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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
二章 It'e a lie, 〜 OLD MAN,
63/677

二十四時限目 それぞれの思惑が交差したブルデートは幕を閉じる[後]


 ふっと隣を見やると、佐竹君が私をじいと見つめていた。なに? と首を傾げたら、気まずいとばかりに目をそらして、前髪をちりちりと弄って遊びだした。


「だから、なに?」


 問い詰めるように語尾を強くした私の様子を見て、毛先を弄るのを止める。


「楽しかったな。ガチで」


 ぼそっと、目を涼めながら言う。


「うん。久しぶりの水族館だったから楽しめたよ」


 佐竹君は「そうか」とだけ返事をして、アイスココアをぐいっと呷ってから床に置いた。コツンと甲高い音がしたので、一気に飲み干したらしい。アイスココアって、そうやって飲むものじゃないよ……と、喉元まで出かかっていたけど呑み下した。


「甘いのに薄いって微妙だよな」


 と、床に置いたココアの缶を見下すように睥睨して品評をする。


「缶のココアに美味しさを期待しちゃだめだよ」


 それはココアに限った話ではなく、佐竹君が買ってくれたブラックコーヒーの味も薄くて苦い。


 世界のバリスタが監修しても、所詮は缶コーヒーであり、豆から挽いたダンデライオンの珈琲には適わない。


「それで……、これはなんの時間?」


 さっきと同様の質問を佐竹君にぶつけると、佐竹も同じように「わからん」と答えた。然し、さっきとは雰囲気が随分と違って物々しい態度で私を見つめる。


「いや、嘘だ。……わかってる」


「そ、そう?」


 この感じは、なんだか嫌な予感がしてならない。


「そ、それじゃ私はそろそろ……」 


 ドロンしますって退散しようとした私の肩を、彼のゴツゴツした手が掴んだ。


「もうちょっとだけでいい。傍にいてくれないか」


 背中越しにいる彼が、本音を吐露するような声音で言った。いつもの、取って付けたような語尾は無い。掌から伝わる熱が、殊更に真剣だと訴えるようだった。


「わかった。もうちょっとだけだよ?」


 そう言って振り返ろうとした瞬間、佐竹君が肩を後ろに引っ張るものだから、私の体はバレリーナのように、その場でぐるりと半回転。そして、()()めきそうになった私を、佐竹君が抱き寄せた。


「ねえ、恥ずかしいよ……」


「わ、わるい……つい、な」


 いまのは、(わざ)とじゃない。


 私のことを抱き締めたくて、力一杯引き寄せたんだ。思いのほか強かったせいで……いや、私の体幹がへなちょこ過ぎたせいもあり、場違いなダンスを披露する羽目になった。


「わかったから、その……顔が近い」


 腕を伸ばして私を剥がすと、佐竹君は自分が大胆な行動をしてしまったのを悔やみながら赤面して、顔を合わせられないとばかりにそっぽを向いた。


「ここまで無抵抗だと焦るだろ。……ガチで」


「だって、運動神経は人並み以下の私だよ?」


 自慢するのおかしいだろ、と佐竹君は失笑する。


「でも、おしかったね。キスするチャンスだったのに」


 そう言うと、彼は「しねえよ」と否定した。


「変なことはしないって約束だ」


 背けた顔を私に向けて、佐竹君は真面目ぶって答えた。


「いまのは変なことじゃないと?」


「だから、悪かったって謝っただろ……」


 お前、そういうとこあるよなって言いながら、きまり悪そうに(うなじ)辺りをがしがし掻く。


「冗談だよ。いまのはノーカンにしといてあげる」


「お、おう」


 それにしても、だ。


「コーヒーが零れてたら大惨事だったよ?」 


 会話しながらちびちびと飲んでいたので、三分の一くらいしか残ってなかったのが幸いだ。その残りを飲み干して、彼が床に置いていた缶を拾い上げる。


「あ、俺が捨ててくるぞ」


「ううん。いい」


 そして、佐竹君が口をつけた場所に、私は口付けをした。


「……今日は、これで我慢して?」


「え? あ、ああ。おう……」


 これくらいしないと、佐竹君は私を帰してくれなそうだし、私自身の目的を遂行するには、この行動がベストだと思った。……そりゃ、かなり抵抗があったけど、こういう仕草は小悪魔っぽいと漫画にも描いてあったし? と、自販機横に設置されているゴミ箱を目指しながら、心の中で言い訳を連ねた。


 缶をゴミ箱に捨てて振り返ると、佐竹君は自分の両頬をペチペチ叩いていた。頬が赤い言い訳でも作ってるのかな? なんて思うと、ときたまに男らしさを垣間見せる彼にも可愛い一面があるものだ、と笑みが零れたその一瞬を、佐竹君に目撃されてしまった。


 ──笑うなよ。


 ──笑ってないもん。


 ──いいや、笑った。


「はいはい、笑いましたけどなにか?」


「開き直ってんじゃねえよ。マジで」


 なんだかこそばゆい感じのやり取りで、私たちは思わず吹き出してしまった。


「結局のところ、この時間はなんだったの?」


「そうだなあ……」


 佐竹君は顎に手を当てて、神妙に目を伏せて考える振りをしてから色を正した。


「お前に告白しようと思ったけど、まだ時期が早いと躊躇したタイムだな」


「えええ……」


 そうだとは思ったけど、赤裸々に語り過ぎでしょう……。


 そう嫌な顔するなよって、佐竹君は肩を落とす。


「まだ色々と踏ん切り付いてねえのに、勢い任せじゃ駄目だろ」


「でも、勢いって大切じゃない?」


「それが通じる相手だったら、とっくにそうしてる」


 これには思わず、へえと素性が出てしまった。


「声、戻ってんぞ。普通に」


「佐竹君が変なこと言うからでしょ! ばーか」


 あっかんべーと舌を出して、動揺を隠す。


 彼の言葉に、ちょっとだけ感心してしまった自分に戸惑う。


 いつもちゃらんぽらんでウェーイの癖に、こういったときだけ男らしくなるのは反則だ。ウェーイの者ならウェーイの者らしく、勢い任せにヨシェーイ! って奇声を上げてればいいのに、意外な一面を見せられたら、どうすればいいかわからなくなっちゃうじゃん……。


 私が沈黙していると、佐竹君も居心地が悪そうに左見右見を繰り返していた。


 ──帰ろっか。


 ──そうだな。


「また明日な」


 そう言って、彼は踵を返す。


 あれ? そっちの電車って……。


「ま、いっか」


 私が見ているかもわからないのに、後ろ向きのまま、さっと手を挙げるようなキザな仕草をする佐竹君の背中を見送ってから、私も自分のホームへと足を向けた。



 

【備考】


 この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』をご覧頂きまして、誠にありがとうございます。

 今回の物語はどうだったでしょうか?

 皆様のご期待に添えるように全力で書いていますが、まだまだ実力不足な私です。次はより面白い作品が書けるように、これからも努力して参ります。


【瀬野 或からのお願い】


 この作品を読んで「面白い! 応援したい!」と思って頂けましたら、お手数では御座いますが『感想』『ブックマーク』『評価(最新話の下部にあります)等』をして下さると、大変励みになりますので、どうかよろしくお願いします。


【誤字報告について】


 作品を読んでいて〈誤字〉、もしくは〈間違った言葉の使い方〉を見つけた場合は、どうぞご遠慮なく〈誤字報告〉にてご報告下さい。

 その全てを反映できるかはわかりかねますが(敢えてそういう表現をしている場合も御座います)、『これはさすがに』というミスはご報告を確認次第修正して、下記の【修正報告】に感謝の一言を添えてご報告致します。


「報告したら不快に思われるかも」


 と躊躇されるかも知れませんが、そもそも『ミスしているのは自分の責任』なので、逆恨みするような真似は絶対にしません。どうかご安心してご報告下さいませ。勿論、誤字しないのが一番よいのですが……。


 報告、非常に助かっております。


【改稿・修正作業について】


 メインストーリーを進めながら、時間がある時に過去投稿分の改稿・修正作業を行っております。

 改稿・修正作業はまだまだ終わりませんが、完成した分は『活動報告・Twitter』にて、投稿が済み次第お知らせ致します。



 最後になりますが、現在ブクマして下さっている方々や、更新してないか確認をしに来て下さる方々、本当にありがとうございます。

 完結を目指してこれからも書いて参りますので、引き続き応援して下さると嬉しいです。


 これからも、


【女装男子のインビジブルな恋愛事情。】


 を、よろしくお願い致します。


 by 瀬野 或


【誤字報告】

・現在報告無し

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[気になる点] 翌日、反対方向の特急に乗った佐竹が愚痴をこぼした……とか? [一言] 優梨ちゃん可愛すぎる
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