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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
三章 Unhappy Umbrella,
76/677

三〇時限目 憂鬱雲は雨を招く[前]


 通称『塩爺』こと(しお)()(けい)()(ろう)は、淡々と授業を進めていく。


 午後一発目を飾るのは、今年で六〇歳後半になるベテラン教師が教える世界史で、ゆったりとしていて耳心地いい声は睡眠誘導音声のようだ。


 既に数人の生徒が塩爺の声に負けて、こっくりこっくりと船を漕いでいる。


 その様子を他人ごとのように傍観してる僕だって、開いたノートに糸ミミズのような線を何本も描いては、はっと我に返って消しゴムで消す、を繰り返していた。


 前方の席には佐竹が座っている。


 つまらなそうに頬杖をつく佐竹も、うつらうつら頭を揺らして……あ、杖にしている掌から頭が落下した。


 佐竹はビクっと体を震わせて、やれ天変地異でも起きたのか? と周囲をきょろきょろ窺ったのちに、いま時分が塩爺の授業中だと思い出したようで、再び所在無さげに頬杖をついた。


 満腹状態で、塩爺の授業を受けるのは厳しい。


 少しでも気を緩めれば、あちら側の世界に誘われ、気かついた頃には授業が終わっていた……なんて事態にもなり兼ねない。


 睡魔に負けるのは時間の問題だ。


 僕の〈忍者スキル〉は、教師の目を盗んで居眠りできるほど達していない。


 掌にある『眠気を抑えるツボ』を親指でぐいぐい押してみたものの、『効果はいまひとつのようだ……』って、テロップが流れるくらい微々たるもの。


 ネットに転がっていた情報だから信憑性は薄いけど、やらないよりはマシかな? レベル。


 でも、やったところで効果が無いのなら、やらなくてもいい気がするぞ……?


 授業はまだまだ先が長く、眠気対策を講じなければ意識を失ってしまいそうだ。


 塩爺の解説がなに一つ頭の中に入ってこない状況では、真面目に授業を受けても意味がないと見切りをつけて、黒板の文字を写す真似をしながら月ノ宮さんとの一件に焦点を当てる。


 ノートの最後のページを開いて、〈Date〉の下にある余白に、『月ノ宮さんに訊ねられた件について』とシャーペンで記した。





 * * *





 ・When(いつ):昼休み。


 ・Where(どこで):グラウンドのベストプレイスで。


 ・Who(だれが):月ノ宮さん。 


 ・What(なにを):僕の選択を問われた。


 ・Why(なぜ):それによって、僕らの人間関係が大きく変化するから。


 ・How:





 * * *





「どのように……」


 そこまで書いて、シャーペンを握る手が止まった。


 僕の選択次第で、関係性が変化する?


 月ノ宮さんは、本気でそう思っているのか?


 僕に凹んだ姿を見せたのも計算のうちで、目的は他にあったとすら(いぶか)しんでしまうが、『あり得ない』と言い切れないのが恐ろしい。


 然し、そこまで計算しての行動であれば、最初から別の場所に移動して、反論を許さない上司のように、烈火の如く理詰めしてくるはずだ。


 ご本人も『どうすればいいのかわからない』と(がい)(たん)するように吐露していたわけで、全て算段のうちだったら、素晴らしい演技力だって褒めて差し上げたいまである。


 しかしいっかなこれまたどうして、僕は月ノ宮さんの質問の意図を理解できずにいる。


 これは『優梨の問題』だからだ。


 天野さんも、佐竹も、月ノ宮さんも、僕を見ているようで僕を見ていない。僕の瞳の内側にいる〈優梨〉の動向を気にしているからこそ、僕に『どうするんだ』って訊ねるんだろう。


 そんなこと、知ったこっちゃない。 


 僕は普通よりも劣るような男子高校生で、恋愛対象も女性だと思う。『だと思う』って疑問系なのは、これまでの学生生活で恋愛感情に発展するほど異性と交流がなかったからだ。


 梅高に入学してから異性と話すようになったけれど、それだって未だに信じられないし、彼らが所望しているのは〈優梨〉で、僕ではない。


 佐竹だって優梨が好きなわけであって、同性の僕が好きなわけじゃないのは理解してる。


 天野さんと佐竹は恋愛に固執しているけど、人を好きになったことがない僕には、どうも荷が重過ぎて、思考もぐちゃぐちゃになってきた。


 もし、僕がどちらかの好意を受け入れるなら、この先ずっと優梨として生きなきゃならないって考えると、今後の人生に多大な影響を及ぼすのだが、そこまで考え抜いて僕に告白したはずもないだろう。


 そもそも、彼らに僕は必要なの?


 口では〈友だち〉と言ってくれているが、それだって『優梨だから』で、『優梨にはならない』と宣言したら離れていくのは火を見るより明らかだ。


 僕の存在価値は、優梨にあって優志にはない。


 彼らが離れてしまうのなら、いっそ壊してしまおうか。


 なーんて、できもしないことを考えても詮方無いのだが……。


「はあ……、結局、堂々巡りか」


 鬱屈した気分で溜め息を零した。



 

【備考】


 この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』をご覧頂きまして、誠にありがとうございます。

 今回の物語はどうだったでしょうか?

 皆様のご期待に添えるように全力で書いていますが、まだまだ実力不足な私です。次はより面白い作品が書けるように、これからも努力して参ります。


【瀬野 或からのお願い】


 この作品を読んで「面白い! 応援したい!」と思って頂けましたら、お手数では御座いますが『感想』『ブックマーク』『評価(最新話の下部にあります)等』をして下さると、大変励みになりますので、どうかよろしくお願いします。


【誤字報告について】


 作品を読んでいて〈誤字〉、もしくは〈間違った言葉の使い方〉を見つけた場合は、どうぞご遠慮なく〈誤字報告〉にてご報告下さい。

 その全てを反映できるかはわかりかねますが(敢えてそういう表現をしている場合も御座います)、『これはさすがに』というミスはご報告を確認次第修正して、下記の【修正報告】に感謝の一言を添えてご報告致します。


「報告したら不快に思われるかも」


 と躊躇されるかも知れませんが、そもそも『ミスしているのは自分の責任』なので、逆恨みするような真似は絶対にしません。どうかご安心してご報告下さいませ。勿論、誤字しないのが一番よいのですが……。


 報告、非常に助かっております。


【改稿・修正作業について】


 メインストーリーを進めながら、時間がある時に過去投稿分の改稿・修正作業を行っております。

 改稿・修正作業はまだまだ終わりませんが、完成した分は『活動報告・Twitter』にて、投稿が済み次第お知らせ致します。



 最後になりますが、現在ブクマして下さっている方々や、更新してないか確認をしに来て下さる方々、本当にありがとうございます。

 完結を目指してこれからも書いて参りますので、引き続き応援して下さると嬉しいです。


 これからも、


【女装男子のインビジブルな恋愛事情。】


 を、よろしくお願い致します。


 by 瀬野 或



【修正報告】

・2019年2月21日……読みやすく修正。

・2019年12月29日……加筆修正、改稿。

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[気になる点] 2人とも優梨ちゃんが好きだけど優志はどうなのか……確かに気になる
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