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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
三章 Unhappy Umbrella,
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三十三時限目 他者の気持ちを推し量ること[前]


 寝る前にカーテンを閉め忘れたらしい。


 窓から差し込む強烈な日差しで目を覚ました。


 ご機嫌な太陽に叩き起こされたからには、惰眠を貪ってなどいられない。ベッドから立ち上がって、くわあっと大欠伸をしたら涙腺が緩み、悲しくもないのにぽろりと涙が頬を伝った。


 梅ノ原学園高等学校は週休二日制だ。学校サイドの特殊なイベントが無い限り、土曜日に学校に駆り出されることもない。待ちに待った休日は甘美な味がする。ここ最近、休日らしい休日を過ごしていない。今日くらい部屋で読書してのんびり過ごしても、神罰は当たらないだろう。


「まずはエネルギー補給だなあ……」


 ぐうと腹の虫が鳴いた。


 反論の余地が無い、という状況を『ぐうの音も出ない』と喩えたりするけれど、僕の腹の虫は「食べ物を寄越せ」と言わんばかりだ。ぐうの音が鳴り過ぎている……なんて、どうでもいい冗談を頭の他所へ置いて部屋を出た。


 ひんやりとしたフローリングの床を踏み締めながら、寝惚け眼で階段を下る。踏み外したら洒落にならないと、片手で手摺りを滑らせながら下りた。


 目隠しガラスが二列縦に並ぶドアを開くと、リビングには微かに珈琲の匂いが残っていた。僕が目覚める数時間前まで、両親が珈琲を飲んでいたのだろう。そして、今日も元気に休日出勤って感じで、仲よく出勤したに違いない。


 子どもを育てるには、莫大なお金が必要となる。


 国の援助なんて全然期待できないのに、『少子高齢化』とか言われてもなあ……。そればかりか、年々税金が増えていくのだから、子どもを産みたがらない夫婦も増えるだろう。まさに、悪循環としか言えない。


 消費税が増えても国民は損をするばかりだ。然も、納めた税金は国のお偉いさんの懐に入るだけ。桜を見るだけで億単位の税金を導入するのだから、我が国のトップは正気の沙汰じゃない。……と、適当に回したテレビ番組で評論家先生が熱弁していた。


 討論番組をぼんやり見ながら、牛乳多めのシリアルをもぐもぐる。噛む度にガリッ、ゴリッて音が頭に響いて、徐々に脳が覚醒していくのを感じた。


 朝のルーティンを済ませて部屋に戻った。


 目も覚めて、脳も活性化している。本を読むならいまでしょ! と、本棚から一冊を取り出して勉強卓の椅子に座る。


 夏は、冷房が効いた部屋で読書と洒落込むのが至高だ。現代っ子舐めんなよ? 靴が汚れるから外で遊ばないとか当然な顔して言うかんな? 言いたいことも言えないこんな世の中じゃポイズンだかんな? 調子にのーんな♪ って可愛く言ったところで、ただのガチギレでしかなかった。


 ふと、勉強卓の隅に追いやっていた優梨端末に目が向いた。


 天野さんにバレてしまったからには、この携帯端末も必要無いだろう。そろそろ月ノ宮さんに返却しなきゃと思いつつ、未だに所持している。費用が向こう持ちだとしても、気軽に使っていい物ではない。だから、必要最低限にしかこの携帯端末を使わなかったけれど、いざ手放すと思うとちょっとだけ寂しくも思……わないな。こんな短期間で、無機物に愛着が湧くはずもない。


 近日中に返却しようと決めて、返却するなら天野さんとのやり取りを削除しようと手に取った。


「設定を開いて、初期状態に戻す……で、いいんだよな?」


 ぶつぶつ独り言をぼやきながら、真っ暗になっている画面を指で触れる。パッと映し出された画面には、フォトジェニックな彩色を施された波と砂浜が映し出された。無難な待ち受け画面だな、と思う。砂浜には不自然に置かれた巻貝が散らばり、波打ち際にはボトルメールが打ち上げられていた。コルク栓を取って手紙を開くと、そこに記されていたのは凄惨な事件の謎を解いてくれ……と、懇願するような内容だったらどうしよう。


 なーんて、一瞬でも思ってしまった僕は、厨二病を拗らせ過ぎだろと失笑してしまった。


 画面ロックを外すと、画面上部に通知がポップアップされた。


 この携帯端末に連絡を入れるのは天野さんが殆どで、他の二人は()()の携帯端末に連絡を寄越す。画面に『メッセージが届いています』と表示されている時点で、ほぼほぼ天野さん確定なのだが……、まだ朝の一〇時だぞ? こんな朝早くになんの用事だ? ……一〇時は『朝早く』ではないな、うん。


『おはよう』


 絵文字や顔文字の類は使わずに、淡々としたメッセージを送ってくる天野さんだけど、なんだろう……これも日本語マジックだろうか? 淡々としいると『もしかして怒ってる?』と、勘繰ってしまう。でも、絵文字や顔文字を送り合うほど親密な仲ってわけでもないしな。業務的と思えば、どうということもない。


『鶴賀君に用事があるんだけど、電話してもいい?』


 このメッセージは九時頃に送信されている。


 ごめんよ天野さん。


 その時間は、シリアスな番組を見ながらシリアルをもぐもぐってたよ……。


 語呂がいいから言ってみただけです。


 メッセージの五分後、既読が付く気配を見せない僕に痺れを切らしたのか、通話を試みた形跡も見られる。


 かけ直すべきかな?


 既読を付けてしまったからには、かけ直すべきだよなあ……、こういう強迫観念はよくないと思いまあす! 


 何度目かのコール音の後、『もしもし』という訊き慣れた声がスピーカーから届いた。


『……あれ? もしもし?』


「訊こえてるよ」


『だったら返事くらいしなさいよ……』


 通話早々に疲れさせてしまった。


「この端末だと、()()()で話すべきなのか考えちゃってさ」


 そうだと思ったわ、って天野さんは言うと、『だから』と付け加えた。


()()()って書いて送ったんだけど、()()()()()()に送った私も悪いわね』


 天野さんは、常々〈優梨端末〉に連絡してくるので、その癖が取れてないんだろう。気にしないでいいよ、と僕は伝えた。


「それで、ご用件はなんでしょうか?」


 ──なんで敬語なの?


 ──いや、なんとなく。


 ふーん、と退屈そうに返された。


『最近色々あったから疲れてるって、充分理解してるつもりだけど……』


 天野さんは、曰く言い難し、という具合に(とつ)(とつ)した口調で、慎重に言葉を選んでいるようだ。


『もっと、鶴賀君のこと知りたいの』


 あ、あれ……?


 言葉を慎重に選んでるんじゃなかったの……?


 天野さんは意を決したのか、大胆な発言が飛び出した。


『もし予定がないなら、これから会えないかしら……?』


 そう思ったら、今度は弱気になる。


 いまの発言を要約すると、『私とデートしませんか?』って意味だよね? なんて大胆なんだ! 大胆過ぎるよ天野さん! 無敵鋼人ダイターンスリーくらい大胆だよ! どうして『スリー』なのかわからない辺りが大胆だよ、ダイターンスリー!


 途中から、大胆なくらい話が外れてしまった。



 

【備考】


 この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』をご覧頂きまして、誠にありがとうございます。

 今回の物語はどうだったでしょうか?

 皆様のご期待に添えるように全力で書いていますが、まだまだ実力不足な私です。次はより面白い作品が書けるように、これからも努力して参ります。


【瀬野 或からのお願い】


 この作品を読んで「面白い! 応援したい!」と思って頂けましたら、お手数では御座いますが『感想』『ブックマーク』『評価(最新話の下部にあります)等』をして下さると、大変励みになりますので、どうかよろしくお願いします。


【誤字報告について】


 作品を読んでいて〈誤字〉、もしくは〈間違った言葉の使い方〉を見つけた場合は、どうぞご遠慮なく〈誤字報告〉にてご報告下さい。

 その全てを反映できるかはわかりかねますが(敢えてそういう表現をしている場合も御座います)、『これはさすがに』というミスはご報告を確認次第修正して、下記の【修正報告】に感謝の一言を添えてご報告致します。


「報告したら不快に思われるかも」


 と躊躇されるかも知れませんが、そもそも『ミスしているのは自分の責任』なので、逆恨みするような真似は絶対にしません。どうかご安心してご報告下さいませ。勿論、誤字しないのが一番よいのですが……。


 報告、非常に助かっております。


【改稿・修正作業について】


 メインストーリーを進めながら、時間がある時に過去投稿分の改稿・修正作業を行っております。

 改稿・修正作業はまだまだ終わりませんが、完成した分は『活動報告・Twitter』にて、投稿が済み次第お知らせ致します。



 最後になりますが、現在ブクマして下さっている方々や、更新してないか確認をしに来て下さる方々、本当にありがとうございます。

 完結を目指してこれからも書いて参りますので、引き続き応援して下さると嬉しいです。


 これからも、


【女装男子のインビジブルな恋愛事情。】


 を、よろしくお願い致します。


 by 瀬野 或



【修正報告】

・2019年1月8日……誤字報告による誤字修正。

 ありがとうございます!

・2019年2月21日……読みやすく修正。

・2020年1月9日……加筆修正、改稿。

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