12チュートリアル終了
「さぁ、気を取り直して、残りの狼も狩っちゃいましょう」
「……おー」
サクラのやる気が急暴落している。ここは一つやる気を注入しなければ。
「臀部を揉みしだくとやる気が注入されるという説がありましてね」
「それはただのネタ! 事実じゃないし、やろうとするな!」
ちょろい。サクラのやる気スイッチは見つけてあげるまでもなく、たくさん付いてます。
「よーし、さっさと終わらせるぞー」
サクラが燃えています。燃えるサクラ、萌え~。
「お、今度は2匹いましたよ」
そっと近づきフィッシング。狼を2匹同時に釣り、お城へご案なーい。
お城の中には1匹ずつしか入れないので、1匹ずつ叩いて叩き続ける。
「次っ」
先頭の狼が目の前で敗れても、後ろの狼はひるまず近づいてきます。
「ゲームだからね」
サクラ、それをいっちゃあお仕舞いよ。
3匹目も問題なく排除。
残りも問題なく1匹ずつ仕留めて終わり。
「5匹目も終了です。これでクエストクリアーですか?」
サクラに確認すると、首を左右に振って否定します。
「訓練所の受付で報告したら終了だよ」
なるほど、遠足はお家に着くまで遠足ですか。
「では行きますか」
「ちょっと待って」
村に帰ろうとしたら、サクラに止められました。
「この城どうするの?」
サクラの質問に首を傾げます。
「放置でいいのでは? しばらく時間が経てばリセットされるでしょ?」
サクラも首を傾げます。
「うーん。前例がないからわからないけど……ま、いっか」
そうですよ。分からないことで悩んでいても仕方ありません。細かいことを気にしていると禿るといいますし。
「禿げネタが多すぎる」
うん、わたしもそろそろしつこすぎるかなと思ってます。ですが、お笑いにも鉄板の流れというものがありまして。
「どうでもいいよ」
「そうですね」
私は自分が築きあげた城を背にして村に帰る。
◆◆◆◆◆
ハルミたちが知らない後日談。
ある日の夜。
一人の女性冒険者が村を目指して森の中を歩いていた。
女性は灯りを持たず、月明かりを頼りに進んでいた。
運命のいたずらか、雲が月を隠し、周囲は暗闇に閉ざされた。
女性は細かいことを気にする性格ではなかったので、暗闇の中を立ち止まらずに進み続ける。
そして……。
「あいたっ」
突如壁に当たった。
少しも減速していなかったので、結構なダメージを負った。
「まったく、誰ですかこんな所に壁を作ったのは」
女性は文句を言いながら、壁をぺたぺたと触り、壁の端を探した。しかし、左に行っても壁、右に行っても壁があった。
女性は四方を壁に囲まれた罠に掛かったと考える。
「私を阻めるモノはこの世に存在せぬ」
女性は自分の武器である槌を持ち上げ、壁に向かって振り下ろした。
ドゴン!
壁は脆くも崩れる。
「他愛も無い」
女性は崩れた壁に残された石段を跨ぎ、村へと去っていった。
ハルミ一夜城は一辺を破壊され、今もそこに残り続けている……かもしれない。
誰も存在を知らないので、誰にもわからない。
制作者にも忘れられた存在、それがハルミ一夜城だった。
◆◆◆◆◆
時は戻り現在。
ハルミは訓練所の受付に辿り着く。
「いよいよ運命の瞬間ですよ」
ハルミはここまでの苦労に思いをはせる。サクラの笑顔、サクラの怒った顔、サクラの……、サクラの……。
ゲームの思い出はないようだ。
「ここまで長い道のりだったわ」
サクラはここ数日の思いを振り返る。ハルミとゲームをしたかったり、お猿に負けたり、卵焼きがおいしかったり。
やはりハルミと遊んだゲームの思い出はない。
「それでは行きますよ」
「うん」
ぽちっと。
「「俺たちの冒険はまだまだこれからだ!」」
てってれー♪
『おお、帰ってきたか。……たしかに狼を5匹退治したようだな。ご苦労だった』
『クエスト・クリアー』
『クエスト報酬を手に入れた』
『チュートリアル・クリアー』
『チュートリアルのクリアー報酬でSPを1手に入れた』
『オープン・フィールドが解放されました』
……。
「なんだかいろいろでましたよ」
「気にしない、気にしない。ひとまずチュートリアル終了おめでとー」
「おめでとー」
「これで一緒に遊べるようになったよー」
「なったかー」
しかし、今言っておかなければいけないことがあります。
「これパソコンゲームだけど、パソコン1台だけで同時に2人で遊べるの?」
「……あ」
サクラ茫然棒立ち。気づいてなかったのね。
サクラの部屋にはパソコンが一台しかない。
もちろん他の家族もパソコンを持っている。
しかし昔、サクラが家族のパソコンを使っている際、パソコンをウイルス感染させたことがあり、それ以降家族のパソコンの使用を禁じられているのである。
つまり……。
「今、一緒にゲーム出来ないよね?」
「……はい」
「なら、そろそろこのゲームやめよっか♪」
私が笑顔で提案すると、サクラが慌てて止める。
「待て待て待て待てー、もう少し、もう少しだけ付き合って」
ずきゅーん。サクラが私に告白を。
「いいでしょう、ちょっとだけですよ」
もー、仕方ないですねー。
「ありがと、本当にすぐ終わるから」
おぉう、サクラとの交際が一瞬で破局するのですか、……無念。




