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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
二〇章 The scenery I saw one day,
597/677

四百十八時限目 悩みは増えるが減りはせず


 昨夜、八戸先輩に『太陽君に女装の件を言いましたか?』と問い質してみた。犬飼弟が『女装のこと』を知っていたのは、八戸先輩がついうっかり口を滑らせたからだ。と、当たりを付けてメッセージを飛ばしたけれど、返答は『ノー』だった。


 言われてみれば、八戸先輩が僕の秘密を(ばく)()するはずがない。八戸先輩の口の巧さは、()()()()()()()()()()ほどだ。口車に乗せることはあっても、乗せられるなんて先ず有り得ない。


 ならばどうして犬飼弟が僕の秘密を握っているのか──答えは実にシンプルで、言葉通り()()()()のだろう。『ストーキング』と呼ばれる行為である。


 犬飼弟が僕を認識したのは、『入学式のときから』と言っていたが──あれは嘘だ。僕が学校で優梨の姿になったのは、昨年の学園祭のみである。


 それ以外は校外でしか、優梨の姿になっていない。


 とどのつまり、犬飼弟は〈お好み焼き喫茶〉に客として来店し、僕の存在を知ったことになる。


 それからずっと僕のことを見ていたのならば、これはもう恐怖以外のなにものでもないのたが──。


 宇治原君と村田ーズのこと。


 (かん)(しゃく)を起こした佐竹のこと。


 そして、犬飼弟の狂気。


 よくもまあここまで面倒が重なるものだ。


 感心すら抱きそうになる。


 この三問をだれが解決しなければならないかというと、どうにもいっかなこれまたどうして、僕が解決しなければいけないときたもので──はて、僕は前世にいかほどの大罪を働いたのだろう? 悩みの種があり過ぎて、ひと袋一〇〇円で売り歩きたいくらいだ。





 村田ーズが悪さをしないように見張ってくれ、なんなら解決してくれてもいい、という具合いにお願いしてきた張本人の佐竹義信は、今日もお仲間たちと騒ぎたい放題である。


 ──いいご身分なことで。


 嘆息と共に漏らした。


 ここ二日間をかけて、頭丸刈り似非野球少年風の〈杉田(りく)〉、ロン毛のキューティクルがご自慢の軽音部男子〈元沼(かい)()〉、オシャレ七三分けのバスケ部風黒幕〈村田(のぼる)〉──三人のなかで部活をしていたのは元沼君だけだった──をマークしてきた僕だが、佐竹の反抗的な態度にカチンときて、お昼の監視は校庭のベンチにてサボり中である。


 クラスの連中はクーラーが効いた教室から出たがらないけれど、昼休みに日光浴するのも悪くない。


 空になったお弁当箱をバンダナで包み、ビニール袋に入れて鞄のなかに戻したタイミングで、だれかがこちらに近づいてくる気配を感じた。


 雑草を踏む音の間隔が、徐々に近くなってくる。


「やっと見つけましたよ、鶴賀先輩! とっても探したんですよ?」


「太陽君……」


 会いたくない人第一位が僕を訪ねてくるなんて、梅高の敷地内に安息地はないようだ。


「文芸部はお昼の活動はないの?」


 遠回しに「どこかいけ」と伝えたのだが、そんなことなど歯牙にもかけず、


「新聞部との連携でコラムを書いていたりしますが、それはぼくの役目ではないので心配無用です」

 

 天使のような悪魔の笑顔を僕に向けてきた。


「いつもここでお昼を食べているんですよね?」


 そう言いながら、僕の隣に腰を下ろす。


 許可したつもりはないのだが。


『探した』と言うのは、おそらく嘘だろうな。訪れたタイミングが、あまりにも良過ぎだ。僕の行動パターンを把握している者であれば、ランチタイムに僕がこの場所を選ぶと知っている。これまでも数人、僕を探しにきたくらいだし。


「どうして教室でお弁当を食べないんですか?」


 ぼっちだからである。


 とは言えず、


「健康志向なんだ」


「なるほど。佐竹先輩と喧嘩したんですか」


 どこが『なるほど』なんだ。


 佐竹と喧嘩したことまで把握しているなんて。


 もしかして、僕が村田ーズを監視していることも知ってたりするのでは?


「ああ、ダンデライオンでこそこそ話してましたよね。宇治原先輩がどうとか。──その兼ね合いでしょうか?」


「人聞きが悪いし言い方も悪い。それに」


「壁に耳あり障子に目あり、ですよ、鶴賀先輩。内緒話をするのであれば、もっと周囲に気を配るべきでしたね」


 最後まで言い終える前に、ぐうの音も出ないド正論で返されてしまった。


「警戒心がとっても強い割に隙が大きいんです。だからこうして、ぼくの侵入を許してしまうんじゃないですか? ──まあ、そこも鶴賀先輩の可愛いところなんですけどね」


 可愛いは兎も角、他の指摘は頷いてしまうばかりである。


 犬飼弟、やはり曲者だ。


 いやいや、待てよ? 佐竹と知り合ってからというもの、曲者しか相手にしていないように思える。


 そういう僕もなかなかに曲者だ、と自負しているだけに、類は友を呼ぶ的な力が働いているのかもしれない。


 そんななかでも犬飼弟は、未知なる曲者感があった。


 雰囲気は僕に似ていて、やることは月ノ宮さんの()()で、物腰は八戸先輩に近く、変態要素は琴美さんに通づるところがある。──地獄の欲張りセットみたいだ。


 思考パターンさえも見抜かれてしまっているのならば、僕が理解に及ばないところはどうなのだろうか?


 そう、喩えば──。


「そこまで言うなら、訊かせてくれないかな」


「なにをですか?」


「太陽君は、〝友情と愛情の違い〟についてどう思う?」 


「友情と愛情の違い、ですか」


 怪訝な顔をして、ぼそりと質問を繰り返した。


 

 

【修正報告】

・報告無し。

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