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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
一章 Change My Mind,
8/677

四時限目 天野恋莉は気づいてしまった 1/2


 待ち合わせに指定した駅前のファミレスの窓際席で、頬杖を付きながら()()を待っている。


 定刻まではまだ時間に余裕があるし、時間に遅れる可能性も予め訊いていた。無駄な時間を持て余すくらいなら、予定時間ぎりぎりに来てもよかったはず。どうしてそうしなかったのか、そうできなかったのかは、真面目な性格が先んじた結果で、遅刻するよりはマシだって思ったんだ。


 放課後にファミレスでお茶してから帰る学生もいるし、混雑するかもしれない。席の確保くらいは呼び出した私がするべきこと。それが最低限のマナーでしょ。時間ぎりぎりに来て空いている席が無いというのは非常に気まずいし、格好もつかない。


 格好つける必要もないんだけど。


 ぼうっと窓の外を見ながら、左手の人差し指でテーブルをコツコツ小突く。苛々していると、ついしてしまう悪癖。昔──と言っても数ヶ月前のことだけど──これを見た友だちに『その癖は直したほうがいい』と言われて止めようとしたんだけど、未だにやってしまうのだから癖を直すのは難しい。


 手元にあるオレンジジュースをちびちび飲みながら、道行く人々の群れの中に佐竹と()()()()の姿を目で探す。


 窓に薄っすら映っている黒髪ミディアムショートの女子高生は所在無さそうに、虚ろな眼でじいっと私を見ていた。


 反射している自分の姿を見て、思わず失笑してしまいそうになる。


 不細工だなあ、私。


 これではさすがに決まりが悪いと居住まいを正してみたものの、四人掛けの席に一人で座っている居心地の悪さは(しつ)(ぜつ)()くし(がた)い。


「どうしてこんなことになっちゃったかな」


 その理由を振り返るには、充分過ぎる程の時間がある。理由を振り返ったところで時間が巻き戻る訳ではないけど、退屈凌ぎには丁度いいかもしれない。




 

 私が告白したのは数日前。


 相手は、同じクラスの佐竹義信。


 容姿はまあいいほうで、イケメンかと問われたら「そうだ」と頷く程度には美形。美男子とはちょっと違うかな? チャラそうって言えば誰もが納得してしまうような風貌の彼は『ういーっす』が朝の挨拶で、マジ、ガチ、割と、普通──大体この四つを取ってつけたように語尾に付けるのが口癖。頭はそこまでよくないけど面倒見がよくて、場を明るくすることに秀でた才能を持っていると思う。


 佐竹はお調子者だけど、お笑い担当というわけではない。クラスの大黒柱的な存在で、ある意味、大学出たての新人教師、うちのクラスの担任よりも信頼されている。まだ高校生活は始まったばかりだというのに──これは、はっきり言って異常よ。分け隔てなく接するからって、そこまでの信用を勝ち得るとは思えない。


 こういう人をカリスマって呼ぶのかしら。


 あまりしっくりこないわね……。


 佐竹が気になってる、佐竹のことが好きって噂は後を絶えない。女子人気は圧倒的で、他の男子がくすんで見えるほどだ。クラスカーストは間違いなくトップ。私もそれに異存は無い。彼の普段の行いを鑑みれば当然で、彼のおかげでクラスがまとまっていると断言してもいい。


 だから、私も佐竹に惹かれた……というわけじゃない。


 私が佐竹に対して受けた印象は、クラスの女子たちとは異なる。格好いいのは認めるし、自分の考えをはっきりと言えるのは好印象でもあるけれど、そういった理由ではなくて『優しいから』という一点のみ。


 私が私自身を知る上で、彼のような存在は都合がよかったんだ。


 最低な理由過ぎて反吐が出そう。


 私は『恋愛』に憧れていただけだったらしい。告白して見事玉砕したとき、初めてそれに気がついた。


 私の性格上、異性に好意を抱かれることは皆無だと自負している。


 中学では男勝りとか、偉そうとか……他にも色々と陰で言われ続けていたし、その通りだと自分でも思う。負けず嫌いな性分だから、売り言葉に買い言葉で返してしまうんだ。


 それでも私は年頃の女子高生で、歳相応な恋愛感情だってちゃんと持ち合わせているはず。これまでそういった感情が湧いてこなかったのは、きっかけが無かったからなんだ──と、佐竹を好きになろうとする自分に拍車をかけて猪突猛進。暴走列車の如く駆け抜けたら、見事なまでに玉砕した。


 でも、それは初めからわかってた。


 佐竹に好きな人がいないこともわかってたし、私だって、佐竹のことが好きかと問われたら頭を振ってしまう。それでも告白を強行したのは、恋愛ができる女子だという確証が欲しかっただけに過ぎない。


 もう、残念な女というレッテルは嫌だ。


 私だって、普通の恋愛がしてみたいんだ。


 断られるのはわかってたから、感謝と謝罪をして別れようと思った。


 だけど……。


 佐竹が臆面も無く『彼女がいる』というものだから、()めず(おく)せず「じゃあ会わせてよ」と反論してしまった。


 私の悪い癖が、咄嗟に出てしまった──。


 佐竹は優しいから、私を傷つけまいとして嘘を吐いたんだと思う。その嘘を甘んじて受け入れていればいいものを、どうして私は一々反論しなきゃ気が済まないのっていまも後悔し続けているけど、仮に、嘘じゃなかったら──好奇心もあったかも知れない。


 本当に彼女を連れてきたら……。


「綺麗な人、よね」


 高校入学以来、頑なに告白を断ってきた佐竹に彼女がいるなんて絶対にあり得ないはずだけど、もし本当にいるとすれば女の魅力で勝てる相手じゃないのは明白だろう。こんな男勝りの女、誰が喜んで受け入れると言うの……? 既に決している勝負に勝敗もなにもあったものじゃない。


 佐竹の彼女に会った所で惨めになるだけだ。それをわかっていながら、こうしてトドメの一撃を待っているなんて、私も大概頭がおかしい。





 タイムリミットまで五分を切った。


 佐竹の彼女は忙しい人みたいだけど、入学してから一ヶ月程度なのに、なにがそんなに忙しいんだろう? 生徒会や、部活に所属してるとか? そうだとするなら、佐竹はこの待ち合わせ時間に『わかった』と返信はしないはず。


 勘繰っても仕方が無い、か。


 そろそろ来る頃だし。


 人混みの中を(くま)なく探していると、頭一つ抜けている見慣れた茶髪の男子生徒を発見した。あの髪は悪目立ちするわね。いくら校則で禁じていないって言っても、もう少し落ち着いた色にすればチャラさも緩和するだろうに。


 それで、隣にいるのが彼女さ──


「え、嘘でしょ?」


 季節に合ったセンスのいい服を身に纏った美少女が、佐竹と手を繋いで屈託のない微笑みを湛えながら歩いていた。


「可愛い過ぎる……」


 圧倒的過ぎる敗北感に、乾いた笑みが溢れた。


 嘘じゃなかったんだ。


 これ以上惨めな気分になったら、憂鬱に堪え切れず赤信号に飛び出したくなりそうだ。


 でも、ちょっとだけ。


 あの子と話がしてみたい──。


 気が済んだら、邪魔者は退散しよう。





 ファミレスに入ってきた二人に手を振って居場所を知らせる。


「遅くなって悪いな」


 本当よ、こっちはもう一時間くらい待ってるんだから──とは、口が裂けても言えない。


「遅くないじゃない。時間通りよ……そちらが件の彼女さん?」


 佐竹の隣にいる女の子を見る。


 彼女は和やかな表情で、人懐っこそうな微笑みを浮かべた。


「初めまして。優梨です」


 自己紹介をして、丁寧に頭を下げた。


 礼儀もしっかりしているし、顔を上げても笑顔を崩さない。


 ここまで完璧だとオーバーキルだわ。


 寧ろ、清々しさすら感じてしまう。



 

【備考】

 読んで頂きまして誠にありがとうございます!

 続きが読みたいと思って頂けましたら、ブックマーク・感想・評価して頂けると励みになりますので、差し支えなければよろしくお願いします。誤字などを見つけた場合は『誤字報告』にて教えて頂けると大変助かります。


 これからも当作品をよろしくお願いします。


 by 瀬野 或


【修正報告】

・2019年1月8日……誤字報告にて修正。

 報告ありがとうございます!

・2019年1月14日……改稿、加筆。

・2019年2月3日……読みやすいように本文を修正。

・2019年7月19日……本文の微調整。

・2019年11月10日……加筆改稿。

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