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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
二〇章 The scenery I saw one day,
608/677

四百二十七時限目 宇宙の大陸ーラストダンジョンー


 空が赤らんできた頃、私たちは〈宇宙の大陸(ラストダンジョン)〉に到着した。ドーム型の丸みを帯びたフォルムは、紫色の菱形を連結して作られたような姿をしている。言い換えれば、外敵から身を守るバリアみたい。


 これまでの大陸は自然の力を象徴していたけれど、宇宙の大陸は科学的で、異様で、異形。ファンタジー要素はどこにいった? と苦笑いする客たちの傍で、私はパンフレットを広げた。


 説明には、『魔王が作り出した魔空間』とある。


「魔王、なんでもありかよ」


 ちらと覗き見した佐竹君が愚痴を言い、首を突っ込んでくる。旋毛が二つあった。──じゃなくて。


「説明文が読めないんだけど?」


「俺が代わりに読んでやるよ。ええと……要約するとだな? ここは魔王が作り出した空間で割とヤバいから頑張れ! 的な感じだ」


 あまりの漠然とした説明に、二の句が継げない。


 その様子を少し離れたところで見ていた太陽君は、やれやれって感じの呆れ顔をしながら佐竹君に近づいて、とんと肩を叩いた。


「ここまで内容が入ってこない説明もなかなかないですよ。さす竹先輩ですね」


 声の節々に哀れみが溢れ出ていた。


「〝さすが〟と〝佐竹〟を混ぜるな!?」


 後輩に哀れみを向けられては、お得意のツッコミにもキレがなくなっていた。


 でも、私は佐竹君よりも太陽君に違和感を覚えてならない。


 言動の数々が優志(わたし)と酷似し過ぎているというか、わざと模倣しているような。──気のせい?


 私の真似をしてなにがしたいんだろう?


 なにをしようと企んでいるんだろう?


 私を襲うためにあれほど策を弄した太陽君が、ここまでちょっかいを出してこなかったのも怪しい。


 この疑惑は、火の大陸を攻略したときから──。


「あ、トイレあった。ちといってくるわ」


 と、一目散に駆け出していく佐竹君。


「ぼくたちはここで待ってますね、ウンコマン先輩」


 嫌な予感がする──。


「ちげえよ! アンモニア水を出してくるんだよ、ガチで!」


 庭に入ってきた猫を追い払う手をして見送った太陽君は、私に背中を向けたまま、「さて」と発声した。


「やっと邪魔者がいなくなりましたね、鶴賀先輩」


 振り返った太陽君は、あの日と同じ底意地の下卑た笑みを浮かべている。


 予感が的中してしまった。


「このときをずっと待っていたんですよ。まあ、ここまで(てこ)()るとは思わなくて、かなり時間を浪費してしまいましたが」


「どういう──」


「佐竹先輩の頭はお花畑ですからね。ちょっと構ってあげれば直ぐに信用してしまう。大切にしているものを他人に預けるなんてどうかしていますよ。おめでたい頭でなによりですが──佐竹義信の弱点はそこです」


 おかしいとは思ってた。


 エスコート対決という割には、それらしいことを一切してこなかった太陽君。ダブルデートだったにも拘らず私に手を出してこなかったのも、佐竹君を構い続けていたのも全部、この瞬間を狙っていたからこそ──。


「賭けをしませんか、鶴賀先輩」


「賭けって?」


 訊ねると、太陽君は悪い顔をしながら私の右腕を掴んだ。


「内容については歩きながらでもお話しします。せっかくの時間が勿体ないので」





 * * *






『愚かで間抜けな勇者様、お姫様は預かりました。このメッセージに既読がついたらゲームスタートです。一時間以内にぼくらを見つけてください。見つけられれば佐竹先輩の勝ち。できなければ負け。どうです? 簡単なルールでしょう? 佐竹先輩が勝利した場合、ぼくは鶴賀先輩を諦めます。でも、見つけられなかった場合は、潔く身を引いてくださいね。果たして勇者は姫を見つけだすことができるのだろうか!? ファンパの設定に添えばこういう具合でしょうか。健闘を祈ります』





「なんだこれ」


 トイレから戻ってみれば二人の姿はねえし、携帯端末でどこにいるのか訊ねようとしたらこんな文章が俺宛に送られていた。「悪ふざけしてんじゃねえよ」と太陽に返信してみたが、既読がつくだけで返答はない。優梨に「いまどこにいるんだ」と送信してみても無駄だった。


 太陽は手段を選ばないヤツだって、あの日、思い知ったはずだったのに、どうして俺は優梨を一人にしてしまったんだ。悔やんでも仕方がねえけど、自分に腹が立つ。


「タイムリミットはいまから一時間か。──うだうだ言ってる暇なんてねえぞ」


 俺は携帯端末のアラームをセットした。


 然し、こうも広いファンパ内でかくれんぼとは──。


「どこをどうやって探せばいいんだよ!?」


 ノーヒントで探せってか。 


「難易度高過ぎんだろ……」


 無駄口を叩く暇なんてないが、口を開けば不満が口を衝いて出る。


「勇者ってよりも、配管工のおっさんになった気分だ。マジで」


 幾度となく誘拐され続けるお姫様と、助けに向かう髭オヤジ。大乱闘では普通に強キャラだが、俺はそうじゃない。ならば頭を使えばいい、とはいっても、優志のように頭がキレるタイプではない俺が頭を抱えたところで時間の無駄にしかならないだろう。マジでマンミーア。


 ジーンズのポケットに突っ込んでいたマップを広げて、身を潜められそうな場所に当たりを付けようと思ったが、広過ぎて見当もつかない。


「やべえ、普通にわかんねえ……」


 タイムリミットが指定されてるってことは、そう遠くまではいけないだろう。とも思うが、宇宙の大陸はマップの中央に位置している。いこうと思えば四大陸のどこにでもいけるのだ。


「ワンステージを一〇分で攻略すれば間に合うか? ──RTAかよ」


 RTAの正式名称は知らない。


 ただ、『ゲームを最短攻略する』って意味だけは知ってる。


 プレイミスをせずに無駄を最小限に抑えて、あるときはバグすらも利用する。けれど、現実世界にバグなんてないし起こらない。起こせない。 


()()()()()()ってことわざもあるくらいだし、案外、ラスダンに潜んでる可能性もあるか」


 いや、どうだ。仮に太陽がこの計画を実行するならば、これまでの道順で、隠れられそうな場所を調べていた、ということになるんじゃないか。俺がトイレにいっている間しか移動できないとすると、一か八かでラスダンを選ぶとは考え難い。──調べるとしたら最後だ。


「諦めらんねえからずっと返事を待ってんだ。ぽっと出の新人に出し抜かれたのは癪だけど、俺にも意地ってもんがあるんだ。最後まで足掻いてやるぜこのやろう」



 

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