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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
一十六章 I will not go back today,
460/677

三百三十五時限目 ガバガバ探偵の失態


「応接室の鍵は、どこにいったと思う?」


 大場さんは「知らない」と、興味も無さそうに即答した。彼女にとっての生徒会は、島津会長と親しくなるためだけの場所であり、それ以外は我関せずと無関心らしい。尺度は違えど、僕も似たようなものだ。「もっと興味持てよ!」なんて言えた義理ではない。それに、どんな理由があるにせよ、大場さんは仕事を全うしているわけで、文句を言われる立場ではないだろう。


 大場さんの後方で、スケボーを滑らせていた一人が、障害物の代わりに倒して置いたカラーコーンの上を飛んだ。惚れ惚れするほどのオーリーだったが、着地と同時にすっ転んでしまったのは失敗と言わざるを得ない。


 スケボー部員に気を取られていたが、大場さんの「もういい? 教室に戻りたいんだけど」という声で現実に引き戻された。


「ああ、ごめん。うん、色々と参考になったよ」


「さっきの話、だれにも話さないで」


「さっきの話?」


 訊ね返すと、「うちが島津先輩のことを……」とまで口に出し、その後に続く言葉はもごもごと動かすだけで、なにを言っているのか訊き取れなかった。だけど、察しはつく。自分が『同性の先輩に恋している』と(ふい)(ちょう)されるのを口止めしたいらしい。


 僕は仮の話で進めていたのに、これでは認めたも同然の『語るに落ちる』ではないか。実は素直なのか? それともチョロイン属性持ちなのか? 口が悪いのはキャラ付けで、本当はぬいぐるみが大好きな乙女回路の持ち主だったらどうしよう。


「話したら本気で殺すから」


 と、凄まれても、僕の脳ではツンデレ台詞に変換されてしまう。


 なんだよこの自動翻訳機能。駐車場にある『前向き駐車』の看板で励まされるサラリーマンの思考と似てるまであるが、これを振り下げる必要も無いだろうと打ち止めにした。


 ──他言しないよ。


 ──絶対だからね。


 そんなやり取りをしながら、昼休みの巡回は終わった。





 * * *


 



 明らかになったこと、まだ有耶無耶になっていること。それらを明確にしておく必要があると、授業そっちのけで関根さんのメモ帳を見ながら、キャンパスノートに走り書きをする。


 一年前に生徒会で起きた騒動が、現在も尾を引いているのはたしかだ。


 関根さんから受け取ったメモ帳には、昼の情報が付け足してある。調査は続行して貰っているが、こうしてメモ帳でやり取りし合っていると、交換日記をしているみたいで気恥ずかしい。最速で情報を得るためにはしょうがないとしても、もっと他にやりようがあったのではないだろうかと疑問は消えなかった。


『追加情報』


 そう題されたページを読む。


 犬飼先輩は、お弁当を持参しているらしい。自分で作っているのか、家族のだれかが作ったのかはわからなかったようだ。自分の机で黙々と食べて、食後はお茶を飲みながら文庫本を読んでいた、とのこと。まるで僕じゃないか。犬飼先輩は気難しい性格らしいから、クラスメイトと上手く打ち解けていないのかも知れない。今更になって仲よくしようとも思わないだろう。僕がもし犬飼先輩の立場だったら、無駄な努力をするよりも堅実な生き方を選ぶ。


 だとしたら、生徒会という存在は唯一無二の場所だったのではないだろうか。


 心を許せる同士がいるのかは定かではないけれど、少なくとも、自分が存在していい理由は確保できる。


 それに、生徒会には島津会長がいる。


 八戸先輩は『犬飼は瑠璃のことが好きなんだ』と言っていたが、犬飼先輩がしている行動は出鱈目だ。本当に『支えたい』と思っているなら、無断欠勤を続けるよりも、一刻も早く復帰するべきなのだ。


 意地を張っている、のかも知れない。


 自分の感情の落としどころが見つからず、いまも尚、暗闇を彷徨い続けているならば、鬱々とした感情の落としどころ、妥協点を提示してあげればいい。とはいえ、それさえも拒んでいるように思える。


 八戸先輩が『犬飼を殺した』と証言したのは、この流れのどこかにあるのではないだろうか?


 犬飼先輩を説得しようとして、八戸先輩は地雷を踏み抜いたんだろう。そうだとしたら『殺した』のではなく『同士討ち』になるわけだが、八戸先輩は取り返しのつかない過ちを、『殺害』と称したのではないだろうか。……どういう類の地雷を踏み抜いたんだ、あの人。


 再び〈関根メモ〉に目を通す。


 何時何分にこれをした、という行動がざっくり書いてあるだけで、これといった目ぼしい情報は記載されていない。探偵なんだからちょっとくらい手掛かりを見つけてくれよ、と文句を垂れそうになる。最後の一文に『犬飼先輩の手癖?』が一言コメントのように添えられていたけど、それだって、なんの手掛かりになるっていうんだ……。


 



 放課後、僕は生徒会室のドアを叩いた。奥から「どうぞ」と声がした……気がする。あまりにも蚊の鳴くような声だったので、声の主は千葉先輩だと判断したが、間違いではなかった。


「早いね……」


「担任が放任主義なもので、ホームルームが適当なんですよ」


 三木原先生は要件しか伝えない。「みんなも早く帰りたいでしょう?」ってのが口癖みたいな先生だ。『みんなも』って言ってしまう辺り人間らしいと言えば訊こえはいいけど、彼の人となりを知らない者は、『無精な教師』の烙印を押し兼ねない。


「そっか……。鶴賀君が……、直ぐに来てくれて助かったよ……」


 生徒会室には、千葉先輩の姿しかなかった。


 千葉先輩は自分の席で資料に目を通していたらしく、青い表紙のファイルがデスクの上に開いて置いてあった。なんのファイルだろう? と考えて、千葉先輩の役職を思い出した。過去の部費やらなんやらを見て、予算がどれくらいになるのかを割り出していたのだろう。無論、そういう計算はもっと早くやっておくべきだが、数学の鬼とまで恐れられている千葉先輩のことだから、念には念をと削減しているに違いない。


 部費予算決め会議は、一部と二部に分けて行われるらしい。朝の通例会議の議題になっていた。


 一部は五月の下旬に行われる。対象の部活は、部員が多く、歴史の長い部活が対象だ。主に野球部、サッカー部、バスケ部。機材が必要な吹奏楽や軽音部、音響部などが一部に該当される。二部は六月の下旬、つまり、今日がその日というわけだ。対象になるのは真新しく設立された部活や文芸部といった室内部活で、あまり表立っていない部活となる。


「助かった、とは?」


「はい、これ……」


 千葉先輩は上着のポケットから、二つ折りにされたノートの切れ端を僕に渡した。


「八戸からだよ……」


 ああそういえば、昼休みに八戸先輩と食堂前でばったり会って思い出したけど、次の瞬間には『八戸先輩に返信をする』のを、いまのいままですっかり忘れ去っていたなあ。申し訳無い気持ちを抱きながら、ノートの切れ端を開いた。


 その紙には『あまり犬飼を刺激しないように』と、一言だけ書いてあった。


 おい、名探偵。


 ターゲットにバレバレじゃないか。



 

【備考】


 この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』をご覧頂きまして、誠にありがとうございます。

 今回の物語はどうだったでしょうか?

 皆様のご期待に添えるように全力で書いていますが、まだまだ実力不足な私です。次はより面白い作品が書けるように、これからも努力して参ります。


【瀬野 或からのお願い】


 この作品を読んで「面白い! 応援したい!」と思って頂けましたら、お手数では御座いますが『感想』『ブックマーク』『評価(最新話の下部にあります)等』をして下さると、大変励みになりますので、どうかよろしくお願いします。


【誤字報告について】


 作品を読んでいて〈誤字〉、もしくは〈間違った言葉の使い方〉を見つけた場合は、どうぞご遠慮なく〈誤字報告〉にてご報告下さい。

 その全てを反映できるかはわかりかねますが(敢えてそういう表現をしている場合も御座います)、『これはさすがに』というミスはご報告を確認次第修正して、下記の【修正報告】に感謝の一言を添えてご報告致します。


「報告したら不快に思われるかも」


 と躊躇されるかも知れませんが、そもそも『ミスしているのは自分の責任』なので、逆恨みするような真似は絶対にしません。どうかご安心してご報告下さいませ。勿論、誤字しないのが一番よいのですが……。


 報告、非常に助かっております。


【改稿・修正作業について】


 メインストーリーを進めながら、時間がある時に過去投稿分の改稿・修正作業を行っております。

 改稿・修正作業はまだまだ終わりませんが、完成した分は『活動報告・Twitter』にて、投稿が済み次第お知らせ致します。



 最後になりますが、現在ブクマして下さっている方々や、更新してないか確認をしに来て下さる方々、本当にありがとうございます。

 完結を目指してこれからも書いて参りますので、引き続き応援して下さると嬉しいです。


 これからも、


【女装男子のインビジブルな恋愛事情。】


 を、よろしくお願い致します。


 by 瀬野 或


【修正報告】

・現在報告無し

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