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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
二章 It'e a lie, 〜 OLD MAN,
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二十五時限目 天野恋莉は逃がさない[中の上]


 この状況も、僕には違和感でしかない。


 クラスのトップでもある二人が僕を構う状況だって違和感の極みなのに、それをクラス連中が受け入れつつある状態なのも違和感てんこ盛りで、僕は今年、違和感オブザイヤーを受賞するまであるのだが、彼らの順応力には脱帽させられる。


 だったら、これから教室に入る都度『コマネチ』をしたらどうなるだろう? 彼らはきっと、『鶴賀の挨拶って変わってるよな』くらいにしか思わなくなって、いつの日か、僕のコマネチに『ハイグレ!』と返すヤツまで出てきそうなものだが……そうなる前に、だれか奇行に走る僕を止めてくれまいか?


 適応、順応、対応……それらを平然とこなせるのは、彼らがどうしたということではなく、日本人の本能がそうさせるんだと僕は思う。


 だったらどうして、僕はこの違和感に対して順応することができないんだろうか。


 そんなの決まり切ったことだろ。


 彼らは彼らの国家で法律を作り、その法律に従って生活しているだけだ。


 僕がそれを『違和感』と呼んでも、彼らにとっては『当たり前』で、僕がどう思っていようが彼らの世界は変わらないし、僕の世界も変わらない。


 そのはずなのに、だ。


 僕もこの状況を受け入れ始めようとしている。


 それこそが違和感の正体だった。





 午前のかったるい授業が終わると、佐竹は自分の机を僕の机にくっ付けた。そして、月ノ宮さんはファンの集いから抜け出し、近場にあった机を拝借して三つの机が一つのテーブルへとバリアブル進化あああ! オーグレイモンかな?


「二人とも、なにをしてるの」


 佐竹は菓子パンとコンビニのおにぎり、月ノ宮さんは自家製月ノ宮スペシャル弁当を広げている。


 冷ややかな僕の言葉に、たじろぐような彼らではない。


「なにをって言われても……見ればわかんだろ?」


「昼食を取ろうとしているだけですが」


 こうなってくると、さすがにクラス連中も動揺を隠せないだろう。


 クラスの中心的人物である二人が、『鶴賀? どこの里の者でござるか?』と、言われるくらい知名度の無い僕と一緒に昼食を食べると言い出しているのだ。


 クラスのパワーバランスが、大幅に崩れてしまう。


 僕が二人と関わりを持つようになってから、一番危惧していたのはこの状況かもしれない。


 いや、一番危惧しているのは女装がバレることなんだけど。


 それはさて置き、どうしてこうなっているのか僕には見当もつかないのだ。


「二人とも、朝からどうしたのさ。なんでそんなに僕に付き纏うわけ?」


「普通じゃね?」


「お友だちですから」


 二人は、自分がどれだけ存在感を放っているのかを知るべきだ。


 クラス連中は納得しないまでも、あまりに友人がいない僕のことを気遣って、『まあ、そうなるよな』と順応するか? ……絶対にないな。


 学校という組織は、そんなに甘くない。


 仮に、天野さんも加わったら、それこそ大問題に発展しかねない案件である。


 このクラスで女子代表的な立場にある存在の天野さんは、男子にも億さずに発言できる気前を女子たちから高く評価されているらしい。


 天野さんについて調べていたとき、佐竹からそういう旨の返信された。


 そんなクラスカースト上位が三人も集結してみろ。『首脳会談でも始まるのか?』みたいな空気になりかねないぞ……と、思っていた矢先、「鶴賀君」と後ろから声をかけられた。


 彼女はどうも、僕の背後から声をかける嫌いがあるなあと思いながら、声がしたほうを体ごと振り返る。


「な、なんでしょう?」


 天野さんの冷笑に、僕らは息を呑んだ。


「今日は教室で食べてたのね」


「あ、はい……」


 困惑していて、まだお弁当も広げてはいないんですけどね? なんて冗談を飛ばす隙は一切無かった。


「メッセージ、見た?」


「メッセージ?」


 言われて、鞄から携帯端末を取り出して確認すると、天野さんの名前がポップアップ通知されていた。


「ごめん。言われて気づいた」


「先に()()()()で待ってたんけど、まあいいわ」


 天野さんはふうっと溜め息を零してから、佐竹と月ノ宮さんを交互に見やる。鋭い視線に耐えかねた佐竹は、はっと目を逸らしておにぎりを口の中に放り込み、ぐほぐほと喉に詰まらせてお茶で呑み下した。


 月ノ宮さんこそ冷静に堪えていたが、卵焼きを掴まんとする姿勢で硬直していたので、それが返って不自然に見える。


「私も一緒に食べていいかしら? 二人の迷惑にならなければ、だけど」


 その言葉を好機と捉えたのかは定かじゃないが、この機に乗じるとばかりに二人は声を張り上げた。


「大勢で食ったほうが美味いって言うしな!」


「私は大歓迎ですよ! さあ、恋莉さん! 私の隣に!」


「あはは……じゃあ、お邪魔します」


 漢字の『田』の字を作るように机を移動させて、天野さんは月ノ宮さんの隣に座った。


 首脳会談、開幕──ッ!


 いやいや、と僕は肩を落とした。


 フラグを立てたのは僕だし、こうなる可能性がなかったわけじゃない。なかったわけじゃないにしろ、まさか本当にこうなるなんて想像できるだろうか?


 これまで幾つも『地球が滅ぶ』と予言されていたが、どれも実現しなかった。アンゴルモアの大王は地球に来なかったし、古代アメリカ人のマヤ暦だって外れた。予言や予知なんてそんなもので、警鐘鳴らしっぱなしのオオカミ少年のソレと同じではあるけども、どうして僕のフラグだけはしっかりと回収されるのだろうか。


 といえども、これこそがマーフィーの法則たらしめるのだ。そして、『チャンスは最悪のタイミングで訪れる』とも記されている。これを前向きに捉えるならば『逆境を乗り越えた先にチャンスがある』であるけれど、僕はそこまで前向きな人間ではない。だから、この一節にしても『なんて日だ!』と叫ばずにはいられないのだ。


 この状況は、普通にヤバい。


 僕の語彙力が〈佐竹る〉くらいには、ガチで危機的状況だが、回避方法はあるだろうかと知恵を絞った。


 逃げるという選択肢は必ずしも悪ではない。


 戦略的撤退という言葉も存在している。


 トイレという名のシェルターに籠城して、昼休み丸々帰ってこなくても文句は言われないだろう。帰りしなに「お腹が痛くてさあ。……てへ☆」って言えば済む話だ。


 だけど『それでいいの?』と、僕の中にいるもう一人の僕がしゃしゃり出てくる。


『楽しい高校生活を送るための重要なイベントじゃないの?』


 と、忠告してくるのだ。


 そんなことは望まないし、望んではいけない。


 彼らには彼らの世界があって、彼らはその世界に帰らなければならない。彼らは普段通りの楽しい日常へ回帰しなければならないが、昨日のダブルデートで〈なにか〉が変化してしまったんだろう。


 まるで世界がバグっているような気がして、寒くないはずなのに、僕の背筋がゾゾっと粟立つのを感じた。



 

【備考】


 この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』をご覧頂きまして、誠にありがとうございます。

 今回の物語はどうだったでしょうか?

 皆様のご期待に添えるように全力で書いていますが、まだまだ実力不足な私です。次はより面白い作品が書けるように、これからも努力して参ります。


【瀬野 或からのお願い】


 この作品を読んで「面白い! 応援したい!」と思って頂けましたら、お手数では御座いますが『感想』『ブックマーク』『評価(最新話の下部にあります)等』をして下さると、大変励みになりますので、どうかよろしくお願いします。


【誤字報告について】


 作品を読んでいて〈誤字〉、もしくは〈間違った言葉の使い方〉を見つけた場合は、どうぞご遠慮なく〈誤字報告〉にてご報告下さい。

 その全てを反映できるかはわかりかねますが(敢えてそういう表現をしている場合も御座います)、『これはさすがに』というミスはご報告を確認次第修正して、下記の【修正報告】に感謝の一言を添えてご報告致します。


「報告したら不快に思われるかも」


 と躊躇されるかも知れませんが、そもそも『ミスしているのは自分の責任』なので、逆恨みするような真似は絶対にしません。どうかご安心してご報告下さいませ。勿論、誤字しないのが一番よいのですが……。


 報告、非常に助かっております。


【改稿・修正作業について】


 メインストーリーを進めながら、時間がある時に過去投稿分の改稿・修正作業を行っております。

 改稿・修正作業はまだまだ終わりませんが、完成した分は『活動報告・Twitter』にて、投稿が済み次第お知らせ致します。



 最後になりますが、現在ブクマして下さっている方々や、更新してないか確認をしに来て下さる方々、本当にありがとうございます。

 完結を目指してこれからも書いて参りますので、引き続き応援して下さると嬉しいです。


 これからも、


【女装男子のインビジブルな恋愛事情。】


 を、よろしくお願い致します。


 by 瀬野 或


【誤字報告】

・現在報告無し

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[一言] 逃げ出したい、わりと普通にガチで
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