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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
二〇章 The scenery I saw one day,
604/677

四百二十三時限目 火の大陸


 テーマパークを全力で楽しむには、ルート選択は肝心だ。


「俺はこのルートがいいと思うぜ」


 佐竹君が提唱した、火の大陸、水の大陸、土の大陸、風の大陸、最後に宇宙の大陸と右回りに進むルートは、ファンパ公式サイトでも推奨している正規ルートだ。


 通称〈アクションルート〉と呼ばれている。


「まるで佐竹先輩の人生を追体験するようなルートじゃないですか」


「どういう意味だよ」


 眉を寄せて疎ましそうに太陽君を睨みつける佐竹君だったが、


「敷かれたレールの上こそが至高という、浅はかさが浮き彫りですよ。そんな人生でいいんですか?」


 太陽君は、飄々とした態度で返す。


 思いもよらぬ返答に、「大袈裟だろ、マジで」と顔を引き攣らせた。


 正直に言うと、私も太陽君の言う理屈とは別の理由で、〈アクションルート〉は賛同しかねる。公式サイトで紹介されているとなると、ファンパに初めて訪れる客のほとんどが〈アクションルート〉を選ぶだろう。


 そうなると、必然的にアトラクションの待ち時間が増えてしまう。


 致し方ないことではあるのだけれど。


「太陽はどう攻略するのがベストだと思うんだ?」


 語気鋭く迫る。


「ぼくが提唱するのは、〝一つ飛びルート〟です」


 太陽君が言う〈一つ飛びルート〉とは、時間効率をメインとした、言わば裏技のような方法だ。


 火の大陸に挑む前に水の大陸のアトラクションを予約し、火の大陸のアトラクションを乗り終えたら水の大陸に移動。先に予約してある分、スムーズに進行できる。


 然し、このルート選択は大陸を何度も行き来しなければならないため、私の体力が保つかどうかが心配だ。


「効率よくいきましょうよ、ね? 鶴賀先輩」


 ね? と言われても。


 楽しさ重視とすれば、太陽君の案を選ぶべきなのは最もだ。


 だけど、そのせいで私の体力が尽きたらと考えると、気安く返事はできない。


 ──どうしよう。


 困り顔でいる私の肩を、佐竹君が優しくとんと叩いた。


「わかってねえな、太陽。お前のルートだと、コイツの体力が保たねえ。矢継ぎ早に乗り換えられる利点はあるけど、今日の主役は優梨だろ? 優先順位を履き違えるな」


 普段は全然頼りにならない分、こういう場所では頭角を現す佐竹君。ぎゅっと肩を握られた私は、安心感のような感覚を得た。


 ありがとう、の意味を込めて佐竹君を一瞥した私に、歯を出して笑う。


 いままでは歯牙にもかけてこなかったけど、歯並び綺麗だなあ、とか思ってみたり……歯だけに。


 佐竹君の自信満々な態度に、陽君は眉間に皺を寄せた。


「悔しいですが、一理ありますね」


 不満ではある。でも、私を優先して考えていた佐竹君に、なにも言い返せなかったようだ。


 佐竹君は私の肩から手を離すと、今度は太陽君の肩に手を回した。


「太陽の案も悪くねえよ。ファンパを全力で遊び倒すならそれが最適解だ。ま、気楽にいこうぜ?」


 私をフォローしつつ、後輩の発言も立てる。これこそが、クラスのリーダー佐竹義信の本領だ。改めて、佐竹君の器の大きさを知った。──それもだけど。


 人一倍はしゃいでいた佐竹君が、私のことをしっかり把握していたことに驚きを感じる。嬉しい、けど、ちょっとむずむずする。


 だれかに大切にされた経験がないために、そう思うのかもしれないけれど。


「優梨、いこうぜ?」


「鶴賀先輩、いきましょう」


 二人に後押しされて、視界が明るくなったような気分だった。


「うん、いこっ!」


 今日くらいは普段の自分を忘れて、思いっきり羽を伸ばしても文句ないだろう。


 だって、ここは夢と冒険の世界なのだから──。





 * * *





「火の大陸、やばかったな……あれはマジで死ぬかと思ったぞ、ガチで」


 各大陸にはメインアトラクションが一つ、サブアトラクションが三つ用意されている。火の大陸のメインアトラクションは、火山の中をトロッコで駆け巡る絶叫コースターだった。


 アトラクションの概要には、こう記されている。


『魔王を倒すために伝説の秘宝を探す勇者一行。無事に秘宝を手に入れたものの、秘宝の封印を解いたせいで火の精霊を怒らせてしまった。なんとか怒りを鎮めた勇者一行ではあったが、魔王軍の妨害工作により帰りのトロッコが大暴走! 果たして勇者一行は無事に火山を脱出できるのか!?』


 トロッコは前二人、後ろ二人の四人乗りで、私の隣りはじゃんけんの勝敗で決まった。


 結果、佐竹君が私の隣りに座ったのだけれど、終始叫んでいてアトラクションに集中できなかった。


 どうやら佐竹君は、絶叫マシンはすきだが苦手、という困った趣向のようで。


 最後の急勾配を下る最中、「ガチかああああッ!」と大声をあげていた。


「佐竹先輩、最後のあれはなんですか。普通、叫び声と言えば〝うわあ〟でしょう」


 呆れと嘲りが混ざったような複雑な笑みで、太陽君が言う。


「うっせぇな、ガチだったんだよ」


「それ、言い訳にすらなってないですよ」


 太陽君の斜に構えるような言い回しは、私をリスペクトしてなのだろうか? それとも、根っから捻くれているのか。


 第三者目線でいると、後頭部をスリッパでひっ叩きたくてしょうがない。


 他人のふり見てわがふり直せ、とはよく言ったものだ。


 クールにしている太陽君ではあるけれど、佐竹君のせいで妙に冷静だった私は知っている。


 後部座席で念仏のように、「神様仏様お願いしますお願いしますう」と懇親の祈りを捧げていたのを。


 ──二人とも絶叫マシン耐性がないってどういうこと!?


 私をエスコートするどころの騒ぎではないかもしれない、と思った。



 

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