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15奇妙な出会い

 20年4月2日改訂

 陽が沈み、あたりが暗くなってきました。変わらないのは私の心と波の音だけ。

 パソコンの電源をつけたまま夕飯を食べたのは今日が初めてでした。私、悪い子になっちゃった。

 サクラめ、サクラめ、サクラめ。

 恨みごとに合わせて、膝に抱えた枕を叩く。あぁ、こんなことなら、サクラの枕をお持ち帰りしておけばよかった。働け私の脳細胞! 思い出すのだサクラの部屋の空気を! くんかくんか。



 いい加減、ゲームをログアウトしてテレビでも観に行こうかと考えていたら、「おめぇ、そこでなにしてる」と、誰かに声をかけらた。


「うるさいですね、ほっといてくださいよ」

 私は文句を言いながら声のした方を見る。

 そこには変な人間が立っていました。私より小柄で100cmほどの身長、不細工な面構え、通常より大きな耳、短躯(たんく)、薄汚い緑色の肌……人間じゃないな、これあれだ、ゴブリンだ。


 ゴブリンは私のことを警戒しながら近づいてくる。

「落ち込んでる女子(おなご)を見かけて、見て見ぬふりをしたら男がすたらぁ」

 ゴブリンのくせに生意気(なまいき)だ。

男尊女卑(だんそんじょひ)ですか? 今どき流行らないですよ」

 これだから下等生物は困ります。

 ゴブリンはきょとんとし、大声で笑い出した。

「あっはっは、おめぇおもしれぇ女子だな。人間社会がどうだか知らねぇが、おれんとこでも最近じゃ女子の方が強くなっちまってんぞ」

 ふぅん、そうですか。

「おれんはアレン、ゴブリン族オオグロ村のアレンだ。おめぇ、名はなんてぇんだ?」

 ほんとこのゴブリンは、ゴブリンのくせに馴れ馴れしいうえ、偉そうな名前までしてますね。


「知らない人に名乗る名はない」

 アレンは隣に座り、バシバシと背中を叩いてくる。

「おいおい、おれんたちは今言葉を交わして知り合ってんだろーが、かてぇこというねぇ」

 酔っ払いのおじさんか! 無視してたらしつこくなりそうですね。

「はぁ、……ハルミ」

「ハルミ?」

「ただのハルミ」

 アレンは「うんうん」頷きます。

「ハルミか、えぇ名だな。晴れた海たぁきれいな名だぁ」

 意味は違いますが、説明するのがめんどくさいので無視です。

「んで、おめぇこんな所でなに黄昏(たそがれ)てんだ、……まぁ、もう陽も沈んで真っ暗だけどよ。……がははははは」

 アレンは自分で言った言葉のどこがおもしろかったのかわかりませんが、つぼにはまって笑う。


「どうでもいいことですよ、ほんとどうでも。

 人間だったらよくある話です。一緒に遊んでいた親友が他の用事を優先して、途中ですっぽかされたっていうね。

 私も数日前まで似たようなことしてたんです。だから悪気がないってのもわかってるんです。

 でもね、納得いかないっていうか、心がざわついて落ち着かないっていうか、モヤモヤしたものが胸に溜まって訳がわからないんです。

 もうね、自分が何をしたいのかもわかんない」


 私はゴブリン相手に何を語っているんでしょう。

「わかる、わかるぞ」

 共感してくれました。

「おれんも同じ村のやつとキノコ狩りに行った時、熱中しすぎてさ、一人だけ置いて行かれたことがあるだ。つれぇよなぁ。やったやつはほんと悪気はねぇんだろうが、やられた方はたまんねぇよなぁ」

「たまんねぇよなぁ」


 いつの間にか2人で肩を組んで、いろいろ愚痴(ぐち)りあいました。



「それでアレンっちは何しにここに来たの?」

 とてもフレンドリーな呼び方になってました。

「おぉ、そうだった。おれんは普段海の向こうに住んでんだけども、たまに薬草を探しにきてんだ」

「薬草ですか……」

 しょんぼりどよ~ん。

「おっ、どした? なんかあったか?」

「いえ、薬草にいい思い出がないんですよ。初めてのクエストで薬草を探すってのがあったんですが、1つも見つけられず、親友が代わりに見つけてくれたんです」

「……そうかぁ」

 親友が誰か言わなくても察してくれました。


 アレンは腕を組み、目を閉じて考え込みます。

「そだ! おめぇ、おれん代わりに薬草を集めてくんねぇか? クエストっつってたろ、おれんがクエストを出すから、それで薬草あつめてくんろ」

「薬草ですかぁ……」

 ため息を止められない。

「嫌か?」

「嫌か嫌かでいえば嫌ですね」

 正直に答えます。

「いったかて、おめぇも冒険者だろ? クエスト大好きだろ?」

 どこからそんな情報が……まぁ、どうでもいいですか。

「好きか嫌いかでいえば……好きですけど。ここではまだそんなに受けたことないしなぁ」

 私は指で砂に字を書く。さ、く、ま。


 そういえば、ゲームを始めてから本当にこの村と近所の森しか行っていませんね。

「そういやぁクエストの達成報酬を言ってなかったな」

「報酬ですか?」

「SPってのだべ。冒険者はこれを手に入れで喜ぶって聞いたことあるべ」

「……SPですか、たしかに大事なものらしいですけどねぇ」

 煮え切らない私に、アレンも少し苛立(いらだ)ってきたもよう。

「おめぇ、はっきりしろやぁ。おめぇも冒険者だべ? 冒険者なら夢や野望があるんじゃねぇのか。いつまでもぐだぐだすんなし」

「夢や野望ですか……」


 野望……、そう、そうですね。私には野望があったはずです。幸運王に私はなる!

 ……忘れていました。いえ、忘れようとしていたのでしょうか。サクラに置いていかれて。サクラについていけなくて。

 私は勢いよく立ちあがって叫びます。

「サクラ、アイラッビューーー」

 アレンも訳が分からず立ち上がります。

「薬草がなんだーーー」

 私も一緒に叫びます。

「薬草がなんだーーー」

 2人で一緒に。

「「薬草がなんだーーー」」

 うん、私たちはなんだ。



 私はアレンを見下ろします。アレンは私を見上げます。

「いいでしょう、その依頼受けましょう」

「ええだろ、おめぇに任せよう」

 2人は熱い握手を交わす。

「おれんは一週間後にまたここにくるべ。それまでにぎょうさん集めてくんろ。集めた個数によって報酬の数も決めるべ」

 フッ。

「上限はありますか? 私が本気を出せば世界すら支配できますよ?」

 アレンはきょんとんとして、「あっはっはっはっは」、お腹を抱えて笑う。

「おめぇ、大きく出たな。さっきまでのおめぇはもういねぇよぉだ。……ええだろ、上限は無しだ。集めれるだけ集めてこい。報酬もたんまり用意しとくだ」

 ふっ、いいでしょう。

「人間の力、見せて、やるぞ」

「見せてもらおうか、人間の本気を」



◆◆◆◆◆



 浜で落ち込んでいたら面白いやつに出会った。

 人間じゃないのに、人間ぽいやつ。

 少しだけ、ほんの少しだけサクラみたいだなって思いました。

 サクラ、待ってなさいよ。絶対に追いついてやる。

 そして私は幸運王になる!



 この出会いがのちに、世界を大きく動かすことになるとは、まだ誰もしらない。

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