捜索してアイテムをいくつか集めておきました。「石」、「粘土」、「草」、「蔦」、「狼肉」など便利アイテムがたくさん手に入りました。
そうそう、最後に挑んだ草むらでは、なんと! ついに薬草を1つ見つけました!
これもLUCを上げた恩恵でしょうか。どんどん上げていかねば。目指せ幸運王。
それでは今日は罠作りを始めたいと思います。
まずはじめに材料を用意します。用意済みの材料を裏から出します。料理番組の基本。でも完成品はまだ。
1日寝かしておいた「石」を積んで、積んで、積んで……。
はい完成。壁の出来上がり。小動物用の壁なので高さはそれほど要りません。飛び越えられない高さがあれば十分です。
昨夜の散策中、道端にあった邪魔な壁を壊して石が大量に手に入ったのはうれしい誤算でした。
壁には様々な形を用意します。例えば基本の「一型」、一直線の壁です。応用編では「L字型」、「U字型」等があります。
これらの壁を効率よく配置して本命の罠に誘導します。
本命の罠は逃げられないことを重視します。
落とし穴やトラバサミのような罠が便利です。
まずは落とし穴を作っていきましょう。
スコップのような便利アイテムがない時は石を使って地面を掘ります。この時に重要になるのが根気です。諦めたらそこで作業終了ですよ。
ドリルは文明の叡智の塊なので原始文明には存在しません。ひたすら手と石を使って掘り、いずれロボットを発掘しましょう。
落とし穴はレパートリーを複数用意します。
深いだけの穴や、浅いけれど足がすっぽりと嵌って抜けなくなる穴、足を取られる罠を設置した穴、尖った木の枝を地面に突き刺して獲物が刺さるようにした穴などなど。
より多くの種類を用意することで失敗に備えます。すべてが成功しなくても、成功したものが複数あればよいのです。
次はトラバサミのようなものを作りましょう。
鉄が手に入らなかったのでトラバサミも草や蔦を活用します。あくまでみたいなものにしかなりません。輪っかを作り、そこに足や首がかかると結び目が締まる仕組みを作る。
一本では簡単に千切れる草たちですが、束ねて捩れば簡単には切れません。
この束はどこでも作れるので、昨夜の散策の後に訓練所のテーブルでたくさん捩りました。
夜に明かりを消さずに作業できるこの村はすごい贅沢です。この村の収入はどうなっているのでしょうか。訓練所が儲かっているだけ? 冒険者からどんだけ搾り取ってんだー。
完成品はアイテムボックスの中に。
新しいアイテム「捩じ草」に進化して保存できました。
芸が細かい。運営、恐ろしい子。
草や蔦を捩った草バサミは標的の足が引っ掛かるように地面に埋め、地上に出ている長さを調整します。長すぎると逃げられたり、短かすぎると罠にかかりません。何事も適当が大事です。本来の適当。
ここで注意点。きっちり土を固めないと簡単に抜けてしまうので気をつけましょう。
これで狼やネズミだけではなく、草兎もかかってくれると嬉しいです。
さぁ次の作業に……、
ワンワン、ワンワン……にゃーん、にゃんにゃん……
おっと、お時間が来ました。学校に行く時間です。
短い時間しか作業できませんでしたが、まぁいいでしょう。
結果は家に帰ってから御覧じろう、太郎二郎。
「サクラ成分を補給するんじゃぁぁぁ」
鞄を持って玄関にダッシュ、ただし階段は歩く。階段で走るのは危険。
靴を履いて、あいたっ!
……靴の中に入っていた石を踏んだ。地味に痛い。くっ、いつもは注意しているのに。
石を取り除いてアイテムボックスに……なかったから庭にぽいっ。
「いってきまーす」
◆◆◆◆◆
「昨日は本当にごめん」
出会いがしらにサクラに謝られた。
「いいんですよ、サクラの枕をくれたら許してあげます」
先日のサクラの枕、すごくよかったです。
「枕? 今度買ったお店に一緒に行こっか」
えぇえぇサクラはそういう子ですよね。まっすぐに育っていてお姉さん嬉しいですよ。
「子供扱いしないで、同じ年でしょ!」
私の方がお姉さんですよ。
「数時間だけね」
その数時間が大きいのですよ。
「身長はわたしのほうが大きいよ」
ちっちゃい言うな!
「言ってない」
身長10cmほどください。
「あげたら死んじゃう」
死んだら困るのでやっぱいいです。
「代わりに牛乳飲む?」
牛乳をいっぱい飲んでも伸びない人は伸びませんよ。
「そうなんだ」
脂肪分が多いとお肉の方に栄養分がいって横に大きく……。
「なんか……ごめん」
いえ、わたしじゃないですよ。……わたしじゃないですよ!
「それでさ、残念なお知らせがあります」
サクラが神妙な顔つきになる。
「新大陸に行った結果、おっきいイベントに捕まって新大陸から戻れなくなりました。終了条件が見つかっていないので期限はわかりません」
……そうですか。
「私を殺して?」
「はぁ!?」
私の願いを聞いてサクラが慌てます。
「だって、私はサクラにとっていらない子なんですよね? もう、生きる価値がありませんよ」
しょんぼりへにょ~ん。へにょりーな。へにょくいーん。
「いるいる、いるから! ハルミがいないとわたし生きていけないから!」
ふっ、もうひと押し。
「はぁ……。でも、サクラがゲームに誘ったくせに1人でどこかに行ったまま帰ってこないなんて、ねぇ?」
「うっ」
サクラは土俵際に追い込まれた。どすこーい。
「くぅ……。なら、お詫びにハルミの言うことを1つだけ聞く」
にやり。
「なんでも?」
必殺☆上目づかい!
「ううっ……なんでも、なんでもいいよ」
サクラ陥落。ちょろい。
「では、そうですねぇ」
「待て」
サクラが止めに入ります。
「なんですか? なんでもいいんですよね? いいんですよねぇ!?」
「なんでもいいけど、せめてわたしにできることにして!」
ほほう。
「できないこととは?」
「できないことはできないことだよ!」
「例えば?」
「例えば……うぅ」
サクラが顔を赤くして恥ずかしがります。
「例えばさ……」
私の耳に口を近づけ、小声で囁く。あふぅ。
ぼそっ。
「キスしろとか」
……。
…………。
………………。
イエス! イエス! イエス!
心の中でガッツポーズ! 我が一生に悔いなし!
もちろん表には一切出しません。押し隠せこの思い!
「サクラ」
「う、うん?」
サクラは私から身を離し、恥ずかしそうに視線を彷徨わせます。
「なに言ってるん?」
「………………」
サクラ轟沈。
いやぁ、サクラの百面相はどの顔もかわいいですねー。心のアルバムに新たな1枚が記録されました。
「サクラは……したいの? それとも……して欲しい?」
何をか言わないのが形式美。
サクラの顔が耳まで赤くなる。
「なっ!? ちゃうわい!」
なんで関西弁。
「もしかして……、サクラは私がそういうことを要求すると思ってたの?」
「え、あ、その……」
しどろもどろ、もどろしどろ。
「はぁ……そんな大事なことはね、無理やり要求することじゃないの。
……自分の意志でしてくれるのを待ってるに決まってるじゃない!」
どやぁ。
サクラはきょとんし、「くすっ」、失笑。
「ははっ、そうだね。ハルミはそういうやつよね」
そやでぇ。
「わたし、ばっかみたい」
せやろか。
「もぉ、じゃあ何? ハルミの要求」
サクラが真剣なまなざしで見てくる。
プレッシャー!? 封印されしふざけた答え。
真面目に、真面目に答えろ私。
「そうですね。サクラの体を1日自由にさせてください」
やばい、真面目な私どこ行った。
サクラもジト目になってます。
はやく! 真面目な私はやく来て!
「サクラったら、何を考えてるんですか?」
おいぃぃぃ、真面目な私はいないのかー!? いなかったわー、私は私1人しかいなかったわー。
「ハルミこそ何を考えてるの?」
やだー、サクラに嫌われちゃうー。
「え? クリスマスに一緒にお出かけしたいなって考えただけですじょ」
「……じょ?」
「噛んだー、噛みましたー、噛んだだけですー」
「ふぅん。……そういうことにしとくか」
しといてください。マジで噛んだだけっすから。
「さっきサクラも言ってたじゃないですか、枕のお店を紹介してくれるって。
ついでにいろいろな店を回りましょう。
そして夜景が奇麗なお店で晩御飯を食べましょう。
……晩御飯は冗談です。夜には家に帰らないと、潤とお父さんが泣いちゃう」
「ふぅむ」
サクラは私の提案を聞いて考えます。
「うん、いいよ。クリスマスにお出かけだね」
「えぇ、楽しみです」
サクラがにこりと微笑む。どきゅん。
「でも、本当にそれでいいの? 晩御飯とホテルは本当にいいの?」
おぉう、絶対に乗ってこないとわかっていてのカウンターですか。……ならば。
「なんなら今からホテルに行きます?」
「今から学校だよ!」
ですよねー。
「学校には保健室があってだな」
「怪我したり調子の悪い人が行く場所だね」
そだよー。
「間もなく岩永ー。岩永ー」
「では降りますか」
「うん」
今日も2人は仲良く通学するのであった。




