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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
三章 Unhappy Umbrella,
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三十六時限目 月ノ宮楓は再び立ち上がる


 有りか無しか、可能性を考える。


 机の棚に飾ってある写真に目を移すけれど、写真の彼女はそっぽを向いたままで、私に微笑みかけてくれない。


 最近、彼女と触れ合う機会が増えて、欲望の渦が鳴門海峡の渦潮のように轟き、いくつも渦を作って自我を呑み込むような錯覚を覚える。


 折角の休日なのに、私はどうして自室の勉強机に項垂れているのか……。


 それは、昨日の夜。


 彼女をデートに誘って〈失敗〉したからだ。


『ごめん、明日は用事があるの』


 手元にある携帯端末の画面には、恋莉さんから送られてきた無情なメッセージが、ディスプレイの明かりと共に浮かび上がる。


 用事というのは、粗方、優志さんと会う約束でもしているんでしょう。それは想像に難くない。ですが、このままでもいけない。なにか手を打たなければ、恋莉さんは遠くへ行ってしまう。


 誕生日、クリスマス、祝い事でのプレゼントは、全部自分の手で掴み取ってきた。

 

『月ノ宮の人間として自覚しなければならない』


 欲しい物が無償で手に入ったのは小学校低学年まで。以降はプレゼン方式で、最初は『これが貰えたら大切にする』というような簡単なプレゼンで通った。然し、年を重ねる毎に通用しなくなり、いまでは資料とモニターを使って『この商品が自分に(もたら)す恩恵』を、詳細に説明する必要がある。


 現在、私が高校生には相応しくない高額なお小遣いを与えられているのは、そのプレゼンを勝ち取ってきた証であり、そのおかげでプレゼントを請求するプレゼンを簡略化することに成功した。


 自分のお小遣いである程度の物は買えるのでプレゼンをする手間がなくなった、ということ。


 そうして私は、自分の力であらゆるモノを勝ち取ってきたけど、今回ばかりは、いくらシミュレーションしても思い通りにことを運ぶことができない。


 こんなにも欲しくて、喉から手が出るほど恋い焦がれる想いなのに、掴もうとしても指の隙間からスルッとすり抜けてしまう様は雲を掴むようにも思える。


「どうすればいいのでしょう……」


 大きな溜め息と一緒に何度も吐き出した言葉が部屋に充満して、私を押し潰そうとする。従来の方法ではいけない……。でも、この難問を突破するだけの妙案が思い浮かばない。


 参考程度に開いた『恋愛に関してのホームページ』には、だれでも述べられるような定型文しか記されておらず、かと言って、私がしようとている恋愛が、そもそも世間一般からすれば型外れなのも事実であり、その記事が自分に取って有意義なものではないのは、ページを開く前からわかっていた。


 そうせざるを得なかったのは、それこそ藁をも掴む想いだったから。


 今更『1+1=2』なんて教えられても……。


 チクタクと秒針が進む音と、遠くから訊こえる配管工事のけたたましい音が、私を急かすように居座る部屋は息苦しい。


 太陽は今日も猛威を奮い、水不足が懸念されるとアナウンサーが語る傍らで、専門家は危機感を抱かず、中頃にやってくる熱帯低気圧が解決してくれるから心配しなくてもいい、と口角を上げて小馬鹿にしているような態度を取っていた。


 専門家の方々からすれば、過去のデータを参考に予測を組み立てることは不可能ではないし、昨今の夏は梅雨明けが遅いのも重なり、甚大なる水不足の被害は知り得る情報にはない。


 だがしかし、近年は水害が頻発していることから、私はこの専門家の言葉に共感できなかった。


『水を張った桶に一滴の雫を落とすと波紋を広げるように、どんなに些細な出来事でも、その一滴が命取りになる』


 と、お父様がよく仰っていた。


 その意味を、身を持って体感している。


 私は、優志さんを見くびっていた。


 殿方である彼が女性の格好をしたとて、根本は殿方である以上、恋莉さんの心を魅了し得るはずはない。……そう高を括っていたのに、彼が余りにも完璧に演じるものだから、ここまで追い詰められている。しかも、その完璧だと思う言動も上手い具合に隙を見せて、高嶺の花ではなく、自分も野に咲く花の一片に過ぎないと相手に思わせることで、『手を伸ばせば届き得る距離を保つ』のだから、正直に申し上げると質が悪い。


 優志さんは私の友人である。


 それは、現状も変わらない。


 でも、優梨さんに至っては〈恋敵〉というよりも〈もっと凶悪ななにか〉だ、と認識を改める必要がある。


「この際、優志さんを脅してでも……」


 そう考えて、私はその浅ましい考えを振り払うかのように首を振った。


 欲しいものは、どんな手段を用いても手に入れる。月ノ宮の家訓であり、絶対の法。ひとの道を外れてまで守る家訓なのか? そう、疑問に思うことが多い。だけど、この方法しか思い当たらないのも事実。

 

 現時点で、私の勝率は二割程度。いや、もっと低い可能性を視野に入れて考える。なにが足りないのか。


 一人で事を運ぶには限度があるならば、利害関係が一致するだれかを味方に引き入れるのはどうか。恋莉さんが優梨さんにお熱なら、優梨さん自身を別の方向へ誘えばいい。


 それには、うってつけの人物がいた。


 私が恋莉さんのことが好きなように、優梨さんに恋心を抱く人物が近くにいる。


 佐竹さんと優梨さんをくっ付けてしまえば、恋莉さんの性格上、それ以上の手出しはしない。


「そうすれば、必然的に私を見てくれる」


 机の端に追いやっていた携帯端末に左手を伸ばして掴むと、佐竹さんに連絡を取るべく通信履歴を探る。


 その最中に、本人からメッセージが届いた。


 なんというタイミングでしょう。


 画面に表示された名前を指でタップすると、メッセージが表示された。


『相談があるんだ。時間があったらダンデライオンに来てくれ』


 ええ、問題ありません。


 むしろ、好都合です。


 そうは返さず、『いまから向かいます』とだけ返信をして、着の身着のまま部屋を飛び出した。


「高津さん、車を出して頂けませんか?」


 二階の廊下から、玄関で作業をしている執事の高津さんに向かって声を大にした。


「それは構いませんが。……どちらへ?」


「お兄様の店です」


「かしこまりました……ですが、お着替えになられたほうがよろしいかと思います。私は車を手配して参りますので、その間にご支度を」


「そうですね、ありがとうございます」


 さすがに、こんな格好で外に出られませんね。


 だらしない格好ではないが、月ノ宮の名を背負う以上、それ相応に着飾る必要がある。


 私は部屋に戻り、クローゼットを開け放った。



 

【備考】


 この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』をご覧頂きまして、誠にありがとうございます。

 今回の物語はどうだったでしょうか?

 皆様のご期待に添えるように全力で書いていますが、まだまだ実力不足な私です。次はより面白い作品が書けるように、これからも努力して参ります。


【瀬野 或からのお願い】


 この作品を読んで「面白い! 応援したい!」と思って頂けましたら、お手数では御座いますが『感想』『ブックマーク』『評価(最新話の下部にあります)等』をして下さると、大変励みになりますので、どうかよろしくお願いします。


【誤字報告について】


 作品を読んでいて〈誤字〉、もしくは〈間違った言葉の使い方〉を見つけた場合は、どうぞご遠慮なく〈誤字報告〉にてご報告下さい。

 その全てを反映できるかはわかりかねますが(敢えてそういう表現をしている場合も御座います)、『これはさすがに』というミスはご報告を確認次第修正して、下記の【修正報告】に感謝の一言を添えてご報告致します。


「報告したら不快に思われるかも」


 と躊躇されるかも知れませんが、そもそも『ミスしているのは自分の責任』なので、逆恨みするような真似は絶対にしません。どうかご安心してご報告下さいませ。勿論、誤字しないのが一番よいのですが……。


 報告、非常に助かっております。


【改稿・修正作業について】


 メインストーリーを進めながら、時間がある時に過去投稿分の改稿・修正作業を行っております。

 改稿・修正作業はまだまだ終わりませんが、完成した分は『活動報告・Twitter』にて、投稿が済み次第お知らせ致します。



 最後になりますが、現在ブクマして下さっている方々や、更新してないか確認をしに来て下さる方々、本当にありがとうございます。

 完結を目指してこれからも書いて参りますので、引き続き応援して下さると嬉しいです。


 これからも、


【女装男子のインビジブルな恋愛事情。】


 を、よろしくお願い致します。


 by 瀬野 或



【修正報告】

・2019年1月8日……誤字報告による誤字修正。

 ありがとうございます!

・2019年2月22日……読みやすく修正。

・2020年1月23日……本文の修正。

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