表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
一十七章 Escapism,
477/677

三百四十九時限目 佐竹琴美の弱点とは


 自室のドアを開けると、ベッドがいい感じに僕を誘惑する。いま、ベッドに横になったら、確実に眠りこけてしまう自信があった。そうならないように、眠気覚しのドリンクとブドウ糖がたっぷり詰まったラムネ菓子を、帰宅途中にあるコンビニで購入した。眠気対策に死角は無い。


 ベッドの誘惑を堪えて椅子に座った。


 コンビニ袋から眠気覚しのドリンクを取り出して、スクリューキャップを取る。カリッと封が切られる音は、いつ訊いても耳心地がいい。


「どれどれ……」


 飲み口に鼻を近づけて、くんくん嗅ぐ。匂いはちょっと鉄っぽい。ハーブを使った爽やか系という触れ込みに惹かれて購入したのに、鉄分の臭いがとても邪魔だ。あからさまに不味そうだが、覚悟を決めて一気に呷ると、全面的に鉄の味が来て、後味に気休め程度のハーブ。ドリンクに配合されている成分で眠気が覚めるというよりも、不味過ぎて「うげえ」となるから目が覚めるのでは? だったら、濃いめに淹れた珈琲でもいい気がしてならない。


 空き瓶とラムネ菓子を勉強卓の隅に置いて、引き出しの中から一冊のノートを取り出した。このノートは、雑多なことを書き留めておく用に購入した物で、主にゲームのメモとして使用しているノートだ。脱出ゲームのヒントや、武器、アイテムの配合組み合わせの記述が多い。


 然しながら、最近は読書に時間を割く場面が多く、据え置き機を起動するタイミングがなかった。プレイしようと思って購入したゲームソフトが、未開封状態で本棚の一番下の段に入れてある。販促のトレーラーを見て「面白そうだ」と思ったり、話題のゲームの二作目だったりで購入したのに、買って安心したというか、満足してしまったのだ。


 それでは勿体ない、買ったならばプレイしてなんぼというもの。夏休み期間内で、全ての積みゲーと積み本を攻略するのは不可能に近いだろうけれど、睡眠時間を削れば三分の二くらいは消化できるはずだ。ローグライクとクラフト系は後回しにして、RPGからサクッと終わらせてしまおう……、と計画を立てている途中に、本来の目的を完全に見失っていたことに気がついた。


「いけないいけない」


 呟いて、ごちゃごちゃ書いた『積みゲー&積み本攻略順(仮)』のページを捲る。


 ページの見出しに『佐竹琴美攻略作戦』と記入した。


 琴美さんを口で丸め込むのは、非常に難易度が高い。難易度で喩えるなら『ハード』でも優しいくらいだ。佐竹琴美攻略は、『ナイトメア』や『クリティカル』ぐらいの難易度に、最初から挑むようなの無謀さ。シークレットエンディング見たさに挑戦して、敵の硬さに心が折れるやつ。


 でも、挑戦する前から挫けていたら、シークレットエンディングには到達できない。目指すべきは、琴美さんを言い包めて、佐竹義信が脱落することなく花火大会を迎えるエンディングである。


「……めんどくさ」


 とは、言ってられない。


 ハッピーエンドを望む二人のためにも、できるだけのことはするべきだろう。


 琴美さんを攻略するに辺り、なにが一番効果的なのかを把握する必要がある。つまり、相手の弱点を知ること。戦争において、相手の弱点を見極めるのは、最重要事項と言っても過言ではない。


 相手の弱点を知り、躊躇わずに突く。


 それができなければ、佐竹琴美を言い包めるなんて夢のまた夢だ。





 そもそも、佐竹琴美とはどういう人物だっただろうか?


 思いつく限りをノートに記入する。


 佐竹琴美は、佐竹の二つ上の姉。自由奔放な性格で、熱しやすく冷めやすい。猫のような性格の女性であり、ド変態漫画家〈コトミックス〉でもある。同じ美術大学に所属している〈(ゆみ)()()()〉さんと恋人関係にあり、二人は将来、結婚すると決めていて、大学を出たら同棲を始めるらしい。一度、この件で揉めたことがあったが、現在はそれを目標に生活をしているとか。


 佐竹琴美は、美術の才に長けた人だ。


 才色兼備のパーフェクトヒューマンでありながら、私生活はかなりだらしなく、メイクやらなんやらは「面倒臭いじゃん」と言ってあまりしない。だが、元がいい彼女は、ノーメイクでも問題無いくらい顔立ちが整っている。ここは、佐竹とも共通した要素だ。身長は佐竹よりも下で、僕と頭一つ分くらい違う。高身長のモデル体型。髪型をショートにしている理由を訊いたら、「長いと手入れが面倒臭いし、夏場は暑いから」と答えていた。


 家事全般が苦手らしく、そのほとんどを佐竹が担っているらしい。


 佐竹、苦労してるんだな、と心の中で合掌。


 世の中に存在する〈天才〉と呼ばれる人たちは、()(しゅつ)した才能と引き換えに、生活力が無いって訊いたことがあった。佐竹琴美も例外ではなく、彼女もまた〈欠落した部分〉がある。


 と、ここまで書いてシャーペンを止めた。


「琴美さんの〝欠落した部分〟か」


 思い当たる節が無いわけじゃない。


 ……あり過ぎるのだ。


 でも、そのどれもが〈欠点〉とは言い切れない。


 気分転換に、勉強卓の隅に追いやっていたラムネ菓子のパッケージを開き、一粒口の中に放り込んだ。ほどよい酸味と、ラムネの爽快な匂いが噛み締める度に口の中で広がっていく。しかも、このラムネはブドウ糖が九〇%配合だとか。脳を活性化させるのに、これほど適したツマミは他に無いだろう。大粒なのも評価が高い。


 ブドウ糖を摂取したおかげで、脳がすっきりした気がする。こういうのは気の持ちようだが、『すっきりした』と思い込んでおくのが重要なのだ。人間の〈勘違い〉や〈思い込み〉の力は、ときに病を治すことだってある。偽薬なんて代物もあるくらいだしな。


「勘違い……、思い込み……」


 これまで、僕が携わった様々な出来事は、この二つでほぼ完結している。とはいえ、今回もそれが適用されるわけじゃない。佐竹琴美に対して、いつもの方法で挑んでも、論破されてゲームオーバーだろう。だからこそ、真っ向勝負を仕掛けると決めたわけだが、手札が無さ過ぎてお話にならない。


『手札を揃える必要がある』


 書いて、ぐるぐるぐるっと何重にも円で囲った。手札は何枚あっても無駄にならない。むしろ、無駄だったなと思うくらい用意しておいて損わないのだが、問題は、どうやって手札を揃えるかだ。僕が知り得る情報では、あまりにも偏りがある。


 人気BL漫画家、容姿端麗、ド変態、下ネタ大好きな佐竹の姉、神出鬼没、女装の手解きをしてくれた恩人で、師匠とも呼べる存在──。


 琴美さんの弱点って、なんだ?


 防御力が高過ぎて、突破口が全く見えないじゃないか……。


 考えているうちに意識が朦朧として、ハッと飛び起きる。時計を見たら、時刻は天辺を指していた。



 

【備考】

 読んで頂きまして、誠にありがとうございます。もし差し支えなければ、感想などもよろしくお願いします。


 これからも、当作品の応援をして頂けたら幸いです。(=ω=)ノ


 by 瀬野 或


【修正報告】

・2020年3月18日……誤字報告により誤字を修正。

 報告ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ