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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
二章 It'e a lie, 〜 OLD MAN,
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二十五時限目 天野恋莉は逃がさない[中の下]


 昼休みは、午前中の疲れを癒すために設けられた束の間の休息のみならず、午後の授業へ向けた準備期間とも言える。


 だが、学生たちにとっては戦士の休息だ。


 小難しい話を延々と訊かされて、疲労が蓄積したままの脳では午後の授業に差し支える。だからこそ、糖分や栄養を補充して、心身ともに万全の状態を整えなければならない……なんていうのは建前だ。


 おそらく、全生徒はそんなことを微塵も考えず、やりたいことをやりたいだけ昼休みに注ぎ込む。それは部活動に然り、ゲームに然りと様々だが、このクラスでもっとも休息と掛け離れた行為をしているのは僕ら四人だろう。


 僕らの昼食会に天野さんが加わって、どれくらいが経過しただろうか。時間は大して過ぎていないけれど、一分が一時間くらい長く感じる。この空間だけやたら重力が掛かってるし、これはもう精神と時の部屋と呼んでもいいまである。なんだったら、スーパーサイヤ人になる特訓でもするう……? とか、そういう冗談も言えそうにないくらいは、お弁当のおかずが喉を通らない。


 月ノ宮さんなんて、豚の角煮をお箸で切ってを繰り返していて、チャーハンに入れて丁度いいサイズをいくつも生成している。その一方で、佐竹は先に食べ終えており、手持ち無沙汰なのか、ペットボトルのお茶の成分を読み漁っていた。


 だれしもが沈黙する最中、こと涼しげにサンドイッチを食べ終えた天野さんは、水筒の蓋にホットの緑茶を注ぎ、千利休よろしくな態度で啜った。  


 お茶を飲み終え、蓋をキュキュっと水筒に戻した天野さんが、ふうっと鼻から息を吐き出して僕らを一周見やると、居住まいを正して藪から棒に、「ところで」と口を開いた。


「三人は放課後に〝あの店〟に寄るのかしら?」


 ()()()というのは、水族館に行く前に立ち寄った〈ダンデライオン〉を指しているんだろうと、直ぐに察しがついた。


「私は、日課のようなものですので」


「なんだかんだ居心地最強だからなあ」


 店のマスターと顔見知りで、ある程度の勝手が利くという店……と言えば、類を見ないのは明らかだ。


 夕景に染まる空をのんびり眺めながら珈琲を飲んで、ノスタルジックに構えるのも乙である。視界に入るのが百貨店の裏壁というのが頂けないけど、一直線に道路を照らす茜色は見事という他にない。


 こんな喫茶店が近場にあったら、とは思うけれども、家の近くにある喫茶店は不味くてマスターの態度が悪いと評判だから、どうにも行く気にはならなかった。


「鶴賀君はどう?」


 出し抜けに訊かれて、体がビクッと跳ねた。


「照史さんと趣味の話で盛り上がれるから行く?」


「うーん……」


 ハロルド・アンダーソンの話を訊きたい気持ちはある。だが、ここで「いく」と答える勇気はない。


「用事があるからパスするよ」


 差し当たっての用事は無いけど、言い訳に使う常套句で、これほど利便性に長けた決まり文句はそう無いと思う。


「そう、残念ね」


 だが、顔は全く残念そうには見えなかった。そればかりか、天野さんは不敵な笑みを浮かべる。


「じゃあ佐竹。ユウちゃんを呼んでくれないかしら」


「はあ!? な、なんで」


「後々になって、女二人と一緒にいるなんてユウちゃんが知ったら悲しむでしょ? 彼氏なんだからそれくらい察しなさいよ」


 その発言で、僕らの血の気がサッと引いた。


 佐竹は動揺を隠せず、『やっべ』とばかりに顔を顰める。


 その一瞬を、天野さんは見逃さなかった。


「なに、その表情」


 佐竹がそんな表情をしたら、真っ先に突っ込まれるに決まってるだろ! って、佐竹にポーカーフェイスを期待するだけ無駄か。


 この状況は一番マズい。


 天野さんの言葉で、想定していた全退路が断たれてしまった。


「楓も、どうしたの?」


「え? あ、いや……」


 これは駄目だ。


 天野さんに詰め寄られたら、月ノ宮さんの防御力なんて無しに等しい。


「忙しい方なので、これるかどうかと……」


 なんとか口にした言葉も、苦し紛れの言い訳に訊こえる。


「そう。まるで()()()()()()なのね」


 月ノ宮さんの悪いところはそういうとこ!


 想い人を前にすると、蒟蒻レベルで思考がふにゃふにゃになるから揚げ足を取られるんですよ!


 二人が見事に自爆して、今度はギリギリ生存している僕に白羽の矢を立てた。


「鶴賀君、訊いてもいい?」


 駄目です。


「アナタとユウちゃんって、どういう関係なの」


「し、知り合い」


 知り合い、ね……と、天野さんは吐き捨てるように呟く。


「鶴賀君は昨日、部屋で本を読んでたのよね?」


「そうだけど」


「じゃあ、どうして私が送ったメッセージに返信してくれなかったの?」


 やっぱり、そこを突くか……。





 * * *





 ダブルデートから帰宅した僕は、勉強卓の上に置いたままだった携帯端末を確認した。


 画面を点けると、僕らがサンシャイニング水族館へ向かっている途中くらいの時間、丁度、新・梅ノ原駅から電車が出立して一駅分過ぎた頃に、天野さんからメッセージが届いていた。


 内容は『これから佐竹たちとサンシャイニング水族館に行くけど鶴賀君もどうかしら』って感じで、特に変わった文面ではなかった。


 帰宅したばかりの僕は疲労困憊で、思考能力も低下していた。だから、メッセージを既読無視してそのまま忘れていたのだが、先程「メッセージ、見た?」と天野さんに訊かれて確認したとき、件のメッセージが数分前に発信されたメッセージの上にあってようやく思い出したのだ。


「鶴賀君だけ除け者にするのは嫌だったから、水族館に行く途中にメッセージ送ったんだけど」


「本を読んでて気がつかなかっただけだよ」


 ──本当に?


 ──うん。


「ちょっと冷静になろうぜ? な?」


 そう言った佐竹をキッと()めた天野さんだったが、「そうね」と呟き、小さく深呼吸をして心を落ち着かせた。


「佐竹。一つ確認なんだけど」


「お、おう!」


「ユウちゃんってどこの高校に通ってるの?」


「あ」


 思わず、だった。


 三人揃って同じ言葉が並んでは、もう言い逃れはできない。〈GAME(ゲーム)OVER(オーバー)〉の文字が眼前に浮かぶくらいのガメオベラ感に梅高生徒が泣いた。


 質問されてはいけない質問、だったのだ。


 僕は女子高生という設定に基づいて〈優梨〉をロールプレイしていたけれど、『どこの高校に通っている』という設定を二人に話してない。


 僕自身も、詰めが甘かったのは否めない。


 当てずっぽうに答えてもいいが……。


 佐竹たちが話を合わせようにも、『在学している高校に確認を取る』と言われたら詰みだ。



 

【備考】


 この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』をご覧頂きまして、誠にありがとうございます。

 今回の物語はどうだったでしょうか?

 皆様のご期待に添えるように全力で書いていますが、まだまだ実力不足な私です。次はより面白い作品が書けるように、これからも努力して参ります。


【瀬野 或からのお願い】


 この作品を読んで「面白い! 応援したい!」と思って頂けましたら、お手数では御座いますが『感想』『ブックマーク』『評価(最新話の下部にあります)等』をして下さると、大変励みになりますので、どうかよろしくお願いします。


【誤字報告について】


 作品を読んでいて〈誤字〉、もしくは〈間違った言葉の使い方〉を見つけた場合は、どうぞご遠慮なく〈誤字報告〉にてご報告下さい。

 その全てを反映できるかはわかりかねますが(敢えてそういう表現をしている場合も御座います)、『これはさすがに』というミスはご報告を確認次第修正して、下記の【修正報告】に感謝の一言を添えてご報告致します。


「報告したら不快に思われるかも」


 と躊躇されるかも知れませんが、そもそも『ミスしているのは自分の責任』なので、逆恨みするような真似は絶対にしません。どうかご安心してご報告下さいませ。勿論、誤字しないのが一番よいのですが……。


 報告、非常に助かっております。


【改稿・修正作業について】


 メインストーリーを進めながら、時間がある時に過去投稿分の改稿・修正作業を行っております。

 改稿・修正作業はまだまだ終わりませんが、完成した分は『活動報告・Twitter』にて、投稿が済み次第お知らせ致します。



 最後になりますが、現在ブクマして下さっている方々や、更新してないか確認をしに来て下さる方々、本当にありがとうございます。

 完結を目指してこれからも書いて参りますので、引き続き応援して下さると嬉しいです。


 これからも、


【女装男子のインビジブルな恋愛事情。】


 を、よろしくお願い致します。


 by 瀬野 或


【誤字報告】

・現在報告無し

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