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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
三章 Unhappy Umbrella,
89/677

三十四時限目 ファミレス注文問題[後]


「随分と久しぶりな気がするわ」


 店員さんに通された席は、初めて会った日と同じ席だった。


「この席に、運命的なものを感じてしまうわね」


「大袈裟だよー」


 と答えながら、メニュー表に手を伸ばして、レンちゃんが読みやすいように広げた。 


 ──私は……。


「え、なに?」


 店内に流れるBGMと、周囲の雑談の声で訊き取れず、「もう一度言って?」の意味を込めて訊ねたけれど、レンちゃんは首を左右に振った。


「なんでもないわ。……そんなことより、ユウちゃんはなに食べる?」


 そんなこと、で片付けていい話だったのかな。でも、詮索したら気を悪くさせてしまうかも知れないし、単なる独り言だったなら二度も言いたくないよねと結論付けて、メニュー表に目を落とした。


 ハンバーグ、ミックスグリル、ステーキなんて素敵ねえ……、なんて下らない駄洒落を胸中に留めて、ご機嫌に添えられた『参考写真』を見やる。


 料理名の横に添えられた写真は、どれも湯気が立ち込めて、高級レストランで提供されそうな映り具合だけれど、実物はもっとこう、不景気にリーズナブルをプラスして、更に、人件費やらなんやらを差っ引いた物が出てくるんだろう。アベノミクスだか知らないけれど、ハンバーグの付け合わせに、ベジタブルミックスを添えるのだけはやめて欲しい。


 フォークとナイフでベジタブルミックスと対峙したときの絶望感といったら、ゼット戦士全滅くらいの悲壮感すら漂うんだよ? せめてスプーンを下さい。なんならお箸でもいいいから! って懇願したくなる気持ち、だれしも一度は経験してると思う。


 お肉のページをさらっと受け流すように捲ったレンちゃんを見て、ふと疑問に思った。


 普通の女の子って、なにを注文するのが正解なんだろう……?


 女子高生がファミレスで「わあ、ステーキよ! 素敵♪」と注文する姿は想像し難い。私的にはあり寄りのありで、お肉を美味しそうに食べる姿は微笑ましいけれも。じゃあ、無難にミックスグリルはどう?


「ハンバーグ、エビフライ、鶏肉のソテーが一緒になってるなんて、まるでメインディッシュのエレクトリックパレードだわ♪」


 ……ともならないよね。


 難しい、意外に難しいって唸っていると、大切なことを思い出した。


 いや、思い出してしまったと言い換えるべき?


 私の正体が優志であること、それは、既にバレている。


 その事実に気がついて、今更ながら、『レンちゃん』と呼ぶのは馴れ馴れし過ぎるのでは? と、忽ち恥ずかしくなってきた。


「顔赤いけど、どうしたの?」


「あ、ううん。大丈夫!」


 一瞬だけ、優志の感覚に戻ってしまった。


「私は決まったけど、ユウちゃんは決まった?」


「え、えっと……」


 そうだ。


 この際、本物の女子高生に答えを訊ねてみよう。そのほうが手っ取り早いし、間違えることもなくなる。


「変なこと、訊いてもいい?」


「うん?」


「〝普通の女子高生〟って、なにを注文するのが正解なのかな……」


 え? と、レンちゃん戸惑いの声を漏らした。


「まだ、女の子がなにを好むのかわからなくて」


「そういうことね」


 レンちゃんはぶつぶつと独り言を呪文のように唱えながら、メニュー表を何度も開いては、次のページを開き、あーでもないし、こーでもないしと頭を抱えた。


 暫くの間、レンちゃんはメニュー表と睨めっこしていたけれど、はたと顔を上げて私を見た。


「一緒にいる相手にもよるけど、あまりがっつりした男子向きなメニューは頼まないわね」


 つまり、お肉系は全滅で、ラーメンはぎりぎり許せる範囲って感じかなあ……?


「気心の知れた間柄でも、ミックスグリルが限界ね」


「どうしてミックスグリルはいいの?」


 肉料理が無し寄りの無しなら、ミックスグリルだって例外にはならないはずじゃない? 不躾に訊ねた私を咎めずに、レンちゃんは丁寧な口調で答えた。


「ミックスグリルは、いろんな味が楽しめるからよ。男子は一つの物をお腹いっぱい食べたいと思うけれど、女性は色々な味を少しずつ楽しみたいの」


 全ての女性がそうではないわよ? と、注釈を付け足した。


「無難に済ませたいなら、パスタ、ピザ、ドリア辺りがいいとは思うけど」


「けど?」


「私はそういうの気にしないから、食べたい物を注文していいわよ?」


 なるほど……。


 女子世界において、がっつり系の肉料理を人前で食べることは憚られるということがわかった。


『ねえ見て! あの人、人目を気にしないでステーキなんか食べてるわ! 女性なのに恥ずかしいわねえ……』


 なんて思われた日には、人生の終わりを悟る勢いなわけだ……、なにそれ超怖い。


 マナー講師が教える『とんでもマナー講座』に近いものを感じた私は、レンちゃんが持ってきてくれた水に口をつけていいものかどうかさえ悩みそうになる。


 先方が出したお茶に手をつけるのは、マナー講師的にはマナー違反なんだって。


 小学校では、給食を残すことがマナー違反だったのにね? 不思議な話ねえー。


「変な気を回さないでいいわよ?」


「う、うん……。明太子パスタにする」


 こんな些細なことにも落とし穴があるなら、この先、あと何回こういう疑問にぶつかるのか。その前に、パスタだけでお腹が満たされるのか? いまはそれだけが心配。


 自分の設定をどれだけ注ぎ込んでも、姿を女の子に変えたとしても、胃の大きさまではどうにもならない。


 根本的な問題というのは、ちょっとやそっとじゃ変えられたりしないんだ。



 

【備考】


 この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』をご覧頂きまして、誠にありがとうございます。

 今回の物語はどうだったでしょうか?

 皆様のご期待に添えるように全力で書いていますが、まだまだ実力不足な私です。次はより面白い作品が書けるように、これからも努力して参ります。


【瀬野 或からのお願い】


 この作品を読んで「面白い! 応援したい!」と思って頂けましたら、お手数では御座いますが『感想』『ブックマーク』『評価(最新話の下部にあります)等』をして下さると、大変励みになりますので、どうかよろしくお願いします。


【誤字報告について】


 作品を読んでいて〈誤字〉、もしくは〈間違った言葉の使い方〉を見つけた場合は、どうぞご遠慮なく〈誤字報告〉にてご報告下さい。

 その全てを反映できるかはわかりかねますが(敢えてそういう表現をしている場合も御座います)、『これはさすがに』というミスはご報告を確認次第修正して、下記の【修正報告】に感謝の一言を添えてご報告致します。


「報告したら不快に思われるかも」


 と躊躇されるかも知れませんが、そもそも『ミスしているのは自分の責任』なので、逆恨みするような真似は絶対にしません。どうかご安心してご報告下さいませ。勿論、誤字しないのが一番よいのですが……。


 報告、非常に助かっております。


【改稿・修正作業について】


 メインストーリーを進めながら、時間がある時に過去投稿分の改稿・修正作業を行っております。

 改稿・修正作業はまだまだ終わりませんが、完成した分は『活動報告・Twitter』にて、投稿が済み次第お知らせ致します。



 最後になりますが、現在ブクマして下さっている方々や、更新してないか確認をしに来て下さる方々、本当にありがとうございます。

 完結を目指してこれからも書いて参りますので、引き続き応援して下さると嬉しいです。


 これからも、


【女装男子のインビジブルな恋愛事情。】


 を、よろしくお願い致します。


 by 瀬野 或


【修正報告】

・現在報告無し

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