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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
一十六章 I will not go back today,
464/677

三百三十九時限目 迷探偵の推理


 関根さんは瞼を閉じて、大きく深呼吸をした。


 自称名探偵の推理ショーが、いま始まろうとしている。


 店内に葉巻の香りは無く、あるのは染み込んだ珈琲と仄かに漂うマフィンの匂いだけ。関根さんが解き明かそうとしている謎は『八戸望が恋をしているか』についてだが、とても恋バナをするような雰囲気ではない。そればかりか、緊張感で肌がヒリヒリする。


 そもそも、関根さんに推理なんてできるのだろうか? 僕は高校に入ってから他人の悩みごとに首を突っ込む機会が多く、それらを解決とまでは言わないが、妥協点を探すことで答えとしてきたけれども、『犯人はアナタだ!』と突き付けるような謎解きはした覚えがない。真実を見つけるよりも、妥協策を探すほうが楽だからだ。


 本気で解決しようとするならば、それこそ膨大な時間を要する。刑事ドラマや探偵ドラマのようにひょひょいっと手掛かりが見つかれば解決も早まるだろう。でも、実際はそうではない。テレビでは『尺の都合』があるけれど、実際に発生した事件に『都合』は無いのだから、犯人がなに食わぬ顔で主人公と同行していたり、たまたま通りかかった主婦の独り言がヒントになることも無い。そういう事件がいままでなかったわけではないが、『都合のいい展開』が起きるのは宝くじで一等を引き当てるくらい運のいい話としていたほうが懸命だろう。


 関根さんは、『都合のいい探偵物語』に感化されただけの少女に過ぎない。名探偵だったじっちゃんの孫のIQ200の天才児でもなければ、サッカー大好きな巷で噂の高校生探偵でもないのだ。はっきり言って無謀に過ぎないとは思うものの、彼女がやけに自信満々な態度を取るから、僕も少しばり期待してしまっている。


 関根さんは瞼を開くと、唇を湿らせる程度に冷えきったココアを一口飲んだ。牛乳多めのココアが幕を張って、唇にくっ付いたのだろう。舌舐めずりをしてから紙ナプキンで拭き取った。


「犯人はアナタです、八戸望!」


 ──え?


 ──は?


 僕と天野さんの声が重なり、店内がしんと静まり返った。煩く感じていたジャズは陽気なボサノバに変わり、それが相俟って間抜けに感じた。


「犯人もなにも、自分が恋をしているかを証明するという話だったはずだが……」


 八戸先輩も困惑を隠せないようで、ストレートを待っていたのに、どんな軌道を描くかわからないナックルボールを投げられて、内心慌てたキャッチャーのような顔をしていた。


「泉、本当に大丈夫なの……?」


「いまのは掴みだから……。こ、これからが本題です!」


 先の一言で確信した。


 関根さんの推理力はゼロだ。


 おそらく、場の空気に当てられて、調子に乗ってしまったんだろう。わかる。その気持ちはとてもよくわかる。名探偵と(おだ)てられて、気持ちが大きくなってしまっただけだ。


 まあ、その、あれだ。関根さんを調子に乗らせたのは僕が原因でもから、名探偵の隣に座っているワトソン君に代わり、助け船を出してやろうとは思う。……とは思うのだけれど、そもそも八戸先輩は恋をしているのだろうか?


 違う、『恋をしていた』んだ──。


「名探偵のメモの中身には、ヒントになり得る〝重要な手掛かり〟が書いてあるのでは?」


「あ、そうか」


 おいおい、頼むぞホームズ……。


 天野さんが心配しながら見守る中、関根さんはメモ帳を開いて隈なく文字を追う。そして、三ページほど目を通してから「なるほど」と呟いた。


「どうだい? なにかわかったかな?」


 八戸先輩が悠然とした態度で名探偵に問う。そのさまは『キミにわかるはずがない』と挑発しているようにも見えて、どうしてか、隣に座っている僕が苛っとした。


「ええ、わかりましたとも!」


 本当だろうな? 怪しいものだが、いまは探偵の推理に耳を傾けてみるとしよう。もし、途中で破綻しそうになったら、そっと『それは違うよ!』って論破してあげればいい。……論破していいのか?


「事件は一年前に遡ります……」


「遡るのかよ!?」


 と、佐竹みたいにツッコんでしまった。


「関根さん。八戸先輩がいま、恋をしているかについてだよ?」


 一年前に遡ったら、それは『八戸先輩が一年前に恋をしていたか』の推理になってしまうではないか。おいおい、出鼻からこれでは先が思い遣られるぞ……と心の中で呆れていたが、関根さんは顔色一つ変えずに「そうだよ?」と返した。


「全部繋がってるんだよ、ユウくん」


「繋がってる?」


「まあまあ、鶴賀君。話の腰を折らずに最後まで訊こうじゃないか」


 八戸先輩に宥めらたのは釈然としないが、僕の前に座っている天野さんも決意した表情で頷いたので、黙って耳を傾けることにした。





 * * *





「全て繋がっているとは、どういう意味かな」


「そのままの意味ですよ」


 襟を正して座る彼女には、どこか探偵のオーラが漂い始めている。さっきはあれほど狼狽えていたのに、はっきりとした声で八戸先輩に返した。『覚醒』という文字が浮かんだ。関根さんは探偵として覚醒しようとしているに違いない……多分、知らないけど。


「八戸先輩の恋と、現在起きている生徒会のいざこざは全て繋がっていたんです。八戸先輩が使っている、そのストローのように!」


 人差し指をビシッと突き出して、八戸先輩が使っていたアイスコーヒーのストローを指した。


 ストローの中身って、空洞だよね。


 風通しがいいって意味かな?


 それとも筒抜けってこと?


 喩えが独特過ぎて推理に集中できないぞ……。


「ほう……、だがな名探偵君。ここのストローはね、曲がるタイプなのだよ!」


 八戸先輩も変なスイッチが入ったようで、関根さんに負けずと熱演している。ドヤ顔しながらストローを曲げられても、『だからどうしたんだ』としか言えない。天野さんに至っては、この空間に一緒にいるのが苦痛に感じ始めたようで、俯いたまま顔を上げようとしない。


 見守り続けて本当に大丈夫なのか、雲行きが大分怪しくなってきた。



 

【備考】


 この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』をご覧頂きまして、誠にありがとうございます。

 今回の物語はどうだったでしょうか?

 皆様のご期待に添えるように全力で書いていますが、まだまだ実力不足な私です。次はより面白い作品が書けるように、これからも努力して参ります。


【瀬野 或からのお願い】


 この作品を読んで「面白い! 応援したい!」と思って頂けましたら、お手数では御座いますが『感想』『ブックマーク』『評価(最新話の下部にあります)等』をして下さると、大変励みになりますので、どうかよろしくお願いします。


【誤字報告について】


 作品を読んでいて〈誤字〉、もしくは〈間違った言葉の使い方〉を見つけた場合は、どうぞご遠慮なく〈誤字報告〉にてご報告下さい。

 その全てを反映できるかはわかりかねますが(敢えてそういう表現をしている場合も御座います)、『これはさすがに』というミスはご報告を確認次第修正して、下記の【修正報告】に感謝の一言を添えてご報告致します。


「報告したら不快に思われるかも」


 と躊躇されるかも知れませんが、そもそも『ミスしているのは自分の責任』なので、逆恨みするような真似は絶対にしません。どうかご安心してご報告下さいませ。勿論、誤字しないのが一番よいのですが……。


 報告、非常に助かっております。


【改稿・修正作業について】


 メインストーリーを進めながら、時間がある時に過去投稿分の改稿・修正作業を行っております。

 改稿・修正作業はまだまだ終わりませんが、完成した分は『活動報告・Twitter』にて、投稿が済み次第お知らせ致します。



 最後になりますが、現在ブクマして下さっている方々や、更新してないか確認をしに来て下さる方々、本当にありがとうございます。

 完結を目指してこれからも書いて参りますので、引き続き応援して下さると嬉しいです。


 これからも、


【女装男子のインビジブルな恋愛事情。】


 を、よろしくお願い致します。


 by 瀬野 或


【修正報告】

・現在報告無し

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