11このツチはいいツチだ
伝説の槌『トリック・オア・トリート』を入手したハルミ一行はついに魔王討伐に向かう。
「魔王じゃなくて狼だけどね。それに1人で一向は盛り過ぎだよ」
サクラがあきれた表情になります。
「私とサクラは一心異体、2人で1つのキャラクター『ハルミ』だ」
キリっ。
「さ、狼退治に向かうわよ」
サクラにスルーされました。
「でも逆に考えてくださいよ」
「なにを?」
「あんな可愛い動物を狩れなんて、よく簡単に言えますね」
「どこがっ!?」
先ほど出会った狼さんは、3匹目以降、涎を大量に垂らしながら白目を剥いて襲いかかって来ていました。あんなに慕って集まって来るなんて、
「可愛いですよね?」
「恐ろしかったわ!」
おやおや、サクラも昔はよく群がられていたじゃないですかー。
「言わないでー、あれはもう忘れたいのーーー」
小学校高学年あたりのサクラはヒーローに憧れていて、困った人がいれば助けに入り、いつしか学年問わず学校中の女の子に囲まれムガガガガ。
「やめなさい」
あぁ、サクラの手が私の口に……。今ならこっそりとサクラの指を舐めれ、くっ、くそっ、顎を押さえられて口が開かない。やるようになったな、サクラ。
「ハルミの考えそうな事はお見通しよ!」
さすがサクラ! 私の事をわかってるぅ!
ですがまだまだですね。
必殺『神の見えざる手』。
説明しよう。『神の見えざる手』とは、私の柔らかい関節を活かし、サクラの視覚外から後方に腕を延ばし、サクラの臀部を、
「やらせないよ!」
ゴン!
あいたっ。
くっ、サクラの臀部に気を取られている一瞬の隙をつき、口を押さえていた手を拳骨に切り替え頭部に落とす技術……。
「やるじゃない」
「褒められてもうれしくない」
1日1回以上、サクラに愛の言葉と褒め言葉を囁くのが日課ですからね。
「いつからそんな日課が……」
知りたいですか? あれは……、
「言わんでよろし」
仕方ないですね。この話はまたの機会に。
「じゃあ森に行くよ」
「いったい、何回繰り返せばいいんだ」
「ハルミの運と行いが悪いからだよ」
「今、運が悪いっていいました?」
「言ってない。行いが悪いって言ったの」
「そう。明日からサクラをからかう回数を1日1回減らすわ」
「完全に無くしなさい!」
「駄目よ、毎日サイコロを振る楽しみが無くなるわ」
「サイコロで回数決めてるんかい!」
さ、漫才もこの辺でお仕舞いにして。
「「森へ行GO!」」
うん。今日もサクラと息ぴったり。
◆◆◆◆◆
やって来ました森です。でんぐり返しをしてみますか。あ、背中で石を踏んで悶絶しそう。
「そういえばサクラ」
「なに?」
「森の入口付近で大量の石を拾ったじゃないですか」
「そんなこともあったね」
「あれだけいっぱい石が手に入るということはクラフトして、もっと違う物が作れるんじゃないかと思ったんですけど」
「良いところに目を付けたね。いずれ必要になる知識のひとつだ」
サクラが腕を組んで、「うんうん」と頷きます。
「つまり、この石たちも一つ一つは小さいけれど、いずれ……」
「銀河も越える大きな存在に!」
まさに。
「「無限の可能性!!」」
チャラリ~チャラ、チャラチャリララ~♪
「あ、ごめん。電話だ。ちょっと席外すね」
サクラはスマホを手に取り、部屋から出て行きました。
「なぜチャルメラ」
まぁ、それは置いといて。
「サクラがいない内に作業をしましょう」
さぁ、忙しくなりますよ。
◆◆◆◆◆
10分後。
「待たせちゃって、ごめんね」
サクラが部屋に戻って来ました。長電話は女子中高生の特権です。女子中高生は特権階級です。
「ううん、今来たとこ」
ここは定番の返事。
「じゃ、行こうか」
もちろんサクラも。
画面は先ほどと変わっていないので、サクラは何も気づいていません。
「ねぇ、サクラ、さっきはどこまで話したっけ」
知ってて振ります。ジャストミートってグラム注文したお肉が丁度満足するサイズだった時の言葉じゃない。
「石の秘めたる可能性について熱弁してたあたりだね」
えぇ、そうです。よく覚えていましたね。飴ちゃん食べる?
「サクラが席を外している間、私なりに石の使い方を考慮してみたのです」
「ふむふむ」
むふむふ。
「見てみます?」
「いいじゃろ、儂にそなたの腕前、見せてみるがよい」
サクラは腕を組んで、体を反らします。
どこのご老人ですか。
「では、さっそく」
某ナレーション風。
ご覧いただけるだろうか。
何もなかった森の空き地。
突如聳え立つ石の壁。
隙間なく敷き詰められた石たちは、如何なる侵入をも許さない強固な壁に早変わり。
建物の外を一周してみると、外観が一目でわかります。
上空から見れば、奇麗なカタカナの『コ』の字に見えることでしょう。
一辺の壁を完全に取り払い、ドアの開け閉めに煩わされることが無くなっています。
さらによく見てください。二辺の壁が平行ではなく、壁のない側に向かうにつれ、かすかに内側に狭まっていることで、部屋の奥に行くほど広いスペースが確保されています。
では、中に入ってみましょう。
天井を取り除いて吹きさらしにしたことで、陽光の取り入れは完璧。
ビー玉を床に転がしてみると、あら不思議。入口の方に転がっていきます。斜面を作ることで、もし雨が降っても水が流れて、家の中に溜まらない親切設計。
みなさんも、こんな家に住んでみませんか?
「こんな家住めるか!」
やだなぁサクラったら。
「村がすぐそばにあるのに、なぜこんな不便な所に住む必要があるんですか」
「あんたが作ったんやないかいっ」
すかさずサクラがツッコンでくれます。
「それで、いつの間にこんなの作ったの」
「さっきサクラが離席している間に」
「ですよねー」
ですだよー。
「そもそもよくこんなの作れたね」
サクラは感心した目で見てきます。もっと尊敬してもいいのよ。
「これぐらい当然ですよ。人は城、人は石垣、人は堀って言うじゃないですか。石垣も作れずして人を名乗れますか」
私はドヤ顔でそういった。
サクラが遠くを見る目になりました。
「わたしは作れない……」
なるほど。
「サクラはサクラだからね」
「訳が分からないよ」
でしょうね。私が分かっていればいいんです。
「とりあえず」
お、気を取り戻しましたね。
「見せてもらおうか、ハルミが作った石垣の性能を」
お任せください。墨俣一夜城はここにあり。
◆◆◆◆◆
「第一狼発見」
早速狼を見つけました。一匹でいたので好都合です。
そっと近づき……こちらに気づきました、近づいてきます。
すかさず後退。
つかず離れずの距離を保ち、我が城にご案内。
私は三方向を石壁に囲まれて逃げ場なし。唯一の入口からは狼が迫ります。
焦らず槌を構え、狼が射程に入った瞬間、
「打つべし」
振り降ろします。
ぺちっ。
ダメージ1。
まだまだこれからよ。
「打つべし打つべし」
ダメージ1、ダメージ1。
「打つべ打つべ打つべ……」
ダメージ1、1、1、1、1、1、……。
この間敵に攻撃されないのかって? もちろん、武器と城のおかげです。
(キャラの)ハルミの身長(期待値150cm)より大きな槌『トリック・オア・トリート』(目算170cm越え)は、柄のついた、ものを叩くのに使う道具、つまりハンマーだ。
槌系装備の特徴として、相手の動きに合わせてうまく攻撃を当てると、相手に硬直時間を与えるという効果がある。
そして、ダメージが1しか与えられなくても、攻撃を受けた狼に硬直時間ができ、硬直が解けた狼が動き出した瞬間に追加攻撃でまた硬直。その繰り返し。
また、狭い屋内で長い得物を振り回した時に、壁にぶつけたと判定されて攻撃がミスして攻撃者側に硬直時間を与えられる……という設定がゲームにある可能性を考慮して、天井を取り払い、槌を振り上げても天井にぶつけずに振り降ろし続けられる。
さらに、床に傾斜を作ることで敵の動きを阻害して容易に進めなくする……だけでなく、槌による振り降ろし攻撃で彼我の高低差が考慮され、攻撃に高ダメージとかの有利な判定がされればいいなーという思惑。
今回は実証されなかったが、入口を狭くしたことで敵が一匹ずつしか入れず、同時に複数の敵を相手にする必要を無くす狙いがある。
もちろんこの城に弱点がない訳ではない。
ハルミはまだこの世界に着いたばかりで、この周辺の生態系に詳しくない。
そのため、先ほど確認した狼を参考にして作った城は、強度がそれほど強くない。熊が来ても安心といった程度だ。
例えばドラゴンがここに現れた場合、一瞬にして破壊されるだろう。
しかし、このような始まりの村の近くにドラゴンのような圧倒的存在が生息するだろうか? いや、いない。
つまり、この森でハルミが自城に籠もった時、負ける可能性は皆無だった。
「……うちゅ、うちゅ、うちゅうちゅ、うちゅうじん」
ダメージ1、1、1、1、1。
何度目の攻撃だろうか、ついに……。
『狼を倒しました』
「ふぅ、どうですサクラ、私の城とサクラがくれた最高の武器は」
サクラは現実を直視できない顔つきになっています。
「……なんじゃこりゃぁぁぁ」
たぶん、ゴズメモで遊んでいるプレイヤーの9割が思うだろうことを代弁しました。
「こんなオブジェクトの存在が許されるの」
「ここにありますよ」
サクラは首を左右に振ります。
「これは、製作者に対する叛逆だ」
サクラは城の存在を否定するが、確かにここに存在し、クラフトもゲームに実装された機能の一つだ。
ただし、ハルミが作ったものはゲームシステムにアシストされた制作過程を経ず、知識として知っていた石の積み方で石を積んだだけ。そう、石を積んだだけ。
実は、ゲーム的には城を作ったのではなく、積んだだけの石山が城のような見た目であり、城のような効果を発揮しているだけだった。
もちろんハルミは全く気付いていない。本当にゲームシステムを使い、城を作ったと考えている。
それに……、
「サクラがくれた、この『トリック・オア・トリート』のおかげですよ。この槌はいい槌だ」
武器の性能のおかげで勝てたと勘違いしていた。
だがしかしサクラは見逃さなかった。
「攻撃は全部ダメージ1で全く武器の性能は関係なかったよ!」
「……そうでした?」
「そうだよ!」
『トリック・オア・トリート』の特殊効果が発動する機会が一度でもあるのだろうかと、将来が心配になるサクラだった。




