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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
二〇章 The scenery I saw one day,
609/677

四百二十八時限目 佐竹義信は奔走する


 最初は〈火の大陸〉を捜索すると決めた俺は、可能な限り隅々まで目を配らせつつ、大陸内を走り回った。その結果、このかくれんぼが如何に無謀なゲームであるかを痛感する。


 ほとんどの客はフィナーレを見るまで帰宅しない。あわよくば、なんて期待していた俺の願いは、ダンジョンに長蛇を作る勇者一行の人数をもって砕け散った。


 腕時計をちらと見る。火の大陸に到着してからいままでに掛かった時間は約十八分。ゲーム開始直後から計算すると二〇分が経過していた。──これはまずい。


 一大陸に掛ける時間を一〇分としていたが、通行人に阻まれて思うように動けなかったのが原因だろう。水の大陸に向かって移動している現在も、俺の行く手を阻むかのように通行人が壁を作っていた。


 二人を探すにあたって、軌跡を辿るのが一番だと考えた。


 太陽の目的が当初から〈かくれんぼ〉だった、とすれば、ラストダンジョンまでの道中に、「隠れやすそうな場所はどこだ」と目を光らせていたに違いない。


 太陽とダル絡みをしながらも、不審な行動をとらないかと見張っていたはずだったのに──。


 いま思えば、太陽の視線が散見していたような気がする。目新しい風景に目移りしているだけだ、と気にも留めなかった数時間前の俺を殴ってやりたい気分だ。


 火の大陸と水の大陸は地続きになっているけれど、それでも五分以上は時間を取られてしまった。


「クソ、これじゃあ間に合わねえぞ。ガチで!」


 焦りと疲労が愚痴になる。


 なるべく足を止めず、順路通りに進んではいるものの、このまま探しても無駄に時間を浪費するだけで、埒がない。


 俺はダンジョン近くにある岩のオブジェクトに寄り掛かり、マップを広げた。適当に折りたたんでいるせいで、余計に『古びた大陸地図』になっているが、そのことを話題に出そうにも相手がいないわけで。──悲観してる暇はねえな。


 頭を使うしかない、と俺は思った。一番苦手な分野だし、導き出した答えが間違っていれば完全にアウトだ。でも、闇雲に探し回ったところで見つけられなければ同じである。


「考える前に糖分が必要だな」


 袈裟掛けバッグの中に入っている〈ポーション〉を取り出して、ぐいと一気飲み。数時間前に購入した物なだけあってぬるくなったそれを飲み干したとて、ヒットポイント三〇パーセント回復! ペットボトルのデザインと味で、プラなんとか効果ってやつだ。


 プライバシーじゃなくて、プライベートでもなくて、プライオリティでもなくて──喉まで出かかっているのに出てこねえけど、プライオリティって難しそうな単語は出てくるんだな。どこで訊いたものか……意味はわからん。


 水分を補給したことによって煩わしい喉の渇きも解消した。あとは俺の脳がいつも以上に機能してくれることを祈るばかりだが、こればかりは気合でなんとかするしかない。


 改めてマップに目を落とす。


 火の大陸から反時計周りに進むと、水、土、風の大陸が順路になる。火の大陸と水の大陸はお隣さんだが、水の大陸から土の大陸に移動するとなると、一キロほどの道中に〈中間地点(セーブポイント)〉が存在する。


 中間地点にはダンジョンがない。その代わりに、商人が営む移動販売の荷車やアイテムショップが並ぶ。言わば、勇者一行の休息地的な場所だ。


 中間地点のメインコンテンツは、大型ステージで行われる催し物である。


 このショーは魔王軍ではなく、ギルドの踊り手たちが、朝、昼、夕方に、華やかな踊りを見せてくれるらしい。いろんな意味で迫力満点、という噂だったが、それってつまりそういうことだよな。言明は避けるけど。


 九月末までは『水龍降臨祭』なる催し物をしているようだが、俺たちが通ったときは既に終わっていて、移動販売のターキーやポップコーンの匂いが空腹を誘うのみだった。


「そういや、そろそろ夕方の部が始まる頃だな。道理で通行人が多いわけ、だ……?」


 あ、と声が出た。


 太陽はどうしてこの時間に優梨を攫った? 攫おうと思えばいつでもよかったはずだ。


 遺恨を残したままの状態でファンパのダンジョン攻略をしたくなかったというのも理由の候補としてはある。


 だけど、太陽は『自分だけがよければいい』という思考の持ち主。


 俺に気を使う、なんてするはずがない。


 そうであれば、『この時間でなければいけなかった』って理由を探したほうが懸命だ。


 木を隠すには森、人を隠すには人混みに紛れ込むのが、もっとも単純でいて盲点になる。


 隠れ場所を探してうろうろしてれば、俺に見つかるリスクも高まるしな。


 ラストダンジョンからも中間地点にはいけることだし、水龍降臨祭の開始時刻に合わせてこの下らないゲームを開始した、とすれば、いくらか辻褄は合うように思う。


 つまり、太陽と優梨は中間地点にいる確率が高いってわけだ──と結論に至ったところで、遠くから大きな爆発音が鳴り響いた。





 中間地点に到着した俺は、見渡す限りの見物客に度肝を抜かれた。


「マジかよ」


 このなかにいるであろう太陽と優梨を見つけるなんて普通に困難極まりない。ガチで。


 ──太陽め、やりやがったな。


 これが『ボーダーの紅白服を着た眼鏡のおっさんを探せ』だったら、あまりの難易度に、おっさん自らが両手を挙げて存在をアピールするまである。


 もっと早い段階で〈龍神降臨祭〉に考えが至っていれば難易度も違ったんじゃないか? と思えてならないが、時すでに遅しだ。


 ステージでは露出度の高い衣装を着たダンサーが、サンバのリズムで踊っている。水龍だけあって、ステージ付近には霧が満ちていた。盛り上がりを見せる要所でミストを吹き出す装置が作動しているのだろう。


 俺がいる場所だと水の影響はないが、最前列ともなれば雨合羽を着用しないとずぶ濡れになりそうだ。『大量の水を被る可能性があるので雨合羽を持参してください』の注意書きは、こういうことだったのか。


 そういうことであれば、太陽と優梨は少なくとも最前線はいない。近くの売店で雨合羽をわざわざ購入してまでショーを楽しむ風情があれば話は別だが、アイツらにはなさそうだしな。


 ダンサーたちが豆粒みたいに小さく見えるほどに距離が開いていることもあって、噂の真相をたしかめるまでにはいかないのが残念だ。──いやいや。


 俗物見学よりもやることがあるだろ、と自分を戒めて捜索を続ける。


「どこにいるんだよ、ガチで!」


 堪らず愚痴を零した俺だったが、観客のなかに見覚えある服装を見つけた。観客の合間を縫って移動するのは忍びないとはいえ、迷惑承知で進むしかない。


 体をねじ込ませて、その都度、「すんません、マジですんません」と頭を下げた俺の右手が、ようやっとソイツの右肩を掴んだ。



 

【修正報告】

・報告無し。

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