10そこに浪漫があるからさ!
20年4月2日改訂
ハルミ、(村に)リターンズ。
「さぁ、一狩り行こうぜ」
私は復活したキャラを動かして、教会から出て森に向かい、
「待てぇい」
サクラに肩を掴まれました。
「先に短剣を装備しなさい」
おっと、短剣を外して素手だったことがバレましたか。先ほどまで両手足に装備していた狼シリーズは、死に戻りの際に失いましたからね。
だがしかし。
「短剣? ないですよ」
「は?」
「いや、だから持ってないです」
「はぁっ!?」
サクラに問い詰められて、短剣を売ったことがバレました。
「あんた何してんのよ」
今回は頭にツッコミなしですか。
「叩きすぎて、バカになられたら困るからよ」
「バカにしないでよ~」
「あなたのせいよ!」
さすがサクラ、わたしのボケについてこられるのはサクラだけです。
「嬉しくない……」
もっと喜んでいいのよ?
「なんだか疲れてきた」
ゲーム、やめますか?
「とりあえず訓練所行きなさい」
イエス、アイ、マム。
◆◆◆◆◆
訓練所に到着~。
さて、道具屋に……。
「待ちなさい」
……行かないの?
「お金を持ってないでしょ」
おやおやおや~、なめてもらっちゃあ困るぜよ。
「短剣を売ったお金があります。きりっ」
ここぞとばかりにドヤ顔を決める。
「いくら?」
「10マコンです」
「ですよねー」
このゲームの通貨単位はマコンという。先ほど短剣を売った時に知りました。
「10マコンじゃ何も買えないよ」
「そうですか、では今着ている服も売りましょう」
幸い初期装備で服を上下着ています。あとは石も売れるでしょうか。
「全部売っても装備を買える金額にはならないよ」
そうでしょうか、確認してみましょう。
「おじさん、ちょっと邪魔するよ」
道具屋のおじさんに話しかけてみました。
「邪魔するなら帰ってー」
さすがサクラ、無駄のない流れ。
……結果。
「無理ですね」
一番安い武器で100マコン。所持品をすべて売った場合の合計金額を試算してみたところ、30マコンにしかなりませんでした。石は0マコンです。ちくせう。
「ではどうしましょう。素手で殴りますか」
地道に今ある装備(素手は装備なのか?)で頑張るしかないかな、と考えていると。
「訓練所の受付に行って、特典コードを入力すればアイテムが貰えるよ」
「ほほう、サクラはなにかお得なコードを知っているのですね。教えてくれさい」
サクラにおねだりしてみるが、首を左右に振って断られました。がーん。
「それはまた今度ね。ネットで調べたらすぐ出てくるのもあるから、今度探してみて」
えー、今教えてくれてもいいじゃなーい。サクラのけちんぼー。
「サクラが手取り足取り教えてくれる約束でしたよね?」
私が約束を持ち出すと、サクラは「うー」と悩み始める。
「じゃあ、一個だけ、一個だけだからね」
ちょろい。
サクラに教えてもらったコードを入力してっと。
『薬草を手に入れました』
「ちくせうがああああああ」
ハルミ、ハッキョウ。
「謀ったな、サクラ」
おのれサクラ、ここぞとばかりに日頃の恨みを晴らしに来たか。
「はは、あはは」
サクラは私を見て大笑いする。
もー、サクラが可愛い顔をしているので許しちゃう。
「それで、薬草を装備して戦えばいいの?」
「違う、違う」
サクラは否定します。私はサクラの可愛らしさを肯定します。
「この前送った招待コードを入力したら、過去のイベントアイテムが1つ貰えるんだけど……パソコンのメールに送ったから今はわからないか」
サクラが残念そうにします。しかし私はサクラの期待を裏切らない女だということを忘れてもらっちゃ困ります。
「覚えてますよ?」
「え?」
サクラ呆然。桜は自然。
「だから覚えてますって」
サクラは全く信じていないようだ。
「何桁あると思ってるの?」
「16桁です」
私は答えると、カタカタカタカタと入力する。
『招待コードの入力に成功しました』
「ほらねー?」
「嘘だーーー」
サクラが信じられないものを見るような目で見てきます。見る、me。
「私がサクラから貰ったメールの内容を忘れるわけないですよ。きりっ」
ドヤ顔・改。後期開発型ドヤ顔。
「……そうだね、ハルミはそういうやつだよね」
サクラはそう言うと、私の頭をポンポンと優しく叩いてくれる。
きゅ~♪ もっと褒めてくれてもいいのよ?
◆◆◆◆◆
「さぁ、新しい武器を選ぶわよ」
サクラは場の空気を変えようと、殊更明るく言います。
「ほいさー」
早速貰えるアイテムを見てみましょう。複数のアイテムから選べるようですが、しかし多いですね。
「まずは僧侶が装備できる武器に絞ろう。ソート機能で探したいアイテムだけに絞れるから」
「えー、装備できなくてもいいので、高く売れるアイテムにしましょうよ。イベントの限定アイテムなら、他のプレイヤーに高く売れるものもあるでしょ?」
古いアイテムを売り、最新アイテムを買う。それがRPG。
サクラは呆れた表情になる。
「まずは自分の装備を手に入れなくちゃ、チュートリアルすら終わらないでしょ」
はっはっは、何をおっしゃるやら。
「素手がありますよ?」
「そこから離れなさい!」
ふむ、少し同じネタを引っ張りすぎましたか。大人しくサクラの言う通りに進めましょう。
私のジョブである僧侶が装備できるのは杖系、ロッド系、短剣を含むナイフ系、棒系、槌系……といったところです。
「普通の僧侶なら、杖系かロッド系を選ぶわけだけど」
「パス」
「ですよねー」
うんうん、サクラは私をわかってる。普通の生き方には興味がありません。
「残された選択肢で使えそうなのは……ナイフ系の『ホーリーナイフ』、棒系の『うまいんか棒』、槌系の『トリック・オア・トリート』の3つね」
ほほう。
「『うまいんか棒』って名前、ヤバくないですか?」
私はストレートに尋ねます。
「言うな」
サクラが苦々しそうに言う。
「そのアイテムは某お菓子メーカーとのコラボの時に配布されたアイテムで、装備しながらアイテムとして使うとライフが回復する便利な武器なの」
なるほど。
「食べるんですね?」
「食べないけどね?」
食べたら無くなりますもんね。
「ちなみに、コラボイベントの大会優勝者にはお菓子一年分が送られました」
「365本?」
「本数はメーカーと優勝者しか存じません」
ふむふむ。
「サクラは優勝できなかったわけですね?」
「そういうこと!」
それは自慢げに言えることでは無いでしょう。
「では、『ホーリーナイフ』のうんちくをどうぞ」
私の振りに、サクラは「こほん」と一息つき。
「攻撃力が高くて、まれに聖属性の追加攻撃があります」
……。
「それだけ?」
ちょっと期待してたのと違いますね。『ホーリーナイフ』を『ホーリーナイト』とかけてると思ったので、敵を切ったらジングルベルが流れるのかと期待したじゃないですか。
「クリスマスイベントのアイテムだから、『ホーリーナイト』とかけてるよ」
その割にはクリスマスとの関係性が弱いですね。
「クリスマスだから真面目な内容になったんじゃない?」
……はぁ。
「つまんねぇぇぇぇぇ」
「いうなぁぁぁぁぁ」
ほら、クリスマスツリーのてっぺんについてる星、ベツレヘムの星をナイフの先端につけるとかさぁ……魔法少女の魔法のステッキか!
「で、残りは『トリック・オア・トリート』ですか? どうせハロウィーンイベントのアイテムなんでしょ」
「そうだよ」
「お菓子を食べるんですか? いたずらするんですか? サクラにいたずらしちゃいますか」
「すんな!」
「サクラがいたずらするんですか?」
「しないわ!」
「いつでもカモンですよ!」
「……」
あ、サクラが悟りを開いた。目が少しだけ開いているのが悟りの特徴です。
回復には、煽てるのが一番です。
「それではサクラ先生、説明お願いします」
「うん。任せなさーい」
ちょろい。
「こほん。『トリック・オア・トリート』で攻撃すると十中八九、与ダメージが1になります」
「……だめじゃん」
サクラはちっちっちっと、立てた人差し指を左右に振る。
「残りの確率で、何が起こるかわかりません」
……ん?
「何が?」
「起こるか」
「わかりません?」
「うん」
「……パルプンテかい!?」
思わず本気でツッコんでしまう。
パルプンテとは某有名RPGに出てくる魔法の1つで、良いことが起こったり、悪いことが起こったり、踊りだしたり、魔人を召喚したり、何が起こるかわからない魔法です。
サクラは視線を泳がせる。
「それより……性質が悪いというか……」
「いい方に? 悪い方に?」
「いい方に。しかもすごく」
……はぁっ!?
「最高やないかい!」
なぜか大阪弁に。
「詳しく教えてくだされ」
サクラは上空に目線を送り、サクラ熟考モード!
「わたしも詳しくないんだけど、本当に何が起こるかわからないらしいの。
検証好きのプレイヤーが検証した結果でも状態異常各種、クリティカルヒット、即死、回復、蘇生となんでもあり。
その確率配分も謎。
しかも対象はスライムからボスモンスター、プレイヤーと相手を選ばず。
イベントアイテムでなければ確実に能力を下方修正されるアイテムよ。
いや、イベントアイテムでも下方修正されるアイテムはあるんだけど、このアイテムは内容や効果対象を変えずに成功確率だけ下げられ続けて、普通の人はネタ武器としか考えていないレベルに……」
なるほど。
「これにしましょう」
「えっ」
なぜそこで驚くのサクラ。なぜそこに陸奥の桜。
「だって、普通の人でもほとんどダメ1なんだよ? ハルミの場合、100%ダメ1になっちゃうよ!?」
サクラは慌てて止めますが、私は車止めがあっても止まらない女ですよ。……いや、車止めでは止まりましょう。
それに今更、私の運のなさを持ち出す必要はないでしょう。最初から最悪なんだから! ……誰だ、今私の運が悪いって言ったやつ? 私だよ!?
「0じゃないなら、たとえ成功率が1%しか無くても、そこに1%あるのなら」
ここで一拍。
「「浪漫を取らず、何を取る!」」
さらに一拍。今度はサクラの先攻。
「どうして困難な道を行こうとするんだ?」
「それは……」
「それは?」
はいっ!
「「そこに浪漫があるからさ!」」
……決まった。小学校時代に2人で何度も練習した決め台詞。久しぶりでしたが、なかなかの完成度です。
「それではこのアイテムにしますねー」
サクラももう止めません。うんうんと腰に手を当てて頷きます。
「好きにしな。これはお前の物語だ」
行くぞ!
『トリック・オア・トリートを入手しました』
そして装備して、
「「終わりだ!」」
うん、完璧。




