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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
一十八章 Happiness consists of misfortune,
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三百六十六時限目 ウェイの者がウェイと鳴かずにする


 水瀬先輩に感想を送りつけたまではいいが、その後になにをするかは決まっていなかった。庭で鈴虫が鳴いている。かつんかつんと窓を叩いているのは、窓から漏れる明かりを求めて飛んできたであろうカナブンとカメムシが妥当か。


 以前、やたら羽音を立てて窓をど突いているヤツがいたので、興味本意でカーテンを開けたら立派な触角を生やしたトンボだったことがある。「なんだこいつは」と思い『トンボ 触角』で画像検索をかけてみると、どうやらツノトンボという名前っであることが判明した。トンボと名前が付いているが、種類はウスバカゲロウの仲間らしい。


 数十年間この地に住んでいるけれど、ツノトンボは見たことがなかった。写真を撮っておこうと思い立ったときには、既に窓から離れてしまい行方がわからなくなってしまったのが悔やまれる。それは、オニヤンマを獲り損ねた懐かしい悔しさとちょっぴり似ていた。


 そんなことを思い出しながらハロルド本を読み進めていると、勉強卓の隅っこに追いやっていた携帯端末が震えた。マナーモードに設定したつもりはなかったが、なにかの拍子に設定されてしまったのだろう。メッセージを送ってきたのは水瀬先輩かなと当たりを付けて画面を見る。


「佐竹?」


 佐竹義信からメッセージを受信した、とポップアップ通知画面に記載されている。佐竹がいったい、僕になんの用事かと一考し……思い出した。おそらくは〈らぶらどぉる〉で言っていた件だろうけれど、いまのいままですっかり忘れていた。それに、流星が了承するなんて考えもしていなかった。案外、流星もバイトだけで夏休みを終えるのが嫌だったのかもしれない。


〈佐竹〉キャンプの日取りが決まったぞ


〈優志〉いつ?


〈佐竹〉三日後


〈佐竹〉梅ノ原駅に七時集合


「は?」


 思わず声が出た。


 よりにもよって、どうして梅ノ原なんだ。この前、花火大会で行ったばかりだし、通学時は毎日通う駅に、だれが悲しくて佐竹と朝早くから待ち合わせなければならないというのだろうか。しかも三日後とは、あまりに話が急過ぎる……予定はないけど!


〈優志〉どうして梅ノ原駅?


〈優志〉近場にしてもさすがに近すぎるのでは?


〈佐竹〉無料のキャンプ場を調べて、そこが一番いいと判断した


〈佐竹〉アマっちが


「流星のしわざだったか……」


 流星に調べさせればそうもなるだろう。どうせ、遠出するのが面倒だとかそんな理由で決めたに違いない。が、見知った土地であれば大分融通も利く。わざわざ路線を調べたりしなくてもいいし、ちゃんと目的地に到着するだろうかと不安に駆られる心配もない。


〈優志〉わかった


〈優志〉持参する物は?


〈佐竹〉昼にBBQで夜はカレー


〈佐竹〉優志は野菜を持ってきてくれ


〈佐竹〉調味料と皿類はアマっちが持ってくる


〈佐竹〉キャンプ用品はあるか? 寝袋とか


 一応、家族でキャンプをしたことがある。物置を探れば、そのときに使っていた寝袋はあるだろう。ただ、オイルランプや調理器具に関しては、持ち運べる自信はない。無料のキャンプ場とはいえ、(かまど)くらいはあるだろうか? そうなると鍋も必要になってくる。野外で調理をするということは、調理器具は必須になるだろう。


 それを伝えると、


〈佐竹〉大荷物はこっちでなんとかするから気にするな


 と、返信がきた。


〈佐竹〉それじゃ、三日後にな


〈優志〉うん






 どうにも腑に落ちない。


 佐竹が送ってきた情報には、なにかを隠そうとする意図が見受けられた。その証拠に、いつもなら必ずと言っていいほど使う『ガチ』、『マジ』、『普通に』、がなかったのも怪しい。それを問い詰めてもよかったのだが、佐竹とやり取りしている最中に水瀬先輩からも連絡がきたので、詳しいことは後日でもいいか、と自分を納得させた。


 水瀬先輩からのメッセージは、読み終えるのに五分はかかるだろうとわかる長文だった。〈コーヒーカップと午後のカケラ〉の話題は勿論だが、新刊の〈月光の森〉についても触れられている。ネタバレは悪と主張するだけに、内容こそ記載はなかったけれど、勉強そっちのけで読み、未だ興奮冷めやらぬというのが文面から溢れんばかりだ。が、気持ちはわかる。自分の趣味を語れる相手がいるのは、それだけで楽しいものだ。


 在学している高校に、趣味を語れる友人がいないのかもしれない。


 水瀬先輩が通っている高校は、柴田健、春原凛花と同じだ。「優秀な先輩」とは訊かされていたが、交友関係を訊ねた記憶はない。彼らの口調から陰湿めいたものは感じなかったもので、特に問題視していなかったのもある。僕が水瀬先輩の交友関係を知ったところで、それが僕に影響するとも思えなかったし、訊くだけ野暮だろうとも考えていた。それがいまになって、どうして気になったのだろうか……。


 そのことには触れずに返信すると、メッセージは瞬時に既読された。


〈水瀬〉キャンプに行くんだ


〈水瀬〉楽しそう!


 からの、スタンプが送られてくる。


 そのスタンプがあまり趣味がいいとは言えないもので、僕はついつい苦笑い。小学生の描いた落書きみたいな猫が口元にハートマークを咥えて、真顔でじいとこちらを見ながらヘドバンする動くスタンプ。ゆるい絵が好きなひとか、余程の猫好きでなければ買わないだろう。それから暫く水瀬先輩とやり取りしていたが、受験勉強の邪魔をしてはいけないと思い、そろそろ寝ます、と嘘をついてやり取りを終わらせた。


「キャンプか……」


 呟いて、余計に億劫になる。


「佐竹たちって、野菜より肉だろうな」


 だから、量は少なくてもいいだろう。BBQ分とカレー分をカットして持っていけばいい。どうせ佐竹のことだから、スーパーで安売りの肉を大量に持ってくるに違いない。その肉を少しカレー分に回せばいいか。調味料は流星が持ってくると佐竹は言ったが、もしや本格的なカレーを目指すわけではあるまい。数十種類のスパイスを持ってこられたって対処に困るだけだ……そこは流星と相談しなければ。



 

【備考】


 読んで頂きまして、誠にありがとうございます。もし差し支えなければ、感想などもよろしくお願いします。


 これからも、当作品の応援をして頂けたら幸いです。(=ω=)ノ


 by 瀬野 或


【修正報告】

・報告無し。

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