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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
三章 Unhappy Umbrella,
86/677

三十三時限目 他者の気持ちを推し量ること[後]


 デート、か。


 いやいや、まだデートと決まったわけじゃない。


 ただ単純に、興味本位で僕と話したいって理由もある。


 二人きりじゃなきゃ話せない内容なのかも知れないし、タピオカミルクティーを飲みたい可能性だってあるわけだ。


 うん、タピオカミルクティーって一人じゃ買えないもんね! ベビタッピ♪ とか言われたら、どうしていいかわからず愛想笑いしかできないまである。


 タピオカと書いて『パール』と読む店まであるし、注文の難解さはスタバを超えるんじゃなかろうか? 家系ラーメン屋のほうがまだ親切設計だろ……。


 タピオカでも、家系ラーメンでもいいけど、どっちにしたって二人きりって状況は些か誤解を招くんじゃないか? もし、二人でラーメンを啜ってるところをクラスメイトのだれかに見られでもしたら大ごとに発展する。休み明けに学校へいったら、『天野さんと……アレが一緒に、ラーメン食べてたぞ』とか噂されてしまうじゃないか。


 妄想の中でもクラスメイトに認知されてないとか、どんだけ卑屈なんだよ……。


 であるからして、今回はご縁が無かったことでと諦めてもらうことにした。


「今日は用事があるんだ、ごめん」


 そうなの……と、殊更に残念を強調する天野さんの声に罪悪感を感じないわけではない。でも、これも天野さんのためなのだ。家系ラーメン屋でクラスメイトに遭遇する確率は低いとしても、ゼロじゃないなら可能性は充分足り得る。


 ……タピオカはどこにいった?


『用事ってなにか訊いてもいい?』


「あ。ええっとお……」


 うそーん。


 普通、『用事がある』って言われたら素直に引き下がるのが礼儀じゃないのー? そうだとばかり思ってたから、理由までは用意してなかったんですけどーみたいなー。


「ほ、本を……」


 買いにいくの? って、天野さんは僕の言を待たずに答えた。


「家で読む……、的な」


『それならいつでもできるじゃない! なんだったら私が朗読するわよ!』


 ハロルド作品を朗読されてもなあ……。


『日差しが強いハイウェイを愛車で走る。法定速度をいくらか超えた風が、緩やかな曲線を描く車体を撫でた。我が子を撫でるような手つきとまではいかずとも、愛人の肌を愛しむように愛撫するような印象を私は受けた』


 とか、感情を込めて読まれても、色んな意味で困ってしまう。


『それとも、私じゃ嫌……?』


「え、音読の話?」


 それは(たとえ)え話だから! と、怒られてしまった。


『鶴賀君には迷惑かけてるし、そう考えたら会いたくないのも頷けるけど』


 天野さんらしからぬしょんぼりとした声で言われたら、とっても悪いことをしてる気がしてくるじゃないか。


 してるのか……多分、普通にガチで。(佐竹感)


「……どこに行けばいいの?」


『え、会ってくれるの?』


 ぱあっと明るい声音が訊こえて、内心ほっとした。そんな反応をされたら断るに断れないってもので、『迷惑をかけている』と言われたら、その先はデートではないだろう。


 これは、天野さんなりの誠意だ。


 誠意を示されたら、誠意で応えなければ筋が通らない。


「そこまで言われたらね」


『ありがと!』


 えへっと笑う声が漏れて、迂闊にもドキッとしてしまった。


『いつも待ち合わせしてるファミレス前に、一十二時待ち合わせ……で、どうかしら?』


「わかった」


 と、二つ返事で了承したはいいいが、ご指名はどちらだろうか?


「どっちでいけばいい?」


 ──どっちって?


 ──優梨でいったほうがいいのかなって。


『鶴賀君と話したいから、鶴賀君のまま来て欲しいわ』


「了解。それじゃまた後で」


 電話を切った後、僕は形容し難い違和感を覚えた。


 天野さんが好意を寄せているのは優梨で、僕はオマケに過ぎないはずだ。


 あの日、天野さんは僕を〈友だち〉と言ってくれたけど、僕と天野さんはまだ知り合ったばかりで取り分け深い仲ではない。


 無理してまで僕と話すのであれば、それはお互いにとっていい結果をもたらさないんじゃないだろうかと思う反面、心のどこかで『異性と二人きり』というシチュエーションに少なからず期待を抱いていたりしている自分もいる。


 僕は、自分が気持ち悪い人間になった気がして吐きそうになった。


 身分を弁えろ、僕。


 天野さんと対等なはずないだろ……。


 友だちにという関係性には、優劣が必ず存在する。


『アイツは親友だ』


 だれしもが、一度は耳にしたフレーズだろう。


 少なからず、僕も昔はそういう風に思っていた相手がいた。


 けど、親友は一人だけではない。


 アイツの親友には親友がいて、その親友には別の親友がいるのである。


 じゃあ、僕の親友ってだれだろうと考えれば、親友という言葉が増殖し過ぎて思考が堂々巡りする。


 だから、親友の信頼を勝ち得るために、親友のペースに合わせたり、趣味を合わせてみたりと、涙ぐましい努力をして、その結果、ようやく『アイツの親友』を勝ち取れるのだ。


 信頼というのは、歯抜け状になったジェンガのようなものだ。崩れるときは一瞬にして、跡形もなく崩れてしまう。


 だからこそではないが、日本語には『忖度(そんたく)』という、素晴らしい言葉が存在する。


 本来の意味は『相手の気持ちを推察する』って意味であり、決して悪い言葉ではない。然し、近年ではこの言葉が悪い意味として用いられる。それも、日本人という人種が『他者の気持ちを理解すること』にステータスを全振りしているからに他ならない。


 その弊害として、『忖度する』という言葉は悪い意味で使われるのだろう。


 さっきの会話を思い出してみると、忖度をわかり易く表現できる。


『鶴賀君と話したいから』


 この言葉の裏側に隠れている真の意味は、『だけど、ユウちゃんに会えたほうが嬉しい』だ。


 ここは、天野さんの気持ちを忖度しておけば問題無い。


()()も慣れだよね」


 溜め息の代わりに吐き出した言葉は、諦めというよりも自己暗示に近かった。


 他者の気持ちを推し量るなんて芸当ができるほど、僕は器用な人間じゃない。


 空気を読むことに関してはプロであり、気配を殺してミスディレクションを起こせるまでの技はないけれど、集合写真撮影で忘れられるくらいには、存在感の無さを極めている。


 だとしても、だ。


 人間には必ず、得手不得手がある。 


 できないことを強要された場合、できないなりに頑張るのが普通だろう。


 でも、僕はそうしない。


 頑張ったところで業績を上げられないのならば、それなりに『頑張った風』を装い、相手が妥協してくれる案を提示する。


 今回の件だってそうだ。


 優梨の姿で天野さんに会えば、それなりにはなるだろうって魂胆である。


 人間には必ず、得手不得手があるのだ。


 僕には()()ができなくとも、()()になればソレができる。


 つまり、業務委託ってやつ。


 効率化を図るなら、役割分担したほうがいい。


 ()()(あい)(あい)とした時間を過ごすなら、それができる方法を選ぶだけの話だ。



 

【備考】


 この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』をご覧頂きまして、誠にありがとうございます。

 今回の物語はどうだったでしょうか?

 皆様のご期待に添えるように全力で書いていますが、まだまだ実力不足な私です。次はより面白い作品が書けるように、これからも努力して参ります。


【瀬野 或からのお願い】


 この作品を読んで「面白い! 応援したい!」と思って頂けましたら、お手数では御座いますが『感想』『ブックマーク』『評価(最新話の下部にあります)等』をして下さると、大変励みになりますので、どうかよろしくお願いします。


【誤字報告について】


 作品を読んでいて〈誤字〉、もしくは〈間違った言葉の使い方〉を見つけた場合は、どうぞご遠慮なく〈誤字報告〉にてご報告下さい。

 その全てを反映できるかはわかりかねますが(敢えてそういう表現をしている場合も御座います)、『これはさすがに』というミスはご報告を確認次第修正して、下記の【修正報告】に感謝の一言を添えてご報告致します。


「報告したら不快に思われるかも」


 と躊躇されるかも知れませんが、そもそも『ミスしているのは自分の責任』なので、逆恨みするような真似は絶対にしません。どうかご安心してご報告下さいませ。勿論、誤字しないのが一番よいのですが……。


 報告、非常に助かっております。


【改稿・修正作業について】


 メインストーリーを進めながら、時間がある時に過去投稿分の改稿・修正作業を行っております。

 改稿・修正作業はまだまだ終わりませんが、完成した分は『活動報告・Twitter』にて、投稿が済み次第お知らせ致します。



 最後になりますが、現在ブクマして下さっている方々や、更新してないか確認をしに来て下さる方々、本当にありがとうございます。

 完結を目指してこれからも書いて参りますので、引き続き応援して下さると嬉しいです。


 これからも、


【女装男子のインビジブルな恋愛事情。】


 を、よろしくお願い致します。


 by 瀬野 或


【修正報告】

・現在報告無し

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